ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

43 / 77
迷宮の森へ

「ふー、ようやくレベル70に到達したわー」

 

結局、あのまま雑談しながらもだらだらと狩りは続き、エスのセカンドキャラはレベル70に到達した。

先ほどまで漂っていた重苦しい雰囲気はどこへやら、こうして三人仲良く、狩りに会話にと精を出していた。

 

「しっかし、エスもレベル70か作り直しなのに早いもんだね。もう、追いつかれてしまったよ。」

 

「あれ?ちるっちもレベル70行ったのか?」

 

「おいおい、一応こっちはファーストキャラだよ…」

 

「ああ、そうかすまねぇな。」

 

やはり、火力の差がそのままレベル上げ効率に影響する典型的な例である。

追いつかれたことには対して悔しくはなかったのだが、

もし、仮に自分が火力特化型にしていれば今頃…なんてことを思うのは馬鹿らしいのでやめておこう。

 

「ところでもうそんなにレベル上がったんだから、

こんな低レベル狩り場でセコセコとレベル上げしなくてもいいんじゃないの?

つき合わされてるミズキさんがそろそろ可愛そう。」

 

「ちーちゃん、良く言ってくれたよおおおおぉぉ」

 

ミズキさんは泣きそうな顔で飛びついてこようとしたが、

毒キノコに囲まれて身動き一つとれないため、その行為は当たり前のように空振りに終わった。

「ふぎゃぁ」という断末魔が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

 

するとエスが頭を抱えながら、首を横に振る。

 

「実はさー、ここ来る前にちょっと試しにピラに行ってみたんだけど、防御が紙すぎてさ…」

 

俯きながら、嫌なことを思い出しているように苦い顔をするエスに対して

ミズキさんは何故か嬉しそうに声を上げる。

 

「そうそう、もぉーすっごい大変だったんだよー!

エス君、全然避けれないし、耐えれないからすぐ回復尽きちゃって。

私もひぃひぃ言いながらヒールしてたんだけど、すぐにSP切れちゃって──」

 

ピク、とエスの顔が引きつると

 

「きぃいいいいいいいい!」

 

腹いせにミズキさんに向かって飛び掛った。

 

「ひぃぃやぁあああああああ」

 

…まったく、また始まったよ。

 

***

 

「…ということ…で…全然…だめ…だったんだ…」

 

エスは息も絶え絶えにピラミッドダンジョンへの挑戦のダイジェストを語ってくれた。

ミズキさんを追っかけまわした結果、得たものは"疲労"だけだった模様である。

 

目の前の出来事をさておいて、エスの言葉をまとめる。

 

「まあ、火力上げても結局装甲が紙じゃ、押しつぶされてしまうってことね。」

 

その言葉は自分にもチクリと刺さったが、やはり何かに特化していると

何かが欠けてしまうというのは当たり前の事で、

やはり攻守のバランスが重要であるのは身をもって体験している事実である。

だが、ここまで来てしまった以上は引き返すことは出来ないと言い聞かせる。

 

「そんなわけでさ、もう少しここで修行を積んで、

少しでもAGIなりVITなりのステータス上げてからまた挑戦しようと思っててね。」

 

「お互い修羅の道だね…」

 

「ま、火力があるぶんレベルは上げやすいほうだけどね。

それよりもちるっちのほうはどうなのよ?AGIカンストしたんでしょ?次に何振るか決めたん?」

 

その質問に思わず言葉が詰まる。

 

「い、いやさ、実は悩んでて…AGIカンストした後、

次のステに何を振るべきなのか正直、よくわからなくてね。」

 

「素直に火力あげるためにSTRにしたら?その方が強いんじゃないの?」

 

「もちろんそりゃそうなんだけど、それじゃあ、そこらにいる強いシーフと変わらないし、

何のために苦労してAGIを先行してきたのかも分からないしね。」

 

「そうねー、ま、他の人に意見もらったりしてゆっくり考えてみたら?」

 

