ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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リアルの恋人

"ハエの羽"が実装されて以来、迷宮の森で迷うことはなくなった。

一層の格子状の迷路をランダムテレポで飛び越えると

あっというまに二層に辿りついた。

 

橋を渡った北エリアの三層入り口の溜まり場に到着するやいなや、

こちらの存在に気づいた銀髪のシーフはすっくと立ち上がり、声を掛けてきた。

 

「やあ、早かったね。」

 

「あっ…はいっ!」

 

さっきまでWISで話してたこともあり、

おおよそ一ヶ月ぶりの再会ではあるものの感動的…とはいかなかった。

 

…とはいえ相変わらずの廃プレイヤーが持つ独特の雰囲気は健在である。

そんなユーシさんに立ち姿に圧倒され、つい緊張してしまうのはまだまだ自分が小物だからなのであろう。

 

「さて、それじゃあ行こうかー。道順はわかる?」

 

「いえ、森はあまり来ないのでさっぱりです。」

 

「じゃあ、ついておいでー。」

 

そういうと、すぐさま三層の入り口に飛び込んだ。

前来たときは三層に進入した先の区画がいきなりモンスターハウスだったこともあったが、

今回は入り口の雰囲気からして、その心配はないと考えていた。

案の定、WPを抜けた最初の区画はモンスターの「モ」の字もなく、すっからかんだった。

 

「じゃあ、どんどんいくよー。」

 

どこにいくのかさっぱりわからないが

道案内役のユーシさんの後を必死についていき、次々にワープポイントを抜けていった。

道中、シャアや黒蛇に絡まれるもスルーし、後を追いかけることに専念した。

 

何度目かのWP移動を繰り返すと通路のような区画に辿りついた。

そこには先行していたユーシさんとその隣には見知らぬ女アコライトが待っていた。

 

青髪ロングの髪型のそのアコライトはまるで恋人同士のようにユーシさんに寄り添っているようだった。

 

女アコライトは目が合うとそのままペコリとお辞儀をしてきたので釣られて挨拶をした。

 

「あー…えーと、紹介するよ…っておい」

 

隣にいたユーシさんを制し、そのアコライトはずいっと目の前にやってくると下から覗き込むように物色をし始めた。

 

「ふむふむ…君がちるちる君かー。」

 

回りをぐるぐる回りながら四方八方、上から下までを舐め回すような視線で見つめてくる彼女に対して

自分はいつの間にかホールドアップしながらなすがままの状態になっていた。

元ナンパシーフのくせに攻められると弱く、こういった行動に対する免疫が全くないため、あわあわと焦りだす。

 

「え、…えっと…そのぉ……」

 

彼女は困っている顔を嬉しそうな表情で見つめ、くすっと笑いながら一言。

 

「ふふふ、"ここでは"初めましてだね。ユーシの相方のショコラっていいます、よろしくぅ」

 

「へっ…?あ、相方さん…?」

 

恐らく初対面にも関わらず積極的なアプローチによって身動きがとれないうえに、

ユーシさんの"相方"という言葉に目と口が全開のまま丸くなっていた。

 

「えー…ごほん…まあ、そういうわけでコイツは一応、オレの相方なんだ。どうやら君に興味深々らしくて、付いてくるって訊かなくてね…すまないが、同席させてもらうよ」

 

「えー…ユーシ、言い方ひどくないー?もうちょっとちゃんと紹介してよー」

 

「いやいや、ちるちる君だって困ってるだろう? 初対面なんだからもう少し抑えてくれないと…」

 

「えー…別に初対面じゃないのにー…」

 

硬派なイメージを勝手に植えつけていたため、聞き分けのないだだっこを優しく諌めるユーシさんの姿は何やら新鮮である。

それにしても彼女の言動は少し気になっていた。

自分は一度あった女キャラの名前は忘れないと自負している。

 

それこそが元ナンパシーフとしての誇りと感じているからでもある──というわけではなく。

 

こんなに積極的アプローチを仕掛けてくるプレイヤーで、

かつ女キャラであれば一度会ったりしているのなら、印象に残るに決まっている。

にも関わらず、思い出せないうえに名前すら見たことがないのは何故だろうか?

