ほの暗い空間。紫色の淡い光を発する地面。
寒さは感じないが、視界に入るその色達はかすかに冷たさを連想させる。
凍りかけたその身を時計の針をぐるぐる回すように動かすと
ようやく、自分の身体の感覚を取り戻すことが出来るようになった。
そして停止した思考が再起動すると、
まず最初に思いついた言葉は「どうして?」「なぜ?」という疑問詞からであった。
目の前にいる人影はこの暗闇の床の上で倒れているようだった。
そして全ての色を奪いとる闇に抗うように主張する
金色に光る髪と際立つ白兎の頭装備を目に入り、
何の根拠もなく、この人影が自分の知っているプレイヤーであると分かった。
いつからここにいたのだろう?
そして何故ここにいるのだろう?
聞きたいことは山ほどあるのに、想いが言葉にならない。
本当に楽しかったあの日々がこんな最後の日に戻ってくるなんて、
誰かのいたずらだ?運命か?神か?偶然か?
そんなことは分からないが、もしそうであるならば──あの続きがしたい。
すると、自然と最初に問いかける言葉を思いついた。
意を決して歩みを進める。名前を確認する必要はない。
そして倒れている人影の傍に行き、そっと腰を下した。
「……こんなところで寝るなんて風邪引くよ──はーちゃん。」
「あはは…久しぶりにマジシャンを動かしたら、この有様だよー。
…それにしてもちーちゃんは見た目が大分変わっちゃったんだね。」
「まあ、一応、転職したけど、やっぱりシーフの方が可愛らしくて好きかなー。」
「まあ、ちょっとワルぶってる感じ…? になっちゃたかな。
でも、話し方はいつものちーちゃんのまんま、変わってなくて嬉しいよ。」
「…そう? まあでも、そのウサミミ──大事にしてくれてるんだね。」
「そうだよっ!ちーちゃんにもらってからずっと身に着けてるの。
もうこの耳は私から生えてるから取れないよ!」
「あはは…そっかぁ、大事にしてもらえて、嬉しいよ。」
「だから、これは私が持っていくの。いいよね…?」
「うん…もちろん。」
「よかった…。嬉しい…ありがとう。」
「……………」
「ねぇ…。」
「ん…?」
「聞かないの…?」
「ん……大分前にリーダーに会ってね。一応、教えてもらったよ。」
「そっか…。」
「うん…。」
「…じゃあ、私の質問は終わり。次、ちーちゃんの番だよ。」
「んー困ったな…、じゃあ、一応聞いとく。なんでこんなところに一人で?」
「ちーちゃんに会えると思って、来ちゃいました!」
「あー、はいはい。」
「ぶー。ホントだよ! これでも頑張ってファイヤーウォール使ってなんとかここまで来たんだよ!」
「全く…無茶するんだから…それで、何時間待ってたの?」
「内緒。」
「いやいや、それなら
「ちーちゃん、名前長いし、めんどくさーい。」
「がーん…。」
「ふふふ、嘘だよっ!でも、なんとなく…ここで待ってたら会える気がしたの。」
「いや、そうは言ってもさ──」
「でも、会えたよ。」
「……………」
「ふふふ。じゃあ、再び、私からの質問ね。
えーとこれは逆質問です!ちーちゃんは何しにここに?」
「なんとなく、ぶらっと…気晴らしに?」
「えー…その答えじゃつまんなーい。」
「いや…まあ、本当のことを言うと…このダンジョンって結構思い入れがあってさ。」
「うん…。」
「どうせなら、最後はここで終わりにしたいなって思ってさ。」
「そっか…ちーちゃんも私が知らない間に色々と経験してたんだね。」
「そうだね、強くなったよ。もう、あのときとは違う。」
「……………。」
「まあ、でもまたLUK極型アサシンとかわけ分からないことしちゃったせいで逆戻りかな…?」
「えー…また、へんてこなステータスにしたの…? ふふふ…でも、ちーちゃんらしいね。」
