ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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ナンパ師の末路

「お話し中に すみませんー。ここって猫広場であってますか?」

 

今いるこの場所は"猫広場"のど真ん中。

そこにはどっしりと腰を下ろし座っている銀髪の剣士こと、

フェン=アルバートと彼を取り囲むように輪を作るたくさんのプレイヤーがいた。

 

ある意味敵陣のど真ん中とも言えるであろう、

危険地帯に一人で突っ込んで行き、

談笑している彼らの会話を遮り、割って入る。

 

道場破りにも似たその振る舞いに、

彼らは会話をやめ、一斉に視線をこちらに向ける。

 

「誰コイツ?」と言わんばかりの強烈な拒否反応を一心に浴び、少しだけ緊張が走る。

「ここが猫広場であってますか?」なんていう、

もちろんそんなことは承知の上の白々しい質問であったのも彼らが警戒心を強めた理由でもある。

 

視線の牽制が幾度となく行われ、

ほんの僅かの間、場の空気が一瞬、凍りついたように止まる。

 

その雰囲気を嫌ったのだろうか、ここの住人と思しき一人の男マジシャンが

周囲をきょろきょろと見回した後、再度こちらを覗く。

 

「ん…?そうだけど…お宅はどちらさん?」

 

疑いの眼差しと、まずはそちらが名を名乗れと言わんばかりの強い口調からして、

どうやらあまり歓迎はされていないみたいである。

 

まあ、初対面のプレイヤーに対してはそれが普通なのかもしれないが、

用があるのはそこで偉そうにふんぞりかえって座っている銀髪の男剣士の方である。

ここでこのマジシャンを相手にしていてもあまり得策ではなく、

一気に本丸であるフェン=アルバートを攻めることにした。

 

すぅ~っと深く息を吸い、語気を強める準備をする。

 

同時に心の中で言い聞かせる。

目の前にいるのは自分のライバル、越えるべき壁、恋敵、羨むべき存在。

そんな様々な設定と筋書きを詰め込み、自身のキャラクターを決定付ける。

 

そして、頭の中での出来上がりを確認すると、いざ名乗りを上げた。

 

「ボクの名はタヌキ山のナンパ師ことちるちる! そこにいるはこのケイオス一のナンパ師と名高い、

フェン=アルバートとお見受けした。」

 

突然現われたシーフの名乗り口上に驚き、男マジシャンがぎょっとした態度で身を後ろに引く。

 

覚悟をしていたこととは言え、沢山のプレイヤーが見てる前でこんな戦国武将のような

ダサイ台詞を吐くなんて恥ずかしさこの上ない。

 

がしかし、これこそがロールプレイの醍醐味、

そしてこれから始まる筋書きのある寸劇のほんの一部である。

 

話しはこうである。

 

さっき見ていた乱入劇と同じようにまずはフェン=アルバートに決闘を申し込む。

 

「フェン=アルバート!同じナンパ師としてどちらが優れているか勝負しろ!」

 

もちろん、プレイヤー同士で決闘をするシステムなんてこの世界にはない。

なので勝負といっても何の勝負になるのかは彼の出方次第になる。

とはいえさっきと同じような決闘ネタだと彼もつまらないだろうと思い、もう一つ台詞を追加をする。

 

「そして、この戦いに勝利した暁には貴様の婚約者である、ちかげさんを我が手に貰い受ける!」

 

これにはフェン=アルバートのみならず、ちかげさんも驚いたに違いない。

この突然の展開に周りは皆、圧倒されたようにポカンとした表情をしていた。

その様子を見て、自信を深めると、今度はちかげさんに向かってビシっと指を指す。

 

「ちかげさん、あなたを一目見たときからその御姿の虜になりました。

必ずやその男に勝ち、あなたを手に入れてみせましょう。」

 

この上ないほどクサイ決め台詞が決まり、ようやく舞台が整った。

ナンパ師を自称するキャラにぴったりのこの茶番のような横恋慕劇。

さあ、果たして彼はどのような方法で対抗してくるのか。

ドキドキしながらそのときを待っていた。

 

「…お前、さっきから何言ってるの? いきなり俺らの溜まり場に来て、

人様の婚約者を口説いてるんじゃねーよ。」

 

その敵愾心むき出しの言葉をぶつけてきたのはフェンアルバートではなく、

彼のすぐ隣にいた赤い髪をした男剣士であった。

 

「へっ…?あの、その…えーと、これはですね…」

 

様子がおかしい。予定ではここでフェン=アルバートがすぐさま立ち上がって、

応戦してくるはずなのだが…

 

想像と違った展開に動揺しているところに目の前に女商人が冷やかな眼差しを向け、

追い討ちをかけるように一言。

 

「ちょっと常識を考えたほうがいいですよ。あなた一体いくつなんですか?」

 

と軽蔑をするような冷やかな口調で冷静に中の人の精神年齢を疑いはじめる。

 

「えっ…その…な、なんで…」

 

「いるんだよなぁ…こういう非常識なヤツ。」

 

「ちょっと引きますね…何考えてるんだか…。」

 

「つーか、どっか行ってくれない? 邪魔なんだけど?」

 

「いや、ちょっと…待ってくだ…」

 

先ほどから変な汗が止まらず、思考が定まらない。

フェン=アルバートとその婚約者ちかげさん、

そしてこのナンパシーフちるちるの三人が繰り広げるはずだった舞台は

ギャラリーのはずの猫広場の住人のブーイングによって強制的に幕を下されようとしていた。

 

