仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

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はい、こんにちは……というか、おはようございます。

先程はお見苦しいものを見せてしまいまして、大変申し訳ございませんでした。
書き直したものがこちらでございます。

今度こそ、楽しんでいってください。


第28話 『克服』

 『電撃体』に覚醒したとき、彼女はふと疑問に感じたことがあった。

 似すぎていたのだ。遥か古代に、『べ』から『ズ』へ、『ズ』から『メ』へ、『メ』から『ゴ』へ昇格する際に、ベルトに込められた封印エネルギーを体の中へ馴染ませて、強化させていたときのあの感覚に。その違和感を抱いたときはゴ・ガドル・バを倒すことだけを考えていたため、彼女はそのことについて考えずに流してしまった。

 しかし……それは、クウガが『アメイジングマイティフォーム』に変身したとき、また頭によぎった。

 普通の金の赤いクウガからあの黒い姿に変わったとき、彼女はすでにクウガとガドルが勝負していた雑木林に到着して、2人の戦いを見守っていた。ガドルが『ゼンゲビ・ビビブ』を仕掛けたときは焦った。あんなの、クウガが喰らってしまったら間違いなく負けてしまうからだ。クウガの盾になろうと動こうとした……そのとき。クウガは突如、電流を全身に纏わせて黒い姿に変身した。そのクウガの姿を見た彼女は驚いた。

 遥か古代、ゲゲルを円滑に進めるべくリントの情報を掻き集めていたときに、戦士『クウガ』についての碑文を見つけたことがあった。このとき、彼女はリントの言語・文字を解読することができたために、そこに書かれていることを難なく解読できた。

 そこには驚くべきことに、あのダグバと同等の力を発揮することができる『凄まじき戦士』についての記述があった。興味を持った彼女はその記述について事細かく、頭に叩き付けるように何度も読んだ。変身した際、『聖なる泉を枯れ果たして』しまうと、『太陽を闇に葬る』ほどの暗黒の戦士に成り果て、すべてを破壊しつくす生物兵器になってしまうこと。その姿が、クウガのモデルとなった完全体のダグバと酷似しているものの、『暗黒の戦士』ゆえに真っ黒な姿であること。この2つだけは、よく覚えている。尤も、2つ目の記述が書かれた碑文はもう潰れてしまい、解読不能になってしまっているのだが。

 とにかく、その情報を知っていた彼女はガドルを倒した黒いクウガを見て、ダグバほどの強大な力を感じせずとも確実にパワーアップしたクウガを見て、真っ先にあることに気が付いた。もしかしたらあの黒い姿は、『凄まじき戦士』の中間体なのではないか、と。そして、今自分が手にしている『電撃体』は、『ン』の力の一部を無理矢理引き出した形態なのではないか、と。それなら『電撃体』を習得した時の感覚が、昇格した時の感覚と酷似していたことについての納得のいく解答になる。自分たちグロンギ族のゲブロンと、クウガのアマダムがほぼ同質の物質だということも彼女は知っていたし、実際クウガの金の力である『電撃体』に進化することに成功している。クウガの進化のメカニズムと自分の進化のメカニズムがほぼ同じと断定できた。

 ならば……『ン』の力を持っていない自分も、『ン』の力に至れる可能性が出てくる。電気、つまり雷の力で『ン』の力を引き出すことができるのならば、限界を超えてでも雷をその身で受け続けて、少しずつ適応させて身体を作り替えていけば、いずれは『ン』に至れるのではないか。

 かなり危険な賭けだったが、これしか彼女にはダグバを倒す方法はない。結局、ダグバに頼らないといけないことに悔しさを抱いたが、これもすべて勝つためだ。藁に縋る思いでやるしかない。

 

 そして……その仮説は見事に的中した。

 

 長野県、九郎ヶ岳遺跡にて。

 時刻は午後7時27分。その進化の時はやってきた。

 ダグバが落とした特大の雷をその身で受け、3本の角で吸収した彼女は、眩く光とともにその姿形を変えていく。光が止み、ようやく進化は最終調整に差し掛かった。

 光の中から現れた彼女は、黒かったボディを純白へと、頭から順番に変色させていく。胸元と両肩・下半身に着用していた装飾品やロングスカートも、すべて黒かった部分だけが白く変わっていき、かつての『電撃体』だった時の金色以外のカラーを反転させたような姿を作り出した。しかし、電撃体の時と違って目の色は黒く塗り潰されており、雷のような形をした3本の金色の角にもう1本、新しい角が追加され合計4本、額の中央から左右対称になるように生え揃っており、鬣のようだった金色の髪の毛もポニーテールとなって、後頭部から腰のあたりまで伸びていた。金色のバックルも電撃体のものと比べて金の色合いが強まり、一回り大きくなっている。

