中学二年生の戒余暇(いましめ・よか)はある問題を抱えていた。
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思いつきで書いたので重大なミスがあります。が、修正しません。ややこしくなりそうで面倒なので。いいですかみなさん、この世界には中学校に自動販売機が設置されています。


戒余暇の個人的かつ精神的な清純と呼ぶか判断に迷う問題

 冗談ではない。それでは済まされないのだ。

 現在対面した問題を即急に解決しなくてはならない。さもなくば、さもなくば、……いや、どうなるかは明確にはわからないのだけれど。しかしもしかすると深刻なダメージを私に与えるのかもしれないのだから見逃すことはできない。

 昨日私は学校を欠席した。三十九度近い熱が出たのならお互いのために欠席するのは当然だと思うのでそれは問題ではない。強いて言えば私がしっかりと体調管理をしておけば親に心配やら苦労やらをかけることはなかっただろうし、私自身もつらい思いをせずに済んだのが問題だが、去ったことを考えても仕方ない。

 私、戒余暇(いましめ・よか)は学生である。具体的には中学二年生、女。話し方がいわゆる今どきの女子とずれているのは自覚している。かといって直そうとも思わない。周りの人々に恵まれたおかげで「戒余暇はああいう人」ということで認めてもらっているから、直す必要がない。もし将来直す必要性が発生したのなら、努力はしようと思う。

 中学生に降りかかる問題と言えば限られている。勉強にテスト、来年になればそれに伴う受験もしくは就職。人間関係も中学生ともなれば複雑だ。親と、友人と、先輩と後輩と、教師と、あるいは顔も知らない誰かと。突き詰めていけば自分自身との関係を円滑に保つには苦労もある。

 私に降りかかった問題とは、言ってしまえば上記の全てだ。

 第一に、昨日担任から課題が出されていたこと。要は宿題が出ていたのだ。担任は国語教師を担当しているので出された課題は「国語科の課題」ということになる。そうでない可能性は今日の朝担任になにも言われなかったことにより否定される。もし授業ではなく学級や個人での作業を要求する課題なら、さすがに何か言われるだろう。

 第二に、私は課題のことを知らなかった。言ってしまえばたかだか宿題だ、病人に報告するまでもないと考える人がいても不思議ではない。現に友人がそうだったから私は知らなかったのだ。

 第三に、どうやらその課題は提出期限が今日までらしい。まで、と言っても事実上与えられた時間は一日ということだ。つまりは私が、いや私達が出された課題は「国語科の明日提出する課題」だったわけだ。この情報はクラスメイトの会話を聞いたことにより入手している。人聞きの悪いことを言われても困るので弁明しておくが、盗み聞きをしたわけではない。同じ教室にいれば少しくらい会話が聞こえてきて当然じゃないか。別に詳しい内容までは聞いていない、国語の宿題終わった? という会話をしているなぁということがわかったくらいだ。さらに言えば、友達がいないから人の話を聞くくらいしかすることがないとかそういうわけでも断じてない。誰とも話さない休み時間が五分十分あったっていいだろう。

 第四に、これが最大の問題なのだが、……真摯に聞いてくれる人がどれだけいるか。私は、戒余暇という女子中学生は、その担任のことが好きなのだ。likeではなくloveだ。恋愛感情での好きだ。だからつまり、いい顔をしておきたいのだ。個人的かつ精神的な問題だが、これだけはどうしても譲れない。

 以上の問題を解決しなくてはならない。現在十二時二十分、給食を食べ終わって昼休みだ。国語の授業は一時きっかしからの五時間目。あと四十分の間に解決しなくてはならないのだ。結構難易度が高い。

 現状の場合まずなにをすべきか。個人的には「いかにして課題を終わらせるか」ではなく「課題は病人または病み上がりの人にこなせる物だったのか」ということが重要だと考えている。もし運良くコンディションの悪い人にはそれなりに難しい課題だったのなら情状酌量というものがある。漢字を百回書くとかがそれに当てはまるんじゃないだろうか。私の知る限り担任は、病人にそうした大量の作業をさせるタイプの人ではなかったと思う。それになにより、そんな課題今からじゃ終わらない。……もちろん可能な限りは終わらせる方向へ向かいたいとは思うけれど。

 しかしもしそうでないなら、例えば百人一首を一句現代語訳するとか、その気にさえなればサッと終らせることのできそうな課題だったとしたらそうはいかない。私はただの怠け者になる。

 「知らなかった」という言い分が通るかどうかだが、そんなものはどうでもいい。私はいいところを見せたいだけであって、怒られるかそうでないかはさほど問題ではないのだ。怒られたくないのはもちろんだがさらに望むのなら褒められたい。より高みを目指すのに「知らなかったって言えば怒られないかも、じゃあもういいや」とはならない、なれない。

 それに元から私は怠け者なんかではなく、どちらかと言えば勉強熱心な方だと自覚している。その点にプライドがないと言えば嘘になるが、それよりも、人の評価は上がりにくいけれど下がるのは一瞬ということの方が重要だ。つまりやはり私は良く見られたい、落胆されたくないのだ。

