仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

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はい、こんにちは。

今夜0時にもう1つ、溜めていたやつを投稿します。


第2話 『疑問』

 時刻は午後2時23分。

 第46号と戦闘……と言うより邂逅した雄介は一条と杉田、桜井と港区の現場で合流していた。現場には青のビニールシートが敷かれ、第46号に襲われた被害者を降ろして鑑識が調べている。

 

「未確認生命体第46号は新宿のオフィスビルを始め、渋谷のマンション、港区のここ、千代田と中央区のオフィスビル、合計5件で犯行を重ね、そこにいた人間143人を殺害している」

「これで46号に殺された被害者は3296人か……」

「被害者の共通点は?」

「それが……」

「ですね……」

 

 雄介の質問を聞いて、事前に報告を受けている杉田と桜井は複雑そうな顔をした。

 

「どうも今回襲われた現場は全て、詐欺グループのアジトだった可能性があるんだ」

 

 予想外の杉田の言葉に雄介と一条は「え?」「なんですって?」とそれぞれ返した。頭を掻きながら、不快そうに顔をしかめて杉田は続ける。

 

「実際、現場から詐欺に使っていたと思われるデータや、巨額の金が見つかっている。おそらく間違いないだろうな」

「しかも事件直前に警察に1人の男が自首しに来たんです。オレオレ詐欺をしていたって」

「自首を? なんで?」

「どうもその男、第46号と事件が起こる前に会っていたらしいんだ。詐欺の現場に現れて、こう言われたらしい」

 

 ――おまえの携帯電話、渡す。それから、アジトの場所、教える。

 

「さもないとおまえを殺すって、片言のような日本語で脅されてな」

「たぶん、詐欺グループのアジトを連鎖的に襲っていたんだと思います。こういう詐欺グループは、バラバラにアジトを構えることが多いので」

「じゃあ、詐欺グループは全部やられたんですか?」

「いや……それが、詐欺グループのアジトは全部で6つあった。あと1つ、世田谷にな」

 

 「だが……」と杉田は続けた。

 

「そのアジトには襲撃していないらしいんだ」

「え?」

「さっき所轄の捜査員をそのアジトに行かせたんだが、全員ピンピンしていやがった。おかげで詐欺グループの1つを抑えられたよ」

 

 手に持っていた手帳を左手にパンと叩いて、自分が運転していた覆面パトカーにもたれる杉田。

 

「じゃあ今回の第46号のターゲットって」

「ああ。……十中八九、『犯罪者』だろうな。しかも、刑務所や少年院にはもう人間がいないと読んで、今度は俺たち警察が捕まえることが出来なかった奴らをターゲットにしてきやがった。警察の面目はもう丸潰れだ」

 

 雄介は杉田と桜井が複雑そうな顔をしていた意味が漸くわかった。日々、犯罪者を捕まえる責務がある警察の人間が、犯罪者を目の前で殺されてしまっているのだ。しかも、自分達が捕まえることが出来ずに野放しにしてしまっていた犯罪者を、今まで自分達がしょっ引いてきた犯罪者をまとめて一斉に殺されてしまったのだ。

 皮肉。

 警察が事件で追っているグロンギに警察が本来追うべき犯罪者を捕まえさせられ、さらに自分達が捕まえた犯罪者が丸々ゲームの点数稼ぎにされてしまったという、皮肉のダブルパンチが警察組織に襲い掛かっていた。

 

「でも、おかしくないですか? 第46号の狙いが犯罪者なら、どうして最後の1件だけ襲わなかったんでしょうか?」

「ええ。それは自分たちも気になっているところなんです」

「1時57分に襲撃されて以来、被害者が出たという情報も入っていない。パッタリ犯行をやめやがったんだ。深夜の刑務所襲撃にしてもそうだ。連続で襲撃すればもっと多くの人間を殺すことが出来たのに、奴はそれをしなかった」

 

 ただ犯罪者を襲うだけならば刑務所を深夜のうちに全て襲ってしまえばよかった。今回の連続詐欺グループ襲撃で、第46号に驚異的な移動能力があることも判明している。なのになぜ、1つしか襲撃しなかったのか。

 

「……まだ、第46号のゲームに法則性があるということですね」

 

