ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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シーフの武器

「ピィギギィィイイイイイ!」

 

今日も毒キノコ(ポイズンスポア)の生息するマップをだらだら歩く。

このモンスターの断末魔もそろそろ耳障りのレベルを超えるぐらい聞き続けていた。

 

アユと狩りしているときも、こうして一人になってコツコツとレベル上げをするときも

この低レベル狩り場(ゲフェンダンジョン地下一階)で狩りを続けている。

 

何か目的があるうちはそれほど気にならなかったものの

目的もなく、ただ単に経験値を積み上げているだけの作業に少し嫌気がさしてきた。

 

それと前から聞かされていた通り、レベル70を越えた辺りから次第にレベル上げが辛くなってきており、

それもこのモチベーションの低下に拍車をかけたのだろう。

まあ、それもこれもレベル70台となった今でもこんなところで狩りをしているせいではあるが、

残念ながら自分の"強さ"ではここが限界なのである。

 

「今日は気分が乗らないから馬でも狩りにいくか…」

 

そして気分が乗らないときは地下二階へ下り、気晴らしがてら(ナイトメア)と戯れ、ストレスを発散させていた。

 

***

 

「こんばんわー。」

 

一通りの挨拶を済ませ、腰を下ろす。

 

ここ──"廃人広場"ではすっかり顔馴染みとなり、来るたびに挨拶を交わすプレイヤーが増えていった。

それは以前にも増して多くのプレイヤーがここを訪れるようになったせいもあるだろう。

 

月日が立てばレベルも上がり、"強く"なっていく

そして、より難易度の高い狩り場へと挑戦するようになる。

言ってしまえばRPGの基本となる流れに乗って、どのプレイヤーも確実に成長している──という訳だ。

 

しかし、成長の兆しが一向に見えずにもがいているプレイヤーもここにいる。

 

今の自分は表面上は多くの知り合いに囲まれているが、

"強さ"という面においてはこの"ごった返した"輪の中に入れず、

ポツンと一人置いてきぼりを食らっているような気がしていた。

 

それにしても自らが選んだ道のはずが自らで決めきれず、

こうして現実逃避をしているわけだから情けないことこの上ないわけで。

 

「はぁ…」

 

座ったまま遠くを眺め、無意味なため息を吐く。

顔を伏せても顔を上げても見える景色は変わらず、

それはまるで先の見えない未来を暗示しているかのようだった。

 

そんな近寄りがたいどんよりとしたオーラを放っていると、

狩りを終えたナナさんとパプチーさんが広場にやってきた。

 

「おや、ちるちるさん、こんばんー。」

 

「あら、ちるちるさん、ごきげんよう。」

 

「こんばんわー、それにしてもお二人とも相変わらず仲のよろしいこと。」

 

二人はこちらの言葉(おべんちゃら)に対して、互いに顔を向き合わせると、何かたくらむような目配せを送ると、

以前と同じように二人はこちらの座ってる場所の両サイドを挟むようにして座り込んできた。

 

「ふふふーん」

 

「うふふふ」

 

怪しい笑いに、思わず後ずさりをするも構わず擦り寄るようにして追い詰めてくる。

 

「な、なんですか…!?」

 

「聞いたぞ少年んー!」

 

「聞きましたわよ、ちるちるさん」

 

突然、詰め寄られたことで左右に首を何度も振って「えっ!?」「えっ!?」と大慌てになる。

すると、ナナさんはニヤーとした表情をしながらそっと、小声で問い掛けてきた。

 

「相方…できたんだってん?」

 

「できたんですって?」

 

「…………っ」

 

くすくすと笑う二人は興味深々にそして嬉しそうに尋問を始めた。

 

***

 

「だから、違うんですってー!」

 

情報源は言わずもがなであるが、終始、飛躍しすぎたその内容を訂正するのに必死になり、

一から経緯を説明するも、それがどうやらなれ初めのように聞こえてしまい、

ドツボから抜け出すのに時間がかかった。

 

何度も軌道修正を繰り返すことでようやく「なぁんだ、つまないのんー」とのご感想を頂き、

事態は収束へ向かった。ほっと胸をなで下ろすと。

 

「あ、そういやん、さっきちるちるさんを探しに来てた人がいたよんー。」

 

ナナさんは思い出したように尋ね人がいたことを告げる。

 

「えっ…?ボクですか…?」

 

「えーとん、確か…そうそう、ドッペルゲンガーと同じ髪型の…金髪の男シーフだったはずだよん。」

 