 

「……なれたんだね。究極の力を、持つ者に」

 

 自分と同じ、純白の姿になった彼女……かつてのラ・ユニゴ・ダに語りかけるダグバは笑っていた。

 やった。ようやく、ようやく自分と並ぶ敵が目の前に現れた。壊すことしかできなかった自分のこの手で、完成させた。完成させることができた。ああ、やっとだ。やっと楽しい殺し合いができそうだ。

 

「馬鹿だね、ダグバ」

 

 自分を殺してくれるかもしれない強敵が現れ、新たな戦いが始まることに悦ぶダグバに、ユニゴは話しかけた。それと同時に進化は完全に終了したからか、ブラックアイズだった彼女の瞳が金色に輝きだす。

 

「すぐに殺せばよかったのに……私の見込み通りに動いてくれるなんて。気付いていたんでしょ?」

「まぁね。楽しくない殺し合いに、意味なんてないから。だけど、そんな僕だからこそ、君はこの作戦を実行したんでしょ?」

「……まぁ、ね」

 

 ユニゴはダグバの性格をよく知っていた。きっとダグバなら、戦いを楽しくさせるためには何でもする。たとえそれが、敵である自分を強化させてでも、楽しくなるならきっとやる。ダグバはそんなやつだ。だから、それを利用させてもらった。ゲリザギバス・ゲゲルでさんざん人間の心理を利用してきたユニゴらしい作戦だった。

 こんなことを認めたくないが、ある意味自分はそんなダグバを信じていた。信じていたからこそ、決行することができたのだ。わかっていたはずだが改めて自覚してしまい、ユニゴは少しだけ機嫌が悪くなる。

 

「それにね、僕にだってやりたいことがあるんだ」

「……やりたいこと?」

「うん。この戦いが終わったら、ちょっとね。なんだと思う?」

 

 そんな機嫌が悪いユニゴの気持ちなど無視し、ダグバは楽しそうに「それはね」と続けた。

 

 

「クウガに、あの時の仕返しをしてやるんだ」

 

 

 ダグバが言い切った瞬間……彼の身体が、何か強い衝撃を受けて吹き飛んだ。

 

「なっ!?」

 

 その突然すぎる攻撃には流石のダグバも不意を突かれたらしく驚き、何が起こったのかを探るために首を動かして自分が立っていた場所を見ると、そこには今まで話していたユニゴが立っていた。

 気が付かなかった。反応できなかった。彼女の接近に。瞬間移動? いや違う。あれは自分がいつもやっているものではない。身体を一度分解させて別の場所で再構築する瞬間移動には一瞬だが、タイムラグがある。能力を発動した時には、少しの間だけ身体を再構築するのに時間がかかるのだ。そんなこと、長い間能力と一緒に生きてきたダグバが知らないはずがない。それにダグバは、ユニゴから目を離していない。だから、彼女が瞬間移動で近づいてきたら反応できるはずなのだ。それなのに……反応できなかった。

 ……面白い。ニヤッと笑ったダグバは、吹き飛ばされている身体を無理矢理空中で一回転させて体勢を整え、地面に着地。足が地面についた際、衝撃が強すぎた故にまだ後ろに引いてしまうが、すぐに力を込めて踏みとどまった。

 

「痛いなぁ。まだ僕が話している途中だよ?」

 

 衝撃を受けた自分の腹を擦りながら、ユニゴを見るダグバ。しかし、ユニゴはもうダグバを恐れていないし、気にしてもいない。冷たい視線を向けて、ただ一言。

 

「もういい……」

 

 とだけ返して……今度はダグバの真ん前に一瞬で現れた。背中を向けて。

 

「おまえは……」

 

 しかし、ただ背中を晒したわけではない。彼女の体は動いている。移動してきた際の勢いに乗って体を捻らせ反時計回りに回転し……、

 

「クウガの気持ちを……」

 

