仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

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本編
第1話 『反応』


 12月20日、時刻は午前11時丁度。

 東京都千代田区霞ヶ関、警視庁の会議室。

 現在そこでは、グロンギ族のゲゲルによる大量殺戮を阻止するための対策本部、未確認生命体合同捜査本部が開かれていた。普段は警視庁の小さな視聴覚室に最低限の人数のみでやっているのだが、今回は異例の会議室に構えられ、本庁と所轄、両方の警備部の人間が総動員されていた。

 資料を配るために会議室を走って回る者、そして配られた手元の資料を何度も確認して驚愕の表情に染まる者、怒りに震える者、険しい顔で資料を睨み付ける者などがいるなかで、良い気味だと笑う者までいて、さまざまな意味で会議室は大騒ぎになっていた。

 

「これは……」

「酷ぇ、な……」

「ええ……」

 

 会議室の前のほうの席で資料を読む3人の刑事、一条薫と杉田守道、桜井剛は顔をしかめてその資料を見ていた。

 一条は長野県警警備部の警部補。このグロンギの事件を1から調べている敏腕刑事だ。

 杉田と桜井は本来警視庁捜査一課の刑事であり警備部の人間ではないが、とある事件をきっかけに未確認生命体合同捜査本部に加わり、一条とともに未確認生命体第4号――クウガの全面的なアシスタントと前線部隊を担当している。

 杉田も桜井も捜査一課の刑事、更に階級が警部補ということもあって、良いことなのか悪いことなのかわからないが殺しに関しては慣れてしまっていた。一条もまた、積み重なるグロンギの大量虐殺も割り切っていて、まだ耐えることが出来ていた。だが今回の事件は、今までのどのグロンギの犯行とは比べられないほど凶悪で、しかも刑事としての複雑さを物語らせる内容だった。

 さまざまな思いが交差する会議室に警視庁警備部部長であり、未確認生命体合同捜査本部の本部長も兼ねる男、松倉貞雄が入ってきて前に座る。すると今までの喧騒は何処へ行ったのか、会議室は静寂に包まれた。

 

「諸君、これから合同捜査会議を始める」

 

 開始を告げる松倉の表情は、いつも以上に厳しいものだった。がしかし、やはりこの場にいる捜査官同様、かなり複雑そうな顔だ。

 

「本日午前0時から1時までの間、未確認生命体第46号によると思われる犯行があった。場所は……西多摩刑務所。……そこに拘留されていた囚人――3153名が、一斉に殺害された」

 

 そう。今までこの会議室の中に飛び交っていた喧騒の原因は、真夜中に起こった西多摩刑務所への襲撃事件。新聞にもニュースにも大きく取り上げられており、この事件は世間に広まっている。

 今までのグロンギの事件でも、1体の怪人によって殺される人数は最大でも300人程度だった。なのに、今回の事件の被害者はすでに3000人を越えてしまっていたのだ。しかも狙われたのが基本一般人ではなく、全員一度は犯罪に手を染め、そして自分達警察官が捕まえてきた囚人たちときた。犯罪者は罰を受けるべきという警察官の本能と、自分達が捕まえてしまったばっかりにという人間的な罪悪感などがぐちゃぐちゃになり、何度も言うとおり非常に複雑な心境に陥ってしまっているのだ。

 殺害方法は槍状の凶器を使った刺殺。被害者の咽仏は真正面から完全に砕かれて粉々になってしまっていた挙句、少し高いところに槍ごとに突き刺されていたらしい。一度に3000本以上の槍を生み出す能力と、どう考えても人間の力では不可能なこの犯行を踏まえて、この事件を正式に未確認生命体第46号の犯行と断定した。

 

「目撃者の話によると、未確認生命体第46号の人間態は身長145cmほどの小柄な金髪の女。見た目の年は15歳前後。白いワンピースを着用。さらにその場にいた刑務官たちの話によると、46号は1人ずつ指を差してこう呟いていたらしい」

 

 ――あなた、良いリント、殺さない。

 ――おまえ、悪いリント、殺す、いい。

 

 上は刑務官や用務員、事務課の人間などに言った言葉。下は全て囚人たちに向かって言った言葉だ。ここで言う『リント』とは、人間という意味なのだろう。

 

「今回のターゲットは……東京に収監されている囚人たち、なのでしょうか」

 

 一条が言うと、松倉は「おそらくは」と首を縦に振った。

 

「速やかに東京の他の刑務所、拘置所にいる囚人、さらに念のため少年院の少年たちまで避難を呼び寄せ、都内から移送されたがこれで犯行が止まるとは思えない。目撃情報を取り次第、直ちに出動し、これ以上の被害を拡大させぬよう、全力を尽くしてくれ!」

