ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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ピラミッドダンジョンへ再び 後編

水場へ向かう途中。

早速、マミー群れがアユに向かって襲いかかってきた。

 

素早くアユとの位置を切り替え、身を挺して立ち塞がると、短剣で一撃を加える。

全てのマミーのターゲットを奪いとることに成功し、GOサインを出す。

すると、アユはすぐさま弓矢をこちらを囲んでいるマミーの群れに向けて放った。

 

《ダブルストレイフィング!!》

 

高DEX型のアーチャーの必殺技がマミー肢体に次々と突き刺さると、

包帯に包まれた異形の群れは瞬く間に腐り果てた。

 

「いぇーいっ!」

 

アユは勝利のVサインを見せるも、こちらは気が気ではなかった。

まだまだこの程度の群は序の口に過ぎない。

"ピラ4"の沸きの異常さは身を持って経験しているため、

この程度で白い歯を見せるようなことはせず、周囲への警戒をさらに強めた。

 

「キシャアアアア!」

 

今度は単体ではあるが、イシスが沸いた。

イシスはこのピラミッドに出現するモンスターの中で

唯一の非アンディッド属性であり、HPも高くタフなため非常に厄介な相手である。

 

幸いにも沸いたのは一匹だったので、石畳を蹴り上げて急迫すると、

愛用のグラディウスがイシスの腹元を抉った。

 

「ギャアアアアア!」

 

イシスは叫び声を上げると共にヘイトをこちらに向けてきた。

 

すると、モンスターのターゲットが切り替わったのを確認したアユが

再び容赦のない火力で弓矢をイシスに叩き込む。

 

再び耳に残る悲鳴ような断末魔をあげながら、床の上でうつ伏せのまま朽ち果てると、

イシスを形作っていた外郭がゆっくりと消えていく。

 

「へへへーん!どうー?いけてるかな?」

 

こちらを見ながら自信満々に油断を見せるアユ。

一方、こちらはイヤな予感をひしひしと飛び書く空気の中から感じると大敵の到来に恐れおののく。

 

アユの持つ圧倒的な火力は見事なものであるが、

モンスターに囲まれたら一気に窮地に落とされてしまう。

 

何時もぬるいダンジョンで狩りをしているせいで、

こういった緊張感と集中力の必要な狩り場での勘が鈍っているのは否めないが

とにかく自らを研ぎ澄まし、やがて訪れるであろう

"ピラ4"の洗礼を迎え撃つために気持ちを整えていた。

 

***

 

傾斜状のフロアを下り、中央へ少しずつ進軍する。

今のところこれといったモンスターの群れには取り囲まれておらず、狩りは順調だった。

 

とはいえ、単体での遭遇が多く、アユが一瞬のうちに葬ってくれるおかげで

少しだけ物足りなさも感じていた。

 

どうやら、道中、VIT型のアコライトや剣士が何十匹もモンスターを抱えながら

交戦している様子が眼に入った。

 

当然だが、モンスターの出現数は固定されているため、

モンスターを溜め込んでいる間は他にはわかない。

 

リポップが出来ない状態が維持され、沸きも弱くなるが、

倒されるタイミングが重なると再び異様な沸きを見せるのも

この"ピラ4"特徴ではある。

 

さらに傾向しながら、歩を進めると、ようやく中央にある水場が見えてきた。

"ピラ4"の最深部であり、かつ危険地帯でもあるこの場所に再び訪れることになるとは。

 

──すると

 

ピラミッドに眠る古代エジプトの王オシリスを堅守する墓守達は一斉に牙を剥き始めた。

 

水場に近付かせまいとするマミーが次々とリポップすると、

すぐに群れを作り出し、威嚇をするかの如く両手を掲げると、

有無を言わさずこちらに突進してくると、

その動きに呼応するように今度は背後からイシスが連続で出現し、

列を成してこちらに襲い掛かってくる。

 

「くっ…このぉ…!」

 

前後に沸いたモンスターの同時攻撃に焦りを見えたのか

アユと自分の攻撃の優先順位が交錯してしまう。

 

「「あっ…ごめん!」」

 

思わず、声を合わせる。

こちらがターゲットしたのがイシスに対して、

アユが弓矢を打ち込んだのはマミーであり、互いの思惑が見事にずれてしまう。

急造仕立てのペアにはよくあることだが、そのミスがここでは命取りとなる。

 

