比企谷八幡のSAO録   作:狂笑

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第六話

カア、カアといるはずのないカラスの声が聞こえ、目を覚ます。

視界いっぱいに広がるのは赤く染まった空。

知らない天井ならぬ知らない空だ……などと考えながらふと思う。

 

何故俺は空を見ることのできる体制で寝ているんだ?

 

確か俺が寝落ちした時、木によりかかっていたはずなんだけどなぁ……

 

「あ、ハチくん起きた?」

 

突然、俺の頭上から声が降ってくる。

そして、あることに気付く。

俺の頭の下にあるもの。それは木でもなくまたそこら中に生えている草でもない。

それはとても柔らかく、そして温かい。まるで人間の一部であるかのように。

ん?……人間の一部?

そのワードに引っかかりを覚えた俺は視線を自身の頭頂部方向へと向ける。

 

「ありがとうね、ハチくん。ここまで運んでくれて」

 

地味に近い明日奈の顔、それにつながる胴体。そこまでは確認できるがその下の確認ができない。それらのことから察するにこれはもしや……膝枕か?

そう思うと急に恥ずかしくなって急いで飛び起きる。

明日奈がなにやら複雑そうな顔をしたがこの際それはみなかったことにしよう。

 

「ハチくんは、これからどうするの?」

 

「そうだな。今日はもう日が暮れかけているし、俺は宿に戻るつもりだぞ。明日奈も戻ったほうがいいぞ。まだ死にたくないだろ」

 

というか、死なれると俺が困る。再会したばかりの知り合いがすぐ死ぬとか精神衛生上よろしくない。

 

「そうね、せっかくハチくんと会えたんだし、無茶な攻略をする必要はないわね。私も戻るわ」

 

そう言って明日奈は歩き出す。それに少し遅れて俺も歩き出す。

 

「なあ明日奈、お前こっちでは何て言う名前なんだ?」

 

「どういうこと?」

 

「いやほら、SAOにログインする際、プレイヤーネームってのを登録しただろ?本来こっちの世界ではリアルの名前で呼び合うのはご法度なんだよ」

 

「それなら問題ないわよ。だって私のプレイヤーネームは『Asuna』だもの」

 

「リアルネームで登録かよ……身バレしても知らねえぞ……」

 

「そう言うハチくんは?」

 

「……『Hachiman』だ」

 

「ハチくんだってリアルネームじゃん」

 

「俺はいいんだよ。普通八幡が名前だなんて思わないだろ。よくて苗字止まりだ」

 

 

 

そんな事を言いながら町へと向かって歩く。

途中フィールドでモンスターと遭遇もしたが、難なく各個撃破。アスナはスイッチを知らなかったため連帯はしていない。いずれ教えればいいだろう。

そして、無事圏内の街についた直後の出来事だった。

 

「ハチくん、どこかいい宿知らない?」

 

「どうした藪からスティックに」

 

「……古い」

 

「悪い。で、どうした?」

 

「……この町に宿屋を三軒見つけたのだけど、どれも部屋と呼べないようなものばっかりじゃない。六畳もない一間にベッドとテーブルがあるだけで、それで一晩五十コルもとるなんてヒドイとしか言いようがないじゃない。食事は兎も角、睡眠だけは本物なんだから、もう少し言い部屋で寝たいのよ」

 

「それ、独房のようなスペースしかない学生寮に住んでいる人に失礼じゃね?まぁそれはさておき、お前もしかして【INN】の看板が出ている店しかチェックしていないのか?」

 

「だって、INNって宿屋って意味でしょ?」

 

「それはそうなんだが、この世界の低層フロアじゃ最安値で取りあえず寝泊りできる店って意味なんだよ。コルさえ払えば借りられる部屋は意外とあるぞ」

 

「……そうなんだ。因みにハチくんが借りている所は?」

 

「俺がこの町で借りているのは町外れにあるレストランの二階で一晩七十五コル。二部屋あってコーヒー飲み放題。しかも通常より三割安くレストランの飯が食える特典付きだ。しかも風呂までついていて――」

 

つい自慢してしまった。だがそれは言い終えることはできなかった。

何故なら――

 

「……何ですって?」

 

ダンジョンの奥底で見た《リニア―》もかくやという神速で伸びてきたアスナの右手が俺の襟を勢いよく掴んだ。

次いで、低く掠れた声が、迫力たっぷりに響いた。

 

「ハチくん、私をあなたの宿まで案内しなさい」

 

勿論、俺がこれを断ることはできなかった。

 

 


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