仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

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はい、こんにちは。

前回は誤字脱字がいつも以上に酷くて大変申し訳ございませんでした。やっぱり深夜に書くもんじゃないですね。


第26話 『聖戦』

 時刻は遡って午後3時24分。

 文京区、喫茶ポレポレ。

 神崎、榎田、椿の元へ挨拶に回ってきた雄介は、次にここに立ち寄った。

 

「バカだねぇおまえは。こんな雨の中、栃木だ千葉だって」

「いいやないか、ほっと一息ついているんやからさ。ねぇ、五代さん」

「はい」

 

 雄介、玉三郎、奈々の3人は温かいコーヒーを飲んで一息。さっきまでタオルで身体を拭いていた雄介を玉三郎は笑った。なにか吹っ切れたような顔をして出て行ったと思えば、びしょ濡れで帰ってきて、しかも栃木に行って千葉に行ってまた東京に戻ってきてと、6時間もかけて回ってくるなんて思ってもいなかったからだ。

 

「俺の予想じゃね、もうじきくしゃみが出るよ。……へっくしゅん!」

「! き、汚いなぁ……」

「……な?」

「『な?』って、おやっさんこそ気を付けてくださいよ。俺は、ねぇ? 一応冒険で慣れているから、ま――くしゅん!」

 

 玉三郎の予言が的中してしまい、本当にくしゃみをしてしまった雄介。3人は思わず、笑ってしまった。そして雄介はコーヒーを飲み干して、隣の席に置いてあったヘルメットを持って立ち上がる。

 

「よし、ご馳走様! 奈々ちゃん、おかげで温まったよ」

「いいえ」

「じゃあ俺はまた、続き行ってきます!」

「どこへですか?」

「うーん……色々回って、この未確認の戦いを終わらせて、そのまま冒険に行こうかなって」

「冒険って……! てか戦いを終わらせるって!」

 

 色々と唐突な雄介のセリフに驚いた奈々は、カウンターから飛び出して雄介の元へ駆け寄る。玉三郎もまさか、このタイミングで雄介が冒険に出るとは思わず驚いた。

 

「冒険って、今からか? それに、もう未確認とは決着をつけられるのか?」

「はい。今日中で、全てに決着をつけますので、そのまま」

「また……随分と急だな。もう少しゆっくりしていても良いのに……」

「すいません。でもやっと、そんな感じになったんで」

「……うん。いい顔してる」

 

 雄介の顔を見て、余計な感情が含まれていないことを確認できた玉三郎は、笑顔で「行ってこい」と後押し。

 

「本当にありがとうございました。奈々ちゃんも、本当どうもありがとうね。お芝居、頑張ってね」

 

 グッと奈々にサムズアップをする雄介。彼についての心配もしていた奈々だが、もう1つ別のことも心配していた。

 

「五代さん! あの……その、ユニゴちゃんは……」

 

 未確認と決着をつける。雄介はそう言った。ということは、だ。当然なにかしらの形であの未確認の少女――ラ・ユニゴ・ダが絡んでくるということだ。雄介が今まで未確認生命体と戦ってきた未確認生命体第4号であることは、昨日のユニゴとみのりの会話で知っている。だから、決着をつけると言った雄介が人間の心を理解したユニゴをどうするのか、奈々は気になってしまったのだ。

 殺してしまうのか。でも雄介に限って、そんなことをするとは思えない。なら、生かしておくのか。だったらユニゴはこれからどうやって生きていくのか。彼女の顔は世間に知られている。発見され次第、警察に通報されてしまうだろう。昨日の新聞に、警察が未確認生命体第48号を倒す武器を開発したと堂々と一面に載った。そんなものを使われてしまったら……間違いなく彼女は死んでしまう。

 

「……実はさ、俺。ユニゴに頼まれていることがあるんだ」

「え……?」

「俺にしか出来ない、とっても大切な願い事をしてきたんだ。だから……俺は、ユニゴの願いを叶えたいと思っているよ。それがきっと……ユニゴにとって、幸せなことだと思うから……」

 

 笑う雄介。……きっと彼が言っていることは嘘ではないのだろう、奈々はすぐに察した。「じゃあなんで、そんな風に笑うの?」と思ってしまうが、口に出すのはやめた。雄介が決めたことだし、その願いは雄介にしか叶えられないと言っている。第三者の自分が口にすべきではないと感じて、踏みとどまったのだ。願いの内容を聞くのもやめた。もし無理に聞き出して、雄介の決心を揺らしてしまったら、それこそユニゴが不幸になる。その願いが叶うことによってユニゴが幸せになれるのならそれでいい。奈々はそう思った。

