ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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Heart Place

サーバーが復旧したのは明け方だった。

 

結局、この閉鎖された空間(ダンジョン)内に残っていたプレイヤーはたったの二人だけだった。

 

シーフとアーチャーという不恰好なペアではあったが、

お互いに信頼するように背中を預け、一身腐乱に狩りに没頭した。

 

彼女のレベルは60に満たない程度ではあったが、

ステータスのほとんどを火力であるDEXにつぎ込んでいるせいで高い殲滅力を誇っていた。

 

モンスターが弱いということもあるが、数十匹のモンスターハウスの群れに突っ込んでも

あっという間に殲滅できるだけの力を持っていたため、いつにも増してサクサクと狩りが進んで行った。

また、公平圏外ではあったが、それなりにこちらの経験値も稼げたので共闘は正解といったところだろうか。

 

そんな感じで用意してあった回復剤は結局使い切ることもなく、無事に生きて朝を迎えた。

 

サバイバルという状態にも関わらず、危機的状況に陥ることはなかったものの、

他のプレイヤーと狩りを共にするのはあの日以来ということもあり、

余計な緊張感が襲い、いつにも増して疲労が蓄積されていた気がしていた。

 

そして、いよいよ長く続いた共闘も終わりが見えた。

 

「矢も切れたみたいだし、そろそろ戻ろうかー。」

 

「はーい。お疲れ様でしたー。」

 

こうして矢切れを合図に狩りは終了した。

 

***

 

サーバーが復旧していること確認し、ダンジョンからゲフェンの街へと帰還する。

 

暗転が解かれた直後──

この世界には時間という概念は存在しないはずなのだが、

長時間、ジメジメとした薄暗い場所で狩りをしたせいか、街に差し込む光が朝日ような眩しさを見せる。

そして復活地点(セーブポイント)である中央噴水の周りを彩る花壇の花が色鮮やかな光りを放っていた。

 

近くにあるベンチにひょいと腰掛ける。

後に続くようにして彼女も「よいしょっ」と軽快に腰を下ろすと、「えへへ」と笑顔を向けてくれた。

 

一瞬合った視線を逸らすようにぐぃっと大きく伸びする。

 

「くっ…はぁあああああっ…結局朝を迎えてしまったなぁー。」

 

凝り固まった筋肉を解放すると、支えていた何かが解け、どっと疲れが押し寄せる。

気を抜いたらすぐにでもバタンキューできそうなそんな状態だったが、

隣にいる彼女の手前そんな無様な姿を晒すわけにもいかず、

見えない身体中の悲鳴の声を抑えるのに必死だった。

 

そんなことは疲労感漂う自分とは対照的にまだまだ元気なアーチャーが隣に座っていた。

 

「楽しかったぁ~! おかげさまで今日ですっごいレベルが上がりましたよっ!」

 

どうやら、あちらさんも大分稼げてたようで、首尾は上々で一安心といったところだろうか。

 

「それは、よかった。まあ、独占状態だから大分稼げたね。また、鯖落ちればいいのに。」

 

「あはは、それは言えてるかも! でも、ちるちるさんがいなかったら私すぐ死んじゃってましたよー。」

 

「いやいや、なんだかんだいってそっちの火力が高いおかげで安定してたのもあるし、

こっちも安心して背中を預けられましたよ。」

 

「じゃあ、二人の息がピッタリ!ってことでいいですね。」

 

にこりと笑いピースサインを突き出してくる。

戸惑いながら反応するも、少しばかり恥かしかった。

 

「んじゃま、ボクはそろそろ落ちるので今日はお疲れ様。パーティーは抜けておくね。」

 

お互い疲れていることだろうし、そろそろお開きにしようとしたところ、

目の前には何か言いたげな彼女の姿があった。

 

「あ、えっとぉ…」

 

「ん?」

 

「あの…私、一緒に始めた知り合いが全然やらなくなっちゃったせいで今一人なんです。」

 

「えーと、それはつまり…?」

 

「それで…もし、よかったら…パーティーはこのままはこのままにしておいて貰えませんか…?」

 

彼女の視線がゆっくりとこちらに向けられる。

儚げなまるで捨てられた子犬のような視線は正直、どうやり過ごせばいいか選択肢が思い浮かばない。

 