そして、主役の一人になってもらうはずのフェン=アルバートは

うろたえ、怯えているこちらの様子を見て、哀れむような顔しながら一言。

 

「ちょっとAFK(休憩)してくるわ。」

 

そう言い残すと、こちらの掛け合いに一度も応じることなく、

そして用意した舞台にも立たずに別の世界へと旅立ってしまった。

 

後は勝手にやってくれと言わんばかりの彼の態度に煽られたのか、

周りのメンバーも一層、口撃を強めていく。

 

その様子に見かねた青髪の女剣士が、

やれやれといった表情で周囲の声を抑え始めた。

 

「ふー…とりあえず、一番の被害者であるちかげさんは先ほどから席を外してますので、

ログさえ流してしまえば、今回のあなたの行為は不問としたいところですが、

今後こういうことをしないように、少し、マナーについてお説教をする必要がありますね。」

 

すると彼女はすぐにその場にチャットルームを立てた。

 

─《説教部屋》(1/12人)

 

何が起きているのか、どうしてこうなったのかを今だに理解できずに

立てられたチャットルームの部屋名の文字をぼんやりと見ていた。

そして、周囲の「さっさと入れよ」という言葉と圧力により、

いつの間にかチャットルームに叩き込まれていた。

 

***

 

─《説教部屋》(12/12人)

 

幾重にも交差する鋭い眼光が突き刺さる。

さすがにこの人数に取り囲まれると圧を感じざるを得ない。

しかし、誰一人口を開かずにいるため、

緊迫感で押しつぶされて今にも逃げだしたくなる思いで一杯になっていた。

 

そしてこのチャットルームの主である青髪の女剣士がおもむろに口を開き、

今回の出来事…というか"事件"の罪状を述べる冒頭手続きが始まった。

 

「さて、"ちるちるさん"とお呼びしていいのかしら? 

あなたは突然、私達の溜まり場にやって来て、あろうことかフェンさんの婚約者である、

ちかげさんに対して軽薄な言葉で口説こうとしましたね?」

 

「いえ…ボクは口説いたというより、あくまでもこう、

ロールプレイの一環というかその…あれです。その場のノリに合わせたつもりで…」

 

「つーか、コイツ、自分のことナンパ師なんて言ってるけどさ、

ただ出会いを求めてるだけの出会い厨だろ?」

 

「いいえ、そんなことはありません! これはあくまでこれはロールプレイの一環……」

 

「そもそもフェンさんとちかげさんは相方同士なんだよ。お前が入り込む余地なんてねーの。」

 

「いやいや、分かってますよ!?お二人の仲を引き裂こうなんてそんな気は…?」

 

「じゃあ、なんであんな馬鹿みたいなことやったの? 言ってることとやってることが違うじゃねぇか」

 

「それは……」

 

「全くもってその通りだな。なんなのコイツ。突然乱入してきて、きっしょ。」

 

「いいですか? ちるちるさんのやっている行為は迷惑行為(ハラスメント)に該当するんですよ?」

 

「お前、もう少しさー、人とのコミュニケーションのとり方とか社会常識を身につけないと、

リアルの世界じゃやっていけないよ?」

 

「あはは、ちげぇねぇや。どうせパーティーにも入っていないソロプレイヤーなんだろ?」

 

「……………」

 

最初のうちはどうにかして抵抗してようとしたが、

裁判官である女剣士は冷静に自分の行為を

この世界でのマナー違反に該当するという正論を振りかざして追い詰め、

自分を取り囲む陪審員達は浴びせるだけの罵声を浴びせ追い詰めてきた。

 

そんな数と巧みな心理攻撃によって、抗う心を支えていた棒はぽっきりと折れてしまった。

 

最初は正座の姿勢から俯いていたが、その角度は徐々に傾き、

最後にはそのまま頭を擦り付け、必死の謝罪を繰り返していた。

 

「本当に…申し訳ございませんでした。二度とこのようなことはいたしません。どうかお許し下さい。」

 

「いいけど、もう猫広場には近づかないでくれない?」

 

「もう少し、大人になったら?」

 

「人の女を奪おうとするなんて最低の人間のやることだぞ」

 

「フェンさんは有名人なんだからお前みたいな小物が話しかけてくるんじゃないよ」

 

「だいたい…お前さー…」

 

頭を下げた後も、非難の声は止まらない、

だから彼らが話し疲れるまでは決して謝罪の姿勢を崩さず受け入れ、

そして、反省と後悔を繰り返していた。

 

この世界で"ナンパ師"というロールプレイングを楽しもうと思っていたはずが、

どうやらそれは間違っていた。

やっぱりこの世界にもリアルの世界と同じようなマナーやルールが形成されていて

自分のやっていることは、やっぱりタダの迷惑行為にしかならないんだということを今日、ようやく自覚した。

 

でも、明日から一体何をして、何を目的にこの世界で生きていけばいいんだろう…

ぽっかりと空いた穴のおかげで、ありとあらゆる罵詈雑言は吸い込まれるようにして消えていってくれた。

 

そうして、ようやく監獄(チャットルーム)から解放されると、

悔しくて涙も出ないその姿を誰かに見られるのを拒み、そっとこの世界から消えた。

 

 

 

 

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