ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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ボス厨

翌日。

 

栗毛のシーフは黙々とゲフェンダンジョンで毒キノコ(ポイズンスポア)を狩り続けていた。

時折、にやけた顔を浮かべてたため、ただでさえ非力な力で握られた短剣(グラディウス)がポロリと落ちそうになる。

 

「おっとっと…危ない、危ない。」

 

慌てて取り直すも頭の中は昨日の出来事で一杯だった。

沢山の人に注目されること自体、初めての経験だったが、

皆が自分のキャラクターに対して賞賛の声をかけてくれることが何よりも嬉しかったからだ。

 

さらにあの後、多くのプレイヤーから声を掛けられた。

ショータイムの興奮冷めやらぬ雰囲気で、あれやこれやと押し寄せ質問責めに合ったが、

こんな自分に興味を持ってくれたことを光栄に思い、一つ一つ丁寧に答えた。

 

中には「パーティーに入らない?」という有難い話もあり、戸惑いつつも──丁重にお断りをした。

ゼノさんは「せっかく綺麗なお姉さん達からのお誘いなのに勿体無い~」と冷やかしていたが、

今は"にゃんこ団"のゲストメンバーとしての居心地が良いため、

暫くの間はどこかのパーティーに加入することは考えられなかった。

 

こうして、せっかく狩りに来ているのにも関わらず、

気持ちはピリっとしないまま既に二時間近く経過してしまった。

 

「今日はどうもモンスターの"寄り"が悪いなぁ…」

 

ダンジョン内を周回するも、どこもかしこも"デコイ"だらけである。

最近、地下一階の賑わいは絶好調で、その勢いは深夜になっても衰えず、

棒立ちの"デコイ"に群れるポイズンスポアを横から叩き続けているプレイヤーだらけになっていた。

 

二十四時間稼動の"デコイ"に対してフェロモン(ログイン時間)で勝てるわけもなく

どんどん落ちる効率に思わず、お手上げのポーズを取りそうになる。

 

「…ったく…どいつもこいつも似たようなことばっかりして……」

 

ブツブツと呟きながらも移動狩りを続けると、いつの間にか目の前には地下二階に続く階段があった。

すると、昨日まで進むことさえ躊躇していたにも関わらず、まるで吸い込まれるように足が向いてしまう。

 

「いかん、いかん…今日はゼノさんがいないのに…」

 

今まで独断行動を繰り返し、何度も痛い目に合ってきたはず。

だからこそ階段の前を通りすぎるときはなるべく見ないようにしていたのだが、

堪え性のない自分が全く以て情けない。

自らを(いさ)めるようにして拳を強く握りこみ、必死に抵抗の意思を示すも──

 

「………………っ!」

 

突然、"何か"に(いざな)われるような感覚に陥いると、

身体は勝手に地下へ続く階段を降りていき、再びゲフェニアの地に足を踏み入れてしまった。

 

"何か"の正体は分からないが、誰かに呼ばれているような──そんな気がしていた。

 

***

 

昨日と同じように広場までやってきた。

 

辺りを見回すと、昨日見かけた顔がチラホラしていた。

その中には昨日話しかけられたプレイヤーもいたが、

こちらの存在には見向きもせずに、何かピリピリしているようだった。

 

というよりもここの広場全体が何故か緊迫した雰囲気が漂っていた。

いつもなら、当たり前のように飛び交うオープ会話(チャット)も今日は口数も少なく、まばらである。

 

すると、何かを待っているような雰囲気の一人の剣士がぼそっと呟く。

 

「そろそろ、時間か…。」

 

その言葉でようやくこんな一触即発の事態になっている理由が判明した。

 

この広場に座っているプレイヤーにはある目的がある。

一つは狩りの休憩のため、そしてもう一つが──"ボス時間"まで待機するためである。

 

そう、ここゲフェンダンジョン地下二階には

ボスモンスターである"ドッペルゲンガー"、通称DOPが出現する。

 

出現周期は倒されてからきっかり二時間後だが、

当然、前回倒したプレイヤーとDOPが倒される瞬間を見ていたプレイヤーにしか

次のリポップ時間は分からない。

 

そのため、時間を知らないプレイヤーは周りの様子を注視しながら、

ライバルの出方を伺っているため、こんなにも張り詰めた空気になっているというわけだ。

 

"ボス狩り"をするのは大抵レベル99(カンスト)になった廃人達ばかりである。

もちろん別キャラクターを育てるプレイヤーもいるが、

ボスモンスターが低確率でドロップする"MVPアイテム"というレアアイテムを求め、

彼らは昼夜を問わずボス狩りに明け暮れていた。

 

そんな廃人の中でも特に"ボス狩り"ばかりを行うプレイヤーのことを「ボス厨」と揶揄されていた。

 

ボス厨はライバルを出し抜くためにはありとあらゆる手段を使うため、

一般のプレイヤーにはあまりいい印象がない。

 

個人的にはその強さにはある意味尊敬できるところがたくさんあるのだが、

悪い噂ばかりが何故かひとり歩きしているせいでイメージを多分に損ねているきらいがある。

 

とは言え、まだレベル60台の自分にとっては全く関わりのない、

雲を掴むような世界にいるプレイヤーのため、こうして遠くから眺めた感想になるわけだが。

 

それにしても、あのサングラスを装備した銀髪の男アーチャーは、

他のプレイヤーとは違い、なにやら異質な雰囲気が漂っており、

只者ではないということは(たたず)まいからしても明らかだった。

 

やはりここはモンスターだけではなく、プレイヤーも化け物揃いなのである。

 

 

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