ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

77 / 77
エピローグ

β2が終わり、おおよそ十日の移行期間を経て、ついに正式サービスが開始となった。

 

当初、千五百円という月額の課金額に不満の声が上がっていたものの、

開始三ヶ月間は月額九百円といういわゆる"サンキュープライス"のおかげで

多くのβプレイヤーがこのラグナロクの世界に残った。

 

新エピソード『Episode1.5:-Attack of the Ancient-』もそのベールを脱ぎ、

「グラスヘイム」や「時計塔」といったダンジョンが新たに追加され、

ギルド機能実装、PvP実装、武器製造といった新しい要素も増え、

さらなる冒険の広がりを見せる──はずだった。

 

しかし、正式サービス後も様々な問題が起こり、

スキルロストや他人のアカウントに入ってしまうハッキング現象、ログインゲーム、サバキャン多発。

 

数えればキリがないほどの問題を抱えながらサービスは続いた。

運営批判は後を絶たず、しまいには運営会社のガンホー社を癌呆と揶揄する声も。

 

かくいう自分も、ハッキング現象に会い、

アイテムをロストの被害に巻き込まれてしまったこともあった。

それが原因で一時期はモチベーションも下がってしまったこともあったが、

それでも、自分は辞めることなく、この世界の冒険の旅を続けていた。

 

それは自分を取り巻く、多くの仲間たちがこの世界にいてくれたからに違いない。

もちろん、姿を消したプレイヤーも少なくない。

でも彼らと過ごした時間はこうして今も記憶のどこかに残り、

懐かしい日々を思い出させてくれていた。

 

そんな正式サービスから──三年が経過したある冬の日。

 

「今日も寒いなー、コンビニで飯でも買っていくか~。」

 

手袋をしていないせいでかじかんだ手を擦りながら寒さを紛らわす。

 

「いらっしゃいませ~。」

 

勢いよく、自動ドア前にあるマットに踏み込むとドアが開き、

入店とともにすぐ店員の挨拶が飛んできた。

 

自宅近くにあるファミリーマートはいわゆる「左回りの法則」のレイアウトになっており、

入り口から右側に雑誌コーナー、そして角を曲がった辺りにドリンクコーナー、

デザートコーナー、お弁当コーナーときて最後にレジに到着する。

そんな購買者の行動心理に沿うように店内に入ってすぐに雑誌コーナーへ向かった。

 

今日は金曜なので、特に読みたい週刊誌や雑誌はないのだが、

とりあえずテープで封されていない本を手にとり、パラパラとめくる。

 

こうして雑誌をみると最近の流行には本当に疎くなっていると実感する。

テレビもほとんど見なくなって情報のほとんどはインターネットから入手したもので、

交友関係もすっかり、ネトゲで知合った人が中心になっていた。

 

そう、あれから三年という月日が経過しても、

相変わらず、このMMORPG──ラグナロクオンラインをプレイし続けていた。

まあ、プレイしていたというよりもはまっていたというのが正しい表現だろう。

 

毎日のように自室に引き篭もり、

それこそ何十時間も狩りや会話を楽しむことを優先してしまっていたせいか、

外に出る機会も減り、地元の友達との交流も一切なくなった。

 

そんな自分を地元の友人はこう噂していた。

 

大学を辞めて、仕事もせずニート生活しているとか。

いつも家に引き篭もってネトゲ三昧とか。

ネトゲで稼いだ"ギル"を売って生活しているとか。

 

まあ、確かに大学を辞めてから最初の1年はバイト生活だったので親にも心配されていたが、

元々大学では情報工学を専攻しており、プログラムはある程度できた。

そのおかげで今ではプログラマーとして携帯電話のソフト開発業務に携わっている。

 

仕事は夜遅くまであるが、仮に深夜を過ぎていても必ずラグナロクの世界にログインする。

それに休日もほぼ二十四時間ログインしっぱなしなので

一年、365日もはやこの世界に同化しているといっても過言ではなく、

まあ、引き篭もりという表現で間違っていないだろう。

 

それでも今の生活はそれほど悪いことでもない。

ネトゲといえど画面の向こう側には人がいて

現実社会じゃないにしてもちゃんと一定のマナーやルールなどもあり、

ちゃんとしたネトゲの中の社会が出来ている。

 

まあ、人とのコミュニケーションは雑だったりわがままだったりする人も結構いるが

それはそれである種のキャラクターと思えばそう悪くもないと個人的には感じている。

 

それと頻繁にオフ会は開催されていて

これまでの交友関係では決して会うことのなかった人達とも出会うことが出来た。

同じゲームをしているせいか趣味が合うことも多く、

共通の価値観を持った仲間達が増えていったので

こういったネトゲでの出会いというのも現実世界の人との出会いとの別の切り口のきっかけだと

思えばさして異質なことではないと考えている。

 

