ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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最強シーフ

広場へ向かう道中、先を行くアニムの背中から

強者のみが発することができるオーラみたいなものが(うごめ)いているように見えた。

 

"最強"と評されたプレイヤー。

自分が目指していた"強さ"の形を純粋に力として極めた

まさに究極とも言えるその存在に畏怖と敬意を感じていた。

 

とは言うものの、言動だけみれば女癖が悪くて、ただのチャラそうなシーフにしか見えない気もするが、

人のことをとやかく言えた義理ではないため、これ以上はやめておこう。

 

そうこうしているうちに目的地に到着した。

ここは入口の広場から東へ少し歩いたところにあり、見晴らしのよい拓けた場所で、

人気(ひとけ)はなく、他のプレイヤーに迷惑をかけることもなさそうである。

 

「んじゃま、ちょっくら(ナイトメア)を連れてくるわ。」

 

そう言って、アニムは東広場の南にある通路へ向かって軽快に走り出した。

これだけ広い場所なのだから待っていればいずれナイトメアも沸きそうではあるが、

せっかちな性格なのだろうか、一人置いてきぼりを食らったまま、アニムの帰還を待つことにした。

 

──数分後。

 

「遅いな…何かあったのかな…?」

 

都合のよいことに東広場には大したモンスターも沸くことなく、誰もいない広場で一人、暇を潰していた。

 

すると、先ほどまで物音一つせずに静まり返っていた広場に

突如、幾重にも重なった地鳴りのような音が響き始める。

 

「な、なんだこの音は…」

 

音のする方向を見ると、どうやら先ほどアニムが出て行った通路の先から聞こえているようで、

その音は徐々にこちらに向かって近付いてきた。

 

嫌な予感をしながら、もやで霞んだ通路の入り口に目を凝らすと、

なんと、大量の(ナイトメア)をトレインしてきたアニムが戻ってきた。

 

「いやー、悪い、悪い。ちょっと連れて来すぎたわー」

 

申しわけそうな顔をしながら、こちらに近付いてくるアニムに対して

恐怖におののきながら、後ずさりをして距離を取ろうとする。

 

「ちょっ…ちょっとちょっと!さすがにこの数はやり過ぎですって!早くどこかへ捨ててきて下さいよ!」

 

これだけの数のモンスター…しかも大量のナイトメアをトレインしてくるなんてどうかしている。

どれだけアニムが強くても所詮はシーフ。これだけのモンスターに一度に囲まれてしまえば、

あっというまに袋叩きにされてしまうだろう。

 

しかし、アニムはサークルトレインを駆使し、

次から次へと迫りくる死神の鎌をすんでのところで避け続けていた。

 

「これぐらい余裕だよ。ほれ。」

 

とアニムは首をくいっとナイトメアに向けて振る。

その仕草の意味を理解できずに「へ…?」とポカンと口を開いたままになっていると。

 

「だーっ!一匹はお前用なんだからさっさとタゲ取ってくれよ。」

 

「あっ…は、はい!。」

 

言われるがままにアニムを追い掛け回している大量のモンスター(ナイトメア)の中から

いかにも気性の荒そうな一匹に狙いを定め、素早く短剣を振りぬく。

 

蚊ほども効かないであろうその貧弱な斬撃を受け、

猛り狂った目つきのナイトメアはギロリとこちらに敵意を向ける。

 

「ヒィィィィィィン!」

 

一歩二歩と蹄をその場で打ち鳴らすと、勢いよくこちらに向かってきた。

どうやら無事にタゲを奪うことに成功し、

ひとまずは言われたことを成し遂げ、ほっと胸をなで下ろす。

 

すると、こちらがタゲを取ったことを確認したアニムがふーっと息を吐きながら、

 

「んじゃま、こっちも"処理"しますか。」

 

と、一言。

 

さすがに数が多いのでどこかへ捨てに行くのかと思いきや、

アニムはサークルトレインをやめ、ピタっとその場に止まると──なんと"攻撃態勢"をとった。

 

「えっ…!?」

 

次の瞬間、ようやく獲物に追いついたナイトメアの"群れ"が一斉に逆毛のシーフに襲い掛かる。

死神の鎌による攻撃なのかそれとも銀色の蹄による踏みつけ攻撃なのか分らないぐらい、

錯綜したダメージの塊が容赦なく降り注ぐ。

 

構えていたアニムの姿が見えないぐらい取り囲まれてしまい、同時に大量の血柱が噴出しはじめる。

いくらレベル99とはいえ、所詮はシーフ。多勢に無勢であり、避けれなければタダの紙切れである。

 

「あーあ…こりゃ無理だ…」

 

どうみても一方的すぎるこの状況に既に諦めムードで傍観していた。

 

当然アニムが死んだらモンスター達の怒りの矛先はこっちに向かうのだから気が気じゃない。

こちらも"ハエの羽"を取り出し、いつでも逃げれる準備をする──が…倒れる様子がない。

 

それどころから、スクラムを組むようにして取り囲んでいたナイメアの群れ一角が

衝撃と共に吹き飛ばされると、断末魔を上げながら散っていった。

 

「へ…?」

 

呆気に取られている間に、二匹のナイトメアも吹き飛ばされ、強固な檻に綻びが見え始める。

すると、その隙間から僅かに見えた短剣の切っ先が今度はもう一匹のナイトメアの身体を貫通した。

 

「ヒィイイイイイイイイイン!」

 

貫かれた衝撃で前足を跳ね上げ、宙に舞うナイトメアはいとも簡単に絶命の悲鳴をあげた。

 

三匹目の悪夢(ナイトメア)を一瞬に屠ると、取り囲まれていたはずのアニムの姿が(あら)わになる。

 

真っ赤な怒髪天(さかげ)

 

口元から漏れる白い息。

 

右手には命を狩り取る黒い短剣。

 

まさに狂人そのものの風貌をした姿に圧倒されながら、

ここに来るときに感じていた畏怖の意味をようやく理解することが出来た。

 

これこそが"最強"といわれる所以であり、

もしかしたら自分が辿っていたかもしれない、求めていた"強さ"の答えなのだろう。

 

ただ、"逆毛"だけはまっぴらごめんであるが。

 

 

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