もしかしてこれは誰かのセカンドキャラなのだろうか。

そんな疑問を解決するため、挨拶の返しついでに正体を聞いてみることにした。

 

「えーと…ご丁寧にどうもありがとうございます。師匠の相方さんということでお初におめにかかります。

ボクは師匠の一番弟子のちるちるというしがないシーフです。しかし、こんな素敵なアコライトさんに興味を持って頂き、大変光栄なのですが、恐縮ですがどこでお会いしたか全く記憶にないもので…」

 

すると、彼女は物凄く喜んだ表情を浮かべハイテンションでユーシさんの背中をバンバンと叩きはじめた。

 

「やーだーユーシー!素敵なアコライトさんだってー!きゃー!きゃー!」

 

ユーシさんの顔が苦痛にゆがんだ表情になっていくのを見て、

心苦しさに困惑しつつも、彼女の正体に分からず困惑していた。

 

「えーっと…そのですね…」

 

「うんうん。そうだよね。ちるちるくんと会うのは初めてだよ。さっき言ったでしょ?ここでははじめましてって。」

 

「………えっ?」

 

彼女の言動の意味がまるでわからず、?マークが頭の上にぴろっと出た状態になっていると

ユーシさんはやれやれといった表情を浮かべた。

 

「…ったく、ショコラは言葉が足りないなぁ…」

頭をポリポリと書きながら何故か照れくさそうにしたまま、中々説明を始めない。

 

「えーと、最初から説明すると…うーんと…まぁ…その…なんだ…」

 

「…師匠?」

 

見るに見かねてショコラさんがすかさず切り込んでくる。

 

「はいはい。じゃあワタシが説明しますー!んと、わたしはユーシのこの世界でも相方でもあるけどー。

…実はリアルも恋人同士なんです!ちなみに一緒に住んでますよー!」

 

「ええええっ!?そ、そうなんですか!?」

 

「いちおう…このゲームがきっかけで知り合うようになったんだけどね…ねっ?ユージ?」

 

「…お、おう…というかリアルネームをばらすな!」

 

突然の彼女の告白には驚いたものの、

考えてみればユーシさんは強くて頼りになるし、何よりも大人で面倒見も良い。

男の自分ですら惚れてしまうぐらいなんだし、彼女の一人や二人いても当然のことだろう。

そんな焦っているユーシさん見て、うんうんと頷きながら感心していた。

 

「なるほど…師匠は攻撃スピードだけではなく女性に手を出すスピードも速かったのですね…」

 

「あはは、それは間違いないね!ユージの私を口説くスピードは半端なかったよ!」

 

「おいおい、そこまでじゃないぞ…あれは…ショウコが…」

 

…たきつけておいてなんなのだが、目の前でなれ初めを語りだす二人に惚気を感じたのか、嫌気が差したのか、

それとも空気を読んだのか、自分は中の人については追求しないことをポリシーとしているため、

これの以上の言及は避けることにした。

 

「えーと…仲のよろしいところにお邪魔して申し訳ありませんが、、これ以上はボクの師匠へのイメージが崩れてしまう恐れがありますから、お二人のなれ初めにつきましてはこの辺にしておきませんか…?」

 

「えー、残念。まあ時間もないしこのぐらいにしておこうかなっ!」

 

「やれやれ…」

 

***

 

その後、ショコラさんは自分がユーシさんに初めて会ったとき、

実は二人の会話を後ろから覗いてたことを話してくれた。

 

傍から見ればただのミーハー根性丸出しだったその会話をどう歪曲してくれたのかわからないが、

「とってもピュアな気持ちでプレイしていて、カワイイ!」と感激してしまったご様子のようで、

これには素直に喜んでいいのか分からなかったが、興味を持ってくれたのであれば、

結果オーライとポジティブに捉えることにした。

 

「…ということで前置きはこれにて終了っ!…じゃあ、早速、ユーシ越え。見せてほしいなー。」

 

すっかり、彼女のペースになってしまってやれやれと苦笑いを浮かべてたユーシさんも

 

「すまないが、頼むよ。ケイオスサーバー最速のシーフのスピード見せてくれないか?」

 

ときりっと表情を引き締め、真剣な眼差しを向けてきた。

その鋭い視線を受け、傲然と一歩を踏み出すと自然と語彙を高まった。

 

「…わかりました!」

 

いよいよ、集大成を見せるときが来た。

成長した自分、そしてここまで期待してくれた想いに応えるべく、手にした短剣(グラディウス)をぎゅっと握りなおした。

 

「じゃあ、こここはモンスターいないから隣いこっか。先行よろしくっ!」

 

彼女の言うとおり、既にこの区画は掃除済みあるため"試し斬り"をするモンスターがいない。

モンスターを求め三人は西のワープポイントから隣の区画へと向かった。

 

 

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