ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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取り残された二人

誰もいなくなった広場にポツンと一人、取り残された。

 

隔絶された空間で誰の助けも借りることも出来ず、

たった独り、孤立した状態の中、迫り来る大量のモンスターを倒し、生き残らなければならない。

まさに"サバイバル"のような状況に──歓喜の声をあげた。

 

「ひゃっほおおおおおおおおおおお!独占だあああ!」

 

突然訪れたボーナスタイムに両手を挙げて万歳三唱を繰り返す。

周りには誰もいないのだから、このぐらいはっちゃけても構わないだろう。

 

普段、込み合ってる狩場で快適に狩りするためには色々と下準備が必要で

その度に労力を要し、色んなストレスを抱えてしまう。

そんな気苦労も無くなり、自由気ままに狩りを楽しむことができるこの状況はまさに大歓迎(ウェルカム)だった。

 

***

 

足取りも軽く、ダンジョン内を闊歩しながら、広間を渡り歩く。

 

ダンジョン内はいくつも広場があり、

いつもなら邪魔な"デコイ"が多いこの場所は獲物にありつけない事も多いのだが、

今はどこにいってもポイズンスポアが群れをなしている。

 

今の自分にとっては経験値の数字にしか見えないモンスターの群れに喜び勇んで飛び込んでいく。

 

そして広間の周辺からモンスターがいなくなればまた他の広間へ移動し、同じ事を繰り返す。

こうすることで自分が行っていない場所にモンスターが溜まりだし、自然とモンスターハウスが出来上がる。

 

モンスターの"沸き"を自由自在にコントロールできるのも狩り場を独占しているからこその芸当で、

ある程度固まってくれた方が索敵も少なくて済むうえ、まとめて倒すこともできるのでより効率的である。

 

こうして、経験値効率はいつもの三倍以上にはね上がり、目標へ向かって着実に前進していた。

 

***

 

その後もたった一人の狩りは続いた。

 

今だに復旧しないおかげでこうして一人で美味しい思いをしてることに

なんのためらいもなく、無我夢中で狩りをする。

 

MMOという世界でありながら、

一人で狩りをするのがこんなにも楽しいのことなのかと思い始める。

そして、積み上げられた経験値に思わず顔がほころぶと、

狩りへのモチベーションと勢いが更に増してきた。

 

「よし、東はこんなもんか。」

 

東の広間をあっさりと片付けると、西の広間に向かって歩き出した。

"沸き"のコントロールも手馴れてきたおかげで、

おおよそモンスターが沸いている場所には見当がつくようになった。

 

鼻歌まじりに東と西の広間を繋ぐ通路に入る。

この道は幅も狭く、モンスターもたいして沸かないただの通り道である。

さっさと通り過ぎようとしたそのとき──

 

通路の端っこに寄りかかるようにして一人の女アーチャーが座っていた。

 

(あれ…?ボク以外のプレイヤーがいたのか…それにしても…)

 

どこから沸いて出てきたのかわからないが、どうやら完全な独占とはいかなかったようである。

 

そのことに少しだけ肩を落とすも、まあ二人なら大して効率も変わらないだろうと思い、

特に気にせずにそのまま黙って通り抜けようとした。

 

彼女に視線を向けないように、通り過ぎたその瞬間──

 

「あのぅ…すみません!」

 

背中に届いた声が進みかけた足をピタっと止めた。

そして、引き留められることを期待していたのでごく自然に振り返ると。

 

「はい、なんでしょう…?」

 

「なんか…全然人がいないみたいなんですが、今って一体どうなっているんですか?」

 

その問いに唖然とする。

どうやらこのアーチャーはこんな不自然な状況をまるで理解していないようだった。

少々面倒だなと思いながらも、懇切丁寧に状況を説明する。

 

「えーと、ログインサーバーもマップサーバーもほとんど落ちてしまったみたいで、

今ログアウトすると戻ってこれないみたいですよ。」

 

しかし、彼女はしばらく押し黙ると明らかに頭の上に?マークが浮かんでいた顔をしながら。

 

「…すみませんっ!よ、よくわからないですっ!」

 

と平謝り。

分かりやすく簡潔に今の状況を説明したつもりだったが、

どうやら初心者なのかこの世界の仕組みをあまり理解していなかったようである。

 