 

「そう、ですか。じゃあその願い、叶えてあげてくださいね!」

 

 奈々はグッと、笑顔を浮かべて雄介に返した。彼の決心を揺らさぬように、笑顔で応援すること。それが今自分にできることだと信じて。そしてそれは……正解だった。

 雄介もまた、笑顔に戻ってサムズアップ。「うん! 絶対にね!」と返して、玉三郎にもサムズアップをする。

 

「おやっさんも店、頑張ってくださいよ!」

「おうよ! ほら、とっとと行ってこい!」

「はい!」

 

 玉三郎にサムズアップを返された雄介は、ヘルメットを被りながら土砂降りの雨の中へ走っていった。

 

「……五代さん、きっと大丈夫だよね、おっちゃん」

「ああ。あいつはもう、迷いはしないよ」

「……この雨、早く止むと良いね」

「ああ。そうだな」

 

 冒険に出るときは、青い空の下でここを去ってほしい。それが玉三郎と奈々の願いだった。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 豊島区内、わかば保育園。

 時刻は午後4時37分。

 5番目に雄介が訪れたのは、妹のみのりが働いているこの保育園だった。

 

「よし、これで全員か? 居ない子の分もあるよな?」

『あるー!』

 

 手作りの御守りを全員分作った雄介が確認すると、今保育園にいる6人の園児たちが元気良く返事をした。

 

「よし、じゃあ俺は、みんなが作ってくれたこれを持って、ちょっと冒険に行ってくるな?」

「どこ行くの?」

「ん? そうだなぁ……。どこまでもどこまでも、青い空があるところ」

「僕だって見たい!」

「見られるさ」

「でも……」

 

 ふっと外を見る子供たち。その目に映っていたのは決して青い空などではなく、灰色の雲がかかり、涙を流している暗い空だった。

 

「この雨だって絶対やむさ! そしたら青空になる。今だって、この雨を降らせている雲の上には、どこまでも青空が広がっているんだ」

 

 そんなことは、みんなわかっている。最近の子供は進んでいるのだ。問題なのは……子供たちにとって、青空のような存在だった優しいお兄さんである雄介がどこかに行ってしまうこと。それがイヤだったのだ。もし今、雄介がどこかへ行ってしまえば、この土砂降りの雨がいつまで経ってもやまないような気がして……。

 

「雄介行っちゃうのヤダ……」

 

 だから、寂しそうな声でこんな可愛い我儘を言ってしまうのも当然だった。それほどまでに、子供たちにとって雄介は大きな存在になっていたのだ。

 「先生、イヤだって言われちゃいました」と、雄介は静かに見守っていたみのりに呼びかける。小さく笑ったみのりは、イヤだと言った子供の元により取って方に手を置く。

 

「みのり先生が、その分頑張るから。笑顔でバイバイしよ?」

「……うん」

 

 雄介と同じくらい好きな先生(みのり)にこう諭されてしまっては、もうなにも言えなかった。我儘を言って、雄介や先生を困らしたくない。じゃあ、先生の言うとおりに笑顔で別れたほうがいい。子供というのは、大人の反応に敏感なのだ。親しければ親しいほど、より顕著に。充分に意味がわからなくても、自分が今どうすればいいのかはわかる。

 

「よし、じゃあな。みんな元気で、頑張れよ?」

 

 雄介がサムズアップを決めると……それに呼応して、今ここにいる6人の子供たちとみのりがサムズアップを返した。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

「やっぱり来たんだね」

 

 時刻は午後5時。

 長野県、吹雪舞う九郎ヶ岳遺跡頂上。

 真っ白な服を着た青年が、自分と対峙するかのように立つ真っ白なワンピースを着ている少女に笑顔で言う。その無邪気な笑顔は本当に嬉しそうで、本当に楽しそうで、本当に面白そうで……そして、本当に狂ってしまっていた。

 少女のほうはというと、その無表情を保ったまま青年を睨みつけていた。その視線は鋭く、これ以上にもない敵意と殺意を放っていた。

 

「私には……やらないといけないことがある。――おまえは邪魔」

 

 少女の話を聞いて、青年は愉快なものを見るように嗤った。いい。それでいい。その敵意が、殺意が、自分を楽しませる。果たしてどのようにして殺してやろうか、どのようにして死んでくれるのか、自分をどう殺してくれるのか。色々考えるだけで、青年は狂気に染まった笑顔をより一層深めていく。

