仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】 作:スパークリング
仕事の合間を縫って投稿していきます。よろしくです。
第0話 『始動』
東京都某所、12月19日。
暗く、どこかのバーのような場所には3つの人影があった。
「
そのうちの1人が、世界中どこの言語でもない言葉――グロンギ語を話す。
そいつは女だった。
赤い服と赤みのかかった紫色のロングスカートを身に纏った、額には薔薇のタトゥがある女。
女――ラ・バルバ・デはカジノなどによくあるルーレットの前に座って、パソコンを見ていた金髪の少女に話しかける。音がよく響く造りになっている部屋だからか、バルバの綺麗ながらも冷たい声は部屋全体に響き渡った。そう。
今この場にいる3人は全員、遥か古代に九郎ヶ岳遺跡に封印され現代に甦った戦闘民族『グロンギ族』。世間一般的に『未確認生命体』と呼ばれている者たちだ。
そのうちの2人は人間を殺戮するゲーム――『ゲゲル』の上位種、成功者が彼らのボス――ン・ダグバ・ゼバと戦い、王者の世代交代を行なう権利を得るための予選『ゲリザギバス・ゲゲル』に挑戦するグロンギ。
そして今、バルバに話しかけられたこの金髪の少女こそ、次のゲームの挑戦者だ。
「ん」
コクリと首を縦に振って、少女は立ち上がる。
美しいその小さな顔は鉄仮面を被っているかのように無表情で、金色の懐中時計を首から垂らし、季節外れの白いワンピースを着た少女はあまりにも儚げで、すぐに消えてしまいそうな、まるで雪のようだった。
「
少女に訊く軍服のような服を着た男――グロンギ最上位集団『ゴ集団』のリーダー、ゴ・ガドル・バ。彼はその少女のことを心配していた。
彼女の実力が自分に匹敵するほど高いことは、遥か古代から知っているから問題はなかった。どんなルールで条件の厳しいゲゲルであったとしても、絶対にやり遂げられると心の底から思っている。だから、彼女の実力に関して全く心配はしていない。しかし……。
その少女は今、1つの疑問を抱いていた。この場の誰も感じたことが無かった、たった1つのとある疑問。彼女はそれを持ってしまった。ただただ強く、何も考えずに作業のように人間を殺してきた過去の彼女はどこかへ行ってしまい、最近の彼女はその疑問の答えを必死で考え、探っている。
「
どういう意図を込めて返したのかが読めない変わらぬ無表情のまま、少女は短く答える。ガドルは目を瞑った。もうなにも言うまいと判断したのだ。
「始めるぞ」
今度は日本語でバルバが宣言すると、黒いニット帽を被った口元を白い布で覆う大男がどこからともなく現れた。
彼はラ・ドルド・グ。ゲリザギバス・ゲゲルにおいて、プレイヤーが殺害した条件に該当する人間の人数をカウントし、他のグロンギたちの行動を監視する役目の男だ。
「1日で999人だ」
少女に最低限のリミットと殺害人数を伝えるバルバ。
999人。
これまで執り行われたゲゲルの中で最も多い人数を殺害するよう、バルバは要求してきた。1日でこの人数だ。それほどまでに難しくしなければ、この少女の手にかかればすぐにゲゲルが終わってしまうということを物語っていた。
「…………」
しかし少女は、バルバが提示した条件に首を横に振る。
「どうした?」
まさか無理と言うのか、という疑問を込めてバルバが問う。しっかりバルバの疑問の理由が伝わったらしく、少女はまた首を横に振った。
「
「……? ならばどうすればいい?」
すぐに終わるか、難しすぎて終わらないとはどういう意味なのか。バルバは解らず僅かに右眉を上げ、問いかける。すると少女は右手の親指以外の4つの指を立てた。
「!」
「!」
「……!」
無言ながらもその綺麗な4本の指だけで、彼女が言おうとしたことがバルバだけでなく、ドルドやガドルにも伝わった。おそらく彼女は、その4倍の人数を要求してきたのだろう。すなわち、3996人だ。
「それは不可能だ」
冷たく返すバルバだが、彼女の言うことは正しい。
ゲリザギバス・ゲゲルの縛りはかなり厳しくなっていて、ただ無差別に殺害すれば良いわけではない。それなりの難しさと条件を兼ね備えたものでなくては成立しないのだ。
しかも、
「
殺害対象を示した金の札を懐から取り出した少女は、ひゅっとそれをドルドに向かって投げた。見事にキャッチして受け取ったドルドはそれを見て、
「なるほど。これは考えたな」
白い布に隠れて見えない口をにやりと吊り上げて、そこに書かれているターゲットを読み上げた。
――To be continued…