比企谷八幡のSAO録   作:狂笑
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今回はある意味つなぎ回


第五話

「ふう、ここならいいか」

そう言って肩に担ぐようにして運んでいた明日奈を下ろし、同時に右手で持っていた曲刀を鞘にしまう。

俺が運んできたのは森の空き地。

迷宮区外のダンジョンにある安全地帯だ。

ここなら迷宮区の安全地帯のようにモンスターの足音や唸り声が聞こえてくることはない。

また穏やかな心地よい風が吹いており、一月にしてはポカポカと暖かい。

最近じゃ俺のベストプレイスの一つとなっている。

 

……もう一月か。

そういえばクリスマスイベントはどうなったのだろうか。

俺が手伝いを請け負ったあれは、意図的ではないとはいえども、放棄することになってしまった。

雪ノ下と由比ヶ浜でアシスタントできたのだろうか。

しっかりと成功したのだろうか。

それとも何も決まらず何も出来ず、お流れになったのだろうか。

今の俺に、そのことを知るすべはない。

それに、あと一か月ちょいで小町の受験だ。

千葉の公立高校は学区制だ。

全日制普通科の学区は9つの学区に分かれ、自分が住んでいる学区と、隣の学区にある高校に出願できる。

俺や小町の住む千葉市は第一学区。

市立総武高校は県千葉、千葉東。市立千葉の後塵を拝する四番手校ではあるものの、前期後期共に偏差値は60台前半であり、進学校だ。因みに海浜総合は五番手。

小町は総武高校を第一志望としている。

俺がSAOに囚われたせいで勉強に集中できなくなって落ちたりしたら、おれはなんていって詫びればいいか分からない。

 

一度でも余裕ができると、色々と考えたてしまう。

他にも、俺のことと明日奈のこと。

俺がSAOに入る前に親父と交わした会話。

親父の言っていた、祖父ちゃん家に行くたびによく遊んだ女の子とは、明日奈のことで間違いないだろう。

明日奈がどこまで知っているかは正直分からないし、俺のことをどう思っているかも知らない。だが裏で何かが進んでいたのは事実だ。

なるほど確かに俺が角宮グループの後継者になれば、(祖父ちゃんにとって)素性の知らない相手と結婚されるよりよく知っている相手と結婚してくれる方がありがたいのだろう。

若いうちから妻帯することで、婚活等に時間を割く必要がなくなる。

しかも明日奈はレクト社の令嬢だ。

連結で約十万名の従業員数を抱えるレクトの美人令嬢とグループ総計で約八十万人の社員を抱える角宮の、目の腐った後継者。

こういう状態になれば、ステータス的には釣り合……わないな。色々と。

そもそも、何故俺を角宮の後継者にしようとする?

祖父ちゃんも人の子だ。どんなに長生きするにしても限界がある。

また、80代の企業経営者は知っているが、90代の企業経営者は聞いたことがない。

90を超えれば五十年近く市議を務めた名物市議ですら落選するのだ。90代で会長を務めるのは無理がある。

日野原さんや村山さんじゃないんだから。

仮に祖父ちゃんが90歳で経営の最前線から退いたとしよう。

その時俺は30ちょい過ぎ。数十万人の運命を背負うにはまだ若すぎる。

役員の方々の年齢も50~70代が専らだろう。

自身の半分程度しか生きていない若造社長の指示と言うものは、彼らのプライドを傷つけ、余計な反発を招くことも考えられる。

故に分からない。祖父ちゃんの意図が。思惑が。真意が。

 

……いや、今日はここまでにしておこう。

分からないものはいくら考えてもすぐには分からない。

まして、五十年以上も最前線で戦い続けてきた男の思惑を、経営の経験がない一介の高校生が見抜くなど、困難の極みだ。

SAOの攻略は年単位の時間を必要とするだろう。

なら、考える時間は大量にできるはずだ。

俺は明日奈が寝ている所に近い木の根元に座り込んでよりかかり、心地よい風によって引き起こされた睡魔に身を任せた。

 








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