 唇を吊り上げた青年は右腕をゆっくりと上げ、バチンと指を鳴らした。

 

「さぁ……始めよう――ザギバス・ゲゲルを」

 

 真っ白な青年が宣言した途端、2人の身体は見る見るうちにその姿を変えて行く。

 少女――ラ・ユニゴ・ダはいきなり剛力体に変身。額から生えている3つの円錐状の角と紫の瞳、腕・肩・胸には格闘体以上に強固で厚い装甲を纏い、長く黒いロングスカートが吹雪に揺れる。

 一方の青年――ン・ダグバ・ゼバは、彼女とは真逆の格好をしていた。王冠のような4つの金色の角、目の色は真っ黒であるが全身は真っ白であり、金色のバックルに金色の装飾品と、身体の至る所に金をあつらえた、まさに、王者の風貌をした純白の存在となっていた。

 ダグバは人差し指を離れているユニゴに向ける……と。途端、ユニゴの身体が燃え出した。彼女の服や装甲・体表に発火したのではない。彼女の身体の中から炎が燃え上がったのだ。

 超自然発火能力。本来クウガや他のグロンギにも持っている物質の原子・分子を分解・再構築することができる力――手に持ったものを剣や槍などの武器に変える力――通称『モーフィングパワー』と呼ばれるものを極限まで高めた結果習得したダグバの特殊能力であり、どんなに離れていても物質ならば直接触れなくともその効果は表れる。これはその能力の応用だ。

 原子と分子を操り、再構築して物質をプラズマ化し、標的を体内から直接焼き尽くす。6000度以上の高熱で原子間結合をなくして分解し、その状態で10万度以上まで加熱することでプラズマを発生させる。この一連の処理を、ダグバは1秒もかけずに行っているのだ。

 

「うっ、あっ……フンッ」

 

 苦しそうな声を上げるも、自身の身体から湧き上がる炎に耐えるユニゴ。とんでもないじゃすまないレベルの高熱が襲うが、彼女の身体の耐久・再生能力はゴ集団トップの性能。当然、熱に対しても耐性はある。伊達にクウガの必殺技を全て無力化し、人間態の状態で受けた神経断裂弾4発を耐え抜いてきたわけではないのだ。ダメージは受けるがそれは僅かな間だけで少し経てば炎は鎮火し、身体は元の状態に戻る。そして超高速で、身体に抗体が作られていく。

 それを見たダグバは楽しそうな笑い声を上げた。

 

「いいね。やっぱり君は、僕が見込んだとおりだよ」

 

 心底戦いを楽しみ、殺すこと、殺されることを至福としているダグバにとって、この戦いはやはりゲームに過ぎないのだ。どれだけ自分の攻撃に耐え抜き、そして自分にどれだけダメージを与えられるか。それにしかダグバは興味がない。超自然発火能力だって、ダグバにとってはただの挨拶代わり。いわば、手抜き(・・・)なのだ。

 あははと愉快そうに笑うダグバに、ユニゴはギリッと歯を噛み締める。

 

「やっぱり……おまえをクウガとは戦わせないッ!」

 

 力を込めるユニゴ。パリッパリッと身体に電流を纏わせ、瞳の色が紫から金色へ変えると……彼女の姿が変化していく。額から生えていた円錐状の黒い3本角はまるで雷のような形になって金色に光り、真っ黒で若干の厚みがあった装甲は、『俊敏体』のときように必要最低限の場所しか隠さない程度までに減少して、その輪郭をなぞるように金色のラインが入っている。ロングスカートにも同じように金色のラインが入り、ベルトのバックルもダグバには及ばないが金色に発光していた。これが、ユニゴが得た新たな力『電撃体』だった。

 

「雷の力かぁ、ガドルも同じことしてたね。面白そう」

 

 自分のために(・・・・・・)わざわざ新しい力を覚醒させたことに素直に喜ぶダグバ。お礼を込めて、また手抜き攻撃(超自然発火能力)をお見舞いした。

 

「ほら、早く適応してみてよ」

「……舐めないでッ!」

 

