仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

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こんにちは。

朝、ふらっとランキングを見てみたら……なんか1位にランクイン!? 感激です! ありがとうございます!
さて、また今回、ユニゴは新しい経験をします。人間と関わることでどんどん変わっていくユニゴ。その先にあるのは……


第21話 『拘束』

 時刻は少し遡り、午後2時31分。

 セントラルアリーナにて。一条は新型神経断裂弾が込められたライフル銃を構えながら、館内を捜索していた。

 充分に戦える武器ができた今、一条は雄介に護られずとも未確認に対抗することができる。だから、より早く敵を見つけられるように、二手に分かれて捜索することに決めたのだ。

 そうして捜索すること数分。一条はアリーナのスタジアムに訪れた。普段は大勢の人たちが大きな声で喝采を上げているだろう観客席には誰1人として座っておらず、不気味に思えるくらいに静まり返っている。

 

「…………」

 

 いつ襲い掛かれても対応できるようにライフルをしっかりと構えて、一条はゆっくりと歩き出す。この観客席全体を徘徊し、潜伏していないかどうかを確かめるためだ。周囲を警戒し、スタジアム内のあちこちを見渡しながらゆっくりと脚を前に運ぶ一条。丁度、彼が入ってきた入り口とは別の入り口付近まで差し掛かった――その瞬間。

 

「……フンッ!」

「!? うわっ!」

 

 突然、一条の前に男性警察官ばかりを殺害していた未確認生命体第47号が姿を現す。観客席の陰に隠れて、ずっと襲う機会を伺っていたのだ。

 いくら警戒していたとはいえ、至近距離での強襲は流石に対応ができなかった一条。しかし防衛本能が働いたのか、咄嗟に腕をあげて顔を護ったのが功を奏した。そのおかげで一条は47号のパンチを顔で受けずに済んだのだ。といっても、第47号のパンチの威力は完全に相殺することなどできず、一条はバランスを崩してスタジアムの階段を背中から転げ落ちてしまう。

 

「……っ」

 

 階段から転げ落ち、腰に強い痛みを感じる一条だがすぐに第47号を視界に捉え、なんとか立ち上がってライフルを両手に構え……バシュッ! 第47号目掛けて、ライフルの引き金を引いた。

 飛び出した弾丸は第47号の胸に直撃し、大きな火花を上げる。

 

「……ぐっ!?」

 

 ボンッ、ボンッボンッと、被弾した胸の辺りから鈍い爆発音をあげる第47号。新型の神経断裂弾が第47号の体内で連鎖的な爆発を引き起こし、彼を苦しめているのだ。

 爆発音がするたびに第47号は身体を跳ねらせ……ドシャンッ。その巨体は一条の前で力なく倒れてしまった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 死んだのか、ただ気絶しているだけなのかは一条にはわからなかったが、とりあえずしばらくの間は大丈夫だということはわかった。それに、ここは音が響きやすい。きっとしばらくしたら、銃声を聞いた雄介が来るだろう。

 ホッと一息している一条。しかし、雄介が来る前に、別の人物が一条の前に現れた。

 

「……B1号……っ!」

 

 カツン、カツンとハイヒールの音と共に姿を見せたのは、過去何回も一条が遭遇している謎の未確認生命体、B1号だった。額にある白きバラのタトゥが化粧のせいか、どこか輝いているようにも見える。2人の距離はおおよそ15m。近いようで、遠い距離だった。

 

「リントもやがて、我々と等しくなりそうだな。そして……我々の中にもまた、リントと等しくなろうとしている者がいる」

 

 一条と倒れている第47号を交互に見て、そして、何かを感じたように遥か遠くに視線を移したB1号。一条は彼女の言っている言葉の意味がわからず、どういう意味だとB1号に視線で問いかけた。ほんの数秒間、無言の視線をぶつけ合う2人。

 

「…………」

 

 先に動いたのは……一条だった。両手に持つライフルのスコープでB1号に標準を定めようと、集中する。……自分の足元で倒れている第47号が、少し動いたことなど気が付くこともなく。

 B1号は何を思ったか、唇を少し吊り上げて薄い笑みを浮かべる。余裕そうな表情に、少しだけ頭に血が上る一条。もう一条は、B1号しか見えていなかった。

 薄ら笑いを止めたB1号はいつも通りの無表情に戻り、スタジアムの出口に向かって歩き始める。立ち去ろうとするB1号だが、一条は完全に彼女を捉えていた。あとは引き金を引けば――。

 

「フゥンッ!」

「なっ!?」

 

