ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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最速の道へ

一匹…また一匹とそのシーフの周囲からモンスターの姿が消えていく。

既に自分は臨戦態勢を解き、目の前の衝撃を羨望の眼差しで眺めていた。

 

シーフは職業柄、強力なパッシブスキルを活かした攻撃がメインとなるため、

短剣を握ってはただ斬りつけるだけの単調な攻撃になりがちである。

 

しかし、そのシーフから繰り出される攻撃には"華"があった。

一発の威力は低いものの、超高速の攻撃によって生み出される火力は

STR型のシーフにも決して引けを取らない。

そして何よりも驚くべきことが、生み出されるダメージが決してブレないことである。

 

そんな清廉された強さと美しさを兼ねそろえたシーフの出現は

あの"弓シーフ"であるアルバートさんを見たとき以上の衝撃であった。

 

***

 

水場に静寂が訪れ、微かなせせらぎが響き渡る。

 

こちらが圧倒されている間に、目の前の銀髪のシーフ──ユーシさんは

自らを取り囲んでいたモンスターの群れを瞬く間に殲滅した。

 

その一部始終を食い入る様に見つめ、熱い眼差しを送りながら夢中になっていると。

 

「や、ようやく会えたね。ちるちる君。」

 

戦いを終えたユーシさんは顔をこちら向け、話しかけてきた。

そしてそのことに気づくのに数秒を要してしまい、「ハッ」と慌てて反応する。

 

「えっ…? ぼ、ボクのことご存知で?」

 

すっとんきょうに目を丸くすると、彼はこちらに笑顔を見せながら近付いてきた。

 

「もちろん。アルバートから君のことは何度も聞かされてたよ。俺を越えるシーフがいるって。」

 

「へっ…?何をおっしゃって…?」

 

「最初聞いたときは驚いたよ。まさかAGI極振りのシーフがいたなんてね。」

 

「あっ……」

 

「俺もシーフ界じゃ結構異端だと思ってたんだけど、それ以上の異端児がいるなんて正直驚いたよ。」

 

「いえ、何も考えずに馬鹿みたいにAGIに棒振りしただけですよ…」

 

「あはは、そうなのか、ま、でも俺も最初はステ振りは適当だったかもしれないな。

そこから今のステータスを突き詰めるまでには色々と時間を要したよ。」

 

「ああ、そうです! 驚きました。衝撃的です。なんですかあの速さは!」

 

「ん?君だってAGIカンストしてるんだから、速いだろうに。」

 

「いえ…ボクとは次元の違うスピードでした。

正直、攻撃速度には自信あったんですが、すっかりと鼻をへし折られました。」

 

「あはは、それじゃあ、俺と君の違いを教えてあげるよ。」

 

「はい、是非お願いします!」

 

目を輝かせながらユーシさんの言葉を待った。

 

「えーと、俺とちるちる君の攻撃速度…いわゆるAspdの違いは単純にDEXの差だけだよ。」

 

「えっ…!? そうなんですか?」

 

「この前の仕様変更でAspdってのはAGIとDEXに左右されるようになったのは知ってるよね?」

 

「はい、でもそれってAGIの方がより依存するんと思ってたんですが…」

 

「もちろんAGIの方がAspdに対する割合は大きいけど、Aspdってのは値が高くなればなるほど、

たった1の違いでも如実に違いが見えてくる。それとAGIだけじゃどうしても頭打ちになっちゃうから、

DEXは割合が低いとはいえ、馬鹿にはできないんだよね。」

 

「なるほど…確かにボクはDEXは初期値のままです。」

 

「あ、あとはブローチの差もあるかな。ちるちる君は持ってるかい?」

 

ブローチはつい先日実装されたAGIが上昇するアクセサリーアイテムである。

ドロップするモンスターは二ヶ月ぐらい前に実装された海底ダンジョンに生息する

人魚の外形をしたオボンヌというモンスターである。

 

当然、レアアイテムであり、四葉のクローバーが三十万ゼニーぐらいに対して、

ブローチは二百万ゼニーのレアアイテムであり、当然のことながら自分は所持していなかった。

 

「なるほど、ブローチですか…それは確かにボク程度ではまだもっていませんね。」

 

「まあ、オボンヌぐらいは簡単に狩れるからそれはコツコツと狙ってみるといいよ。」

 

「はい!頑張ってみます!あっ…」

 

「ん…?まだ何かあるのかい?」

 

