仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

14 / 34
こんにちは。

今回はちょっと短いですが、色々なイベントが起こるちょっと重要な回です。
それから、今更気付いてんですが、まだこれ物語の中では始まってたったの3日しか経っていないんですよね……。

お気に入り件数900人突破! 本当にありがとうございます!


第13話 『完成』

 神奈川県横浜市某所。

 とある駐車場のあたり一面、冷たいコンクリートの上にいるのは2種類の人間。

 1つはただ気絶しているだけの人間。致命傷はおろか、一滴の血も流されていなかった。全員、何らかのダメージを受けて気絶してしまっているだけだ。命に別状は全くと言っていいほどない。

 もう1つは対照的に、命に別状がありまくるどころか、逆に亡くなってしまっている人間。全員咽から生えてはいけないものが生えてしまっており、血まみれの顔を絶望と恐怖に彩り、硬直させてしまっていた。

 そんな中、2本足で平然と立っている影があった。

 

「ドルド……私、何人悪いリント、殺した? ゲゲル、成功?」

 

 鈴が鳴るような綺麗で、どこかあどけなさも感じさせる声で姿の見えぬ誰かに話しかけるのは、この地獄のような光景に全くといって似合わない真っ白なワンピース1枚を身に纏った少女。何も知らない人間が、この少女1人でこの光景を作り上げたと聞いたら驚愕するであろう、それほどまでに儚い姿をした金髪の少女だった。

 少女……グロンギ族『ゴ集団』のナンバー2の実力者、ゴ・ユニゴ・ダの問いかけを受け、どこからともなくやってきた巨大な計算機『バグンダダ』を左手に持つニット帽の男、ラ・ドルド・グはカチリと玉を動かし、首を横に振った。

 

「いや……まだ、ゲゲルは終わっていない」

「? 本当? まだ、足りない?」

 

 少し意外そうな顔をしながら、ユニゴは首を傾げた。ドルドの計算技術がずば抜けていて、いつだって適切な数値を弾き出してきたは百も承知であるが、今回の襲撃で終わりにしようと計画し、数えてはいないものの手応えは確かにあったためにどうしても疑問に感じてしまったのだ。

 

「今、仕留めたリントの人数は83人だ」

「……!」

 

 まさかの答えにユニゴは目を少しだけ大きくさせた。

 1台30人ずつ乗せていた護送車。しかし、例外となる護送車が1台だけあったのだ。

 警察が身柄を預かった人数は443人。30人ずつ乗せていくと、余りとして23人が残る。その23人が乗っている護送車をユニゴは襲ってしまったのだ。だから、30+30+23で答えは83人。ユニゴの目標人数の84人には1人だけ足りないという結果が出てしまった。

 まさか、こんなところでミスをするとは。拳を握って悔しそうに歯軋りするユニゴであるが、これは仕方のないことだった。どれが23人しか乗っていない護送車で、それは一体どこに向かっているのかなんてユニゴにはわからないのだから。

 

「時間は……」

 

 金色の懐中時計を開いて時間を確認するユニゴ。時刻は午後5時54分。警察官だけ殺さずに全員気絶させ、逃げていくターゲットを片っ端から全員殺す作業は思った以上に難航し、更に駆けつけた警察の増援のせいで梃子摺(てこず)り、余計に時間が掛かってしまった。残り5分足らずではターゲットを探すのはとてもじゃないが不可能だ。

 パチンと懐中時計を閉じ、ユニゴは深呼吸をする。なんだかんだで、まだゲゲルは3日も猶予があるのだ。獲物1人を殺すのはそう難しいことではない。

 

「わかった。あと1人、見つけ出して仕留める」

 

 ユニゴには1つだけ、当てがあった。確実に1人、殺すことができるであろうそんな当てが。しかも今まで殺してきた人間たちの中に、そいつの顔は一切ない。ターゲットにするには、格好の相手だった。

 

「ターゲット、決まった。私、今から動く。明日の朝、6時。ゲゲルを再開する。ドルド、よろしく」

「……わかった」

 

 軽いやり取りをした2人は、すぐにこの場から立ち去っていった。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 時刻は午後6時12分。一条達が現場に着いたのはこの時間だった。

 怪我人である警察官、全106人は腹部に軽い打撃を受けているだけだったのだが、護送していたターゲットたちはそうは行かなかった。

 既に現場には神奈川県警が現場検証をしており、駐車場のあらゆる場所にブルーシートが何かを隠すように敷かれている。その下に何があるのか、もう言うまでもないだろう。

 

「一条!」

 

 自分がもっと早く気付いていればという憤りと、ゲームを成功させてしまったという悔しさからただ現場に棒立ちするしかなかった一条の元へ、杉田がやってきた。

 