 今まさに、B1号に新型神経断裂弾を喰らわせようとした一条だったが、それは突然起き上がった第47号によって阻まれる。一条が両手に持っていたライフルを第47号がしっかりと掴み、その怪力で一条から取り上げて、明後日の方向に投げ捨ててしまった。

 獲物を取り上げられた一条は、もはや第47号への対抗手段がない。首を掴まれ、スタジアムの手摺りに押し付けられた。苦しそうにもがく一条の視線にあったのは、このスタジアムからすぅっと立ち去っていくB1号の後ろ姿。逃がすかと手をB1号のほうへ伸ばすが、当然それでB1号を捕まえられるわけがない。

 第47号はそんな一条の顔を、思い切り殴りつけた。とんでもない衝撃が一条の顔面を襲い、一条は観客席からスタジアムに吹き飛ばされてしまう。

 

「がっはぁっ!」

 

 叩き付けられたあと、勢いでスタジアムに一回転してしまう一条。第47号によって受けた顔へのダメージと、叩き付けられた際の腰と背中へのダメージが同時に襲い掛かり、一条は苦悶の表情を浮かべてのたうつ。

 第47号もまた観客席からスタジアムに飛び降りて着地。倒れている一条を視界に捉えると、その真っ赤な双眸を紫色に変色させ、胸の装飾品を引き千切ってそれを『ガドルソード』に再構築した。

 

「くっ……」

 

 禍々しい剣を持って自分に近づいてくる第47号。それを見た一条は恐怖に顔を青くし、どうにか逃げようと身体を後ろへ後ろへと動かす。が、当然それでは敵との距離が離れるどころか、その距離を維持することすらできない。

 どんどん近づいてくる死への恐怖に、目を瞑ってしまう一条。

 

「一条さんっ!」

 

 と、そのとき。一条の耳に、あの男の声が届く。第47号の耳にもその声がしっかりと聞こえたらしく、2人して、その声がした方向を見る。スタジアムの入り口……第47号が潜伏していた扉のところに立っていたのは1人の青年。視線を一条から第47号へと移し、戦う覚悟を決めるポーズをした後……。

 

「変身!」

 

 と叫び、その姿を変えていく。足元から腰へ、腰から胸へ、胸から頭へとどんどんその姿を別のものに作り変えていき……やがて、金のボディラインが入った青き戦士の姿となる。

 

「……クウガ」

 

 その名を、第47号……『ゴ集団』のリーダー、ゴ・ガドル・バが呟いた。

 ライジングドラゴンフォームへと変身した青年、五代雄介は、入り口に置いてあった誰かが置き忘れたのだろうビニール傘を手に取り、それを専用武器であるライジングドラゴンロッドへと変える。獲物を手にした雄介は持ち前の跳躍力を使って一気にスタジアムまで降り立ち、すぐに身体を捻ってライジングドラゴンロッドを振り回し、一条に迫っていたガドルに勢いよくぶつけた。飛び降りてきてからの打撃という、流水の如く素早い攻撃。自分より下のユニゴを倒せなかった彼に少し油断していたガドルは何も構えを取っておらず、もろにその攻撃を受けて、後方に突き飛ばされてしまった。

 

「五代……」

「すいません、一条さん! 遅れました!」

 

 ガドルを吹き飛ばした雄介は、一条に振り返って謝る。一条は「大丈夫だ」と、少しふらつきながらも立ち上がってベージュ色のコートを直した。

 

「すぐにビートチェイサーを持ってくる! それまでなんとか、耐えていてくれ!」

「はい! お願いします!」

 

 互いに小さく頷きあい、雄介ことクウガは吹き飛ばしたガドルのほうへ、一条はアリーナの地下駐車場ほうへそれぞれ走って行った。クウガとガドルの戦いも、決着のときは近い。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

「お兄ちゃんはね……」

 

 時はさらに遡り、午後2時16分。

 文京区の喫茶ポレポレにて、こちらでも1体のグロンギ族と『五代』の苗字を持った人間が向き合っていた。しかしこちらは、ガドルと雄介のように殺意と敵意に満ちた剣呑な雰囲気ではなく、どちらかと言えば和やかな雰囲気だった。それでも、真剣なものには変わりはないのだが。

 未確認生命体第46号、ラ・ユニゴ・ダは真剣な、そして興味津々な視線を目の前にいる五代雄介の妹、五代みのりに向けて注目していた。

 クウガ……五代雄介が一体どんな人間なのか。それを知るために、きっと雄介のことを誰よりも知っていると思われるみのりに尋ねた。そして、みのりもそれに応じて、この未確認生命体の少女に雄介がどんな人間なのかを今から教えようとしているのだ。