頭をポリポリかくしぐさを見せ、もう少しわかりやすく、この世界の言葉で説明し直す。

 

「えーと…分かりやすく言うと…今、このダンジョン以外の場所に移動すると、

この世界に戻ってこれなくなる…ということです。」

 

「そ、そうなんですか…!? ど、どうしよう…」

 

ようやく状況を理解し、オロオロとする彼女をじっと見つめると、気になっていたことを訊いてみた。

 

「ところで…ボクはさっきからずっとここで狩りをしてるんですが、

あなたはどちらにいらっしゃったんですか?」

 

「えーと、実はさっきからずっとそこの小部屋で狩りをしてたんです…」

 

彼女は今いる通路から小部屋に繋がる脇道を指差した。

 

「ああ、なるほど…そこにいたんですね。そりゃ見かけないわけだ。」

 

東西を繋ぐ通路には二つの脇道があり、それぞれが小部屋に繋がっている。

狭い場所なので囲まれずに定点で狩りをするには適した場所ではある。

 

「そこでずっと狩りをしてたんですが、なんかすごい沸くようになっちゃって…

慌てて部屋から出たんですが、誰もいないのでびっくりして…」

 

「あー…そりゃボクのせいですね。すみません。他に誰もいないもんだと思って、

結構、偏った"沸き"になっちゃう狩り方をしてました。」

 

「えーと…それってどういうことでしょうか…」

 

小首をかしげ、こちらを見つめる仕草をする。

 

「ああ、ええっといやいや、なんでもないです。」

 

難しい話は通じないということを再認識し、大慌てで両手を振る。

すると彼女は再びため息をつき「困ったなぁ…」と呟く。

 

「どうしたんですか?」

 

「いえ…実はもう回復財がなくて…」

 

「ああ、なるほど、それじゃあボクの分が余ってるので差し上げますよ。」

 

「いいんですか!?助かります!」

 

「やったぁ」と嬉しそうに飛び跳ねる。

喜んでくれて何よりだが、回復剤が枯渇してしまった原因はこちらにあるので

一応、お詫びの気持ちとして提供することにした。

 

「じゃあ、ちょっと待ってくださいね。」

 

ゴソゴソとインベントリを開き、回復剤である"芋"を取り出す。

サバイバルにおいて最も貴重である食料(回復剤)をあっさりと分け与えてしまってるが、

この程度でのモンスターであれば複数に囲まれてもほぼ回避できるため、実はあまり必要ない。

ただ、普段から大量の"芋"を持ち歩く習慣のおかげで手持ちには大分余裕があっただけである。

 

取引要請するのが面倒だったので芋を千個ばかしをぽいっと投げた。

彼女はその量の多さに「えぇぇと!?」と飛び退くも、地面に落ちた"芋"を恐る恐る拾い上げた。

しばしの沈黙をはさみ──

 

「……………ダメでした。」

 

とがっくし。

 

「あれ…?もしや重量オーバー?」

 

「はい…。50%を超えちゃいました。」

 

所持量が50%を超えるとHPとSPが自然回復しなくなるため、

パッシブ主体のシーフと違って、スキルを多く使うアーチャーにとっては重量オーバーは敵である。

 

「じゃあ、とりあえず三百個ぐらいかな?」

 

少し量を抑え目にして再度渡す。

彼女はオッケーサインを出してくれたのでどうやら重量には問題なく、無事補給が完了した。

 

「本当にありがとうございましたっ!」

 

どうやら本当に困っていたみたいで、彼女は何度も何度もペコペコとお辞儀をしてくれた。

 

ちょっとやり過ぎなまでのお礼に、少し申しわけなさそうな表情を浮かべつつ

「それじゃあ」とその場を後にした。

 

西の広場に向かって歩き出した後も背中には彼女の見送り視線を感じていた。

 

それにしてもどうみても初心者にしか見えないアーチャーを

このまま一人にしておくのも本当に大丈夫なんだろうかと不安を感じていた。

 

このまま、自分がまた同じような狩り方を続けていたら、

恐らくまた同じようにいつかは回復剤が尽きて、下手すりゃ囲まれて死んでしまうかもしれない。

 