金髪オールバックの髪型の盗賊(シーフ)──その素性を自分の記憶の中から引っ張りだすも、

そもそもシーフの知り合いなんて、ゼノさんとこの前、そのゼノさんに紹介してもらった

たろさんぐらいしかいないため、まるで見当もつかなく。

 

「すみません。そのプレイヤーさんの心当りが全くないんですが、お名前はなんていうのですか?」

 

「んとねん…ア、アル…ベルト…えーと…──」

 

考え込んでしまったナナさんに対してすかさずパプチーさんがフォローが入る。

 

「ナナさん、スペルはAlbertだから恐らくアルバートだと思いますよ。」

 

「ああ、そうなんだねん、まあそんな感じの名前のシーフだったよ。知ってるん?」

 

頑張って伝言役をしてくれたナナさんにはは申しわけないが、名前を聞いてもなお、身に覚えがない。

 

「いえ、全然知らないですね…それにしてもボクに何の用事だろう。」

 

「でも、私達に訊いてくるぐらいですし、

そのアルバートさんって方も実際にちるちるさんにお会いしたことがないのかもしれませんわね。」

 

「ああ、そうかもんねんー。最近、ちるちるさん"ここ"じゃ有名だし、

もしかしたら(ナイトメア)とのタイマンショーを見に来たんじゃないのかしらん?」

 

「ああ…なるほど。」

 

思い当たる節は出たものの、心境はとても複雑だった。

 

以前、この場所でナイトメアとのタイマンを披露し、脚光を浴びた。

そのことに味をしめ、その後も何度かここで"ショー"を披露していたら、

いつの間にか名前が売れるようになっていた。

 

人目のつくところでそんなことをやっていれば、勝手に噂も広がるだろう。

わざわざ会いにきてくれたことは素直に嬉しいが、

同職に興味を持たれというのは気恥ずかしい面もある──なにせ弱いので。

 

「ヒィィィィィィィン!」

 

そんなことを考えていたら、広場の後方、入口側付近に突然──ナイトメアが沸きだした。

 

「おやん?」

 

「あらあら」

 

近くに強敵が出現したというのに隣にいる二人は、平然と座ったままである。

この(ナイトメア)にとって、この廃人達が集う広場にリポップしてしまったことは

不幸以外の何ものでもないだろう。

 

そんなことはお構いもなしに大きな鳴き声をあげ、蹄を打ち鳴らすと、

狙いを定めこちらに襲い掛かってくる。

 

その直後、座っている三人の後ろから死神の鎌が振り下ろされるも、

鎌の尖った先っぽは地面を削り、掘り返された地面の土がほの暗い空間をゆっくりと舞う。

 

「おっと…」

 

幸か不幸かこのナイトメアが選んだ相手は──三人の中でもっと弱い自分だった。

 

「フシュルルルルルル…!」

 

口元から零れる、よだれが混じったような唸り声は明らかにこちらを向いていた。

自分が"タゲられた"ことでようやく意識を戦闘モードに切り替えると

すっくと立ち上がり、後ろを振り返り、対峙する。

 

「それでは、暫くの間、お付き合いいただきますかね。」

 

決め台詞も決まったところで、懐から短剣(グラディウス)を取り出すと、

くるんと宙に放り投げ、そして逆手で掴む。

 

すると再びナイトメアが死神の外殻に姿を変え、鎌を大きく振りかざす。

その攻撃を開戦の合図とし、こちらも迎撃の構えを取る。

 

殺意の篭った死神の鎌はこちらの首元を正確に狙い、振りぬかれた──が、

再び、空気をすくい上げるに留まった。

 

対してこちらは鈍い斬撃音を相手の胸元に二度も響かせると、

いつもの情けないダメージが見えた。

 

最弱シーフと最強モンスターの長い戦い(ショー)の幕開けである。

 

***

 

「がんばれんー!」

 

「頑張ってくださいね」

 

ナナさんとパプチーさんの声援が聞こえる。

いつもどおりの光景ではあるが、こうして飽きもせずにこちらの

ストレス発散に付き合ってくれるのは有難いことでもある。

 

まあ、肝心の戦いはというとこちらも相変わらずの光景である。

"1"ダメージの山を築き、相手のHPを削っていく。

ただそれだけの──軽く三千回ほど一方的に斬りつける"だけ"の戦いである。

 

ナイトメアとのタイマンを始めるといつものようにギャラリーが集まり出す。

今回の戦いも気づくと二十人近くに囲まれていた。

 