 顎に手を当ててずっと考えていた一条が纏めると、杉田がうんうんと首を縦に振った。

 

「だな。ま、おかげでこれでも、結果的に被害は抑えることが出来ているんだが……これも奴らがゲームを楽しむための制限だとしたら、ゆるせねぇな」

「……『楽しむ』というのは、少し違う気がします」

 

 雄介は杉田の言葉を否定した。

 

「俺、この倉庫で第46号と会って、すっごく強かったんですけど、なんていうか……今までの奴らと違って、標的以外の殺しを絶対にしないっぽいんです」

 

 ――あなた、悪いリント、違う。とても良いリント。標的、違う。

 ――あなた、帰る。私、良いリント、殺さない、絶対に。

 

 1時間前に出会った、第46号の言葉を雄介は思い出す。

 第46号は全くというほど表情を浮かべていなかったが、そのたどたどしい言葉には確かな感情が篭っていると雄介は感じていた。鋭く、心に堅く決めている決意のようなものがあったような気がしたのだ。

 

「それに俺、第46号に『会いたい』と言われたんです」

「なに?」

「本当ですか、五代さん!」

 

 一条は雄介に代わって続けた。

 

「場所は上野の公園と、言われたらしいです」

「上野の公園……上野恩賜公園か!?」

「おそらくは。時間は3時と指定してきたとのことです」

 

 素直に驚いている杉田と桜井。一条も雄介から聞いたときは驚いていた。

 今までの未確認生命体は1人たりとも、人間と話をしたいなんて言ってくる者はいなかった。そんな中、そのどの個体よりも残虐で、スケールの大きい殺人を行なっている第46号が自分からコンタクトを取ってきたのだ。

 

「罠とかじゃないんですか?」

 

 だから、桜井がそう聞くのも当然だった。

 

「とにかく、行っては見ようと思います。罠だったらその時です」

「ですが」

「それに上手くいけば、奴の犯行をやめさせるかもしれません。第46号の気が変わらないうちに、一度会って話してみようと思ってるんです。お願いします! 第46号と会わせてください!」

 

 深く頭を下げて、雄介は懇願する。

 

「……わかった。五代くんがそこまで言うなら。ただし、公園内に俺たちも行かせてもらう。万が一の場合に備えてだ」

「はい!」

 

 杉田に頭を下げて礼を言う雄介。

 

「じゃあ、もう行きましょう」

「ああ」

「そうだな。そろそろ行った方がいい」

「自分は機動隊の要請をしておきます」

 

 やることが決まり、各自行動に動いた。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 午後3時丁度。

 上野恩賜公園。雄介と一条、杉田はそこに訪れていた。

 公園内は全くと言って良いほど人の気配がない。当然だ。事前にアナウンスをして、一般人を全員退避させたのだから。公園の周りには桜井率いる警官隊が張り付いていて、第46号が公園の外で暴れないように備えていた。

 雄介はクウガに変身していない。向こうに少しでも話しやすくさせるためと、雄介が心のどこかで第46号のことを信じていたからだ。一条と杉田は、雄介から少し離れたところで付けていた。

 公園に入って、雄介は探す。第46号……いや、あの金髪の少女を。

 しばらく歩いて西郷隆盛像の前を通りかかったとき、そこに白く小さな人影が立っていたのが見えた。人影は雄介が来たことに気がついたのか、西郷隆盛像を見ていた顔を振り返らせて雄介に顔を見せる。彼女は紛れもない、あの時倉庫にいた少女だった。

 

「クウガ」

 

 一言呟くと右手で「こっちに来い」とジェスチャーをして、西郷隆盛像の横に設置してあるベンチに腰掛けた。雄介はそれを見て、ベンチの前まで走って少女の前に立つ。と、少女は首を傾げた。

 

「クウガ、座らない?」

「え? あ、うん。じゃあ」

 

 促された雄介はとりあえず少女と少し距離を取って、隣のベンチに座った。一条と杉田は、2人の会話が聞こえるところまで来て身を忍ばせる。

 

「…………」

「…………」

 