 真正面を向く直前に右足を奇麗に伸ばして素早く上げて……、

 

「考えたこと、ある?」

 

 ダグバの顎を、思い切り蹴り上げた。

 

「ッ!」

 

 移動、出現、回転、蹴り上げ。この一連の操作にかかった時間は僅か3秒。10mは離れている場所からここまで移動した後そのまま攻撃に転じる、流れるような身のこなしは、鮮やかかつ美しいものであった。

 

「そうか……っ」

 

 顎に鋭い痛みを感じつつ吹き飛ばされているダグバは気が付いた。この奇妙なからくりの正体に。ユニゴはモーフィングパワーなど、能力など一切使っていない。ただ、その脚を使って走ってきただけ(・・・・・・・)だったのだ。

 ラ・ユニゴ・ダの第5形態、『ン』の力を得た『究極体』。己の限界を超え、身体を作り替えて発現させたその姿の真価は『単純な身体能力の向上』だ。だから単純にユニゴの脚力が上昇し、その脚を使って文字通り一瞬でダグバに接近しただけなのだ。モーフィングパワーを使った瞬間移動などよりも、そちらのほうが速いし簡単。当然キック力も上昇しているために、ダグバを軽く吹き飛ばすくらいにまでの力を生み出すことができたのだ。小細工なしの正直かつストレートで、そして容赦のない鋭い攻撃。なるほど、実にユニゴらしい戦い方だとダグバは感心した。

 だが、このまま黙って攻撃されるほど、ダグバも甘くない。やっと攻撃が通ったのだ。まともな一撃を喰らい始めたのだ。まだまだ、これからだ。

 

「いいね、ユニゴ! 楽しくなってきた! じゃあ僕も本気を出すね!」

 

 いまだに蹴られた時の衝撃に任せて飛んでいるダグバは……その姿を消す。モーフィングパワーを使った瞬間移動だ。これを使えば今の自分の状態が絶望的でない限り、好きな場所に移動できる。移動先はユニゴの真正面。右拳を引いた状態で現れた。

 

「ははっ!」

 

 嬉しそうに笑って彼女の腹に一撃をお見舞いするダグバ。今度はもう手加減していない、全身全霊全力で放ったパンチだ。

 

「ガッ!」

 

 これにはユニゴも一瞬だけ固まって脱力する。その隙にダグバは、今、自分が殴った腹に回し蹴りを突き刺した。ユニゴの身体は大きく吹き飛ばされ、九郎ヶ岳遺跡の岩肌に激突。その身体が岩にめり込んだ。もし電撃体の自分が今の攻撃を受けていたら、間違いなく死んでいただろう。

 やはりダグバは強い。耐えられないわけではないが、その抜きんでた攻撃力から繰り出される暴力はあっさりと自分の身体に多大なダメージを与えてくる。

 でも……これでいい。究極体となってまだ数刻も経過していないが、適応能力のおかげで自分の身体のことについては人一倍理解しているユニゴは、本能的にそう判断できた。

 

「……フンッ!」

 

 岩にめり込んでいたユニゴの姿が消え……ダグバの背後に現れた。今度の移動は間違いなく自分の身体を分解し、再構築した瞬間移動だ。これならダグバも反応できる。ユニゴが回し蹴りをダグバの顔目がけて放ったのと同時に、ダグバもまた身体を右に捻ってユニゴのほうに振り向き、右ストレートで応戦した。

 蹴りとパンチ。両者の全力が籠った必殺の一撃が見事に交わると、その余波から巨大な衝撃波が生じて、雷鳴以上の轟音が轟き、周りの空気を揺らす。さらに2人の立つ足場の周りに積もっていた雪は一瞬で蒸発し、それだけではとどまらず地面がひび割れて、まるで小型の隕石が墜落した際に作るクレーターのごとく円型に陥没してしまった。

 

「ンッ!」

「ふっ。ハァッ!」

 

 追撃を仕掛けるべく、またもや同時に今度は反時計回りをしてユニゴは右ストレートを、ダグバは右足による回し蹴りを繰り出す……と見せかけて、ダグバはその右足を上げずにひょいと身体を反らす。

 

「!?」

 

