深夜──
広大な闇と共に地下に眠る太古の遺跡で弓を射る音と鷹の鳴声がこだまする。
β1では地下二階までしかなかったゲフェンダンジョンも新たに地下三階が実装された。
経験値効率や金銭効率の高いこの場所は高レベルプレイヤーの主戦場であり、
当然ながらリプレさんいきつけの狩場となっていた。
そんな高難関度の階層にレベル60程度のブラックスミスが
物資を大量に詰め込んだクソ重いカートを引っ張りながら必死に逃げ回っている。
アクティブモンスターだらけのこのマップで
戦う手段のない
ハンターのスキルである"アンクルズスネア"は本当に優秀で、
"トラップ"というアイテムを消費することでモンスターの足元に素早く罠を設置し、
敵の動きを数秒間、止めることができる。
距離さえ離れてしまえば、後は弓の餌食のため、どんなに強力なモンスターであっても
ノーダメージで倒すことができるという凶悪なスキルである。
さらにもう一つ、ハンター強力なスキルがある。
それがハンターのお供であるファルコンによる
このスキルは通常攻撃時にキャラクターのLUKに依存してSPを消費せずに自動的に発動する。
さらに範囲攻撃におまけ付きということもあり、隙のない完璧な強さを誇っていた。
このハンターの持つ二大最強のスキルを駆使し、ばったばったとモンスターを倒し続け、
物資が切れるまでの間、何時間、何十時間とダンジョン内を駆け回っていた。
それにしてもβ2になってからのレベル上げは自分が想像していた以上に過酷であった。
β1から経験値テーブルが変更されたものの、各レベルの必要経験値は明らかにされていなかった。
しかし、リプレさんがレベル95を越える頃、必要経験値の実態が明らかになり、
レベル1からレベル95、そしてレベル95から最大レベルであるレベル99までに必要な経験値は
"イコール"であることが判明した。
つまり、レベル95は単なる折り返し地点で、そこから先──レベル99までは
これまで稼いできた経験値をもう一度稼がないといけない。
必要経験値は指数関数的に跳ね上がり、普通のプレイヤーなら絶望しているところだが、
リプレさんは全く動じることもなく──
「まあ、こんなもんでしょ。」
と言い放す始末。
前から彼女の集中力や継続性には驚かされるものがあったが、
この言葉を聞いて、凄さを超越した何か狂気じみたものを感じていた。
そんなレベル上げに付き合っている自分もある意味イカレてる気がするが、
そこは気づかないフリをしておこう。
***
折り返しを過ぎた後も過酷なレベル上げの日々が続いた。
毎日のようにダンジョンに篭っているとこの世界の動向に疎くなってしまっていたのだが、
β2が開始されて約三ヶ月が経過した。
この間、この世界には様々な出来事──というよりも事件があり、
その最初の事件が"海外プレイヤーの排除"であった。
正式サービスへの布石なのだろうか、海外からのサーバーアクセスをブロックし、
海外プレイヤーがこの世界にログインできない措置が取られた。
これによりあの悪名高いマジシャンのアリプやシーフの始祖とも言われるGix(ジックス)といった
有名プレイヤー達もこの世界で生きることができなくなってしまったのだ。
そう考えると少し感慨深いものを感じるが、
神の意向には逆らえないという現実に海外プレイヤーも従うしかなかった。
もう一つは"精錬チート"と呼ばれる事件で
β2から新たに実装された"精錬システム"を悪用した
この世界のバランスを揺るがす大事件であった。
精錬システムは武器と防具に"精錬値"という数値を加えることで、
武器ならば
武器や防具の性能を向上させるものである。
やり方は簡単で、各街にある精錬所のNPCに特定の
精錬に成功することで数値がアップする。
ただし、精錬には特定の数値を超えると失敗する可能性があり、
特に防具に使用するエルニウムという精錬アイテムは非常に高価であるため
なかなか手に入りづらく、リスクの大きい高精錬に挑むプレイヤーはそう多くはなかった。
しかし、この精錬チートは、その高価なエルニウムを消費することなく、精錬できるといったもので、
これを利用して不正に精錬値をあげたアイテムを安値で露店販売したり
それを装備することで飛躍的に防御力を高めたりするプレイヤーが出現した。
特に全身+10の防具で固めることにより、被ダメージを100%カットすることが可能になり、各地でモンスターの溜め込みやトレインが横行、そしてMPKが多発し、狩場が大荒れの状態になっていた。
他にも様々なアイテム
サーバーがオープンしてから大量の不具合や問題が取り沙汰され、
健全にプレイしているプレイヤーのモチベーションを多いに低下させた。
そのせいもあってかどうかは分からないが、β1は約十ヶ月のサービス期間があったにも関わらず、
β2はサービス開始からたったの三ヶ月でサービス終了し、すぐに正式サービスが決定したのだった。