成り行き上パーティーを組んだが、これはあくまでも緊急避難であり、一時的なものだ。

それに自分はあのときの一件以来、何度かパーティーに誘われることはあっても全て断っている。

だとすれば今回も同じように断らなければならない。

 

何か言い訳を必死に考え、思いついた台詞は──自らを卑下することだった。

 

「いやぁ…ボクのステータスは偏ってるので全然弱いし、パーティー組んでもメリットないですよ。

もっとまともなキャラをお持ちのプレイヤーさんをお勧め───」

 

「そんなことありませんっ!」

 

彼女はこちらの卑屈な発言を全否定する言葉で遮った。

 

「ちるちるさんはすっごい強いですよ!あんなたくさんのモンスターに囲まれても、軽々と避けちゃうし、

それに攻撃速度だって凄いじゃないですか!すごく速くて…カッコ良くて…憧れちゃいますよ!」

 

確かにこの程度のダンジョンであればさほど苦労することはないが、

あの地獄のようにモンスターが沸く"ピラ4"に一緒に行ったら果たして同じことが言えるだろうか?

 

「ふっ」と渇いた笑いが走る。

 

「確かにゲフェンダンジョンの地下一階程度なら敵も弱いからさほど苦労しませんが、

もっと敵が強いところだといくら回避があっても、ボクの力じゃ殲滅が間に合わないんですよ。」

 

自分の弱さを卑下したわけではなく、事実として自分は"弱い"のだ。

それを知らない彼女はこうして幻想を見ているわけで。

 

「なので、パーティーを組んでもこの先迷惑をかけるのはボクの方なので、

申しわけないが役に立たない存在にはなりたくないのでお断りさせて下さい。」

 

せっかくこんなにまで自分を買ってくれたことに対して申しわけない気持ちもあるが、

ここはきちんと自分の"強さ"を説明しておかないとまたあのときと同じことを繰り返してしまう。

そんな思いからきっちりと断りを入れた──はずだったのだが。

 

「だめですか…?」

 

彼女は諦めなかった──同時にさらに困惑が増す。

これだけの自分の価値を下げてもなお、彼女は祈りを捧げるように手を組み、

懇願するような目をしている。

 

何故そこまで自分に固執するのだろう。

 

彼女の真意は全く測れない。

危機的状況になった男女は恋に落ちやすいという、いわゆる"つり橋効果"的なものでもあるのだろうか。

それとも、単に自分よりレベルの高い人にくっついて、おこぼれに預かろうとしてるのだろうか…

いいや、いずれの二つともまるで当てはまらない。

 

それならば…ここは今の自分の本心を曝け出すべきと思い、弱々しい声で語り始めた。

 

「えーと…ボクは以前、パーティーに入ってたことがあるんです。」

 

「…………」

 

「で、色々あって抜けちゃって、それ以来、パーティーを抜けるのが怖くて…辛くて。」

 

「…………」

 

「そんな思いはもうこりごりだと思って───」

 

「「だったら」」

 

突然、言葉が重なる。

不意打ちを食らい、言葉を飲み込んでしまったため、次の台詞が出ないでいると。

 

「だったら──今、入ってるパーティーだって抜けちゃだめじゃないですか。」

 

何を言い出すのかと思い、呆気に取られるも、懸命に言い返す。

 

「いや、それは臨時で組んだパーティーですから…」

 

「駄目ですっ!だって、ちるちるさんはもう、パーティーは抜けられないんですっ!」

 

「むぅ…」と駄々っ子のような言い訳をされ、

こちらはお手上げといわんばかりに顔を上に向け、途方に暮れる。

 

どうしたら納得してくれるんだろうと思考を張り巡らせるも妙案が思いつかない。

そもそもこんな面倒なことになるなら何故パーティーになんか入ったんだろう。

 

そのとき、ハッと我に返る。

つい数時間前、こちらから共闘を申し込み、そして彼女にパーティー加入を促された。

もちろん、断ることは可能だったはず。

ただの共闘で非公平の狩りなら別にパーティーに入らなくたっていい。

それなのに何故、自分はあのとき、彼女の要請を受け入れてしまったのだろうか。

 

「やっぱり、似てるんだよな…」

 

天を仰ぎながらと小さく呟くとふくれっ面をした彼女の表情を見ながら、降参する態度を示す。

 