「どうしたんですか?」

「まだ奴のゲームは終わっていねぇぞ!」

「えっ?」

 

 第46号がゲームをクリアしたと思い込んでいた一条にとって、予想外な杉田の言葉。少し戸惑いながら、一条は質問した。

 

「3台の護送車を襲ったということは被害者の人数は90人。奴が獲物を取り逃がすとは考えられませんし、目標は達成したはずでは?」

「いや! それがここにある3台のうちの1台は、23人しか人間を乗せていなかったことがわかった! 奴は今ここで83人しか殺していない!」

「! ということは……!」

「ああ、チャンスだ……チャンスができた!」

 

 不謹慎であるが張り切ったように言う杉田だが、一条もまた喜びを隠せない。完璧だったはずの第46号の計画。それが意外な形で台無しになった。

 残り1人。

 たったの1人であるが、その1人のために第46号は自分から動かなければならない。ならば、それは一条達にチャンスが巡って来たということだ。

 もはやこれだけの殺戮を繰り返されてしまった以上、今自分たちがやるべきことは、なんとしてでも第46号を倒し、被害者と被害者遺族たちに償うこと。そのチャンスが出来た。そう考えれば、大川が考案したこの作戦はある意味成功だったのかもしれない。尤も考案者である大川はたった今、自分たちとは別方向に絶望しているのだが。

 ピリリリリッ、ピリリリリッ。

 

「あっ、失礼」

 

 殺伐としている現場に鳴った、無機質な携帯電話の着信音。一条は杉田に断りを入れてポケットから携帯電話を取り出した。一条は携帯電話をマナーモードにすることが出来ないのだ。

 取り出した携帯電話の画面には『榎田さん』の名前が浮かんでいた。

 

「もしもし?」

『あっ、もしもし一条くん? えっと……ちょっと取り込み中だったかな?』

 

 まんまと第46号の罠に嵌った一条を気遣ってか、電話の向こうにいる榎田は少し申し訳なさそうだった。「いえ、大丈夫です。どうしましたか?」と一条は榎田を促す。

 

『ちょっと遅かったけどさ、タイミングも悪かったって本当に思うけど、すぐにでも一条くんにこのことを伝えたくてね』

 

 「ふぅ」と少しだけ息を吸って、榎田は告げた。

 

『出来たわよ。――「神経断裂弾」が』

 

 榎田は最悪のタイミングと言ったが……一条達にとっては、最高のタイミングだった。

 ついに、グロンギたちに対抗することが出来る兵器、『筋肉弛緩弾』の完成形『神経断裂弾』が開発されたのだった。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 同時刻、関東医大病院。

 まだ7時にもなっていないが、雄介は病室で既に寝てしまっていた。

 身体を動かすことができず絶対安静を余儀なくされ、さらに今回の敵である第46号ことユニゴとの戦いにはどうしても覚悟が決めきれず戦線を離脱した雄介は、せめて次の戦いでは力を発揮できるように、そして何かを待っているかのように静かに眠りについていた。

 そんな彼に付き添うように、椿は雄介の身体に異常がないかどうかを検診していた。

こんこん、がしゃん。

 

「沢渡さん?」

 

 その病室に、一条に続いて2人目の来客が来た。沢渡桜子だ。

 

「ニュースで聞いて、きっとここだと思ったので。……どうですか、五代くん」

「驚異的という以上の奇跡的な回復力です」

 

 持っていたボールペンを白衣の胸ポケットにしまい、パタンと雄介の容態を書き込んでいたファイルを閉じた椿は「心配は要りませんよ」と続けた。

 

「そうだと思っていました」

「え?」

 

 結果を聞くまでもなく雄介の無事を信じていた桜子は軽く笑い、それを聞いた椿は少し間の抜けた返事をしてしまった。てっきり、雄介が心配で、ここに来たと思っていたからだ。

 

「あの、お願いがあるんです。私のって言うより……五代くんのなんですけど……」

 

 桜子は目線を雄介のほうに向け、少し葛藤した後、椿に視線を向けた。

 

「椿さんに、もっと強くなれるようにしてほしいって」

「…………」

 

 その言葉の意味を理解した椿は目を伏せ、そしてゆっくりと振り返ってベッドの上で寝ている雄介を浮かない顔をしながら見た。雄介の寝顔はなぜだろうか、少しだけ期待しているように、笑っているようだった。

 桜子が椿にしたお願い。それは、雄介にもう一度電気ショックを受けさせてくれというものだった。

 未確認生命体第26A号こと、メ・ギノガ・デの毒によって一度心肺を停止した雄介を復活させるために何度も行った電気ショック。クウガの基本4形態に『凄まじき戦士』の中間の強さをプラスされたライジングフォームは、この電気ショックによってもたらされた副産物のようなものであった。