慌てて建て直し、ターゲットを取り直すも、

既にこちらの回避可能な許容量はオーバーし、徐々に被弾し始める。

 

アユも懸命に弓矢を打ち込んで数を減らすも、

ようやく訪れた洗礼という名の数の暴力が次々とモンスターを呼び寄せる。

 

「これはまずい…」

 

アユも攻撃に必死で先ほどまで見せていた、余裕の表情が曇りを見せ始める。

パワーバランスが崩壊し、こちらが回復ポットを叩いて耐えしのいでいることにも

とうに気づいているだろう。

 

また──負けてしまうのか…

また──無残にも散ってしまうのか…

また──

 

『ちーちゃんも攻撃して! 私、SPが切れてもう無理!』

 

いつか耳にした言葉が頭の中を駆け巡る。

 

すると、片手に持っていた短剣を素早く(インベントリ)に仕舞うと、

今度で両手で別の武器を持ち出す。

持ち前の攻撃スピードの速さを活かし、瞬時に構え、狙い、放った。

 

「グオアアアアアアアアア!」

 

取り囲まれていた一匹のマミーが断末魔を上げる。

 

先ほどまで布地に折り目を与える程度のダメージしか与えられない貧弱な攻撃が

今度は"腐った包帯"に覆われたマミーの眉間を貫いたのだ。

 

そう、瞬時に持ち替えた武器それは──「アーバレスト」であった。

 

元々、シーフは短剣以外にも片手剣、弓を装備できる。

しかし、シーフの火力の源である『ダブルアタック』パッシブスキルが

発動するは"短剣"を装備しているときだけであり、

他の武器は短剣に比べて、攻撃速度も劣るため、

デメリットでしかない武器を好んで使うシーフなど皆無であった。

 

しかし、そんな常識にはとらわれない、これまでのシーフとは一線を画すシーフがいた。

それがあの伝説の"弓シーフ"であるアルバートさんである。

 

アルバートさんの存在は多くの可能性を見出してくれた。

短剣でダメージが出せないなら、早さを求めてDEXに振ったのであれば──弓を使えばいい。

 

当初、この可能性を探って、

試しにアーバレストとDEXの値が上がるアクセサリであるグローブ二つを購入したものの、

それはそれは悲しいぐらいのダメージしかでなかった。

 

そのときはまだレベル70に成り立てで、

DEXも低いことから使用するのはもう少し先かなと思っていたが、

どうやら今のレベルなら十分火力になりうるようである。

 

自信を込めた攻撃をさらに繰り出す。

アユが攻撃しているモンスターに合わせ、こちらも弓矢を放つ。

本職には到底及ばないが、戦力になっていることは間違いないだろう。

 

一体、一体と次々と狩り取っていく。

いつしか取り囲んでいたモンスターも消え、

沸き続けていたはずのモンスターもこちらの火力が上回ることが分かると、ピタリと沸きが止まった。

 

怒涛のモンスター達の襲来をようやく抑えきったことに思わず「ふ~」と息を吐く。

すると、アユが嬉しそうにこちらの衣服の袖を引っ張りながら。

 

「ちーちゃん、すごい!いつから弓を使えるようになったの~?」

 

「うーん、実はまともに使うのは今日が始めてだよ。まだ自信なかったし。」

 

「ううん、全然いけてるよー!ちゃんとダメージも出てるし、これなら一緒に攻撃できるね!」

 

喜び一杯のアユを見て「ふー」と少しだけほっと胸をなで下ろす。

それは"あのとき"と同じような醜態を晒さなかったことや、

少しは役に立てていること、少しは強くなったこと実感できた安堵のため息なのかもしれない。

 

***

 

あれから二時間が経過した。

 

今、現在、ひっきりなしに出現するモンスターを相手に狩りを継続している。

AGI極弓シーフと高DEXアーチャーの奇妙なペア狩りは

難関ダンジョンである"ピラ4"でも見事成立したのである。

 

夢中になりながら狩りをつづけていると、

いつの間にかレベルアップし、ついにレベル80に到達した。

すると、レベルがあがった瞬間、アユはまるで自分のことのように喜んでくれた。

 

「ちーちゃん、おっめ~!ついに大台だね。」

 

「うん、まああっという間だったようなそうでもないような…」

 

「わたしも直ぐに追いつくから、これからも一緒に頑張ろうね!」

 