まあネトゲの中ではリアルの年齢や性別がわかりにくい。

前にオフ会したときには女子中学生なんかもいたりして、接し方に困ったこともあったが、

これがゲームの中では対等の立場でプレイしているもんだから不思議なことだ。

 

それとラグナロクの通貨は"ゼニー"であり"ギル"ではないということだけは言っておこう。

 

そんなことを考えながら読み終えた雑誌を元に戻したとき、

ふと、すぐ近くにあった音楽系雑誌の表紙の写真と何気ない煽り文句が目に入った。

 

『本年度レコ大最優秀新人賞を受賞!稀代の歌姫の素顔に迫る!』

 

最近は、流行りの曲やアーティストにはとんと疎くなり、

音楽にも大して興味もなかったのにその雑誌に目に留まったのは、

この煽り以外にももう1つ理由があった。

 

それは表紙にデカデカと載っているそのアーティストの顔写真だ。

最近のアーティストは歌唱力だけではなく、

ルックスも可愛くかつインパクトが強くなければ売れないのだろうか、

色白で目鼻立ちの整った顔、少しだけ幼さを残すショートボブのヘアスタイルに髪の色がなんと──

 

雑誌に手を伸ばそうとしたその瞬間、

突然携帯電話の着信音が店内に鳴り響いた。

 

すぐに我に返り、慌てて後ろポケットに入れている携帯を取り出し、

画面を見るとそこには『ゼロマスター』というカタカナの名前が表示されていた。

 

「ああああああ、やばい。そうだ今日は毎週定例のギルド会議があるんだった…!」

 

慌てて電話に出るとゼロマスの第一声はお小言からだった。

 

「おい、ちるちるさーん。もう時間過ぎてるんだけどー…何やってんですかー?」

 

「ぐっ……。」

 

「マスターがいないと決まるもんも決まんないんでー、早く帰ってきてくださいー。」

 

「ごめん…。すっかり忘れてた。もうすぐ家なんで、着いたらすぐに参加します。」

 

「よろしく頼むわー、ちょっと収拾つかない状況なんで"とっとと"急いでね。」

 

用件だけの簡素な催促をし、ゼロマスは電話を切った。

 

完全にお怒りモードであることが電話越しから読み取れた。

きっと会議が遅れることで、彼の怒りとストレスはマッハを越えることだろう。

 

結局、手に取りかけた雑誌のことなんてすっかり忘れて、何も買わずにコンビニを飛び出した。

 

時刻は店内に流れるラジオが二十時を告げていた。

 

***

 

家に着き、部屋に入るとすぐにログインし、ギルド会議が行われている砦へ向かった。

 

砦は通常のフィールドと別のところに専用マップが用意されており、

砦主であれば専用マップの入り口傍に立てられている"ギルドフラッグ"と呼ばれる

旗の形をした転送装置を使うことですぐに砦内部へ移動することが可能である。

 

ギルドフラッグを使って、すぐに砦内部に入ると

既に目の前には会議の開始を待つ多くのギルメンが座っていた。

 

ChiRuChiRu_Jr:お待たせしました…遅くなってすみません。

Zilch:お帰りなさい。マスター。

葛羽:お帰り~!

gatoxu:遅いぞ、ちる。

めろん♪:ちるさーん、お仕事お疲れ様ー。

piro13:ばんー(・ω・)

(From Lipure)お帰りー。

 

部屋にいた数名のギルメンがそれぞれボクに挨拶を返す。

自身がマスターを務めるギルド『Alternative』のメンバーは

いつもと変わらない調子で迎えてくれた。

 

すると、司会役であるサブマスターであるゼロマスがこほんと咳をし、

 

「さて、ようやくウチのマスターも来たところで

今日は次のGvGに向けての戦略について確認しようと思うんですが。」

 

そうしてようやく毎週定例のギルド会議が始まった。

 

「いい加減、防衛ばっかりじゃなくて、攻めにも転じるべきだと思うんですよ。

もう十週以上防衛してて、暇が多くて正直飽き飽きしてるんですよね。」

 

「しかし、防衛記録を打ち立てるというのも立派なことだと思うし、

このまま落とされるまでは続けるべきなんじゃないかな?」

 

「まあ、俺はどっちでもいいよ。マスターの判断に任せる。」

 

「ジルチさんと同意見。後六週守れば記録達成でしょ?そこまでは続けるべきだと思う。」

 

「んー、防衛継続しかないでしょ。しかもそろそろ祭られそうだから対策は立てておかないとね。」

 

「ADがおいしい所の砦ならどこでもいいよ(・ω・)」

 

現在、GvGギルド『Altternative』のメンバーは単体では五十名を越え、同盟を含めると百名規模となり、

いまやChaosサーバーいや、全サーバーにおいてその名を轟かす大手ギルドとなっていた。

 

当然だが人数が多いと様々な主義主張があり、

会議も長時間に渡るため結論が出ないこともよくあったりする。

 