 さて、ベンチに座ったのは良いが、少女も雄介もまだ一言も喋ってはいない。「ねぇ、君さ」となんとなく話しかけたほうが良いような気がした雄介が話題を出そうとすると、「ユニゴ」と少女は突然口を挟んできた。

 

「私、ゴ・ユニゴ・ダ。君、違う」

 

 自分の名前で呼ばれないことが気に入らなかったらしい。機嫌を損ねたと感じた雄介は慌てて切り替える。

 

「あ、ああうん。そうだね。じゃあ、ユニゴって呼ぶことにするよ。それでいい?」

「ん」

 

 短く返した少女――ユニゴは無表情ながらも、どこか満足そうだ。

 

「じゃあさ、俺のことも『クウガ』じゃなくて、『雄介』って呼んでくれないかな」

「? あなた、クウガ」

「いや、確かに俺はクウガだけどさ、五代雄介って名前があるんだ。だから雄介で、ね?」

「……? ???」

 

 雄介の言葉にユニゴは目を白黒させた。「あなたはクウガなのにどうして?」とか、そんなことを考えているのだろう。

 少し考えたような仕草をした後、ユニゴは雄介に視線を戻した。

 

「よく、わからない」

「そっか。じゃあクウガのままでいいや」

「? そう?」

 

 ちょこんと首を傾げているユニゴを見て、雄介は苦笑した。

 

「ユニゴはさ、何で俺をここに呼んだのかな?」

 

 なんとなく、小さな女の子に話を聞くような感覚で雄介がユニゴに聞くと、彼女は自分が持っていた白いバッグの中から――1台の携帯電話を取り出して、雄介に渡そうとする。

 

「これは?」

「借りていた物。返す」

 

 「ああ」と雄介は気がついた。さっき杉田が言っていた、警察に自首しに来た詐欺師の携帯電話だと。雄介は携帯電話を受け取ると、それをポケットの中にしまった。

 

「……うん、わかった。ちゃんと持ち主に返しておくからね」

「ん。あと、それから」

「それから?」

「クウガ。私、クウガとお話、したい」

「俺と話を?」

「ん」

 

 こくりと頷くユニゴは、純粋で透き通った瞳を雄介に向けた。その瞳はあまりにも透明すぎて、まるで心を見透かされているような錯覚を与える。

 

「ねぇ、クウガ」

 

 そんな純粋な目をしたまま、ユニゴは尋ねた。

 

「どうして、リント殺す、ダメ?」

「っ」

 

 雄介は背筋が凍った。まさか、話の内容がそんな話とは思わなかったから。

 何の躊躇いもなく人間を殺すグロンギ族が、まさかこんな質問をしてくるなんて思わなかったから。こんな疑問を持つグロンギがいるとは思わなかったから。

 

「私、わからない。どうして、リント殺しちゃダメ?」

 

 ユニゴは雄介に質問し続ける。そう。

 このガドルに渡り合う実力を持ったユニゴが抱いていた疑問は「どうして人間を殺してはいけないのか」だった。

 

「私たち、リントとクウガに殺される。これ、普通。リントとクウガ、私たち殺す。これ、良いこと。なのに、私たち、リント殺す。これ、どうしてダメ? わからない」

 

 グロンギにとって、クウガに殺されることやリントに殺されることは普通のことだ。だから別に、仲間が死んだとしても誰も悲しまない。だけど、どうして自分達が人間を殺すことはいけないことなのだろうか。ユニゴはそこにひっかかっていた。

 インターネットや雑誌、新聞を見て、自分達を倒すクウガはまるで英雄のように描かれているのに、どうして自分達は悪人のように書かれるのか。同じ『殺し』をしているのに、どうして自分達のやっていることだけが悪く書かれるのか、ユニゴにはさっぱり、理解が出来ないでいた。

 

「リント殺す、リント悲しむ。私たち殺す、リント喜ぶ。私たち殺される、リント殺す、私たち何も感じない。わからない。どうして?」

 

 淡い緑色以外の何色にも染まっていない瞳と無表情な顔を雄介に向け、ユニゴは解答を求める。

 

「なんで人を殺しちゃいけないのか、か」

 