「正式オープンしたら、今度はまともなステータスのキャラクターを育てるよ。」
「えー…いいじゃん。なんでダメなの…?」
「もう、役に立たないのはイヤなんだ。」
「…そっか…そうだね。ちーちゃんはそういう人だよね…。」
「いや、ごめん。そういうことじゃないんだ…。」
「…………」
「…………」
「じゃ、じゃあ…今度はちーちゃんの番だよ!何でも聞いて!」
「…ないよ。」
「えっ…?」
「…もう、ないよ。聞きたいことは。」
「…うん…そっか、わかった…」
「じゃあ、こっちからもういっこ質問。ちーちゃんは…この世界はどうだった?」
「そうだね。本当に色々な出来事があったよ。
嬉しいことや楽しいことも会ったし、辛いこともたくさんあった。
でも、今ではそれすらもいい思い出だし、ちゃんと自分の糧になったんじゃないかな。」
「あたしと出会ったことも…?」
「…………」
「あたしがあんなことをしてしまったことも…?」
「…………」
「あたしはいっぱい、いっぱい間違えをしてしまったよ。
それでも…ちーちゃんのために…ちーちゃんの思い出になれたのかな…?」
「──なれたよ。だから心配しないで。」
「そっか…それなら良かった……。」
「──そろそろ、時間切れかな…。」
「うん…もう少しお話ししたかったけど…仕方ないね。」
「ああ、そうだ忘れないうちに…」
「えっ…それって…?」
「ああ、これ…? これはドッペルゲンガーのMVPアイテムで──」
「知ってるよ。セイフティリングでしょ。」
「えっ…あ、あれ…? 知ってたんだ。」
「うん…。」
「そっか、でまあ、ドッペルゲンガーから受け取った指輪をちゃんと返そうと思ってさ。わざわざこんなところまで来たってわけ。」
「あ、あの…。」
「ん…?」
「…っだい。」
「へっ…?」
「その指輪…わたしに頂戴…。」
「いや…それは…」
「イヤ…?」
「いや、それはどういう意味で…というか…。」
「言わないとわからない…?」
「…いや…わかるよ。」
「じゃあ…お願い…。」
「──わかった。」
「…………。」
「これで…いいかな?」
「わぁ……っ嬉し…い…うっ…う、んっ…えぐっ……。」
「ど、どうして泣くの…?」
「なんでもっと早く…こうして、あなたに言えなかったんだろう…。」
─こんばんは、ラグナロクオンライン運営チームです。
「もっと早く…。」
─テスターの皆様お疲れ様です。
「それは…どういう…。」
─長期間に渡りβテストにご協力いただきありがとうございました。
「私は間違えて…ばかりで…本当にごめんね。」
─色々と皆様にはご迷惑をお掛けいたしましたがイベントはお楽しみいただけましたでしょうか?
「そんな…ボクのほうこそ…逃げ出して…何もできなくて…」
─正式サービス後もガンホー・オンライン・エンターテイメントを宜しくお願いします。
「ううん…悪いのは私だから…だから安心して。」
─それでは12月1日に再びお会いしましょう。
「…そんなことないよ…まだボクはあの時のまま…弱いままだよ。」
─では最後にカウントダウンをおこないます。
「そんなことない!私には分かるよ。だって…。」
─10
「えっ…?」
─9
「ううん…なんでもない。」
─8
「…そっか。」
─7
「最後に…あなたに会えて…あなたのお嫁さんになれて嬉しかった。」
─6
「…うん。」
─5
「指輪…ウサミミと一緒に私が持ってちゃうけど、許してね。」
─4
「…うん。いいよ」
─3
「じゃあ、また、どこかで会えたら…」
─2
「…うん。また、どこかで。」
─1
「「…ありがとう」」
─0
─サーバーとの接続がキャンセルされました。