「まあ、ここで出会ったのも何かの縁だろう…」

 

ふいに言い訳めいた台詞を呟く。

次の瞬間、後ろを振り返ると、遠目に映るアーチャーの影に向かって、大きな声で呼びかける。

 

「あのー!どうやらこのダンジョンにいるのってー、

ボクら二人だけっぽいしー、せっかくなら共闘しませんかー?」

 

「───っ!」

 

すると彼女は驚いた様子で飛び上がると、あっというまに距離を詰め、駆け寄ってきた。

 

「い、いいんですか!?私まだ全然弱いですよ?」

 

突然の共闘の誘いに慌てながらもどこか興奮して楽しげな表情を浮かべる。

 

「大丈夫です。アーチャーなら火力あると思いますし、十分戦えますよ。

回復がきれたらボクがその都度渡しますから安心してください。」

 

「ありがとうございますっ!私…実はひとりぼっちでとっても不安だったんです!…嬉しいですっ!」

 

こんなに喜んでくれるなんて、誘ったかいがあるというものである。

そんな大はしゃぎする彼女を見ていたら、その姿が何かに重なり、慌てて首を振ると、

よからぬことを思い出す前に出発を急ぐことにした。

 

「さて、じゃあ行きますか。」

 

「あっ!せっかくですし、パーティー作りましょうよっ!」

 

「…パーティー?」

 

一瞬、言葉に詰まりかける。

 

「せっかく共闘してもらえるなら是非っ!」

 

彼女の純粋な眼差しに「ふっ」と笑みを浮かべると平静さを取り戻した。

 

「そうですね…同じパーティーならHP(ヒットポイント)表示も見えるし、その方がいいでしょう。」

 

「やったぁ~! 何から何まですみません!」

 

やれやれ、自分は一体、何を焦っているのだろうか、過剰反応してしまった自分を(いさ)め、反省をした。

 

「じゃあ私、パーティー作りますね!」

 

そう言うと彼女は視線を落とし、あご手をやると「むむむっ」と考え込んだ。

 

恐らくパーティー名でも考えているのだろうか、

彼女はしばらくの間、目の前ではあーでもない、こーでもないとうろうろしながら悩んでいた。

 

「よしっ!決めたっ!」

 

ようやく決まったみたいで、彼女はふふ、とまるでいたずらっ子のように笑いながら

加入要請を飛ばしてきた。

 

─(ちるあゆ♪)パーティーから加入要請が来ました。

─加入しますか?

 

「あれだけ考えたのにまんまですね…」

 

思わずツッコミが漏れる。

 

「あはは、シンプルイズベストですよっ!」

 

すると彼女は続けざま、何かを思い出したようにコツンと自らの頭を叩いた。

 

「そうだ、ごめんなさいっ! そういえば…自己紹介するの、すっかり忘れてましたね…」

 

「ああ、そういえば」とこちらも。

 

「私、ayusaki(アユサキ)っていいます!えーと…あゆ"って呼び捨て"で呼んでくださいねっ!」

 

ゼノさんと同じようなことを言ってきたが、あえてスルーしこちらも名前を告げる。

 

「えーと、ボクはちるちるって言います。よろしくです。」

 

「ふふふ、ちるちるさん、これから"も"よろしくねっ。」

 

彼女に腕を引っ張られながら、西の広間へ向かった。

サバイバルゲームという本来なら緊張感が張り詰めている状況のはずなのに

こんなにもワクワクするのは何故だろうか。

 

…もう分かりきっているので、いい加減認めるしかないだろう。

 

彼女の口調、仕草、振る舞い、全てが『あの人』にそっくりだったからである。

そしてあまつさえ、その見た目である金髪のショートボブの姿も瓜二つであった。

 

無論、職業自体は違うし、頭では他人であると理解しているのだが、

最初にあったときから彼女の姿を『あの人』に重ねてしまっていたのだった。

だからこそ、困っている彼女に手を差し伸べ、こうしてパーティーを組んでいるわけで。

 

「よぉしっ! はりきってキノコちゃんのお掃除を頑張りましょー!」

 

無邪気なその姿はまさに──ハルカさんそのものだった。

 

 

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