ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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リーダーの苦悩

──エルドラド

 

彼が創設したパーティー"Angel_Heart"は

自分がこの世界で始めて入ったパーティーとして

思い入れのある"モノ"──になるはずだった。

 

しかし、降りかかってきた現実はかくもこう残酷な結末を導き、

その運命のいたずらの最期を見ないまま、自ら姿を消した。

 

全てを投げ捨て逃げ出した先で待っていたのは何もない真っ暗な世界だった。

 

何も出来ず、何も抗えず、何も覆せず。

 

ただ悲観し、自暴自棄になっていたところに

残されていたのはほんの少しだけ残されていた短剣を振るう力。

そんな一つのきっかけから歯車は少しずつ回り始め、そして時計の針は動き出した。

 

今では様々な出会いをもたらし、

目の前の景色も黒一色からモロクロにそしてセピア色となり、

今では色鮮やかなものになっている。

 

これからさらに煌きを見せる世界に進もうとしているそんな折、

突如現れた存在(元リーダー)に言葉を失う。

 

怒りに任せて罵声を浴びせるべきか。

それとも相手にせず、無視(シカト)を決め込むべきか。

色々な選択肢が頭に浮かぶも、どれを選べば正解なのか全く分からなくなり、

時間だけが無駄に過ぎていった。

 

「…………」

 

サングラス越しにエルドラドの視線がこちらを見続けているのが良く分かる。

直視されたことに何故かこちらが身構え、ビビっている様子に

エルドラドも気付いていたのだろうか、何も喋らずにこちらの反応を待っているようだった。

 

その行為に対して反射的に何かしなければという考えが背中を走る。

すると、わずかに声色が変わり。

 

「や、やあ…久しぶり。」

 

相手の言葉に呼応することを選択した。

すると、こちらの返事を待っていたエルドラドはすぐに言葉を返す。

 

「ああ、久しぶりだな。元気してたか?」

 

何だその言葉は。

エルドラドの発したその言葉に撃鉄が落ちるような音が頭の中に響く。

すぐに言い返そうと口が開く。

 

「お前の…」「貴様が…」「てめぇが…」

 

何を思ったのだろうか、最初に思いついた単語の後に続く言葉が思い浮かばず、

口を硬く締め、必死でこみ上げる怒りを抑え、声にならなかった。

結局、わずかばかりの皮肉を込め言い返す。

 

「まあ、おかげさまで楽しく過ごしてるよ。」

 

すると、エルドラドは力なく──「そっか…」と呟く。

 

自分に対しての罪悪感なのか、いつもの横柄な態度がすっかりなりを潜めている。

 

それにしても何故こんな辺境の地にいるのだろうか。

多くの街や建物などの溜まり場が存在するこの世界では

狩場が被らない限りは偶然出会うことは結構珍しい。

ましてや大して人気のないこのダンジョンで出会うとは。

 

──再び沈黙が訪れる。

この会話はターン制なのだろうか、エルドラドは再びこちらの言葉を待っているようだった。

複雑な思考が入り乱れる中、それでも必死に言葉を選び出す──取り留めのない言葉を。

 

「リーダー…は最近どうしてるのさ。」

 

"リーダー"という言葉に違和感を覚える。もう自分のリーダーではないのに。

とはいえ、まだAngel_Heartのリーダーではあるのだから、ここは我慢することにしよう。

 

「ああ、今はパーティーに入ってないかな。ソロでブラブラしてるよ。」

 

「へっ…?」

 

その言葉に呆然とする。

 

自分が抜ける直前、エルドラドはセカンドキャラのアコライトをラヴィさんのパーティーに加入していたはず。

そして、剣士はAngel_Heartのリーダーであり、

リプレさんと再会したときはまだパーティーは存在していたはず…であれば…

 

「ま、Angel_Heartを解散した後、このキャラもラヴィさんのパーティーに一応は加入したんだけどさ。」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!なんで、解散させたんだい?まだ、リプレさんが残ってたじゃないか!」

 

冷静を装えずに語彙が強まる。

 