ときおり、支援や回復魔法をかけてくれたり、声援をいただいたりもする。

まったくもってみすぼらしい"芸"ではあるが、

こうして、注目して集まってくれるのはとても嬉しいことで、大道芸人の気持ちがよくわかった。

 

十分以上が経過し、戦いも終盤にさしかかった──そのとき。

 

「ヒィィィィィィィン!」

 

決闘場所の直ぐ近くに別のナイトメアが湧き出した。

仲間の助太刀に現れたのか、そのナイトメアの敵意は明らかにこちらに剥き出しであった。

──まあ、地下一階で溜めたこちらのフェロモンが原因のわけだが。

 

ここはプレイヤーが腰を下ろす憩いの場であるが、

高レベルモンスターが出現するダンジョンのど真ん中である。

これだけ長い時間交戦していれば当然のことながら、横沸きもするわけで。

 

とはいえこれだけのギャラリーに囲まれていれば、

タイマンの邪魔をさせないように誰かが排除してくれるので

大した心配はせず、目の前の相手だけ倒すことに没頭した。

 

「ヒィィィィィィィン!」

 

もう一匹のナイトメアがずれた蹄の音を打ち鳴らし、

こちらへ向かって突進してくる。

 

すると、ギャラリーの一人が素早く輪の中から飛び出し、

向かってきたナイトメアのタゲを奪い取った。

 

そして、「おっと、ここから先は通行止めだ」と言わんばかりに

立ち塞がったプレイヤーは同職である男シーフだった。

 

金髪のオールバックの髪型の風体をしたそのシーフは、

"廃人"が発するただならぬオーラを身にまとっており、

「これならば」と安心した気持ちで目の前にいる相手(ナイトメア)に視線を戻そうとしたその瞬間、

ある異様な光景が視界をかすめ、慌てて視線をそのシーフに戻した。

 

キリキリと軋む音。

湾曲に反り返った形。

引き絞ることで溜め込まれた力。

標的との一致点を探る視線。

それは──

 

「ゆ、ゆ、ゆ…弓ぃ…!?」

 

なんと、そのシーフが手に取った武器は"短剣"ではなく──"弓"だった。

 

すぐさま慣れた手つきで、矢を打ち込み始める。

射撃のスピード自体は本職であるアーチャーに劣るものの、その威力は──全く引けを取らない。

 

普段見慣れないシーフが弓を引く姿に呆気に取られ、すっかりこちらの動きは止まっており、

同時に周りにいたギャラリーもすっかりとそのシーフに視線が釘付けになっていた。

 

すると、その姿を見ていたナナさんとパプチーさんが思い出したように声をあげる。

 

「あっ、あのときのん!」

 

「あら、先ほどの…」

 

その様子を見て、先ほどの二人との会話が頭の中をよぎる。

 

『えーとん、確か…そうそう、ドッペルゲンガーと同じ髪型の…金髪の男シーフだったはずだよん。』

 

『ナナさん、スペルはAlbertだから恐らくアルバートだと思いますよ。』

 

なんと、自分を訪ねにきたシーフは──恐らく、この世界唯一の"弓シーフ"であった。

 

「ヒィィイイイイイイイイン!」

 

いまわの際のナイトメアの鳴き声はいつもと違って聞こえた。

結局、こちらの決闘に乱入したナイトメアはこちらに触れることもできず、

アルバートさんの放つ弓矢によって、瞬く間にナイトメアは葬られた。

 

その瞬間、もの凄い歓声が沸き起こる。

すっかり注目を奪われてしまったが、もはやそんなことはどうでもよかった。

早く彼と会話をしたい──と、はやる気持ちが短剣(グラディウス)を握る拳を強めるも、

その強い"想い"とは裏腹にダメージに変化は表れなかった。

 

***

 

「ヒィイイイイイイイィイン!」

 

いつもよりは多少は早く終ったのだろうか、無事にナイトメアを撃破した。

しかし、観戦してたギャラリーの多くは突然の弓シーフの登場に驚いた様子で

自分の興味もすっかりそちらを向いていた。

 

「じゃあ、ちるちるさん、ごゆっくりーん。」

 

「では、ごきげんよう。」

 

周りのギャラリーは、各々狩りに戻ったり雑談をするなどし、ショーは幕を閉じた。

ナナさんとパプチーさんも気を使ってくれたのか、二人とも席を外すと、

取り囲んでいた輪がすっかりと形を無くし、その場にはポツンと一人、取り残されたシーフが座っていた。

ゆっくりと近づき、声をかける。

 