「「「「「はい!」」」」」

 

 こうして、会議はお開きとなった。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 東京都新宿区、某所。

 時刻は正午12時。1人の少女はそこのオープンカフェに座って、持ち前のノートパソコンを使ってインターネットを見ている。季節外れの真っ白なワンピースのみを身に纏い、カタカタとノートパソコンのキーボードを叩いて何かを検索している少女の姿は妙に幻想的で、現実味が無かった。

 

「順調だな。1日でいきなり3153人か」

 

 バサッと音がしたかと思うと、そんな少女の正面の席に1人のニット帽を被った男が座っていた。

 男……ドルドを見た少女はノートパソコンをパタンと閉じ、コーヒーの入ったカップを持って簡単に返す。

 

「これは、予定通り」

 

 無表情でドルドに返してコーヒーを咀嚼するこの少女こそ、西多摩刑務所を襲撃した未確認生命体第46号だった。ドルドは確かにと思いながら僅かに首を縦に振る。4倍にしろという、バカみたいな少女の提案。そして「すぐに終わってしまうか、難しすぎて終わらない」と言った彼女の言葉の意味が実感できる。あのまま999人でゲゲルをやらせていたら、もうとっくに終わってしまっていたのだ。

 

「だが、リントは馬鹿じゃない。もう刑務所(箱の中)は全て掃除してしまっているだろう」

「わかってる、だから、ここから本番。あれ、ただの点数稼ぎ。東京、標的、まだまだいっぱい、いる」

 

 少女にとって、最初の刑務所襲撃はただのサービスステージ程度にしか思っていなかった。言うとおり、ここからが『ゴ集団』のナンバー2である少女の本領発揮だ。

 

「それに、私の標的、全員逃がすの、無理」

 

 かちゃんと、空っぽになり一滴のコーヒーの雫さえも残っていないコーヒーカップを皿の上に置くと、少女はノートパソコンをバッグの中に入れて立ち上がった。

 

「私、行く」

 

 ドルドに背を向けて店の外へ出ようと歩き出す少女。

 

「……あ」

 

 しかしなにかに気がついたらしくぴたっと立ち止まってドルドの元へ戻り、どこで調達してきたのか、バッグの中の財布に入っていた500円玉を取り出してドルドの前に置いた。

 

「……? なんだ、これは」

「リントの、小判」

 

 これがお金だということはドルドも知っている。問題なのは、何の意図があって自分にこんなものを渡してきたのかだ。

 

「渡さないといけない、らしい。代わりに、渡して」

 

 空になったコーヒーカップを指差しながら、少女は言う。

 

「これ、美味しい。ドルドも飲む、気に入る」

 

 どうやらここのコーヒーが気に入ったようだ。少女は相変わらずの無表情のままだが、少し幸せそうな顔をしている。ちなみに、ここのコーヒーの値段は250円だ。

 首から下げている懐中時計を見て、少女は時間を確認した。

 

「ゲゲル、予定通りの時間、午後1時、開始する」

 

 それだけ言って、今度こそ少女は店から出て行った。

 ちなみにこのあと、ドルドも試しに勧められたコーヒーを飲んでみたのだが、「なんて苦い飲み物なんだ」「こんなもののどこを気に入ったのだ」という感想しか沸かなかった。さらにさらに、会計の際に525円を請求されたときはかなり驚いていた。消費税というものを知らなかったらしい。納得していなさそうな目で店員を見つめながら、ドルドは残りの25円を自分の財布から出していたのだった。

 一方、ドルドと分かれた少女は、新宿の街を歩き回っていた。ふらふらと、少女が眼をつけたいくつかの目的地に向けて静かに歩く。

 そして……獲物を見つけた。

 コンビニ前で、70代ほどの老婆から大きな紙袋を受け取ろうとする、背広を着ている眼鏡をかけた男。

 少女は紙袋を老婆が男に渡す前に近づき、男の利き腕である右腕を掴んだ。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 時刻は午後1時12分。

 新宿区、とあるオフィスビルの4階の1室。

 その部屋のカーテンは閉められていて外の大通りから中の様子を知ることは出来ないが、本来白かったはずのカーテンが何故か、外から見てもわかるように真っ赤に染まっていた。そのビルの真ん前に無数のパトカーと救急車が停まっている。サイレンが奏でる音は大きく騒々しいものであったが、『keep out』のビニールテープの外に集まった野次馬たちの喧騒がそれ以上に騒がしい。