「もう、分かってんだろ…リプレとお前を排除するためだよ。」

 

エルドラドはまるで逆ギレしたようにさらに強い口調で言い返してきた。

 

「ボクはいい。ボクは自分の意思で抜けたんだから…

でも、リプレさんは…最期まで残ってたんだぞ…それを何故…」

 

「…………」

 

「彼女は…他の誰よりもパーティーのことを大事に思って、パーティーのために──」

 

「それがうっとおしいんだよ!」

 

こちらの言葉を遮って思いつめたように吐き捨てた怒号にたじろぐ。

 

「オレらはみんな、"アイツ"みたいに意識が高いプレイヤーじゃねぇんだよ!」

 

「リーダー…」

 

「なのに…勝手に崇高な理想を押し付けて、一人で先に突っ走って…いい迷惑だったんだ…」

 

抱え込んでいた不満なのか、今の心境を単に吐露したのか分からないが、

ようやく本音を聞きだすことができた。

でもその本音は…ウソではないが真実を述べているようには思えず。

 

「なんかさ…リーダー最初にあったときと人が違うみたいだね。」

 

「…ん?なんでだよ。オレはいつもこんな感じだったと思うぞ。」

 

「覚えてる?ボクがパーティーに入りたての頃にリプレさんがボクのこと馬鹿にしてさ。」

 

「ああ、そんなこともあったっけかな…忘れちまったよ。」

 

「あの時さ、リーダーはすごい怒って、リプレさん相手に説教までしてくれたじゃないか。

あのとき…結構嬉しかったんだよ。」

 

「ああ、あの時か…。まあ、最初ぐらいは会って間もないんだし、善人プレイぐらいするさ。」

 

「まあ、そうかも知れない…」

 

「俺だって同じさ。そして慣れてくれば来るほど言葉使いも悪くなって、態度も横柄になっていく。

そして、どーでもいい下らないことで腹が立ち、口論し、亀裂が生じたまま元に戻ることは二度とない。

ネトゲの人間関係なんてそんなものだよ。」

 

エルドラドは吐き捨てるように捲くし立てた後、ふぅ…とため息をつく。

その様子は明らかにおかしかった。

僅か三ヶ月の付き合いではあるものの、ある程度は性格は分かってるつもりだった。

それがどうであろう、こうまでこの世界に対して悲観的になるなんて。

一体、パーティーを解散した後、彼の身に何が起こったのだろうか。

 

こちらが困惑している間に、先にエルドラドの方から我に返る。

 

「ああ、わりぃ…愚痴になっちゃったな。まあ、あのときはメンバーの中じゃ一番レベルも高かったし、

それなりに威厳っつーもんもあったけど、あっという間にリプレに抜かされてちまったからな…」

 

「まあ、リプレさんのレベル上げのスピードはおかし過ぎるから気にする必要はないよ。」

 

「まあ、そうだな…」

 

そう言うとエルドラドは少しだけ笑みを見せた。

 

結局、何が起こったのかはさっぱり分からないが、

"あのとき"から色々と筆舌に尽くしがたい出来事が経験してきたのは容易に想像がつく。

そして皮肉にも、今ではすっかり陥れたはずの相手と立場が入れ替わってしまっていた。

 

『ざまあみろ。』

 

という言葉を口にすることはない。

 

自分は辛い思いを味わった。

そして今、そのターンがエルドラドに訪れたわけだ。

であるならばこれ以上、相手を卑下するようなことをしても株を下げるだけだし、

相手に向けた怒りの矛はさっさとしまい、抱えた恨みはさっさと消し去ってしまう方が未来を歩きやすい。

今更、仲を取り戻そうとする気は全く起きないが、こうして会話をするぐらいなら…もう傷も痛まない。

そう思えるようになった。

 

しばらく、取り留めのない会話が続いた──すると。

 

「ところで、ハルカは元気にしてる?」

 

不意をついて出た言葉の意味をまるで理解できないまま聞き返した。

 

「えっ…?」

 

突然現れた彼女の名前に傷痕が少し痛み始めた。

 

 

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