「あ、あの…初めまして、ちるちると言います、なんかわざわざ会いに来ていただいたようで…」

 

こちらから会話を切り出したものの、先ほどの姿に魅了され、すっかりと萎縮しまう。

 

「やあ、初めまして、噂に聞いていたとおりのスピードで驚いたよ。」

 

「…う、うわさ?」

 

その単語に思わず身を乗り出して反応する。

 

「いやー、最近、シーフ仲間から君の話を聞いてね。」

 

「は、はぁ…」

 

「夜な夜なナイトメアとタイマンを張っているシーフがいて、それがAGIガン振りステのせいで、

もの凄い攻撃スピードのなのに与ダメがたったの"1"っていうじゃない?」

 

「あ、はい…それは確かにボクのことです。」

 

「んで、どんだけ尖がってんだよと思ってさ、気になって見に来たんだよね。」

 

どうやらシーフの業界では自分の存在が認知されているらしい。

それもまあ、この廃人が集う場所で目立つようなことをしていれば当然でもあるが、

自分から言わせれば今、目の前にいるアルバートさんのほうが、よっぽど尖っているのだが。

 

「いやー…大したことないですよ。ただの見世物です。お恥ずかしい。」

 

「でも、いいじゃない。速いのはカッコイイし憧れるよ。オレはドン臭いから。」

 

と何故か自虐するも、そもそもアーチャーとシーフでは弓の基礎の攻撃速度が違う。

本職の方が勝っているのはそれは当然なわけだが、反応に困り、思わず誤魔化し笑いを浮かべると。

 

「ま、弓なんて本職(アーチャー)と比べたらとろいし、DA(ダブルアタック)が殺されちゃうからね。

メリットなんてまるでないけどさ、なんか型にはまるのがイヤだったからね。」

 

その言葉は自然と心に響いた。これまで型にはまるのを避け、一人我が道を進んでいた。

しかし、型から外れた道は険しく、何度も振り返ったり、やり直したくなるような思いに苛まれた。

 

しかし、そんな険しい道を歩き、個性溢れるキャラを作り上げたお手本となるプレイヤーがここにいた。

彼なら今の自分の悩みを解決してくれるかもしれない。

そんな期待を──彼が弓を放ったその瞬間から勝手に抱いていたのだった。

 

「実は…ボクも今、ステ振りで悩んでるんです。」

 

今度はアルバートさんが興味深々に身を乗り出しながら聞き入る。

 

「ボクも型にはまるのがイヤでこれまで偏ったステータスにしてたんですけど、

でも、それじゃあ、ずっと弱いままで…一体どうしたらいいのかと悩んでいるんです。」

 

その悩みにアルバートさんは「うーん」と暫く悩む仕草をすると、何かを閃いたように目を見開いた。

 

「それじゃあ、ちょっくらオレがあるプレイヤーを紹介してあげるよ。」

 

てっきり、彼がなんとかしてくれるのかと思っていたが、

彼の口からでた言葉は別のプレイヤーの紹介だった。

拍子抜けと共に困惑する。

 

「え…?どなたですか…?」

 

「そうだな、明日辺り"ピラ4"に行ってごらん。

恐らく見ただけでオレが何を言いたかったか分かると思うから、あえて名前は言わないけど。」

 

「"ピラ4"ですか…。」

 

「まあ、行けば分かるよ。今日はもう遅いから多分ログインしていないと思うけど、

"彼"は大抵は"ピラ4"にいるから会えると思うよ。」

 

あれ以来、一切近づくことを避けていたピラミッドダンジョン。

もちろん、可能であればあまり行きたくはない。

しかし、アルバートさんの言葉には何か深い意味があるような気がして。

 

「わかりました。では明日、行ってみることにします。」

 

自らが定めた禁忌の地へ足を踏み入れる決意をした。

 

「んじゃま、今日はオレもいいものを見れたからこの辺で落ちるよ。後で感想でも聞かせておくれ。」

 

アルバートさんはは何故か嬉しそうな顔をしながらそう言い残すと、目の前でログアウトしていった。

 

「ピラミッドか…」

 

もう二度と行く事はないと思っていたが何の因果か再び機会が訪れた。

誰が待っていて、何が起こるのか。

今抱えている不安が果たして解消できるのか。

 

そんな期待と不安が交錯しながら夜は更けていった。

 

 

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