「うーん…」

 

"ある悩み事"とはまさにこのことで、レベル67という目標に到達したにも関わらず、

次の目標が見出せずに苦悩していた。

 

大半の意見はテンプレートのステータスを勧めてくる。

もちろんこの"型"は当然、強いわけであって普通のプレイヤーならこちらの道を迷わず進むだろう。

だが、自分は無意識とはいえ、型にはまることをよしとせず、その道を通ることを避けてきた。

 

同時に今の自分がどれだけ弱いことも認識しているため、

これから強くなっていくためにはどうするべきかの決断を下せずにそのままレベル70を迎えてしまった。

そしてその強さはLV67からまるで変化していなかったのである。

 

今度はこちらが頭を抱えるハメとなってしまった──すると

 

「じゃあ、同じシーフのゼノさんに相談してみてはどう?」

 

先ほどまでエスの猛攻から逃げ回っていたミズキさんが突然割って入ってきた。

が、その提案は至極もっともな意見で思わず「なるほど」と声をあげた。

このアドバイスにはエスも納得の様子で。

 

「ゼノかぁ…確かに、ゼノならシーフにも知り合い、多そうだよね。いいんじゃない?」

 

確かにステータスの相談をするのなら同職であるゼノは適任である。

ましてや彼女はレベル90台の廃人レベルであり、さらに顔も広いため色々と知り合いも多い。

もしかしたら、同じシーフの廃人プレイヤーを紹介してもらえたら、何かのヒントになりそうだ。

 

「うーん、それじゃあ、ちょっくらゼノさんに意見もらってみる。溜まり場に行けば会えるかな?」

 

「えーと、ゼノさんならさっき森に行くって言ってたから、森にいけば会えるかもぉ?」

 

「えぇ!?森…!? そうか、確か普段から森が主戦場って言ってた気がする…さすがはレベル90台だ」

 

ミズキさんの言っている森というのは首都プロンテラの北部の森に位置し、

正式名称は「迷宮の森ダンジョン」であり、

ゲフェンダンジョン地下二階、ピラミッドダンジョン四階に並ぶ、

この世界における屈しの高難関ダンジョンである。

 

出現モンスターハンターフライとサイドワインダーという最強クラスのモンスターに加え、

α版から実装されているこのゲームの最強ボスであるバフォメットという強敵揃いで

生半可な強さではたちまち返り討ちにあってしまうだろう。

 

さらにダンジョン自体が複雑な作りになっているのも大きな特徴である。

格子状に区切られた一つ一つが狭い部屋を出入りする度に

全く別のエリアにワープするような仕組みになっており、慣れないと簡単に迷子になる。

「迷いの森」と名がつくとおり、他のダンジョンに比べて、

ダンジョン自体にもギミックが施されている点がさらに難易度を高めていた。

 

このダンジョンはもちろんレベル90以上じゃなければ狩りにならない。

モンスターを倒せるための強さはもちろん、移動手段やダンジョン内の構造も頭に入れておかねばならず、

初挑戦でしかもレベル70のAGI極振りのシーフがおいそれと足を踏み入れてよい場所ではない。

 

しかし、悩んでても先に進まないならまず行動すべきと思い、

意を決してゼノに会いにプロンテラの森へ向かうことに決めた。

もちろん、別の日でもよかったんだが、今日は何故か気持ちが高ぶっていたせいもあり、

なんとなく「今日会いにいかなくちゃ」という使命感に襲われていた。

 

「それじゃあ、ゼノさんに会いにいってくるね。」

 

「おう、頑張ってこい。」

 

「何かのヒントになるといいね。いってらっしゃーい。じゃあ、プロ行きのポタを開きマース!」

 

そう言ってミズキさんはゲフェンダンジョン内でプロンテラ行きのポタを展開してくれた。

色々相談を乗ってくれた二人に感謝しながら、一人、迷宮の森ダンジョンへ向かった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。