「それと、ユーシさんのダメージがブレない攻撃…あの秘密を教えてもらえないでしょうか…?」

 

「ああ、いいよ。それはね…えーと…」

 

一番聞きたかった疑問にユーシさんはあっさりと答えてくれた。

そして、何かをインベントリから取り出すとそのアイテムをおもむろに地面にドロップした。

剣の形をしたそのアイテムは──フォーチュンソードであった。

 

「これがその秘密だね。」

 

「へっ…?もしかしてこれを装備してるんですか?」

 

「そうだよ、このフォチュンこそが俺が愛用している武器なんだよね。」

 

地面に無造作に捨てられたその武器を見て目を疑った。

この世界におけるフォーチュンソードの価値ははっきり言って"ゴミ"同然の使えない武器という扱いだ。

 

その理由は簡単で、この武器をドロップするモンスターが、

 

・主に低難易度層に出現し、モンスターの強さも自体も中程度。

・出現する場所、出現数がそれなりに多い。

・ドロップ率が高い。

 

この要素を満たしているせいで自然と市場にモノが流れ出し、そして供給過多になる。

実際、多くのプレイヤーは普通に狩りをしてレベル上げをしていれば、

一度はこの武器を手に入れた経験もあるだろう。

かくいう自分も既に何度も拾ってはいるものの、倉庫の肥やしとなっていた。

 

また、フォーチュンソードはクリティカル上昇、LUK上昇、そして完全回避上昇特殊効果はあるものの

武器の攻撃力が(NPC)売り最強のグラディウスのほうが圧倒的に高く、

ほとんどのシーフはグラディウスを使用しているか、

もしくは一部の廃プレイヤーはさらにその上のレア武器であるダマスカスを使用していた。

 

…にも関わらず、ユーシさんがフォーチュンソードを愛用しているのは何故だろうか。

そんなごく当たり前の疑問を投げかけた。

 

「あの…フォーチュンじゃやっぱり攻撃力低いからグラかダマのほうがよいのでは?」

 

すると彼は肩をすくめながら、その疑問に答えてくれた。

 

「ま、普通はそう思うよね?」

 

「はい…わざわざ弱い武器を使う理由がわかりません…」

 

「うん、ちるちる君の言うとおり、単純に武器としての攻撃力はグラダマのほうが上だね。

でもさ仕様上、武器の攻撃力が高ければ高いほど振れ幅も上がってダメージも安定しないよね?」

 

「はい、そうですが…ってもしや…!?」

 

「気づいたかな? 何故いつも俺の攻撃が一定ダメージなのかということを。」

 

ふふふと口角が緩み、嬉しそうな表情すると──突然。

 

「グオオオアアアアア!」

 

ユーシさんのご高説の最中に図ったようにして目の前にマミーが出現した。

するとユーシさんは地面に落としたフォーチュンソードを拾い上げ、

手慣れた手つきで手の上でくるんと回す。

 

「そう、それは武器の攻撃力よりも自身のDEXの方が勝っていればどうなるか…それは──こうだ!」

 

そう言うと、ユーシさんは目の前に沸いたマミーに向かって、幸運剣(フォーチュンソード)を振りぬいた。

黄金色に装飾された柄が淡い光を放つと、先ほど見た光景が蘇る。

 

信じられないぐらいのスピードで、一切ブレることを許さないダメージの山が築かれる。

すると、せっかくリポップし、この世界に生を受けたはずのマミーはあっというまに地の底へ送り返された

──まあ、元から死んでるが。

 

いとも簡単にマミーを屠ったユーシさんはパンパンと手の汚れを落とし、こちらを向きなおす。

 

「とまあ、このようにダメージが一定になるんだよね。」

 

「なるほど…だからあえて攻撃力の低い武器を選んでいたのですね。」

 

「それもあるけど、フォーチュンソードの特殊効果がオレのステにぴったりなんだよね。」

 

「それは…?」

 

「俺は結構LUKにもステータスを割いてるから、主な用途は"完全回避"かな?」

 

「あっ…だから、あんなに"Lucky"を連発してたんですね…」

 

「ん、そういうこと。フォチュンと組み合わせて完全回避をあげれば、ある程度は被弾を防げるし、

俺がこのフォチュンを選んだ理由はまさに攻防一体の点に魅力を感じたからだね。」

 