 ユニゴは驚き、嵌められたことに気付くがもう遅い。ここにきてフェイントを仕掛けられた。しかも自分の身体を一回転させて、勢いが乗っている状態での攻撃をほぼ強引にキャンセルしてまで。しかし、ユニゴの動きはもう止まらない。右腕が完全に前に行ってしまい、攻撃が空振りしてしまったどころか、勢いは治らずに右腕につられて身体も前に投げ出され、バランスを崩してしまった。ここでダグバにチャンスができた。今のユニゴはバランスを崩して隙だらけだ。間違いなく、ここで攻撃を仕掛ければ当たる。

 

「ふふっ、また岩に激突させてあげるよ」

 

 右腕を引いたダグバは軽く笑い、ユニゴの腹部にその拳を突き刺した。……が。

 

「……うん?」

 

 ……おかしい。ありえないことが今、ダグバの前に起こっていた。

 確かに、確かに自分の拳はユニゴの腹部を捉えていた。手加減もしていない。さっきと同じ、いやそれ以上の威力が籠った、全力のパンチだったはず。……なのに。どうしてユニゴは、怯んでいない?

 

「もうその攻撃は……私に通用しない」

 

 彼女は冷たく言い放った。

 ここだけの話であるがユニゴには超自然発火能力もないし、天候を操る力もない。自分より遠く離れた物に対するモーフィングパワーはそこまで強化されていないのだ……ただし。その代わりとして別方面のモーフィングパワーは強化されていた。

 もともとユニゴには、ほかのグロンギにはない特別なモーフィングパワーを有していた。それが、一度受けた攻撃に対しての耐性を作り上げる『適応能力』と呼ばれる力だ。ダグバのような攻撃的なモーフィングパワーではなく、ユニゴには防御に特化したモーフィングパワーが発達している。

 今、そんな彼女が究極体になったことで、自分の身体と、身体に触れている物質を変えるモーフィングパワーが格段に上がり、身体に適応させる時間がさらに短縮したのだ。ダグバと違って、内側に対してのモーフィングパワーの性能が上がっていたのだ。だからもう、ダグバの必殺のパンチはユニゴに通用しないばかりか、衝撃すら抑え込んでしまう。ダメージも碌に通っていない。完全に無効化してしまっていた。

 

「通用しない……か。それはどうかなユニゴ」

「……なに?」

 

 もはや反撃不能まで追い詰めたはずなのに不敵に笑うダグバは、ユニゴに突き刺していた右拳を引っ込めて……ドゴンッ! もう一発、彼女の身体にボディブローを喰らわした。

 

「!? がっ!」

 

 すると、さっきまでは平気そうだったユニゴの表情が歪んだ。馬鹿な、おかしい。ダグバの攻撃は完全に遮断したはずなのに……痛みが、衝撃が、彼女の身体に襲い掛かる。攻撃を喰らった腹が裂け、血飛沫が舞った。

 

「ほらどうしたの? 通じないんじゃないの?」

「ぐっ……ど、どうして……」

「さぁ、どうしてだろうね。考えてみたらどう?」

 

 笑いながら、次の攻撃を繰り出そうとするダグバ。頭が混乱して動きが固まり、腹に予想外の痛みによって姿勢が前のめりになったユニゴは完全に無防備。隙だらけだった。

 

「ほら、どうしたの? もっと楽しませてよ!」

 

 そんな彼女の隙を、ダグバが見逃すはずがない。容赦なく、彼女の胸に飛び切りの回し蹴りを決めた。

 

「ガッ、ハァッ!」

 

 またもや血飛沫を散らして、ユニゴは後方の岩まで吹き飛ばされる……が、岩にぶつかる寸前で辛うじてバランスを整え、2本足で地面に着地。力を振り絞って踏ん張り、激突は免れた。しかしそれでも、ダグバから受けた攻撃の痛みは消えない。胸と腹を抑えながら……必死で、今起こった予想外の事態について考えるユニゴ。

 あの数秒で、自分の身体は完全にダグバの攻撃に適応できたはずだ。ほとんど完璧に。それは間違いない。なのに……どうして? どうして、攻撃が通る? それに、適応できるように組み替えたはずの身体に変な違和感が……いや、元の状態に戻ってしまったかのような、妙に懐かしい感覚が……。

 

「ま、まさか……っ」

 

 身体の違和感と、いきなり通り始めたダグバの攻撃。その2つから推理していって、ユニゴは最悪な答えに辿り着いた。……馬鹿はこっちだ。ダグバを侮りすぎていたと、ユニゴは後悔する。