その対策として、この『Alternative』ではギルドの方針決定の最終判断を全て

マスターである自分に一任することでメンバーの負担を軽減している。

 

そのせいもあり、ログインしているほとんどの時間は

すべてGvGに向けたギルドの運営に費やされる。

GvG用のパーティー編成、作戦書の作成、同盟との調整、砦で入手したアイテムの売却などなど

雑務を含め、様々な業務をほぼ一人で行なっていた。

 

そのため、マスターでありながら、

レベルはギルド内で一番低く、大して威厳もなかったりする。

 

それでもこうしてメンバーが自分を必要としてくれていることに

やりがいを感じているので、なんだか別ゲーをやっている気分ではあるものの

ある程度は納得してやっていた。

 

「だから、今はルイーナのアジトダンジョンは全く美味しくないんですよ。」

 

「ブリトニアの方が経験地も美味しいし、

他のメンバーのレベルアップの効率化を図るためには砦を移動すべきだと思うんですよ!」

 

「仮に防衛記録が途絶えてもそこはグッと堪えるのが肝だと思いますよ。ボクは。」

 

(それにしても今日はNatsuki_さんはいつにも増して発言にトゲがあるなぁ…)

 

すると、突然、WIS(耳打ち)が飛んできた。

 

(From Lipure) んー。ナツキさん。いい加減にしてほしんだけど。なんなの。

(To Lipure) まあまあ、彼はちょっと自己中心的なところあるからねぇ…

(From Lipure) マスターの意向が最優先でしょう?ギルドを自分のものだと勘違いしていない?

(To Lipure) いや、彼も元マスターなんだし、色々と思うところがあるんじゃないかな…

(From Lipure) 大した実績も残せなかったくせに…でかい面してて気に入らない。

(To Lipure) こらこら。口が悪いのは相変わらずだけど、言いすぎないようにね。

(From Lipure) ん…分かったよぅ…言い過ぎてごめんなさい…。

(To Lipure) まあ、防衛継続で話は進めるから心配しないで。

(From Lipure) はーい。じゃあ、会議終ったらまた二人だけで遊びに行きたいな…。

(To Lipure) りょーかい。じゃあ、また後でね。

(From Lipure) うん…。

 

ギルドメンバーとの人間関係を取り持つのもマスターの大事な仕事である。

貴重な戦力ということもあるが、何よりも穏便かつ楽しんでゲームを遊んでもらいたい

という想いから来るもので他意はない。

他意はないが…やはりどうしても疲れてしまうのは本音ではあるが…

 

そして、リプレさんとは紆余曲折あり、今や相方…そして現実世界においても恋人関係になっている。

 

ネトゲから発展した恋なんていうのは儚く、哀しい現実を見ることが多い。

このゲームを始める前からそう自覚していたものの、結局、また同じことをしまうのは何故だろうか?

 

実際に会ったこともないバーチャルの相手に一喜一憂し、そして気づいたら大切な存在になっている。

はたからみたらアホのやる行動で、そんなことをしている暇あったら

リアルの自分を磨いた方が百万倍マシという意見が大多数だろう。

 

でもリアルでは味わうことのできない"何か"がきっとこの世界にはあると信じている。

 

まあ、実際、ネトゲで出会って恋人になってそして結婚をしたカップルがいることも知っている。

自分がそうなりたいわけじゃないが、そういう事例もあることは少しだけ嬉しく思う。

 

まあ、趣味が高じてという恋愛が成就するのも悪いことではないだろう?

いやむしろ"アリ"に決まっている。

 

でも将来、結婚して子供ができたときに

『お父さんとお母さんはどうやって知合ったの?』

って聞かれたときに何と答えるのかは想像も付かないが…

 

あれだけの出会いと別れを経験し、何度も辛く苦しい思いをしたのにも関わらず、

まったく懲りてないのはきっとナンパシーフのサガ…であって欲しい。

 

今やこのゲーム内の全てのプレイヤーから注目を浴びる存在となってしまった

"ちるちる"というキャラクター。

 

そして、一人のネトゲ廃人の冒険という名の苦難の道のりはまだまだまだまだ──

 

きっと、この世界が終わるまで続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

「皆さん~!今週もやってきました金曜夜八時 Music Supernova!

MCを務めます向山達也ことムッキーです!」

 

「さてこの番組ではその名の通り、これから音楽シーンに衝撃を与えるであろう、

期待の超・新・星のアーティスをゲストにお招きし、

ご自身の音楽について1時間たっぷりお話を伺っていきます!」

 

「さて、早速、本日のゲストをお呼び致しましょう!」

 

「デビューの年で日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞。

ファーストアルバム『Re:member』も三週連続オリコン一位と若者を中心に絶大な人気を誇り、

今、最も注目されているアーティストの方と言えば…?」

 

「そう、もちろんこの方──アユサキ・ハルカさんでーーーす!」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。