あの日以降、メイン狩り場をお世話になったゲフェンダンジョンからピラミッドに移した。
あれだけ嫌がっていたピラミッドでの狩りにすっかりはまってしまい、
今では毎日のようにアユと一緒に足しげく通っていた。
"ピラ4"で最も激しい沸きを見せる水場のエリアを陣取り、互いに背中を合わせ、
四方八方から襲い掛かってくるモンスターの群れを見事なコンビネーションで蹴散らしていた。
『"ピラ4"にヘンテコなペアがいる。』
そんな噂も立ちはじめ、ようやく"ピラ4"の住人からも認知されるようになると、
その勢いに乗るようにしてレベルもどんどん上がっていった。
『レベルが上がり、強くなった。』
しかし、待っていたのはそんな達成感や充足感ではなく、
ポッカリと空いた──満たされない虚無であった。
***
「それじゃあ、お休みなさいー。」
「うん、おやすみ。」
アユがログアウトした後、足先はゲフェンへ向いていた。
目的はただ一つ──強くなった自分を確かめるためである。
元来、自分はソロ思考のプレイヤーである。
MMOなのにソロ好きというのも矛盾しているが、この世界の大半のプレイヤーはソロである。
コミュニケーションが面倒だというプレイヤーも多いかもしれないが、
ほとんどはソロの方が経験値が稼げるからという理由からだろう。
自分はというと、やはりシーフというのは孤高の一匹狼を気取っている方がカッコイイ!という、
ひどくどうしょうもない理由ではある。
ペアでの狩りも悪くはないのだが、やっぱりソロでどれだけ戦えるか、
それを確かめないと"強くなった"とは言えない気がしていた。
***
ゲフェンの広場に着くといつものように多くのプレイヤー達が集まっていた。
その顔ぶれには、ここの住人以外にも有名ボス狩りプレイヤー達が集結しており、
いつもの"アレ"の時間であるということを匂わせていた。
そんなボス厨、廃人達の中においてはまだまだ下っ端の自分は
広場の端っこで縮こまるよう座り、様子を伺っていると。
「こんばんわんー、なんか久しぶりだねん~」
「ごきげんよう。」
狩りから帰還してきたナナさんとパプチーさんが広場に現れた。
こちらも挨拶を返すと、いつものように挟み込むようにして腰を下ろし、二人とも無意味に急接近をしてきた。
いい加減、このお姉様方の積極的過ぎるアプローチにも耐性がつくようになったのだろうか、
不思議と平常心でいられた。
「お聞きしましたわよ。ちるちるさんは最近はピラで暴れてるご様子で。」
「へー。ちるちるさんもついにピラで狩りできるようになったんだんー。」
「あ、はい。でも、ソロでは厳しいですね。ピラに行くときはいつもペアです。」
「へぇん、あの"相方"さんと一緒にいってるんだねんー。」
ナナさんがニヤニヤしながら頷いているところ見て、ようやく余計無いことを言ってしまったことに気づく。
余計な抵抗や言い訳は無意味と判断し、必死に感情を抑え、薄ら笑いで返すと、
その様子をゴシップクイーンことパプチーさんは見逃してはくれず。
すかさず「それで…その噂の彼女さんとの仲はいかがなのかしら?」という追求が始まると、
その話題に迎合するようにナナさんも興味深々になる。
「ええっと…それは…」
後ずさりしながら、笑顔を見せて応戦するも、
二人はぐいっと顔を近づけ、距離を離さない様にして問い詰める。
相変わらずこの二人には叶わない。もはやお手上げの状態と思ったそのとき。
突然、周囲の動きが慌しくなり始めた。
「うわー、アイツに時間教えたの誰?」
「まじか…今日は無理そうだな…」
「ちょっとちょっと、"彼"がいるなんて聞いてないよ。」
「やべぇな…とりあえず
先ほどまで余裕そうに雑談に勤しんでたボス厨達が一斉にひそひそと仲間と耳打ちしながら、
あるプレイヤーに視線を向けていた。
その視線の交差する先にいたのは赤い逆毛の髪をした男シーフだった。
そのシーフはゆったりとした姿勢のまま腰に手をやると、
不敵な笑みを浮かべゲフェンに闇が広がる空を遠く眺めていた。
そのいでたちは廃人特有のオーラを遥かに凌駕した異質なもので、
彼の身体中を這い回るどす黒い何かに思わず眼を何度もこすった。
その男の名は──anim(アニム)
シーフ界、"最強"のプレイヤー…いや、ことボス狩りにおいては驚異的なMVP取得率を誇る
最強の"ボス厨"がここゲフェンに現れたのだった。