 ダグバの挑発に、全身を炎に包まれているユニゴが叫んだ。すると、見る見るうちに炎が消えて行き……元通りに戻る。先程の一撃に比べて、炎が消える時間が大分早かった。

 『電撃体』は全体のスペックの強化に加えて、使用者の最大の特性をさらに高める作用がある。例えば未確認生命体第47号ことゴ・ガドル・バの場合、『電撃体』になったことによって、彼の一番の特性である攻撃力の高さを底上げされていた。最も力が強い状態の『剛力体』の攻撃が一切通用しなかったユニゴの身体に、いとも簡単にダメージを与えるほどに。よって、ユニゴの場合は『電撃体』になったことで、最大の特徴である防御力の高さが……いや、『適応能力』そのものが底上げされている。だから、超自然発火能力による攻撃に対しての適応が早くなり、かつ『電撃体』になる前に作られていた抗体と合わさって、身体の再生・再構築が迅速に行われたのだ。装甲を薄くした上に最低限の場所にしか纏っていないのは、攻撃に適応するための時間が大幅に減って体内の防御力が増したために、身体の外を守る必要がなくなってしまったからだ。

 

「いいね。でも、もっと強くなってもらわないと面白くないなぁ……。そうだ。良いこと思いついた。じゃあ僕が、手伝ってあげればいいんだ」

 

 名案だと、あることを閃いたダグバは更なる追撃を仕掛け始める。炎が完全に鎮火し、ダグバを蹴り飛ばすために距離を詰めるために走るユニゴ。『電撃体』になったことで脚力も強化され、さらに余計な装甲も脱ぎ去ったために体重が激減し、まるで身体そのものが稲妻になったかのごとく超高速で疾走していたが……。ふと、空の異変に気がつき、嫌な予感がしたユニゴは直線で移動するのをやめてジグザグに、不規則にダグバに接近。そしてようやく辿り着いた……ダグバの背後に。回し蹴りをするために身体を捻るユニゴ――と、そのとき。一瞬、ピシャリと空が光った瞬間――ユニゴの頭に雷が落ちた。少し遅れて、ドォォンと雷鳴が轟く。ダグバの力を以ってすれば天候も自由自在。雨を降らすも雪を降らすも雲を散らすも雷を落とすもすべて、彼の意思で決めることができる。

 

「ッッ!!! うっ……!?」

 

 これにはユニゴもダウン。電気に対しての耐性を持っているといっても、それは『電撃体』に覚醒させる程度。最低でも数万A(アンペア)の電流が流れる雷を、しかも頭に落とされてしまっては、いくら『電撃体』に変身して身体がなお一層に頑丈になったユニゴでも無事ではすまない。

 ピクリピクリと痺れながら、ユニゴはゆっくりと雪の積もる地面に倒れこんでしまった。

 

「どうしたの? 電気を浴びれば強くなれるんでしょ? ほら、早く適応してもっと強くなってよ」

 

 倒れるユニゴの髪の毛を乱暴に掴み、引っ張り、無理矢理起き上がらせたダグバは、彼女の腹部のバックル目掛けて蹴りを入れた。

 

「ッッ!? ア゙ッ!!」

 

 一際くぐもった声を漏らし、ユニゴの身体はダグバの蹴りの衝撃によって遥か後方へ吹き飛ばされて行く。さらに飛ばされたユニゴの元に待っていたのは、瞬間移動したダグバの踵落とし。この瞬間移動も、モーフィングパワーの応用だ。自分の身体を分解して、別の場所で元の状態に再構築したのだ。

 ついに能力だけでなく暴力も振るってきたダグバの攻撃はユニゴの胸元に炸裂し、ほぼ真横に飛んでいた彼女の身体は急降下。ドゴンと火山のごとく雪が舞い飛ぶのと同時に、ユニゴの身体は地面に叩きつけられた。

 

「ゴハァッ! あくっ……」

 

 一瞬肺から空気が抜けた苦痛と、全身に走る激痛に耐えつつ、ユニゴは腹部のバックルを右手で抑えながら立ち上がる。身体を上下に動かし、荒い呼吸をするユニゴが右手をどかすと……彼女の金のバックルに僅かながら皹が入ってしまっていた。パリッパリッと発光し、その度にユニゴは身体を痙攣させる。が、まだ彼女の戦いの炎は消えていない。ダメージは酷いがもう既に痛みは引いているし、痺れも治まり、バックルも自動的に少しずつであるが修復され始めている。しかも……予想通り(・・・・)の攻撃を受け、予想通り(・・・・)の結果をユニゴは得ることができた。あと少し、もう少し耐え切ることが出来ればあるいは……。

 

「ほら。もっと強くなって、僕を笑顔にしてよ」

「うっさいッ! ハアァァァッッ!!!」

 

 ようやく勝ち筋が見えたユニゴは気合を入れて声を上げ、元に立っていた場所に瞬間移動して戻って、くすくすと笑っているダグバに向かっていった。

 

 

 

 

     ――To be continued…


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