 

「あっはは。気が付いたみたいだね。そうそう。攻撃が通用しないなら……通用させるようにするまでだよね。――君の身体を組み替え直して(・・・・・・・)さ!」

「くっ!」

 

 や、やっぱり……! ギリリッとユニゴは歯軋りをした。そう。確かに、自分の身体はダグバの攻撃に適応するために、持ち前の能力を使って一度作り替えた。……だが。

 このダグバは、その組み替えて(・・・・・)適応した自分の身体を、組み替え直して(・・・・・・・)攻撃してきたのだ。これでは自分の身体は初期状態。何の耐性もない完全無防備な有様だ。そんな状態で全力のダグバの攻撃を受けたら、いくら防御力が上がっている究極体のユニゴでも無事で済むはずがない。

 身体はまたダグバの攻撃に適応しようとモーフィングパワーが発動しているが、おそらくこれはもう無意味だ。きっとダグバは攻撃を仕掛ける際に、彼自身のモーフィングパワーを使って組み替えた身体そのものを元に戻してしまうだろうから。

 同時にモーフィングパワーを2つ使うのは無理だ。モーフィングパワーは一度に1回しか使えないのだから。身体をダグバの攻撃に合わせようとする一方で、ダグバのモーフィングパワーを一切受け付けない身体にするのは不可能。いや、それ以前に、ダグバのモーフィングパワーを完全に受けなくさせるような身体を作れるのかがまず怪しい。

 

「はははっ、伊達に長い間頂点に君臨しちゃいないよ。君の対応力の早さには驚いたけど、ね!」

 

 愉快そうに笑うダグバは、ユニゴに指を向ける。すると……ユニゴの身体が燃え始めた。超自然発火能力だ。

 

「いくらなんでも、これは効かない! フンッ!」

 

 ユニゴが少し気合を入れると、その炎はすぐに鎮火した。これに関してはダメージは全くない。

 

「ふーん、能力を使って殺すのは無理そうだね。それもそっか。『ン』の雑魚攻撃が同じ『ン』に通用するわけないもんね。じゃあ、やっぱり殴り合いしかなさそうだね! あっはは!」

「狂人がッ!」

 

 吐き捨てるユニゴ。だが言っていることはダグバが正しい。『ン』同士の戦いを、能力だけで勝てるのは不可能だ。ユニゴの適応能力はダグバの前ではもう意味を持たないし、ダグバもダグバで超自然発火能力や天候操作がユニゴに通用しないのが今わかった。ユニゴの身体を操作するのも、初期設定に戻す程度までしか叶わない。もはや能力を使った戦いなど無意味。だったら力ずくで、暴力で解決するしかない。

 

「ここまで来て……負けて、たまるかああああぁぁぁぁぁ――――っっ!!!!!」

 

 自分にはやるべきことがある。果たすべく約束があるのだ。ここでまで死ぬ思いをしながら耐えて、綱渡りのような思いをしてまで、今一番に憎たらしい相手を頼ってまでしてこの力を手に入れたというのに。ここで負けてしまったら元も子もない。モーフィングパワーは傷の修復だけに集中させる。

 殺意と闘志を漲らせながら、ユニゴはその両の脚を使って一瞬でダグバに接近。彼の頭に鋭い回し蹴りを食らわせた。

 

「ぐわぁッ! はっはは、いいねぇ! いい攻撃だ、よ!」

 

 少しだけよろめくダグバ。今度はしっかりと脚に力を込めて待ち構えていたために、吹き飛ばされはしない。その代わり、攻撃を受けた衝撃はすべてその身で受けてしまい、ユニゴ同様、血を流し始めた。だが、そんなものダグバにとってはただのスパイスでしかない。笑いながら、ダグバはユニゴの顔面に仕返しとばかりの右ストレートを喰らわせた。

 

「グハッ!……ぐうぅ……、ン・ユニゴ・ゼダを舐めるなぁッ!」

 

 バキッ! 今度はユニゴが、ダグバの顔に右ストレートを放つ。パンチの力が弱かったユニゴも、究極体となったら話は別だ。キック力ほどではないが、格段にパワーアップをしている。ダグバに傷とダメージを負わせる程度には。

 

「うはっ! いいね、いいねぇ! ほらもっとだ!」

 

 バキィッ!