 

「……冒険家なんだよ」

「冒険家?」

 

 まず、最初に出したのが雄介の職業だった。彼の性格を語るなら、まずこれを教えたほうがこれからの話が円滑になると思ったからだ。

 

「そっ。冒険家。わかる……かな? 世界中をただただ自由に渡り歩いて、そして色んなところへ冒険しに行く人のこと。それが冒険家」

「自由に……冒険……」

「うん。そのせいであんまり家に帰ってこないんだけどね」

「……そう」

 

 ギリッと歯を噛み締めるユニゴ。何かに対して怒りを感じているようだが、少なくともみのりに対しての怒りではなかった。段々とユニゴの性格がわかってきたみのりもそのことを察しているようで、特に怖がることもなく続けた。

 

「お兄ちゃんってね、自分の笑顔で人を元気にさせるのが得意なんだ。泣いている人や困っている人がいたら放っておけなくて、すぐに話しかけちゃって、そして最後には笑顔にさせちゃう」

「……それは、なんとなくわかる」

 

 戦いで傷ついて、倒れてしまった自分にすら、雄介は手を差し伸べようとしてきた。何も考えないで、後先自分がどうなるかを考えずに、雄介は真っ先に自分のことを優先してくれた。上野恩賜公園で自分の身体の中に爆弾があると話したときも、「止める手段はないの?」と訊いてきてくれたくらいだ。

 

「でもね……お兄ちゃん、1つだけ。たった1つだけ、どうしてもやりたくないことがあるんだ」

「どうしても……やりたくないこと?」

「うん……」

 

 みのりは、少しだけ胸が痛んだ。今から自分が言うことが、ユニゴに対してどれだけ残酷なことなのかがわかっているからだ。だけど、この未確認の少女は本気で、自分の兄について知りたがっている。自分の今までやってきた行動を全否定してまで、かつての仲間を敵に回してまで、勇気を出して前に進もうとしているのだ。そんな彼女に隠し事はしちゃいけない。自分の兄のことを知りたいと言って、自分はそれを了承したのだから、知っている範囲ならなんでも話さないといけない。

 だから……みのりは重い口を開いた。

 

 

「どんな理由でも……暴力を振るうこと。それで、ひとを傷つけること。お兄ちゃんは、それをきっと世界中の誰よりも、嫌っているんだ」

 

 

「っ!」

 

 ビクッ。ユニゴの肩が震えた。エメラルドグリーンの瞳を最大限まで見開かせ、喉はカラカラに渇き、心臓の鼓動が早くなる。額からも冷たい汗が滲み出ていた。

 クウガが……雄介が凄く優しい人間だということは理解していたはずだった。人間だろうがグロンギだろうが、分け隔てなく接してくれるほど、強く、優しい人間だと、充分に理解していたはずだった。だけど……それでもまだ、自分の認識が甘かったことを思い知る。

 今までクウガとなって自分たちグロンギ族と戦い、そして殺してきた(・・・・・)青年がまさか、誰よりも争いごとを嫌い、拳を振ることすら躊躇ってしまうような人間だったなんて、思いもしなかった。予想もしていなかった。

 

 ――私たち、リントとクウガに殺される。これ、普通。リントとクウガ、私たち殺す。これ、良いこと。なのに、私たち、リント殺す。これ、どうしてダメ? わからない。

 ――リント殺す、リント悲しむ。私たち殺す、リント喜ぶ。私たち殺される、リント殺す、私たち何も感じない。わからない。どうして?

 

 なんて質問をあのときしてしまったんだろう。ユニゴは後悔し、俯いた。自分たちにとって普通のことだった『クウガに殺されること』。そして自分たちが死ねば『人間は喜ぶ』という勝手な認識。とんでもない。その自分たちに手を下している張本人は、ちっとも自分たちを殺すことを当たり前と思っていない。自分たちが死んでも、心の底から喜んでくれていない。むしろ……誰よりも苦しんでいた。苦しんでくれていたのだ。

 ギリッ……ギリリッ……。噛み締めていた歯はさらにその力が入り、拳は骨と血管が浮き出るほどに固く握り締められて少し震えていた。

 

「でもね。それでもお兄ちゃんは、戦っているんだ。みんなが笑顔になれるなら、自分にできるだけの無理をしてでも戦うって」

 

 赤の他人であっても、涙を見るくらいなら笑顔を見たほうがまし。例えそれをするために自分が傷つくとしても、できる範囲だったらやる。それが、五代雄介なのだ。ようやくわかった。クウガが……雄介が、どんな人間なのかを。