 この形態を30秒しか維持できないことを気にかけていた雄介は、実は桜子や椿にこれまで何度ももう一度電気ショックを受けさせてくれと訴えていた。

 医者として健康な身体に電気ショックを与えることなんて出来ないし、これ以上雄介の身体に負担をかけたら本当にこの笑顔が似合う優しい青年が人間でなくなってしまうようで、椿は彼の頼みを断った。しかし、こうして新たな強敵が現れ、最強の金の赤の力が通用せず傷ついた雄介を見て、椿は悩んでしまう。

 医者として患者である雄介に無理をさせないようにするか、人間として桜子と雄介の願いを叶えるか。椿は窓際まで歩き、外を眺めながら思案する。

 

「椿さんが悩むのはわかります。私だって反対しました」

 

 「でも」と、桜子は続けた。

 

「五代くん、どうしても強くならないとダメみたいで。……五代くん、こんなことを言っていました」

 

 桜子だけに話した雄介の本心からの言葉。椿はそれを聞くために桜子を見た。

 

「みんなの笑顔を見たいから、ただ自分ができるだけの無理をしている。ただ、それだけだよって」

 

 ふっと優しい顔で笑いながら言う桜子。始め雄介に言われたときは、何も自分の身体を犠牲にしてまで強くならなくたっていいじゃないと怒り、呆れていたが、今は違う。あまりに純粋な理由に、雄介らしい理由に反対できなくなってしまい、むしろ戦いで傷ついた雄介を見て応援したくなってしまったのだ。

 一条も桜子も椿も、みんな雄介のことを大切に思っているからこそ、彼に無理をさせたくなかった。だけど、本人は真逆で、みんなのことが大切だからこそ、無理をしたいと願った。そのことに、桜子は気がついた。だから、こうして椿に頼んだのだ。そして……

 

「だったら俺も……ただ、俺ができるだけの無理を……」

 

 椿にも、雄介の気持ちが届いた。もう迷いはなかった。

 自分の手で雄介を強くさせてあげられるなら、医者としては失格であっても、患者に無理を強いらせるような真似をしてしまっても、それが雄介の願いだというのなら叶えよう。

 そこまで覚悟を決めた椿であったが……

 

 ――ピンコーンッ! ピンコーンッ!

 

「!」

「!? なにっ!?」

 

 突然雄介に繋いでいた医療用バイタル測定器が悲鳴を上げる。見ればそこにはさっきまでは通常通り動いていた心臓の鼓動が平坦になってしまっている。

 つまりそれは……雄介の身体が心肺停止状態であることを告げていた。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 それから1時間後。緊急手術は無事成功し、再び例の病室のベッドに雄介は寝かされていた。バイタルも安定し、正常に心臓も動いている。

 

「それじゃあ五代くん、自分で心臓を一度止めてしまったということですか?」

「ええ……。それほどまでして、強くなりたかったんですね」

 

 寝ているはずなのに、まるで図ったかのような心肺停止。それは明らかに雄介の意志が働いていた。もしかしたら、椿が自分のせいで医者としてのプライドを捨ててしまうことが許せなかったからかもしれない。どこまでも他人思いな、優しい男だった。

 そして一条に「休んでいる間に力をつけておく」と雄介が言った意味もわかった。この休んでいるときに電気ショックを受け更なる力を得る、そういうことだったのだ。

 

「それで、身体のほうは?」

 

 自分も雄介を応援しているとはいえ、やっぱり雄介の身体が一番大切だと考えている桜子。手術が成功して、雄介の身体にどんな影響が及ぼされるのかが気になるのだ。

 

「戦いで負った傷は完全に癒えています。ただ、やはりまだ動かせないでしょう。体力はまだ完全には戻っていないはずですから。少なくとも明日になるまでは絶対安静です」

 

 とりあえず、本当に身体機能については大丈夫なことを確認した桜子はほっと一息。しかし、椿は心配そうな顔をしながら本題を切り出した。

 

「私が電気ショックで与えた影響、についてですが……正直なところ、五代にどんな形で反映するのか……私にもわかりません」

「…………」

 

 身体は正常だが、電気ショックによるクウガの能力向上についてはわからない。椿はそう言ったのだ。

 こんな経験、当然椿にとって初めてのものだし、一度目は上手く作用したことが二度目も上手く作用するとは限らない。もしかしたら雷の力が暴走して『凄まじき戦士』になってしまうのかもしれない、そんな可能性だってあるのだ。だが……

 

「不思議なものですね。五代の顔を見ただけで、なぜか安心してしまいます」

「……椿さんもですか?」

「ええ」

 

 軽く笑いあう椿と桜子。

 彼らの視線の先にある雄介の寝顔は……やはり、笑っているように見えた。

 

 

 

 

     ――To be continued…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。