 

「ハッ……ァッ! ンッ!」

 

 バキィッ!

 

「あっはっはっ……! ハァッ!」

 

 バギンッ! しばらくの間、子供同士の殴り合いのように顔ばかりを狙い、殴っては殴られてを繰り返していた2人だが……なんとダグバは、急遽攻撃対象をユニゴの顔面からベルトのバックルへ変えた。

 

「ゴヴッ!? アッ、アアッ……!」

 

 顔面を殴られた時以上の衝撃と痛みが身体中を駆けずり回り、反射的にバックルに手を当ててダグバから走って距離を取るユニゴ。ノーガードだったユニゴのバックルは、ダグバのパンチを受けて大きく皹が入ってしまっていた……が。治すことに集中をさせているモーフィングパワーによって、バックルもまた徐々に徐々に修復されていく。あと10秒もすれば元に戻るだろう。自分のモーフィングパワーが、外側でなく内側に大きく作用することに特化していて本当によかったと、ユニゴは冷や汗を掻く。

 しかし、痛みはそう簡単には消えない。自分の力の核であり、一番敏感な身体の部分であるバックルを攻撃されてしまったのだ。

 

「ここで死んで……たまるか……ッ!」

 

 肩で息をしてなんとか痛みに我慢し、バックルを半分ほど修復させたユニゴは、再びダグバの元へと駆けて、仕返しにダグバのバックルに向かって正拳突きを喰らわせた。

 

「ぐわぁッ!」

 

 これにはさすがのダグバも大ダメージ。後ずさりして自然と距離ができる。そしてバックルにも皹が出来上がっていた。こちらは元に戻る気配がない。当然だ。ダグバはユニゴと違ってバックルを自力で修復は出来ないのだから。だから武器職人である『ヌ集団』のヌ・ザジオ・レにバックルを修理させていたのだ。

 内側でなく外側に向けることにモーフィングパワーを特化させているため、辛うじてできることは瞬間移動くらい。ユニゴのような傷の修復など、ダグバには出来ない。

 

「ハァ……ハァ……、ダグバ、どう? もう諦めたら?」

「諦める? ははっ。なに言ってんのさ。やっと楽しくなってきたんじゃないか。やっと殺されるときが来たんじゃないか! だったらッ」

 

 危険な眼光を秘めた、真っ黒な目でユニゴを見るダグバは笑った。

 

 

「殺される前まで楽しまなきゃ、ね……ッ」

 

 

「っ!」

 

 ユニゴは悪寒を感じた。ダグバが強がっているのはわかる。あれはもう致命傷だ。バックルを治すことができないダグバに勝機はない。確実に自分の勝ちだ。それなのに……怖い。

 勝ちがほぼ確定したのにどうしてだろうか、全然安心することができない。ダグバの殺気が、狂気が、自分を締め付ける。……そうだ。そうだった。

 これがダグバだった。

 この往生際が悪く、執念深く攻撃を続行しようとする。その怖さがあったから、自分は戦いたいなんて思いやしなかったんだ。

 

「ほら、来なよユニゴ! 僕を殺したいんだろう! だったら近づかないとさ!」

「っっ!!!」

 

 こいつは……ッ。じ、自分で言っていることがわからないのか? とっとと殺せと言っているようなものだ。なのにどうして……どうして折れない! どうして心を折ってくれない! 状況は圧倒的に自分が有利なはずなのに、ユニゴはダグバの迫力に圧されてしまっていた。

 

「なんだよ、来ないの? じゃあ僕から行くよ? ハアァァッ!」

 

 ほ、本当に来た!? あれだけの傷を負っているのに!

 

「こ……な、いで……来ないでよ……」

 

 満身創痍でありながらもなお戦う気でいるダグバを見て、ユニゴは震える声を漏らした。あんなにボロボロなのに……しっかり走れてもいないのに……どうしてそっちから向かってくる!? もうユニゴの頭の中はそれでいっぱいだった。もはや言葉にならない恐怖がユニゴに襲い掛かっていた。

 そんなことをしている間にも、ダグバはどんどん近づいてくる。目的はただ1つ――自分を殺すためだ。

 

「来ないでええええぇぇぇぇぇ――――っっ!!!!!」

 