 

「こりゃあ……」

 

 その部屋に先頭に入った杉田が、現場を見て絶句してしまう。その後に入ってきた一条は杉田同様口をぽかんと広げて固まり、桜井は耐え切れずに口元を押さえて出て行ってしまった。それもそのはずである。

 無駄に広い部屋のあっちを見てもこっちを見ても、あるのは死体、死体、死体。喉を貫かれた死体が黒い槍ごと壁に突き刺さっており、腕と脚、そして赤黒い血を力なく垂らしていた。まるで中世ヨーロッパで描かれた絵画の『処刑』のシーンをそのまま再現されたかのような、地獄の光景が目の前に広がっていたのだ。

 

「まるで我々に見せ付けているようですね」

「自分の力をか?」

 

 目を細めて、出来るだけ被害者たちの亡骸を見ないようにしている一条は杉田の返しに小さく首を振った。

 

「いいえ、逆です」

「逆?」

「はい……」

 

 もう慣れてしまったのか、一条は部屋に入って全体を見渡す。その目には、第46号に殺害された被害者たちが映っていた。

 

「この被害者たちを……見せ付けているみたいです」

 

 杉田は一条が言わんとしていることがわかったような気がした。

 確かに派手な方法で殺害しているが、この部屋には死体と血と、第46号が殺害に使用した槍しかない。そしてよくよく部屋と死体を見ると、部屋は槍が刺さっている部分以外に傷は無く、被害者もただただ綺麗に一撃で仕留められている。余計な傷が、どこにも無いのだ。だから、この部屋でまず一番に目を引かれるのは必然的に被害者の死体ということになる。事実、杉田も一条もさっき出て行った桜井も他の警官たちも、この部屋に入って最初に目にしたのは壁に突き刺された死体の群れだった。

 

「でも、一体どうして……奴の狙いは囚人じゃなかったのか……」

「……まだ、わかりません」

「一条さん、杉田さん!」

 

 はっきりとした法則がまだ掴めず部屋の前で呆然としていると、外に出て行った桜井が戻ってきた。

 

「どうした?」

「第46号と同様のものと思われる犯行が、渋谷で起きたとのことです!」

「なにっ!?」

 

 ここの通報があったのが10分前のことなのに、ものの13分で第46号が隣の渋谷に移動してしまったことに一条と杉田が驚く。

 

「私はそっちに向かいます!」

「ああ! 俺と桜井はここに残る! 奴の移動速度は尋常じゃない! またどこかで殺人が起こった時に俺たちが動く!」

「わかりました!」

 

 一条は頷くと、携帯電話を片手に部屋から出て階段を下っていった。

 

「桜井、もう平気か?」

 

 気分を悪くしていた桜井に気遣う杉田。桜井は少し部屋の中を見渡して首を縦に振った。

 

「ん、そっか。じゃあ行くぞ」

「はい!」

 

 杉田と桜井は血みどろの部屋の中に足を踏み入れた。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 東京文京区、喫茶店ポレポレ。

 時刻は午後1時16分。

 お昼時の時間となり、いつものように店が繁盛していて満席状態な店内にて。

 

「はい、今行きます! お兄ちゃん、ポレポレカレー1つね」

 

 そこで手伝いをしている五代みのりが、厨房に立って料理をしている青年に言う。

 

「うん、オッケー! あ、みのり、これ奥のお客さんね!」

「わかった」

 

 ポレポレオムカレーとアイスコーヒーの乗ったお盆を持って、みのりに笑顔で渡す青年。

 この青年は五代雄介。

 みのりの兄にして、遺跡で見つかった古代人の変身ベルト『アークル』を身体の中に取り込み、仮面ライダークウガに変身できる能力を持った心優しい青年だ。冒険家で世界各国を旅していたのだがグロンギ族と戦うために東京に残り、このポレポレに居候してお手伝いをしながら、警察と連携して数々のグロンギたちを倒してゲゲルによる大量殺戮を阻止している。

 ジリリリリッ、ジリリリリッ。

 料理を作っている途中、ポレポレの電話機が鳴った。

 

「お電話ありがとうございます! オリエンタルな味と香りの――あっ、一条さんですか? はい……はい、すぐに! お兄ちゃん、一条さんから!」

「あっ、うん。もしもし、俺です!」

 

 雄介と一条とは何度も一緒にグロンギと戦ってきた戦友であり、親友同士。普段のこの時間、ポレポレのお手伝いをしていることを一条は知っているはずなのだが、それでも電話をかけてくるということの意味を雄介は知っていた。

