ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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その男、最速につき

「これで最後か…」

 

"ピラ4"には他のダンジョンと同じように休憩ポイント──いわゆる溜まり場のようなものがある。

ダンジョン内の溜まり場は得てして入口付近になりやすい傾向があるが、

この正方形の形状をしたマップは他のダンジョンと違い、四隅にそれぞれ入口がある。

 

そのため溜まり場も四箇所に分散しており、

今回みたいに特定のプレイヤーを探すといった場合、非常に面倒である。

 

そうして最初の四隅である南東の入り口からそれらしいプレイヤーがいないか捜索を始め、

時計周りにぐるりと壁際を歩きながら西南、北西と回り、ようやく北東の入り口に辿りついた。

 

その最中、モンスターと交戦しているプレイヤーを遠目から見ていたが、

このマップで狩りしているプレイヤーは耐久型のアコライトやソードマンか、

高火力型のシーフやアーチャーに二分されており、

とりわけシーフで言えば、さして目を引くプレイヤーは見当たらなかった。

 

「やっぱ、中央の水場で狩りしてるのかな…はぁ…。」

 

目的のプレイヤーが入口付近にいてくれれば交戦を最小限に抑えられる。

そんな淡い期待を抱いていたものの、あえなく徒労となったことに肩を落とし、ため息をつく。

 

四隅にいないのであればやはり中央の水場まで行かざるを得ない。

前回きたときは水場に辿りつくことなく、モンスターの群れに圧殺されてしまった。

そのときの恐怖が染み付いているせいでこうして足取りが重いわけで。

 

暫く俯いたままぶつぶつと自分に言い聞かせる。

 

「とにかく…戦わない…逃げること…逃げ切ること…。」

 

あのときは何もできなかった。そして今も何もできないままである。

それならばせめて必死に逃げてみよう。

 

覚悟を決めて顔を上げ、前を向く。

このマップは地上からかなり高い位置にあるにも関わらず、光は全く差し込まない。

視界の先は僅かに光る灯火だけが道を照らしており、

それはまるで今の自分の行く末を示しているようだった。

 

ためらう足先を強引に前に踏み出しながら少しずつ前に進む。

しかし、このマップは中央へ向かって傾斜になっているため、自然と足が一歩、また一歩と前に進む。

 

そして、魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)するピラミッド最上階の最深部へ向かって走り出した。

 

***

 

「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」

 

どこからともなく聞こえる水が滴る音に合わせ、肩で息を吸う。

 

一身不乱に駆け抜けた結果、なんとかマップ中央の水場に到着すると、

その場にずるずるとへ垂れ込むようにして倒れた。

 

どうやら周囲にモンスターはいないようで、

近くで大量にモンスターがリポップしないことを神に祈るばかりである。

 

途中、何度かモンスターの群れに遭遇した。

勢い良く駆け出したせいもあってそのまま突っ込んでしまったものの、

唯一のとりえである回避率の高さが幸いして、

モンスターの攻撃を()い潜りながら被弾することなく突破…いや、逃げ切ることが出来た。

 

初めて訪れた水場はモンスターが(うごめ)くこのマップらしからぬ静寂を保っており、

時折聞こえる水のせせらぎが心地よい涼しさを与えてくれていた。

 

そうしてしばらく休憩した後、周りをうろつくぐらいの余裕が出来たので、

水場をぐるりと一周しながらそれとなく見回ってみるものの、

プレイヤーもそしてモンスターさえも現われず、途方に暮れていた。

 

「うーん…もう少し、中腹の辺りを見てきたほうがいいのだろうか…」

 

全力のダッシュで駆け抜けたあの地獄のような場所に戻らなければいけないのか、

さっきは都合よく、被弾せずに駆け抜けられたものの、果たして今度は命があるのかわからない。

しかし、「最初の一歩を踏み出したときに比べたら」ともう一度覚悟を決め、

今度は下ってきた道を駆け上ろうとした──そのとき。

 

目の前ではうさみみを装備した銀髪の男シーフが大量のモンスターをトレインしながら、

水場に突っ込んできた。

 

さっきまでの静けさがあっというまに騒々しくなる。

人っ子一人いなかったこの場所に一気にモンスターの群れがやってきたからだ。

 

しかも、このシーフが抱えている数が半端ない。

ここでソロ狩りをしているぐらいだし、腕には自信があるのだろうが、

この数に囲まれてしまったら流石に無理ゲーである。

 

こちらに火の粉が降りかかってくるかもしれない恐怖に思わず、

懐から短剣を取り出すと、まるで強敵と対峙したときのようにぎこちなく身構える。

 

「あーあ、あの数は致死量だ…」

 

しかし、次の瞬間、その目測を裏切るような事態が目の前で起こった。

 

その銀髪のシーフは大量のモンスターに囲まれているというものの、

大した被弾もせずに悠々と避け続けていた。

 

「えっ…?」

 

シーフは高回避能力が特徴の職業である。

しかし、どんなに高回避を誇っていても大量のモンスターに囲まれてしまえば、

回避はゼロになり後に残るのはただの紙装甲のみである。

 

しかし、そのシーフは多少被弾を許すものの、かなりの確率でモンスターの攻撃を回避している。

 

「え…なんで…?どういうことなの…?」

 

その回避性能に圧倒されていると、

今度は次第に取り囲んでいるモンスターが倒されていく様子が見えると──思わず声に出た。

 

「は、は、は…はやっ!?」

 

いつも自分がナイトメアとタイマンを張るときにイヤというほどその言葉を浴びせられるが、

まさか自分が口にすることになるとは。

 

そのシーフは自分よりも遥かに速いスピードで攻撃を繰り出すと、

次々と取り囲んでいたモンスターを斬り刻んでいった。

STR型のシーフと比べダメージは劣るものの、殲滅力は全く引けを取らない。

むしろこちらの方が早いのではないか、と思わせるぐらいの印象さえもある。

 

「す、すごい…」

 

心地良い斬撃音がピラミッドの空間を漂い、共鳴する。

乱れることのないテンポはダメージまでも一定に音を刻んでいく。

その様子を口を開けながらただの観客のように傍観する。

 

そして息を飲むぐらいに洗練されたそのシーフの攻撃に見とれているとある違和感に気づく。

 

本来、ダメージというのはあるレンジで"ぶれる"仕様になっている。

そのためダメージが一定になることなど本来ありえないわけなのだが、

なんとこのシーフの繰り出す攻撃は全く同じダメージを与えていた(・・・・・・・・・・)

 

もちろんこの"ぶれ"を抑えるためのステータスがDEXなのだが、

アーチャーのように高DEXを誇っていたとしても必ずダメージにはブレが発生する。

 

にも関わらず、このシーフの攻撃は一体どうなってるのだろうか。

自分がナイトメアに対して一定のダメージ──"1"を与えるのとはわけが違う。

ある程度の与ダメージが発生している状態にも関わらず、何故かダメージがぶれない。

 

そんな、攻撃と防御の両方どちらをとってもひときわ輝きを放つそのシーフは

 

──誰よりも速く。

──誰よりも華麗で美しく。

──そして何よりも──強かった。

 

「間違いない…アルバートさんがボクに見せたかったのはこのプレイヤーだ…」

 

そのシーフの名はYUWSHI(ユーシ)、Chaosサーバー最速の"男"である。

 

 

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