次の日。
アユとの狩りを終え、一人になった時間を見計らって
ピラミッドダンジョンの入口まで来たものの、思い悩んでいた。
ピラミッドの入り口直前まで足を進めては次の一歩を躊躇すると、
そのまま振り返り、そしてまた離れる。
昨日、あれだけ強く決意しながらも、
いざというときに決意を台無しにするようにトラウマが邪魔をする。
まるでピラミッドの入口には見えない壁ができているようである。
「ふぅ…こりゃ、まいったな。」
腰を据えると、目の前にそびえる王の墓を見上げる。
尖った先端から差し込む熱視線が光になって視界を妨げ、
そのまぶしさに反射的に目を閉じる。
思えば、あのときの自分はまさに独りよがりだった。
自分を否定する存在を否定するため他人を巻き込んで。
空回りして、痛々しくて、惨めで弱くて。
思い返すと頭をかきむしりたくなるぐらいの衝動に駆られる。
それだけ深く抉られた心の傷はやはりそう簡単には癒えないのだろうか。
でも、でもそれでも。
この一ヶ月の間、様々な"変化"という名の出会いがあった。
偶然の巡り合わせばかりなのかもしれないが、
でもそれはこれまで歩んできた"もの"が積み重なって出来た
今の自分が辿るべき道のりなのかもしれない──だとすれば。
ゆっくりと目を開くと、眩しさで再び前が見えなくなるが、
一歩踏み出す勇気はいとも簡単に生まれた。
「たかがピラミッドに入るのにいちいち重いな。コイツ。」
自らのツッコミが聞こえた。
***
古代エジプトの王が眠るという墓ピラミッド。
苦々しい思い出も同時に眠っているこのダンジョンに再び訪れるというのは正直、気が滅入る。
が、"あのとき"から避けていたピラミッドダンジョンにこうして再び足を踏み入れた。
というより背中を押してもらったというのが正しいだろう。
あのときと比べれば少しは成長したと思うものの、
すごすごと敗れ去ったあの記憶が一歩進むたびにじわりじわりと襲い掛かってくる。
もし、こんなところにアユと一緒にきたら、申しわけなさで一杯になるだろう。
今はソロなので少なくても仲間に迷惑をかけるということは起こらないのが救いでもあるが。
ここの最上階に行けば、今の自分の悩みを解決してくれるプレイヤーに会えるという
アルバートさんの言葉を信じて、一つ一つ歩みを進める。
そのプレイヤーが一体何者か分らないものの、階段を上る度におのずと期待も膨れ上がっていった。
***
そうこうしているうちに、迷路状の二階のすんなり通り抜け、
崖撃ちのメッカである三階を駆け抜け、あっさりと四階──最上階である"ピラ4"に辿りついた。
本来なら"ピラ4"行きのポタなんてポタ子広場に行けばいくらでもある。
それでもこうして一階から上ってくることが今の自分にとっては必要なことだと言い聞かせて
リハビリも兼ねた行動ではあったものの、こうあっさりだといささか拍子抜けでもある。
さて、"ピラ4"は前に狩りにきてから当然変わっておらず、ひたすらだだっ広い。
中央にいけばいくほど、モンスターの沸きが増加するため、
前と同じように何も考えずに中央へ行くのは危険であり、
まずはマップ四隅の休憩ポイントにアルバートさんのいう目的のプレイヤーを探すことにした。
アルバートさんは「行けば分かるさ迷わずいけよ」と言わんばかりに何もヒントをくれなかった。
「名前も知らないのに本当に見ただけで分かるんだろうか…」
確かにアルバートさんのような"弓シーフ"というオンリーワンのキャラクターならいざ知らず、
それ以上にユニークなキャラって一体どんなタイプなのか見当もつかなかった。
むしろ一人でこのダンジョンを闊歩できるほどの実力もない自分にとっては、
会う以前に"辿りつけるのか"という不安のほうが大きい。
そのせいか、どこかぎこちなく、何かに怯えるように歩みを進めていた。