 雄介は考える。グロンギを、自分に質問しているユニゴの仲間を言い方は悪いが殺してきた者として、真剣に考える。

 ユニゴは「別に気にしていない」「普通の事だ」と言っているが、雄介自身はグロンギたちを殺してしまっていることに対して、悪いと思っている部分があった。だがそれでも、自分の手を汚してこれまでグロンギたちを倒してきたのは、みんなの笑顔を守りたいという雄介の願いが篭められていたからだ。

 

 ――そうか。これでいいじゃない。

 

 自分の思いを再確認して、心の中で思い浮かんだその答え。雄介はそれに納得して今までグロンギに対して感じていた罪悪感を今は忘れて、笑顔で言った。

 

「俺の答えでよかったらあるよ」

「! それ、聞かせてほしい」

 

 自分の求めるものが手に入ると思ったユニゴは、少し目を見開いて雄介にその答えを求める。

 

「誰かを殺したくなる気持ちは、誰にだってあると思うよ。現に、俺が倒してきた君の仲間の中にも、明確な殺意を抱いた奴がいたんだ」

 

 ゴ・ジャラジ・ダ。

 このグロンギこそ、雄介の言う殺意の対象となったグロンギだ。

 まだ未来があったはずの高校生90人を、自ら命を絶ってしまったほどの恐怖と絶望を与えて殺し、しかも当の本人はその苦しむ姿を見て「楽しい」と言う。まさに外道だった。

 

「さっき言ったとおり、そいつは俺が倒したけどね。だけど、ぜんぜん嬉しくなかった」

「どうして? 殺したい奴、死んだ。憎い奴、死んだ。どうして、嬉しくない?」

「うん。俺もね、正直言ってなんでかわからなかったよ。スカッとはした。だけど、嬉しくはなかったんだ。だけど、ユニゴのおかげでその答えがわかったよ」

「え? 私?」

「うん。ユニゴのあの質問のおかげで、その正体がわかったんだ」

「嬉しくない……正体?」

「そうだよ。嬉しくなかった正体。それは……虚しさだった」

「虚しさ?」

 

 ユニゴの無表情の顔のパーツの1つである眉が、僅かに潜んだ。

 

「うん。虚しかったんだ、俺。そいつを殺したときにすっごくね」

「どうして、虚しい?」

「だってさ、俺がそいつを倒したとき、誰も笑顔にならなかったから」

 

 一条も杉田も、そして自分自身も、誰も笑顔になれなかった。

 いつもはグロンギを倒した後に笑顔でサムズアップできたのに、そのときはそうすることが出来なかった。ただ茫然と、ジャラジを倒した場所を見ることしか出来なかった。

 

「笑顔……わからない。私、笑顔になったこと、ないから」

 

 いつもの無表情に戻り首を横に振りながら、ユニゴは言う。その声はどこか、とても悲しそうなものだった。どうやら、納得のいく答えではなかったらしい。

 

「ユニゴはどう考えているの? ユニゴだって、いろいろ考えていたんでしょ?」

「ん。私、考えた答え、一応ある」

 

 首を少し上げて、透き通った瞳を青空に向けた。

 

「私、考えた。どうして殺しちゃいけないか。そして、不完全な結論、出した」

「不完全な結論?」

「ん。復活してしばらくの間、私、今のリントの世界、いっぱい見てきた。歩いて、見て、聞いて。どんな世界で、どんなリント、いるか。この目で見てきた」

 

 ゴ集団の一員でありナンバー2の実力を持っているユニゴは、自分のゲゲルの順番が最後のほうにくることを知っていたため、その長い間に人間の世界を堪能していた。本屋で立ち読みなどをして知識を身につけ、テレビや新聞、インターネットを通じてこれまでのゲゲルの進行具合や、人間の価値観について自分なりに解釈してきた。

 

「それで私、逆に考えた」

「逆?」

「ん。普通のリントを殺す、ダメ。なら、どんなリント、殺していい? そう、考えることにした」

「…………」

「私、リントを殺したリント。これ、悪い奴、知った。そして……そのリント、リントの手で殺されること、知った」

 

 ニュースの……おそらく、裁判の判決シーンで見てしまったのであろう『死刑』の二文字。そこからユニゴは結論を出した。

 

「だから……私、悪いリント、殺すことにした。それなら私たちのゲゲル、受け入れてくれる。そう思った」

 