 

「……そっか。ありがとう、みのり。教えて……くれて……」

 

 目的を達成できたユニゴは俯かせていた顔をあげて、みのりにお礼を言う。そのユニゴの顔を見たみのりは……驚いた。

 

「ユニゴちゃん、泣いて……」

「え……?」

 

 みのりに言われ、ようやく自分の頬に何かの液体が伝っていることに気がついたユニゴ。

 

「あれ……あれ……?」

 

 まったくその原因がわからず、ユニゴはその液体の出所を探る。頬にあった右手は少しずつ上がっていき……やがて、自分の目までそれが到達したところで止まった。液体の出所は自分の目だった。

 

「どう……して……私、初めて……」

「……!」

 

 本当にわからなさそうに呟き、両手で目を擦りながら首を傾げるユニゴを見て、今度はみのりのほうが驚いてしまった。

 なんとこの少女は、今の今まで物心がついてから泣いたことが一度もなかったのだ。戦闘民族であるグロンギ族に生まれたユニゴは、泣きたくても泣くことができなかった。涙を流す暇も余裕も、全くと言っていいほどなかったからだ。生きるために必死で、ユニゴは生まれたそのときから今日まで泣くことはなかったのだ。

 

「どうして……私、泣いてる?……わからない」

「ユニゴちゃん……!」

 

 ユニゴの事情は詳しく知らない。だけどみのりは、どんな場所に彼女がいたのかだけはわかった。彼女は保育士なのだ。専門学校で子供について勉強したみのりには、ユニゴの気持ちがわかっていた。それはそれは痛いほどに。だから……ユニゴの身体を自分のほうに引っ張って、思い切り抱きしめた。

 

「な、なに? みのり、どうしたの?」

 

 突然自分を抱き寄せたみのりに、泣いていた理由がわからず困惑していたユニゴは更に困惑した。だけどなぜだろうか。ユニゴは嫌とは思わず、むしろ心地良いと感じた。抱きしめているみのりの体温は程よく温かく、自分を支えてくれている左手は力が篭っているものの痛くなく、頭を撫でてくれている右手は優しく、気持ちの良いものだった。

 

「ユニゴちゃん……いいんだよ? 泣いても」

「……どうして? どうして泣いても、いいの? どうして、私……泣いているの?」

「いいよ。どうして泣いていいのかなんて、どうして泣いているのかなんて、そんなこと、今は考えなくていいんだよ」

「……どうして? どうして考えなくて、いいの?」

「理由なんて、泣いた後に考えればいいじゃない。泣けるときに目一杯泣いて、その後に、どうして泣いたのかを考えればいいんだよ。無理に感情を抑え付けちゃ、ユニゴちゃん、()たないよ」

 

 今までなにかをするときは絶対に、そのなにかについて十二分に考えていたユニゴ。理由なくなにかをすることは今まで一度もなかった。毎日が戦争だったグロンギ族の生活は、なにか理由がないとなにもできない。全員が全員、力があるゆえに簡単に身内を裏切ることもできたからだ。だから必ず、なにか行動を起こすにはそれなりの理由と言い訳を用意しなければいけなかった。そういう環境に、ユニゴはずっと居たのだ。

 

「……いいの? なにも考えないで……本当に、いいの?」

「うん。いいんだよ、ユニゴちゃん。おいで」

「……っ」

 

 「おいで」。その言葉で、ユニゴの中のなにかが崩れた。

 無意識の内に、からっぽだった両手がみのりの背中を握って、抱きつくように身体を彼女に預けたユニゴ。ただでさえ、止まらなかったユニゴの涙は僅かに勢いが上がる。

 

「う……ふぇ……」

 

 ビクリッ、ビクリッと肩を跳ねらせ、嗚咽まで漏らし始めた。

 ずっとずっと、理由ばかりを考えて未来を見据えるあまり、今この瞬間を見ることができなかった彼女にとって、なにも考えずに今をこうして自由に行動することがどれだけ憧れていたことだったか。そして、それを実現してどれだけ嬉しかったか。先程の涙とは別に、溢れ出てしまった感情。そして……もう1つ、更に別の理由から溢れてきた涙。それは、ユニゴの中にあったグロンギ族の拘束を解くには充分すぎた。

 

「ごめんな……さい。ごめんなさい……」

 

 決して泣き叫ぶことはなかったが、静かに誰かに対して謝りながら大量の涙を流すユニゴ。しばらくの間、そんな彼女の頭をみのりは撫で続けた。

 

 

 

 

     ――To be continued…


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