あれから三ヶ月──
自分の選んだ道とはいえ、数日間は抜け殻のような状態が続いた。
相方のようにいつも一緒にいたはずのアユが途端と行方を眩ましたことや、
パーティーを解散していることに気づいた仲間達に質問攻めに会うものの、
事情は一切説明せず、うやむやにしていた。
特にエスやミズキさん、そしてナナさんやパプチーさんは
無茶苦茶心配してくれたこともあって、申しわけない気持ちではあったが、
頑なに語ろうとしない自分の強い意思を尊重し、最後には納得してくれた。
こんなにも素晴らしい仲間に恵まれておきながら、自分の取る行動はいつも間逆である。
罪悪感を抱えることが心地よいわけではないのだが、
この決断を下したことにまるで後悔はない。
だからこそ目を背けてはならないし、
今、自分の出来ることを黙々とやり続けなければならない。
それなのに──
振りぬいた短剣の斬撃音も
射抜いた弓の残心も
どこかぎこちなく、寂しさと虚しさが宙を漂っていた。
***
さらに月日は流れ──β1のサービスは終わりを告げた。
そして体験版第二弾という名のβ2サービスが発表され、
二次職という新しい上位の職業が実装されると共に様々なバランス調整が行われることが発表された。
バランス調整の中にはβ2の移行の際に、
レベルダウンとアイテムや所持金リセットが行われることも含まれており、
多くのプレイヤーは不安を感じたものの、内容から言ってしまえば比較的軽い措置であった。
レベルは新しい経験値テーブルが適用されることで三分の二のダウンし、
ステータススキルそして所持金はそしてアイテムは全てリセット。
しかし、装備品に関してはキャラクター自身が装備していればそのままβ2でも引き継げるため、
β1で手に入れたアイテムを再び使用できることに多くのプレイヤーは喜びの声を上げた。
こうしてβ2という新しいサービスが開始し、
この世界はさらに新しい広がりを見せた──にも関わらず。
自分は再びこの世界で生きる目的を見失っていた。
シーフの二次職であるアサシンには一応転職はしたものの、
ステータスがリセットされ、新たにステータスを振り直せるという仕様のため、
多くのプレイヤーがブームとなっているAGI型にスイッチをしはじめ、
神速型もありふれたものになっていた。
そのため、自分の新しいアイデンティティを探すために何をトチ狂ったのかわからないが、
LUKに全てのステータスポイントをつぎ込んでしまったのだ。
一応、言い訳をしておくとLUKはアサシンにとっては重要なステータスである。
アサシン専用武器であるカタールは装備するだけでクリティカルが二倍になる仕様ということもあり、
いわゆるクリティカル型という新しい型の先駆者になろうと試みた。
がしかし、以前のAGIの極振りとは違い、
攻撃と防御のステータスを両方捨ててしまい、まるで戦うことが出来ず、
狩りへいっても数分で回復財が底を尽きてしまう始末で全く経験値を稼ぐことが出来ずにいた。
結果としてこのLUK極振りのステータスは完全に失敗であったのだ。
考えてみればそうだ。所詮は再振りで作られたキャラクターには今まで辿ってきた道のりがない。
コツコツと地道に積み上げていくことに意味があり、
その苦労をすべて飛び越えてしまった極振りのステータスには愛着も沸かないし、
どうやって育ていくかというプランもないからだ。
結局のところ、師匠のありがたい教えをまるで生かすことができず先走った結果、
産廃と呼べるLUK極振りアサシンを生み出してしまった。
そのことに気づいたとき、モチベーションはあっという間に急降下し、
β1の期間、長い時間をかけてこだわりってきたはずのキャラクターをあっさりと見限ってしまっていた。
そして何をしたいわけでもなく、セカンドキャラである商人を適当に上位職のブラックスミスに転職させ、
日々惰性で狩りを続けていた。
そんなおり、ふらっと立ち寄ったモロクの精錬所で、リプレさんと偶然の再会を果たした。
話を聞くと彼女はβ2が始まってすぐにアーチャーの上位職であるハンターに転職し、
わずか数日でレベル99から三分の二になったはずのレベルを90に戻すという
驚異のレベリングをしていた。
そんな彼女は狩りの効率をもっと上げるためのサポートを求めていた。
具体的には商人の上位職であるブラックスミスが使用する戦闘スキル
「アドレナリンラッシュ」によるサポートである。
このスキルは一定時間攻撃スピードを増加するというスキルで
パーティーにもその効果を与えることが出来る。
有効範囲は可視範囲内であるため、常時この効果を継続させるには
そのプレイヤーのすぐ近くにいなければならないのだが、
彼女はその常時狩りに付き合ってくれるプレイヤーを求めていたようだった。
しかし、あの"リプレ"の狩りについていけるプレイヤーなんているわけがない。
しかも彼女が求めているのは非公平によるサポートであり、
その役目をするプレイヤーに一切のうまみはない。
奴隷のような扱いを強いられなければならないポジションを誰が好んで手を上げるだろうか。
がしかし、そんな彼女に付き合えるだけの度量を持つプレイヤーを
残念なことに一人だけ知っている。
言わずもがな、それは自分である。
だからこそ彼女がこんな話を持ちかけてきたわけで。
どこにも属さない、誰とも交わらない、誰とも口をきかず、ただ黙々と狩りをする
周りからそんな風には疎まれているのだろう。
しかし、こうして誰にも助けを求めない彼女が唯一自分にだけ、お願いしてくることに、
何か特別な思いを感じ、彼女の手伝いをしたいと思うようになった。
何より、彼女は元パーティーメンバーであり、
一時は同じ時間を過ごした仲間であることは間違いないわけで。
断る理由をあらかた片付けたうえで、彼女のお願いを引き受けることに決めた。
決意の返事にリプレさんはと特に感謝する様子もなく、
「んー。じゃあお願い。」
と当然のように振舞っていた。
これがいつもの彼女の態度であり、なんとなく懐かしい感じもした。
こうして偶然の再会から奇妙な契約を経て、
リプレさんと再びこの新しい世界を共に行動することになった。