 恐怖(ダグバ)がいよいよ攻撃の射程圏内に入ってきたそのとき、ユニゴは叫び、反射的に腰を低くして、右腕を後ろに引き……ダグバ目がけて思い切り殴った。

 

「…………」

「…………」

 

 しんと、辺りが静まり返る。ダグバの笑い声も、ユニゴの叫び声もなく、ただ横薙ぎに振る吹雪の音だけがこの九郎ヶ岳遺跡を支配した。

 目を瞑って、ただただ本能のままにパンチをしたユニゴは恐る恐る目を開いて、上を見る。そこには……

 

「…………」

 

 右腕を前に向けて突き出して、固まっているダグバの姿を捉えた。そして視線を落とし、今度は自分が殴りつけた部分を見ると……そこにはダグバの腰があった。そしてその腰には……自分の拳が突き刺しているのは、ダグバの金色のバックル。

 ……パキッ。何かに皹が入ったような音が聞こえると……パキッ、パキッ……。次々と、その音が連鎖的に聞こえてくる。その音の発生源は、ダグバのバックルだった。

 どんどんどんどん、その皹はバックル全体に広がっていき……パキィッ! ダグバのバックルが……ゲドルードが完全に破壊された。

 

「うあ……」

 

 突き出していた右腕を落としたダグバは人間態に戻り、力ない声を漏らして微笑むと……雪が積もっている地面に倒れた。力の源であるゲドルードが完全に破壊されたせいで、絶命してしまったのだ。

 これが、ン・ダグバ・ゼバの最期だった。しかし、戦っていたユニゴの精神を大きく削り、多大な恐怖を与え、しかも当の本人はとても幸せそうな顔で永眠しているあたり、かなり彼らしい最期と言える。

 

「か、勝った……」

 

 ようやく恐怖から解放されたユニゴは、尻もちをついてしばらく放心してしまっていた。いろいろと頭の中がごちゃごちゃしていて、整理をしようとしているのだ。

 そして約10分後。ようやくユニゴは整理をし終えて、正気に戻った。

 

「こ、怖かった……」

 

 そして最初に出た感想がそれだった。怖かった。ただただ、怖かった。ガドルや他のみんなは、どんなことを考えたらこんな奴と積極的に戦いたいなんて思えたんだと、そんなことまで考えてしまうほど怖かった。

 

「で、でも……なんとか、勝った……」

 

 精神的に物凄いダメージは来て、最終的には折れてしまったが、ザギバス・ゲゲルの勝者は間違いなくユニゴだった。これで彼女の目的は果たされた……のだが、やっぱりまだ実感がわかなかった。これはもう少し、少なくともあと10分は落ち着かないと身体が、脳が適応しなさそうだ。

 

「く、クウガを巻き込まなくてよかった……本当によかった……」

 

 だってこんな戦いをした後に自分のお願いごとなんて、とてもじゃないが叶えられっこない。それにこれ以上、彼を追い詰めるわけにはいかない。自分が彼にとって一番残酷なことをさせようとしているのだから。深呼吸して落ち着いたユニゴは人間態に戻る。

 

「……酷い怪我。それに酷い顔、多分しているな……」

 

 口の中は血の味がするし、身体のいたるところが裂けてしまって血が滲み出ている。バックルを治すために能力を集中させ、そのあとはダグバの恐怖にさらされて能力なんて使えなかったために、傷は完治してはいなかった。

 

「クウガが来る前に、治しておかないと……時間は……」

 

 首から下げている金の懐中時計を見る。ユニゴ。そこには午後7時58分が表示されていた。どうやら『ン』となって30分も戦っていたらしい。

 

「まだ、1時間もあるね……じゃあ、まだ大丈夫だね」

 

 ふうと、安堵の溜息をついたユニゴはダグバの死体から離れた場所まで、はいはいをして移動する。今の彼女は腰を抜かしてしまって立ち上がることができないのだ。

 

「クウガ……約束、果たしたよ。今度は……あなたの、番」

 

 岩場まで辿り着いたユニゴはそこに身を任せ、傷の治療に専念した。なに、この程度の傷なら10分もあれば完治する。完全に心の整理をつかせて精神を安定させ、同時に傷も回復させる。そして最高の状態で、最高の自分を作り上げてクウガと出会う。

 それが今、最大の恐怖を克服した彼女が今できる精一杯の意地であった。

 

 

 

 

     ――To be continued…

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