 雄介は手伝いそっちのけで電話に出る。

 

『五代か! 未確認生命体が行動を開始した!』

「! 刑務所を襲った、第46号ですか!?」

『おそらくだが!』

「場所は!?」

『渋谷のマンションだ! 第46号の行動は掴めていないが、また犯行を繰り返す可能性が高い!』

「わかりました! 俺も向かいます!」

 

 雄介は携帯を切ると、急いでエプロンを脱いだ。

 

「みのり! ごめん、あとは頼む!」

「あっ、う、うん! いってらっしゃい!」

 

 兄の事情を知っているみのりはいつも通りの笑顔で雄介を見送る。その笑顔を見た雄介はみのりに笑顔で彼のトレードマークである親指を立てたサムズアップをして出て行った。

 

「お兄ちゃん、がんばってね」

 

 みのりの声は小さく、おそらく雄介は聞こえていなかっただろう。しかし、そこに篭っていた気持ちはきっと雄介に伝わっている。そう思うだけで、みのりは不思議と雄介に対しての心配事が晴れていくのだ。

 

「すいませーん、アイスコーヒー追加でー!」

「あ、はーい! ただいまー!」

 

 注文を受けたみのりはお手伝いに戻っていった。

 一方、雄介は愛車のビートチェイサー2000で一条の情報をもとに渋谷に向けて走らせていると、

 

『本部から全車! 港区の埠頭近くの倉庫で、未確認生命体第46号と思われる人間態の目撃情報がありました! 確認のため至急現地へ急行してください!』

 

 ビートチェイサーの通信システムからオペレーターの笹山望見の連絡が入る。

 

『五代、聞いたか!?』

「はい! じゃあ俺は港区に向かいます!」

『わかった! 俺もすぐに向かう! 第46号の人間態はわかるか!?』

「はい! 金髪のワンピースを着た女ですよね!」

『そうだ! 目立つ格好をしているから到着すればすぐに気づくと思う! 爆破地点の確保のルートも検索してもらう! 今回の敵は今までの奴以上に凶悪だ! 無理はするな!』

「わかりました!」

 

 ヘルメットに取り付けられているインカムで一条とやりとりをし、雄介は港区に向かった。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 午後1時27分。

 場所は港区、さまざまなコンテナが積み重なる港が近くにあり、貨物船の汽笛が聞こえるとある倉庫内にて。

 

「た、たっ、頼むっ! 殺さないでくれ!」

 

 尻餅をつき、髪の毛をわざとらしい茶色に染めた男が、自分にゆっくりと近づいてくる白のワンピースを着た金髪の少女に訴えるものの、少女は全く興味なさそうな無表情のまま、そのゆっくりとした歩みを止めない。

 腰が抜けてへたりながらも少女から距離を取るために奥へ奥へと逃げていた男だったが、ついに壁に突き当たってしまい逃げ道がなくなってしまった。

 少女は自分を凝視しながら固まっている男の首根っこを掴んで持ち上げる。一体、この細い左腕のどこに、決して身長が低いというわけではない成人の男を持ち上げる力があるのだろうか。

 

「おまえ、悪いリント」

「もっ、もうこんなことしないっ! それに俺はただの受け子なんだっ! 大した金も貰ってない! だ、だから……!」

 

 持ち上げられ、少女の背後の光景――喉を貫かれて壁に突き刺されているかつての仲間たちの死体を見た男は顔を真っ青にさせて少女に助けを請うが、少女はやはり相手にせず、首を静かに横に振るだけだ。

 

「関係、ない。おまえ、ゲゲルの標的」

 

 鈍い光とともに少女の体が変化する。

 成人男性の平均身長以上に急成長したその身体は黒みの強い灰色で、黒いロングスカートを着用し、黒いバックルをベルトのように腰に巻きつけ、胸に当たる膨らみも黒い鎧のようなもので覆っている。目は赤く、鋭く尖った10cmほどの細い円錐状の角が額から1本だけ生えていて、金色の鬣のような長い髪の毛が後頭部から伸びていた。

怪人はスカートに取り付けられている小さな針のような装飾品をバチンと乱暴に外すと、たちまちそれは黒い三叉の長槍に変わった。

 

死ね(ギベ)

 

 容赦なく、ユニコーンの特性を持った怪人は「死にたくない」「助けて」と叫ぶ男の喉仏を長槍で貫き、そのまま脚を宙に浮かせるような位置になるようにコンクリートの壁に突き刺す。自分が最期に見た仲間たちと全く同じように、男は絶命した。

 力が抜け、男がただの人型の肉塊になったことを確認した怪人は、元の小柄な少女の姿に戻る。

 

