ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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モロクからゲフェンへ

「ちるちるさんは本当にからかい甲斐がありますね。」

 

クスクスと笑いながら、結局くっつくのをやめないパプチーさんに対し、

「もー、勘弁してくださいよぉ」と弱々しく懇願する。

 

ナナさんからは「もうしないから、ごめんねんー」と言ってもらったが

その表情は全く申しわけなさそうに見えない。

 

「…はい。」

 

もはや突っ込む気力もなくなった。

 

結局、その後も二人の行為になすがままにされ、

色々と小突かれながらも、一通りのじゃれあいが終わり、ようやく落ち着きを取り戻した。

 

気づくと、さっきまでこの広場の周りを取り込んでいた不穏な空気が一変し、

辺りには静けさが漂っていた。

 

まあ、この二人が来てから、こっちはそれどころではなかったのだが。

 

***

 

こちらが"いいこと"をしている間に、DOPの沸き時間が訪れ、

"ボス厨"達は血眼になって、一斉にボスの索敵を開始したのであった。

 

ガランとなった広場に取り残された三人は

昨日の続きのように今度は他愛のない雑談を話し始めた。

 

そして最初に話題となったのが、よくあるステータスの話題であった。

 

「ちるちるさんって大分尖ったステータスにしてるけど、何か目標にしてる"型"とかあるのん?」

 

「いえ…単に"全振り"にしてた理由ってなんとなく、型にはまったステータスが気に入らなかっただけで、

最初は特に深いこだわりはなかったんですよね。」

 

「へー、昨日言ってたけど、ファーストキャラってのが凄いよねん。

普通そんな偏ったステータスってかなり勇気がいるし、なかなか出来ないよん。」

 

「そ、そうですか…多分、何も考えないで一個のステータスばっかり振ってたら、

いつの間にかそれがこだわりみたいなものになっていた──それだけなんですけどね。」

 

「それにしてもちるちるさん、この前はレベル63って言ってましたけど、

あと四つレベルあげたらAGIって99(カンスト)になるんじゃないかしら?」

 

「はい、そのとおりです。パプチーさん、よくご存知ですね。」

 

「じゃあ、カンストしたら次は何に振るのかしら?」

 

パプチーさんの投げかけた当然の疑問に言葉が詰まる。

 

「えっ…えーと、今のところは全く決まってないんですよね…」

 

「うーん、でもやっぱり、そろそろ火力上げないと、レベル上げきついと思うよんー。」

 

「私もそう思いますわ。」

 

二人の言うとおり、レベルあげは70台が最も辛いと聞いていた。

強さも中途半端なうえ、それなりに強いモンスターと戦わないと中々レベルも上がらない、

さすが、自身が通ってきた道だけあって、その言葉にも説得力がある。

 

「ですよね…。」

 

そんな至極当然の提案に弱々しく同意するものの、表情は曇ったままだった。

その様子を察したナナさんはこちらの肩にポンと手を乗せると。

 

「ま、結局はちるちるさんが決めるべきだし、

どんなステにするのかは楽しみではあるので、期待してるよんー。」

 

ウィンクをしながら微笑みかけてくれた。

ナナさんの言葉に相方のパプチーさんもうんうんと頷きながら、

同じように肩をポンと乗せ、「頑張って」とエールを送ってくれた。

 

出会って間もないというのにこうまでして気に掛けてくれていることに

感謝しながら、まずは当面の目標(レベル67)に向かって邁進する決意を固めた。

 

***

 

ボス(DOP)狩りは無事終わり、広場にはポツリポツリとプレイヤーが戻ってきた。

 

"ボス厨"はまた他のボスを探しに別のダンジョンやフィールドに散ってしまったようで、

殺気立った雰囲気からようやく解放された。

 

それにしてもナナさんとパプチーさんはこの広場に来てから、

ボスにはまるで興味のない様子だった。

 

ペアとはいえ、このマップで狩りをするぐらいだから二人とも相当レベルは高いだろう。

であれば、何故、他のプレイヤーと同じようにDOPを探しに行ったりしないのだろうか。

そんな唐突に沸いた疑問を解消すべく、訊いてみた。

 

「と、ところでお二人とも、レベルっておいくつなんですか?」

 

「私は90ですわ。」

 

「んー?私は今レベル93だねん。」

 

想像通りの結果に、「二人とも高っ!?」と驚く素振りを示す。

 

「いやいや、アーチャーは強いプレイヤー多いし、私なんかまだまだだよん。」

 

「そうなんですか…」

 

レベル90台を持ってしても"まだまだ"という言葉が出てくるのだから、

道のりはまだまだ遠いということを実感する。

それでも少しずつ、強さの真髄に辿りつける日が来る──といいのだが。

 

