ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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サバイバル

キノコを栽培するには直射日光が当たらず、気温も低めで高湿度環境、

そして通風が適度にあるのがベストと言われている。

 

そんなキノコ栽培にぴったりな場所がここゲフェンダンジョン地下一階である。

ただし、ここで収穫可能なキノコは食べたら即、あの世ゆきの毒キノコ(ポイズンスポア)なわけだが。

 

「そろそろ、五時間ぐらい経つのか…」

 

リプレさんと邂逅を果たしたあの日から、この世界での生活はある程度充実した日々を送っていた。

 

ログインすれば"にゃんこ団"の溜まり場にはいつも多くの仲間が出迎えてくれるし、

レベル上げの気晴らしにナイトメアと戦えば、いつの間にかギャラリーが集まり、そして賞賛してくれる。

さらにナナさんからは"廃人"と呼ばれるプレイヤーをたくさん紹介してもらい、知り合いも増え、

ある程度は名前も売れるようになっていった。

 

自らが望んだことではないが、こうして必要とされることはやっぱり嬉しいものだし、

この世界ではまだ自分に存在価値があるんだということを素直に喜んでいた。

 

それでもやっぱり、ぽっかりと空いた"寂しさ"みたいなものは塞ぐことができず、

もやもやした気分は残ったままだった。

 

そうは言っても、やることはやらなければならない。

レベル上げも当面の目標に向かって走り始め、こうしていつもと同じ場所で黙々と狩りを続けていた。

 

それにしても、さすがに五時間も同一マップでログインし続けていれば

自分の持つフェロモン量に勝てるのは二十四時間営業の"デコイ"ぐらいなもので

モンスターも"寄り"も良く、狩りの方は快適だった。

 

そのせいか、そろそろバターになるんじゃないかというぐらい周回を重ねていたが、

一向に疲れる気配もない。

 

「んじゃま、もう一周行きますかね。」

 

こと狩りに関しては、"リプレ"さん並のモチベーションの高さであると自負している。

まあ、彼女との決定的な差はレベル──なのだが、

こればっかりは茨の道を選んだ自分のせいなのであえて不満を言う事もないだろう。

 

そんな自称、モチベだけなら廃人級のシーフは手にした短剣をくるくると回しながら、

さらなる周回を重ねた。

 

***

 

一周、二周……十週と数を積み上げる。

迫り来る毒キノコをひたすら刈り取るだけで経験値が手に入る簡単な仕組みはもはや作業だった。

 

この世界のプレイヤーの大半はソロで狩りをしている。

理由は単純で、その方が効率がいいからである。

 

MMOのくせに個人プレーの方が有利という仕様はいささか滑稽でもあるが、

それがこの世界のルールであり、そして現実でもある。

 

だとすれば、他のプレイヤーは効率を下げる、ただの邪魔な存在でしかないわけで、

特にパーティーなんかが広場を独占しながら狩りしている姿を見るたびに

「どっかいっちゃえばいいのに」という邪念を抱くのは恐らく自分だけではないだろう。

 

「あれっ…?」

 

そんな邪な願いがこの世界の神に通じたのだろうか、

周回を重ねる毎に明らかにダンジョンからプレイヤーの姿が減っていってることに気づいた。

さらに銅像のようにそこらじゅうに建設されていた不動の"デコイ"もいつの間にか撤去され、

ダンジョン内は一気に人気(ひとけ)がなくなった。

 

「一体どういうことなんだ…?」

 

望んでいた状況とはいえ、ガラガラのダンジョンは逆に薄気味悪さが倍増である。

 

軽快だった歩みが途端と警戒を深め、じりじりとした足取りになる。

プレイヤーの姿は見えなくてもモンスターが消えることはない。

いつもよりも三倍増しで襲い掛かってくるポイズンスポアを慎重に処理しながら、

北西にある広場に辿りついた。

 

目を凝らし、広場中央に視線を向けると、

そこには一人の剣士が広場のど真ん中を陣取るように突っ立っていた。

 

ようやく自分以外のプレイヤーに会うことが出来たと思ったが、残念ながらコイツは"デコイ"である。

さっきまでの周回中にこの広場を独占していたことは見知っていたので、間違いないだろう。

 

「ふん」と鼻を鳴らすと特に用もないので、目の前を立ち去ろうとしたそのとき──

 

「なあ、アンタ。」

 

と突然、デコイが喋りだした。

 

「ひぃぃぃっ!」と後退りしながら距離を取る。

デコイが喋り出したのを見たのはこれが二回目であるが、やはり心臓に悪い。

 

「え、えーと…なんでしょうか。」

 

恐る恐る返事をすると。

 

「どうも、ログインサーバーが落ちたらしいぜ、今ログアウトしたら戻ってこれないから気をつけな。」

 

その"デコイ"の忠告でポンと手を叩くと、ようやく状況を理解した。

 

「なるほど、ログインサーバーが落ちたんですか…」

 

「しかも、マップサーバーも次々に陥落してるらしい。

ここはなんとか生きてるが、不安定みたいで他のヤツらも次々と落ちていったみたいだな。

俺もメインキャラが落とされちまったわ。」

 

「なんと…マジですか…」

 

「ま、こんな時間じゃ復旧は大分先だろうし、レベル上げしてたキャラも戻れなくなっちまったから、

今日のところは諦めて落ちるわ。アンタは続けるなら、頑張ってな。」

 

そう言い残し、彼は自決するかの如く、ログアウトしてしまった。

 

街やダンジョン、そしてフィールドはいくつものサーバーによって構成されている。

構成は大体、街やダンジョン単位なのだが、

場所によっては同じだったり、違うサーバーだったり、まちまちである。

 

彼の話を聞く限り、今は"ゲフェンダンジョン以外"のサーバーが落ちたということである。

それはつまり、この地下一階、ないしは地下二階以外のマップに移動した瞬間、

この世界との接続が切断され、二度と戻ってこれなくなってしまうことを意味する。

 

また、仮に死んだ場合は復帰地点(セーブポイント)に戻される仕様であるため、

街に戻った瞬間、切断され、ログインできなくなってしまう。

つまり、死ぬことも許されない状態になってしまったということである。

 

元々、サーバーが海外にあることから安定性は不安視されていたが、

こんな大規模なサーバーダウンいわゆる"鯖落ち"は初めての経験であった。

 

さらに深夜ということもあり、復旧がいつになるかはまるで読めない、

そしてここもいつ落ちるかわからない不安を抱えつつ、

狩りを…いや、生き残らなければならなくなってしまった。

 

 

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