「……ここまでで、96人か」

 

 手に持つ計算機――バグンダダのカウンターを動かし、倉庫の中を見渡して数えながら、ニット帽をかぶった大男は少女に言う。この倉庫内には、先ほど殺した男と同じ方法で殺した人間の死体が21人いるだけで、もう少女の標的(生きた人間)は1人もいない。

 少女は金色の懐中時計を見ながら言う。

 

「あと1つか2つ、向かう。ドルド、もう少しだけ、付き合って」

「……そうか」

 

 次の目的地へ行くために、少女が倉庫から出ようと出口に向かう……と。

 ブォンッブォンッブォォォォオオオオオン、キキーッ!

 その倉庫の中に、1台のバイクが入ってきた。少女は「?」とそのバイクを見て首を傾げる。

 バイクに乗っていた青年はヘルメットを取り外すと驚いたようにあたりを見渡して少しだけ顔を青褪めさせ……少女と大男の姿を確認すると、その力強い瞳を少女たちに向けた。

 

「君が……第46号か!?」

 

 第46号。

 その言葉を聞いた少女は、ぱちんと懐中時計の蓋を閉めてこくりと素直に頷いた。

 

「私、未確認生命体、第46号。ゴ・ユニゴ・ダ。これ、私の名前」

 

 右掌を胸元に当てて自己紹介。すると青年は戸惑ったような顔をした後、再び力強い眼光を少女に向ける。それを見た少女は感じた。

 この人間は今まで私が殺してきた人間とは違う。とても優しくて、強くて、自分の欲とか損得とかそんなものを全く気にしない、関係ない。裏表がなく、周りの人を元気にさせるような人間だと。

 

「あなた、悪いリント、違う。とても良いリント。標的、違う」

 

 純粋な少女の曇りのない透き通った目は、あの青年を瞬時にそう判断した。しかも少女自身、気がついていないが、どこかであの青年に興味を抱き始めていた。

 

「あなた、帰る。私、良いリント、殺さない、絶対に」

「……!」

 

 その言葉を聞いた時、青年……五代雄介は再び目の前にいる存在がグロンギの怪人なのかと、こんな残酷なことをするような奴なのかと、あんな儚い少女が本当に3000人以上の人間を殺した46号なのかと疑ってしまった。自分の抱いていたイメージとぜんぜん違っていたからだ。

 

「私まだ、ゲゲル、途中。それじゃあ」

 

 移動を再開する少女。雄介は焦りだした。

 彼女は言った。ゲゲル……つまり、ゲームの途中であると。3000人以上の人間を殺しておいて、まだ殺戮を繰り返すと言ったのだ。流石にそれは阻止しなければならない。腰の辺りに両手を添えてアークルを出現させ、戦う覚悟を決めるためのポーズをとり……、

 

「変身ッ!」

 

 アークルの左腰あたりを押して叫ぶと、赤い光が彼の身体を包み込み……雄介は仮面ライダークウガに変身して構えを取った。

 

「クウガ……?」

 

 首を傾げる少女は怪人体に変身しようとしない。

 クウガはそれに関係なく、さらに赤のマイティフォームから紫のタイタンフォームに超変身して近くにあった鉄パイプをタイタンソードに変えて少女に斬りかかった。しかし……。

 タイタンソードが少女に当たる瞬間に少女の左手がタイタンソードを掴み取り、威力を完全に殺してしまう。それどころか「えい」と少しその手に彼女が力を入れて捻っただけで、パキンと軽く高い音と共にタイタンソードがあっさり壊れてしまった。

 

「!?」

 

 まだ怪人になっていないにも関わらず、タイタンソードを涼しい顔でへし折られてしまい、クウガは驚きながら飛び退く。少女の反撃がくると思ったからだ。

 

「クウガ、無理。それ、私、倒せない」

 

 少女は反撃どころか怪人体にもならずに、首を横に振りながらクウガに言う。最初からクウガとの戦いには興味がなかったらしい。少女はクウガから目線を離して金の懐中時計を見ていた。

 

「クウガ、お別れ。でも後で、また会いたい。3時、上野の公園。待ってる」

 

 途端、少女の身体から真っ白な光が放たれ、クウガの視界を遮る。光が止んだときには、すでに少女の姿はどこにもなかった。ドルドと呼ばれていたニット帽を深く被ってた大男も、いつの間にかいなくなってしまっている。

 クウガ……雄介は、数分後に一条が合流するまで呆然と倉庫の中に立ちすくんでいた。

 

 

 

 

     ――To be continued…


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