「ああ、強いプレイヤーっていえば、

ここに来るときにリプレがゲフェンのカプラでポツンと一人座っていたなん~。」

 

「えっ──」

 

「ん?どうしたん?」

 

「…その名前は」

 

思わず、聞き逃すところだったナナさんの言葉に突如現れた

一つの単語が──一人の名前が──あの日の出来事を呼び起こした。

 

「んー?リプレのこと知らないのん? まあシーフじゃ分からないと思うけど、

ウチの業界じゃ超が付くほどの有名プレイヤーだよ。」

 

アレだけの圧倒的な強さであれば、当然同職ならば狩り場で目にするだろうし、

ましてや彼女のレベルあげのスピードは驚異的だ、名が知れ渡っているのは当然だろう。

 

「へー…有名人なんですね。」

 

白々しく、知らない振りを決め込む。

 

「うん、なんか突如現れた新星って感じであっというまにレベル99になったプレイヤーだねん。」

 

「へ、へぇ…レベル99ですか、凄いですね…」

 

知らなかった。あの事件から三週間は経っているがあの頃はレベル90になりかけのイメージだったのに

もうトッププレイヤーに追いつく…いや並んでしまったのか。

 

「まー、狩りも荒っぽいから私はあまり好きじゃないけど、あの集中力は恐ろしいものを感じたねん。」

 

「それで…そのリプレってプレイヤーがゲフェンに居たら何か珍しいのですか…?」

 

「いやー、前までずっとピラ在住だったから、モロクの南で座ってるのは見かけてたんだけど、

最近見なくなってどこに行ったと思ったら、どうやらゲフェンに拠点(セーブ)に変えたっぽくてねん。」

 

「な、なるほど…、もしかしたらゲフェンの方が活動しやすいんですかね…」

 

「さー、私には分からないけど、リプレは群れるの嫌がりそうだし、

ゲフェンみたいに落ち着いた場所の方がいいんじゃないのかなん?」

 

「そ、そうですか…」

 

三週間前、あの事件の直後、誰にも告げることなくパーティーを飛び出し、

一人、この世界を彷徨っていた。

 

その間、元メンバーには偶然にも誰とも会うことはなかった。

もちろん、意図的に彼らが行きそうな街やダンジョンに行く事を避けていたためではあるが、

 

ナナさんの言うとおり、リプレさんは普段から"ピラ4"で狩りをしているため、

復活地点(セーブポイント)はモロクであることはもちろん知っていた。

 

なので、自分がモロクに復活地点(セーブポイント)を移した際に

もしかしたら、リプレさんとは鉢合わせになるかもしれないという不安と──期待を感じていた。

 

しかし、結局、彼女の一度も姿を見かけることもなく、今日までの時間が過ぎ、

少しずつ前のパーティーメンバーのことは風化されていったはずが、

わずか名前一つを耳にしただけでこうも簡単に、そして鮮明にあのことが蘇ってしまった。

 

それだけ受けた傷は深く、そして忘れられない出来事になっているということを思い知らされた。

 

─リプレさんは今、ゲフェンにいる。

 

それを耳にした瞬間から、彼女に会わないわけにはいかない

そんな使命を強制的に背負わされた気がしていた。

 

***

 

数時間後、ナナさんとパプチーさんとの雑談を終えて、街に戻ってきた。

 

あのあと、三人で色んな話をしたが、どれも頭に残っておらず、終始上の空だった。

 

やはり、リプレさんの事が気になり初めて、

一刻も早く彼女に会いに行かなくてはと焦るばかりだった。

 

そのせいか、ゲフェンダンジョンに居るにも関わらず、

焦って"蝶の羽"を使用したせいで戻ってきたのは復帰地点(セーブポイント)のあるモロクであった。

 

「…くそっ!」

 

悔しさのあまり、地面を蹴ると砂塵が舞った。

 

にゃんこ団の溜まり場にいってみたが、流石にこんな時間には誰もいない。

諦めて、プロンテラまで走る決意をするも、

そのとき丁度、狩りを終えたゼノさんが溜まり場にやってきた。

 

「よぉ~、ちるっちってば、まだ起きてたんか?」

 

手をあげて挨拶をするゼノさんに対して、両手で肩を強く抑えつけるようにして詰め寄る。

 

「ゼノ!悪いんだけど、ゲフェン行きのポタを出してくれないか?」

 

いつもと違って、鬼気迫るように表情に、流石のゼノさんも慌てふためくと

 

「お、おう、わかった。ちょっと待ってろ。」

 

と言い残すと──すぐにアコライトになって戻ってきた。

 

彼女はそのまま、様子のおかしい自分の態度を問い詰めることもせず、

ポタを出してくれた。

 

「なにがあったか知らないけど、頑張れよー。」

 

その言葉に感謝するとともに、はやる気持ちを抑えるのに必死になっていた。

 

 

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