言われてみればみるほどなるほど納得である。

フォーチュンソードはユーシさんのような特殊なステータスにとってはまさに最適の武器であり、

こうしたキャラメイクを踏まえたうえでの結論だったのだろう。

単に武器を攻撃力の側面からしか見ていなった自分には到底たどり着くことのできないだろう。

 

きちんと自分自身のステータスを理解し、

それにあった選択をしていくというキャラメイクにとって大事なことをユーシさんは把握している。

キャラの強さ以前にそういったオリジナリティを出す考え方においても

同じAGIシーフでありながら何もかもが劣っていたことを思い知らされた。

 

「あ、あの…色々教えていただき、ありがとうございます。

なんかボクずっとこのあとのステータス悩んでいて、どうしたらいいか分からなかったんです。」

 

「そうか、そりゃまあ悩むよな、少しは役に立ったかい?」

 

「はい!おかげさまで決断することが出来ました。」

 

「そりゃよかった。アルバートにお願いしといてよかったわ。」

 

「で…その、よかったら…ボクを弟子にしてもらえますか?」

 

彼に学ばなければいけないことはたくさんある。そう思ったら咄嗟に弟子入りを口にしてしまった。

 

「いやいや、弟子なんてそんな大げさな…」

 

両手を交差させながら嫌がる素振りを見せる。

こちらが懇願する表情で頼みこむと、視線を逸らしつつコホンと咳払いをして

 

「まあでも、数少ないAGIシーフの中ではちるちる君が唯一、俺を越えられる可能性を持った

プレイヤーであることは間違いないだろうし、…まあ後継者として応援はさせてもらうよ。」

 

「はい、分かりました! 師匠のように強く…そして速くなるためこれからも精進したいと思います。」

 

「…師匠っておい…まあ、いいか。」

 

そういうと照れくさそうにユーシさんは弟子になることを許してくれた。

今まで出会ってきた"強い"プレイヤーに対して憧れを抱くことはあっても

弟子入りを懇願するほど、魅かれたプレイヤーはユーシさん以外はいなかった。

同じAGIシーフとしてステータスが似ていたことあったが、

それ以上に彼の持つ"こだわり"に親近感が沸いたからだろう。

 

こだわり、ここに極まれリ。

 

この世界において"師匠"と呼べる存在は後にも先にもただ一人であった。

 

***

 

その後、時間を忘れ、会話を楽しんだ。

時折いただく、師匠から弟子へのアドバイスは全てがためになる話であり、

勇気を振り絞ってピラに来て本当によかったと感じていた。

 

しばらくすると夜も更け、後ろ髪を引かれる中、ユーシさんとの初の邂逅はお開きとなった。

 

「それじゃあ、次に会うときは、ちるちる君が俺を越えたときだね。」

 

そういい残し、ユーシさんは立ち去って言った。

 

師匠の後ろ姿を見つめながら、

この数日間のうちに出会った三人のシーフのことを思い出していた。

 

一人目はたろさん。

いわゆるテンプレ型ではあるものの、

バフォメットを倒すことに特化させた末にたどり着いたステータスであり、

きちんと目的と意思を持ったキャラメイクをしていた。

 

二人目はアルバートさん。

シーフ界においては恐らくただ一人であろう、弓をメイン武器とする"弓シーフ"であり、

短剣のみ発動するダブルアタックというパッシブスキルのメリットを捨て、

オリジナリティを前面に打ち出した個性溢れるキャラクターである。

 

そして、三人目はもちろん、ユーシさんである。

彼はまさに自分の未来の姿、描いていた理想であった。

 

そんな三人の先輩プレイヤーから"強さ"には様々な形があることを教えられた。

目的や個性に合わせ、多種多様な形があり、そのどれを選択するかは

やはり自分がどうなりたいかという意思を明確にするべきだということが分かった。

 

「自分が目指す道か…」

 

そう呟くと足は一人でにゲフェンに向かっていた。

 

***

 

いつもと同じように考え事をするときに座るベンチにやってきた。

 

どさっと腰を下ろし、仰向けに近い状態まで身体を寝かせると、そこには澄み切った空があった。

この前まではいくら空を眺めてもどんよりと先の見えない曇り空にしか見えなかったはずが

今ではすっかりと晴れ渡っている。

 

「よしっ!」

 

気合を言葉にして勢いよく立ち上がる。

 

ようやく見えた道筋に自分が出した──答えを。決意を。結論を。

誰もいないベンチで一人高々と宣言する。

 

「次はDEX99だ!」

 

"強さ"を求め、"最速"を目指すことを決めた。

 

 

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