レベルアップできたことはもちろん嬉しいことだが、

こうして最後までパートナーを守りきり、戦い抜いていることが何よりも嬉しい。

 

最初はここに来ることを躊躇していたが、

いつの間にかここで狩りしている事が楽しくなってしまった。

 

これも全てアユのおかげで、アユの後押しがあったからこそ、

今ここにいられるのだと実感している。

アユの存在は常に自分の根底にはびこる過去のトラウマを見事に消してくれた──かもしれない。

次第に大きくなっていくアユ存在に感謝をしながら、

「信じるに値する自分になりたい」と思う気持ちも大きくなっていた。

 

「おっと…いけないいけない。」

 

そんなことを考えていたら、いつの間にかモンスターに取り囲まれていた。

自分のレベルアップを祝福するかのごとく、モンスター達が立て続けに湧き出したのだ。

 

とはいえ、この程度のモンスターの数では今の自分とアユの敵ではない。

勇んで踏み込み、ターゲットを奪うと、弓を叩き込む。

「さあ、アユも援護射撃頼んだよ」と言わんばかりに追撃を期待するも。

背中から聞こえるはずの弓矢を放つ音は耳を伝わらず。

 

「あ…あれ…?」

 

一抹の不安がよぎり、後ろを振り向こうとした瞬間、

突如、アユが大きな声をあげた。

 

「しまっとぉああああああああ!」

 

一瞬、何が起こったのか理解できず、叫び声の主に顔を向ける。

 

「えっ…?あゆどうしたの…?」

 

アユは攻撃するわけでもなく、その場で立ち尽くしていた。

 

「え、おい…?あゆ…!?どうした…!?」

 

彼女は汗だらだらの状態でこちらを向き、そして手のひらを合わせ「ごめん」という仕草を取った。

「可愛い」と一瞬思ったが、そんなことを考えている場合じゃない!

 

一体何が起きたのか理解できずにいたが、すぐさまその理由に気づいた。

次の瞬間、自分の攻撃もピタリと止まり、その瞬間、今の二人に一体何が起きたのか理解した。

 

 

そう、攻撃が止まった理由は──"矢切れ"である。

 

 

「あははは!ちーちゃんも"矢"切れちゃったかな~?」

 

「うん…まあ二時間も撃ちっぱなしならね…」

 

これだけの狩りが続くことを計算していなかったせいで

見事に矢が尽きてしまい、攻撃手段を失ってしまった。

 

流石にこのモンスターの数を相手に、短剣を使ってまだ粘ろうとする気持ちもすっかり失せ、

運命に抗うことなく命が尽きるのを待った。

 

「あ、どうせゴロンするならちーちゃんの近くがいいな~。」

 

そう言うと彼女は囲まれている大量のモンスターを引きずりながら、

わざわざ高価な回復ポーションを連打し、こちらに近づいてきた。

こちらもそんな彼女を見て最後の力を振り絞りアユに向かっていった。

 

お互いの距離が隣りあったときに二人は抵抗をやめた。

みるみるうちにHPが減ってき、二人とも無事に床の上に倒れた。

 

モンスターの気配が消えた後、周囲には静寂が訪れた。

そして、しばしの沈黙の後にアユはぼそりと呟く。

 

「やっぱり、ピラの床はちょっとひんやりするね…」

 

そんな彼女の台詞に、笑いをこらえることができず思わず吹き出してしまった。

 

「あははははははは!」

 

「あー、笑ったな~!だって水場も近いし、太陽の光だって入らないし、ひんやりしてるのー!」

 

「あははは…ごめんごめん、でも、ボクはひんやりしてる方が好きだけどなー。寝心地がいいし。」

 

「私もちーちゃんの傍はとっても寝心地がいいよ…」

 

その言葉に思わず息を呑む。

同時に照れくさくなってしまい、

何も言わずに黙っているとアユはもう少しだけ力を振り絞って、寄り添ってきた。

 

こうしてしばらくの間、ピラミッドの床の上で寄り添いながらただ空を見上げて時間を過ごした。

あのときは感じた床の冷たさはとは違い、今はとても心地が良かった。

 

***

 

しばらくの間、二人で寄り添って寝ているところに一人のアコライトが通りかかった。

 

淡々とモンスターを殴打しながらこちらに近付くと、祈るような仕草をとり、一言。

 

「南無。」

 

今日もにゃんこ先生はピラミッドを"素手"で徘徊していたのだった。

 

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