ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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偶然の信頼

「ごきげんよう、ちるちるさん。昨日はよく眠れたかしら?」

 

あの後、気晴らしに狩りに出掛けてみたものの、

どうにも気分が乗らず、結局、"廃人広場"に顔を出した後そのままログアウトしてしまった。

 

そしていつもより早くログインすると、目の前には昨日、悩みを打ち明けた相手がいた。

 

昨日とは違う姿のパプチーさんはいつもと同じ調子で挨拶をしてきたが、

意味ありげな言葉にすぐ隣にいたナナさんは不思議そうな顔をして問いただす。

 

しかし、パプチーさんは「さあ、何のことでしょう?」といった具合に

何事もなかったように誤魔化し始めたので

こちらも彼女に合わせていつもと変わらない態度で挨拶を返す。

 

瞬間、パプチーさんと目が合うと、昨日と同じような目配せを送ってきたが、

苦笑いで応えるのが背一杯だった。

 

程なくして、広場が活気づく。

ゴールデンタイムにもなると狩りをするソロやらパーティーやらでここには多くのプレイヤーが集まる。

加えて、ちらほらとボス厨達の姿も見えることからどうやらボス時間も近いようだ。

虎視眈々とDOP(ドッペルゲンガー)狙おうとしている様子が窺える。

 

それにしてもこの場所は一応、ダンジョン内ではあるが、

これほどまでプレイヤー達で溢れかえっていては

モンスター達もおいそれと沸いて出るわけには行かないだろう。

 

周りが喧騒に包まれる中、視線はずっとパーティーウィンドウを眺めていた。

 

パーティーウィンドウにはたった二人のメンバーしかいない。

もう一人は自分でもう一人はリーダーであるアユである。

そして、ログイン中を意味するオンライン表示は自分一人だけである。

 

昨日もログインするのが遅かったし、

きっと、深夜近くにならないとログインしないのかもしれない。

そんないつもと変わらない調子のまま、もう一人のメンバーを待ち続けた。

 

***

 

本日二回目のDOP(ドッペルゲンガー)タイムが訪れた。

時間は深夜を近くになり、いつしかこの"廃人"広場は夜も眠る事のない

"廃人達"の憩いの場となっていた。

 

途中、何度か知り合いに声を掛けられたが、

自分でも何を話したのか覚えてないぐらい頭に残らないいい加減な会話をしていた。

 

「はぁ…」

 

がっくりと肩を落とす。

アユと同じパーティーになって以来、二人とも一日も欠かすことなくログインを続け、

そしてこの世界での"出会い"を繰り返した。そしてその記録もまもなく途絶えようとしていた。

 

もちろん来れない日があってしかるべきなのでその点は仕方ないにしても

昨日の今日でこんな事態になるなんて想像もしていなかったわけで。

 

いずれにしても怒ってログアウトしたのだから、ある程度の覚悟はしなければならない。

そして、今自分に出来ることは不安や心配事を抱えながらも、ただひたすら待つことだけである。

 

ログインしてすぐにパーティーウィンドウを見るのはもはや習慣化されているし、

ソロ狩りの最中もチラチラと気にすることもあるが、

今日ほどじっとパーティーウィンドウを眺め続け、"想い人"の到来を待ち望んだことはなかった。

 

一緒にいることが当たり前になっていて、どこか風化してしまった新鮮な気持ちが

今、こうして待ちわびている間に今少しずつ蘇っているのが良く分かる。

もどかしい気持ちに身悶えながらも、焦りと緊張を少しずつ増していく。

 

「早く…早く来てくれ…アユ──。」

 

結局、深夜を過ぎ、さらに夜明けまで待ったが、

アユがログインすることはなく、初めての喧嘩は二日目に突入した。

 

***

 

アユがログインしなくなってから三日目を迎えた。

 

いよいよ待つことを諦め、右往左往しながらも彼女の居場所を探し始ることにした。

この世界はまだそんなに広くはないし、普段自分がいかない場所であればあるいは──

そんな淡い期待を抱きながらも、行く当てなんてまるでないことは分かっていた。

 

それでも片っ端から街という街を渡り歩いた。

 

幸い、まだパーティーウィンドウから"ayusaki"の文字は消えていない。

自分がログアウトしている間にもし、パーティーを抜けていたら──という不安が過ぎったりもしたが、

このパーティーが存在する限りは足掻いてみようと心に決めていたのだった。

 

誰かに相談することも出来ない孤独な捜索活動は連日続き、

手がかりすら見つからない状況になってようやく、我に返ることが出来た。

 

"そもそも自分は一体誰を探しているのだろうと"

 

パーティーウィンドウが示すとおり、アユはずっとオフラインのままであり、

いくら探してもこの世界に存在するはずがない。

神のシステムを掻い潜って、密かに侵入することは不可能である。

 

なのに何故、彼女がこの世界にいると思い込んでしまったのだろうか──

 

一瞬過ぎった馬鹿な考えを悔い改め、

大人しく彼女が最後にログアウトした場所で待つことを決めたのだった。

 

***

 

ゲフェンの街で一人、周囲には誰もいないベンチに腰掛け、ただひたすらに待つ。

 

あれから再び時は流れ、七日目の夜になっていた。

 

"もう会えないのかもしれない"

 

長い長い間が空き、こちらが出来ることはもはや何も無くなった。

 

思えば、アユはずっと一人だった。

出会ったときも一人だったし、知り合ってからも行動するのは常に自分だけである。

交友関係についてもあまり深く詮索するのもどうかと思い、こちらから聞いたこともなかった。

 

彼女が今何をして、何を考えて、どこにいるのだろうか。

 

普段の彼女なら突然現れ、何も言わずに傍にやってくる。

 

そう、アユとの会うときはいつだって"偶然"であり、

初めて会ったときも偶然による偶然が重なった結果であり、

もしサーバーガ落ちていなければ今頃出会っていなかったのかもしれない。

 

すると、再び滑稽な考えが思い浮かぶ。

 

アユとの出会いはいつだって"偶然"だ。

ならば、アユと出会うには"偶然を装う"必要がある。

 

今の自分はアユを意識しすぎている。

ならば、この想いを無意識の方向へ持って行けば…あるいは。

 

そんな愚かな考えの元、導き出した答え──それは。

 

"眠りにつくこと"である。

連日連夜夜遅くまでログインし続けたせいで実は少し眠い。

眠りについている間なら彼女を意識しなくて済むだろう──それならば。

 

「おやすみなさい。」

 

誰に言ったわけでもなく声を漏らし、ベンチに横たわり眠りについた。

 

起きたときに彼女が"偶然"ログインしていることを信じて。

 

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