ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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ピラミッドダンジョンへ再び 中編

カプラの倉庫に着き、回復剤の補給を始める。

ピラミッドに行くのであれば"芋"などといったチンケな回復剤ではなく、高級POTを満載でいくべきだろう。

 

「えーと…白ポーションは…っと」

 

滅多に使わないアイテムのため、ごそごそと倉庫の奥を物色すると…とあるアイテムが目についた。

大分前にあるプレイヤーの影響で大枚をはたいて購入したものの、

まるで使いこなすことが出来ず、そのまま倉庫に腐っていた──三つのアイテム。

 

「もしかして、今の自分なら…」

 

そう呟くと、そっと手にしたそのアイテムを自分のインベントリにしまう。

 

"あのとき"とは違う、ある可能性を信じて。

 

***

 

(もや)のような砂埃が散り乱れているせいで、ピラミッドは薄らぼやけている。

まるで蜃気楼のような幻惑的な佇まいを見せる墓の入り口に二つの影が立っていた。

 

「また来てしまったか…」

 

その一つの影がぽつりと声を出す。

そしてゆっくりと目を閉じると、この場所を訪れたときのことを一つ一つ思い返した。

 

思えば、ピラミッドには数えるほどしか来たことがない。

シーフの転職で一回、ユーシさんに会いにくるために一回、

そして"あのとき"──

 

ここに来ることを避けていたのは、

言わずもがな、大切な人を失望させたというあの出来事が心を(えぐ)るからである。

 

だが、もう"あの人"──ハルカさんはこの世界にいない。

 

いなくなった影をいつまでも追い続けても仕方ない。

こうして大切にしなければいけない存在が傍にいるのならば

過去のトラウマぐらい断ち切らなければならない。

 

そんな決意の瞑想から目を開けると、さっきまで傍にいたもう一つの影、

アユがいないことに気付く。

 

そしてパーティーチャットには──

 

『置いていっちゃうよー』

 

という言葉が残されていた。

 

***

 

大慌てでピラミッドに侵入し、アユの現在地を確認する。

一階の迷路のエリアをアユは迷うことなくスイスイと進み、

既に二階の入り口付近にいた。

 

「ちょっと待ってよ~」というこちらのお願いを聞き入れることもなく、

アユはさっさと二階に行ってしまう。

 

きっとアユは鼻歌でも歌いながらピクニック感覚でいるに違いない。

一、二階は大して強いモンスターが出現するわけでもないから、

さほど心配していないが、一応は高難易度ダンジョンなんだから

もう少し緊張感を持って欲しいところではある。

 

大急ぎで追いかけるも、アユはここに来るのが始めてとは思えないほどの軽やかな足取りで

あっという間に三階の入り口に到着してしまった。

 

流石にここから先は一緒に進むべきだろうと思い、強い口調で制止を促すと、

ようやくアユの動きが止まった。

 

そして、こちらも全力疾走でアユの元へ向かうと。

 

「ぶ~、遅いっ!」

 

三階へ進む階段の前には、明らかに不満そうな顔をしたアユが待っていた。

 

「ぜぇ…はぁ…、そりゃ…アユが…置いていくから…」

 

「だって、ちーちゃんってば入口でまた難しい顔してるから、待ってられなくて…」

 

「まったく…」

 

「それに、わたしはここに来るのは初めてなんだから、ちゃんとエスコートしてくれないと~」

 

「はいはい…申しわけございませんでした。」

 

「わかればよろしっ!」

 

どことなく気負いがちな自分の行動を察しての気の使い方なのだろうか、

それともただの天然によるものだろうか。

こちらの事情を知らないのだから勿論、後者なのだが。

 

でもどこかアユの取る行動にはこちらのぎこちなさに何か感づいているようにも思えた。

 

「ここからが本番だね。ちーちゃんの背中はわたしが守るから、わたしの背中も任せたよっ」

 

「うん…頑張ろう。」

 

その言葉に小さく頷くと二人一緒に三階へと進んだ。

 

***

 

三階の入り口はすっかりとプレイヤーがいなくなっていた。

 

少し前まではこの入り口ではマジシャン達が溢れかえり、

傍若無人ともいえるネイバームビートによる撒き餌狩りが大流行していたのだが、

今ではすっかりなりを潜めていた。

 

これも仕様変更の"成果"なのだろうか。

 

しかし、変わらない光景もそこにあった。

"ピラ3"のもう一つの名物である『崖打ち』は今だ健在であり、

今日も多くのアーチャーやマジシャンが崖に並び、魔法や弓矢が対岸に向かって撃ち放たれている。

 

「相変わらずだな…ここは。」

 

一方的に虐殺されていくモンスター達を哀れみながらも、

この狩り方ならリスクも少ないし、安全に狩りを出来るのではないか──という悪魔の囁きが聞こえ、

思わず「やっぱりここで狩りしない?」と口に出そうとするも。

 

「あっ、行き先は四階だからね?」

 

遮られように釘を刺される。

 

「と、とーぜんでしょ。」

 

と強がると、アユはニコニコした表情をこちらに向ける。

 

強い意思を持った視線に思わず「…っ」と声が漏れる。

すると、運よく近くに沸いたモンスターが視界に入ったので

動揺を誤魔化すように、突進する。

 

こちらの攻撃範囲まで距離が詰まり、短剣を振りかざす。

こちらの攻撃が当たるすんでところで、

後ろから空気を切り裂く音と共に肩の横を弓矢が通り抜けた。

 

モンスターの絶命が鳴り響く中、

振り返るとすぐそこには笑顔のまま、矢を射抜くアユの姿があった。

 

***

 

笑顔の視線に強いられるよう──いや、後押しをしてもらい、

三階での交戦を最小限にとどめ、四階にたどり着いた。

 

ここまでは"あのとき"と全く同じ状況、だがここからは。

 

"ピラ4"は最大の難関は倒しても倒しても沸いて出る『数の暴力』である。

 

だからこそ、ここでのソロを許されるのは──

暴力を力でねじ伏せるだけの火力と

暴力に屈しない高い耐久性能を持つ選ばれし猛者だけなのである。

 

比べて、こちらはペアとはいえまだ70台後半のシーフとアーチャーであり、

まったくもって実力不足は否めない。

 

アユは火力は高いが、回避性能は劣るため、

数匹程度に囲まれただけですぐにHPがレッドゾーンへ突入してしまう。

 

そして、こちらは攻撃速度偏重型のシーフ。

回避性能は十分だが、その数にも限界がある。

 

互いに弱点は補ってはいるものの、

果たしてこの無限に湧き出る泉のような場所で本当に"狩り"は成立するのだろうか。

 

「……くっ。」

 

恐ろしさを知ってしまったがゆえに強まる警戒心が邪魔をして入口から動くことができずにいると。

 

「大丈夫。わたし達ならやれるよっ!」

 

その言葉にこくりと大きく頷くと、二人で中央にある水場に向かって進み始めた。

 

 

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