 そうとなればさっそく訊き込みを始めよう。戒余暇盗み聞き疑惑および友達いない疑惑を否定するためにも友人である中部始(なかべ・はじめ)に訊いてみようと思う。

「中部さん」

「んー? なに?」

「昨日国語の課題が出たんだよね?」

「出たよ。……あれ、わたし余暇にそのこと言ったっけ?」

「言ってないと思うが」

「あー、まぁ熱出てたしね。やってなくても怒られないと思うよ」

「いやしかし、まだなんとかなるかもしれないし、どんな課題が出てるのか教えてほしいのだけれど」

 ここまでスラスラと会話をしていて、当然課題の内容くらい聞けると思っていた。ところがなぜか上手くいかないもので。

「……秘密」

「え、なんで」

「今日の授業受けたらわかるよ」

「それでは遅い。今教えてくれ。頼む、お願いだ」

「だめですー」

 なんと……。そこまで隠す必要のある課題というのももちろん気になるが、それよりもまさかなんの手がかりも掴めないなんて……。内容が分からなければ話が前に進まない。なぜだ、なぜ教えてくれないのだ。私はこんなにも必死になっているというのに。

「な、ならせめて教えられない理由だけでも」

「理由? うーん、恥ずかしいからかな」

「恥ずかしい……?」

 課題の内容を教えるだけで恥ずかしい? そんな課題が義務教育の過程に存在するのか? にわかには信じがたいがともかく中部始にとってはそうらしい。恥ずかしいと言われたら、それ以上詮索する気にもなれない。プライバシーの侵害は趣味じゃない。

「うん、恥ずかしい。ていうかなんでそんな必死に訊いてくるの? 終わらせなくても大丈夫だって」

「大丈夫ではない。いや、大丈夫なだけではだめなのだ」

「……? そうなの? でもどっちにしても今からじゃできないよ?」

「な……」 

 な、なんだ……と……。もう私には諦めるという選択肢しか残っていないのか。そんな殺生な。

「いやいやいや人間やればできるものだぞ!? 試しに課題の内容を教えてくれ、やってみせようじゃないか」

 漢字百回でも書ききって見せる。アイキャンドゥ―イットだ。国語だけど。

「そんな簡単なひっかけにはかかりませんよーだ。教えません」

「なぜ! なぜだ! なにが恥ずかしいと言うのか!」

 官能小説を書いてこいとかまさかそんな内容なわけではあるまいに。

「なにがと言われても、それを言ったら答えになっちゃうし」

「それでいいんだ! 答えを、どうか私に答えを恵んで……」

 なんでもするから……。とまで言うかどうかはさすがに迷う。

「それ以上言うなら余暇が先生のこと好きなのバラしちゃうよ?」

「ちょっ!?」

 思わず周囲を確認する。誰か聞いていたか!? 誰も似も聞こえていないか!? 私のプライバシーは無事か!?

「なんでここで言う……! しかもわりと普通の声で……!」

「普通ならよくない? 誰も聞いてないよ」

「あなたの普通はどちらかと言えば大きい部類だぞ」

「え、ウソそれほんと?」

「ここで嘘を吐いてどうする」

「えーショック……。あと声大きいとか言われてなんかちょっと不機嫌になったから余暇の秘密バラすね」

「悪かった、謝る、だから頼むそれだけは勘弁して……」

「どうしようかなー、なんでもいうこと聞くっていうなら考えてあげてもいいかなー」

 悪魔、鬼、鬼畜、外道。そんな単語が脳裏に浮かぶ。我が友人ながら憎らしい。

「なんでもは……ちょっと……」

「ちょいちょい聞いてくれよそこの窓際で女子トークを繰り広げている諸君。実はこの戒余暇ちゃんがね」

「わかった! わかったから、なんでもいうこと聞きますだから許してくださいあとなんでもとは言っても法に触れる行為は勘弁してください……!」

「それでよろしい。じゃあさっそくジュース買ってきて、炭酸以外で」

「パシり……」

 パシられるのもなかなかの屈辱だがそれよりも、今の私には時間がないというのにそれを……! ジュースって、ジュースくらい自分で買いに行ったらどうだ。

「なにか文句でも?」

「ないです行ってきます」

 イメージとしては亜音速で駆け出す。発生するソニックウェーブで全ての障害を破壊したい。あとできれば課題の問題も破壊したい。さらに望んでいいならこの地区全域から炭酸以外の飲み物を破壊してしまいたい。実現した暁には地味につらい生活を送るがいい中部始よ。

 と言ってもさすがに言うまでもなく亜音速で走る人間はいない。それでもしばらく動けなくなるくらいには全力疾走した。

「か、買ってまいりました……!」

「ちょっとちょっと、なんでお金渡す前に行っちゃうの……」

「も、申し訳ない……」

 その時間さえ惜しかったし、パシりにお金が支給されるという平和な関係を考えられていなかった。本気のパシりになるところだった。

「……余暇」

「は、はい……? なんでしょう……」

 走りすぎて完全に息が上がってしまっている……。……あれ、もしかして息切れしている時間を計算に入れれば急いだ結果プラマイゼロ? う、うそだーさすがにそんなことはないはずだ。