「…わかりました、ですが一つお願い──」

 

「ホントですか!嬉しいです!わーい、やった!やった!」

 

こちらの返答を最後まで聞かず、目の前でぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。

これで良かったのか分からないが、こうして喜んでくれるなら悪いことではないと自らに言い聞かせた。

 

一つ咳払いをして再びこちらに視線を向けさせる。

 

「それで…一つ、お願いがあるんですが…」

 

「んんん?…あっ、はい!なんでしょうか! 何でも言ってください!」

 

「いや、そんな大したことじゃないんだけど…

その、パーティー名がちょっと恥ずかしいので…変更してもらっていいでしょうか…。」

 

真顔を向けながら、最も譲れない部分について言及すると、彼女はとても苦々しい顔をした。

 

「えぇぇぇ…? だめですか?二人の名前が入っててとっても可愛いと思うんですけど…。」

 

「いや~、やっぱりさ、なんかこれだとラブラブのカップルみたいでちょっと恥ずかしいかなぁと…」

 

その言葉に彼女は両手を腰に当てひじを張ると「もぉっ!」とぷんすかとした表情を見せる。

「そこをなんとか」と両手を合わせ祈りを捧げる仕草をとると、

彼女は「うーんと」考える素振りを見せるも──

 

「じゃあ…"あゆちる♪"というのはどうでしょうか!?」

 

「そ、それじゃあ前後入れ替えただけで全然変わってないですよ!?」

 

思わずずっこけそうになったので、すかさず突っ込みを入れる。

彼女は悪びれた様子もなく、嬉しそうにこちらに笑顔を向けると。

 

「あはは、ばれてしまいましたかー。えーと、それじゃあ…『HeartPlace』というのはどうでしょうか?」

 

「おや?今度は一転して横文字だね。由来は何かあるの?」

 

「ふふーん。内緒ですっ!」

 

「えー…まあ、この名前なら…うーん、まあ、問題ないかな。」

 

前のパーティーと同じ単語を使っていることが少し突っかかったものの、目を瞑ることにした。

 

「やったー!じゃあ、これでパーティー作り直しますね。」

 

彼女はすぐさま鼻歌混じりでパーティーを作り直そうとしたが、

「あっ」と手が止まると申しわけなさそうにこちらを覗き込んできた。

 

「あの~…パーティー解散させたら、ちるちるさんがーティー抜けちゃうことになっちゃうんですけど…」

 

やれやれとため息をつく。

 

「今更ですから、もういいですよ。」

 

と一言で済ませると、安心した様子で鼻歌を再開し、パーティーを作り直した。

変に律儀で天然なのも『あの人』に似てる気がしたが、勝手な思い込みするのをやめた。

 

そして、今加入している恥ずかしい名前のパーティーを抜け、準備も終えると、

「出来た!」と声を上げる共に、嬉しそうにパーティーの加入要請を出してきた。

 

─(Heart Place)パーティーから加入要請が来ました。

─加入しますか?

 

その要請を承諾すると、彼女はこちらを向き直し、

 

「ふつつかものですが、これからもよろしくお願いします。」

 

とぺこり。その台詞に思わず照れくさくなる。

 

「あ、はい…あゆさきさんもどうぞよろしく。それにしてもなんか夫婦みたいな挨拶だね」

 

「えーダメですかぁ~? あ、あとなんかさっきからずぅーーっと気になってたんですけど…」

 

「ん…?なんですか?」

 

「敬語は禁止ですっ!それと…わたしのことはあゆって呼んでくださいっ!最初に言いましたよ~?もぉ~」

 

「ぶぅー」と唇を尖らせる。

 

「えーと…まあ、この口調はクセなので直せたら直すようにします。後は呼び方もおいおい…頑張ります。」

 

信用できない約束に彼女は鋭い眼光を向け、疑惑の視線を送る。

「むむむ」と唸りながらも、その緊張が脱力すると。

 

「…まあ、まだであって間もないからしょうがないですね。」

 

気圧されてしまったせいで思わず、汗を拭う。

その隙をついて彼女はさらに一言──

 

「じゃあ、お互い距離を近づけていくようにしようね、ちーちゃん。」

 

どうやら、呼び方までそっくりのようである。

 

 

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