「あんた時々バカだよね」

「は……!?」

「わたしはなにを買ってこいと言った?」

「炭酸以外のジュース……?」

「余暇が買ったこれはなに」

「……カルピス、ですけど」

 大丈夫、カルピスソーダじゃなかった。そこはマッハで確認してマッハで購入してマッハで帰ってきた。そしてただいまエンジン(肺)トラブルが……。

「そうね、カルピスだね。余暇、ここのところよーく読んで」

「……?」

 缶の前面に書いてある商品名。カルピス……ぜりー?

「ジュースって、飲み物のことを言うと思うんだわたしは。ここらへんにすれ違いはあった?」

「……ありませんでした」

「それはよかった。……じゃあなんでゼリー?」

「……間違えました」

「さようなら、余暇のプライバシー。ちょっとそこの男子諸君あぶない恋バナに興味はあるかね」

「ちょっ、ちょっ、ごめんなさい許してくださいちょっとくらいなら法に触れるようないうことでも聞きますから」

「ちょっと?」

「もういっそ法を鷲掴みにしちゃいましょう! 抱きかかえてもいい! 法を抱いて世の闇に沈もうではないか!」

 その瞬間チャイムがなった。瞬間冷却された脳と共に時計を見ると一時きっかし。教師も教室に入ってきた。

 席に戻る際に「すごい名言だったね」と人を小馬鹿にしたように笑いながら中部始は私に言った。それがやけに鮮明だった。

 ……無念だ。

「じゃあ授業始めるぞ。あ、その前に戒ちょっと来い」

「は、はい」

 なんだ……? 課題のことについてなにかあるのか?

「ちょっと耳貸せ」

「はぁ」

 言われたとおりにするが、実行して気づいたこれはとても距離が近い! 否応なしに緊張する。これがキュンとするとかいうやつか。願わくば放課後に告白するべく呼び出しとかを……

「なにがお前をそうさせたのかは知らんがな、廊下と階段は走るな。特に階段はいくら急いでいてもジャンプして降りたりするな、スカート捲れて下着が見えたとの情報がある。……もちろんお前のことだぞ」

「……」

 そのあとに、耳との距離を話してから満面の笑みとグッドサインで言われた。

「教室に来る途中に先生が男子生徒の会話を盗み聞きした成果だ!」

 せ、セクハラだぁ! これはれっきとしたセクハラだ! あり得ない! 見ていた男子生徒が一番あり得ない! 言っちゃなんだけどもう死ね! 死んでしまえ! 下着は冥土の土産にくれてやるから死ね! あとセクハラしてくる先生も好きです付き合ってください! 口に出す勇気はないので察してください! 無理ですかそうですか!

 そして私はなにごともなかったかのように「気をつけます」と言い席に戻ったのだった。

「じゃあ授業始めるぞー。昨日言った宿題全員やってきたかー?」

 

 結果から言おう。怒られなかった。しかしむしろ怒っているのは私だった。

「子供のころのことを親に訊いて、それを書いてくる。……これのどこが恥ずかしい?」

 下校中、中部始を問い詰める。私も彼女も帰宅部だ。私は、大多数の人が部活をしている時間塾にいるからそれが部活のようなものなのだが。中部始はそうではないらしい。

「だって自分が小さい頃の話だよ? しかもそれをネタにスピーチをするとか、セクハラだよあれは」

 違うと思う。

「そうだとしても、課題の内容を教えるだけならいいでしょうに」

「そんな内容教えたらどんなこと書いたのかとか訊かれちゃうじゃん」

「いやいやいやなんで決めつける。訊かないし、仮に訊こうとしても一言教えたくないと言われればそれ以上はなにも言わない」

 どうせ授業の一環でバレるだろうし、訊くまでもない。

「えーうそだー」

「嘘じゃない。頼むから余計に一手先を読んで行動するのはやめてほしい、お願いだ」

「うーん……、わかったよ」

「ありがとう」

 これでもう今日のようなことはないだろう。……いやそれならもっと言っておくべきことがあった。

「あ、それと病欠してても一応課題が出たなら教えてほしい」

「ねぇ余暇」

「うん?」

 話しを切られた。今結構重要なことを言いたかったのだけれど。

「なんでもいうこと聞くってやつ、まだ残ってる?」

「え」

 残ってないと言ってしまいたかった。だけれども、

「残ってない」

「そっか。……明日楽しみにしといてね」

「残ってます、なんでもいうこと聞くから許してください。あとさっきは血迷いましたやっぱり法に触れるのだけはどうかご勘弁を……」

 ほらね。どうせこうなる。私でもきっとそうしていた。せっかくの面白いことを手放すのは惜しく感じるから。


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