 どうせ奪われる命なら、自分の手で下しても良いじゃないか。それが、ユニゴが出した『不完全な結論』だった。

 今回のゲゲルのルールの標的にしたのも、それが原因だ。犯罪者ならこの東京中に何人もいるだろうし、真っ先に刑務所に襲撃すれば大量のポイントを獲得できるメリットもある。さらにそこから人間が対応してくるため、難易度も跳ね上がる。

 数、難易度、そして導き出した結論、その3点において、ゲゲルを標的にするには犯罪者が格好の条件だったというわけだ。

 

「そんなの……おかしいよ!」

 

 そんなユニゴの勝手で理不尽な解釈を、雄介は受け入れるわけにはいかなかった。ユニゴもそれを覚悟していたらしく、小さく頷く。

 

「私も、そう思う。だから言った。『不完全な結論』って」

「だったら、今すぐゲームを中止してよ!」

「それ、出来ない」

「どうして!」

 

 空を見ていた顔を、ユニゴは俯かせた。

 

「ゲゲル、成功させないと、私、死んじゃう」

「え?」

 

 その言葉を聞いた雄介は口をポカンとさせてしまう。なにを言ったのか、一瞬理解できずにショートしてしまったのだ。

 

「どういうことだ、一条」

「さぁ……聞きましょう」

 

 ずっと木の影から2人の会話を聞いていた一条達も、新しい事実が浮上する可能性が出てきて、さらに耳を傾け始める。

 

「どういうこと? ゲームをしないと君が死んじゃうって」

「私、身体に爆弾、抱えている」

「爆弾?」

「そう。私だけじゃない。今までクウガが倒してきた、ゲゲルに参加したみんな、爆弾、抱えていた」

「!? く、詳しく聞かせてくれないかな?」

 

 雄介の質問に答えるため、ユニゴは腰元にある自分の黒いバックルを出現させて人差し指を向けた。

 

「私たち、ゲゲル始める前、クウガと同じ封印エネルギー、これに入れられる。ゲゲル、制限時間以内にクリアできないと、これが流れて私たち、爆発しちゃう」

「そんな……止める手段はないの?」

「ゲゲル成功する、それ以外、私の爆弾、止まらない。だからやめられない。やめたら私、死んじゃう」

 

 バックルを引っ込ませて、再び顔を俯かせた。

 

「じゃあなんでゲームに参加するの? 確か君の仲間の3号は参加していなかったよね?」

 

 3号……ズ・ゴオマ・グ。

 彼はゲゲルが始まっていないにも拘らず人間を殺したため、バルバによってゲゲルの挑戦資格を剥奪されてしまったグロンギだ。

 

「それ、できない」

「どうして?」

「参加しないと、私、ダグバに整理される」

「!」

 

 ユニゴの口から出てきた『ダグバ』の単語。それには雄介だけでなく、見守っていた一条と杉田も反応した。

 ダグバ。

 前々から示唆されてきた未確認生命体第0号のことであり、バラのタトゥの女ことラ・バルバ・デが一条に伝えた名前だ。

 

「整理って……それって」

「ん。新聞、見た。ベとズ、みんなの死体、見たでしょ? ああなる」

 

 「ベとズ」の意味はわからなかったが、ユニゴが訴えていることはよくわかった。

 市川の倉庫ほか、さまざまな場所で見つかった200体以上のグロンギ、そして未確認生命体第43号ことゴ・ザザル・バとの戦いの後に発見されたゴオマの死体。あれが、力がなくゲゲルの参加資格を失った『ベ集団』と『ズ集団』の末路だった。ユニゴ曰く、ゲゲルに参加しなければ自分も同じように殺されると言っているのだ。

 

「私、死にたくない。だからゲゲル、する。そして、『ラ』になる」

「『ラ』?」

 

 『ラ』。

 今まで自分達が知らなかった、グロンギたちの新たなキーワードだ。

 

「私より上の階級。それ、『ラ』」

「ユニゴより、上の?」

「そう。私の階級、『ゴ』。ゴ・ユニゴ・ダの『ゴ』」

「名前に関係していたんだ……それで、『ラ』ってどういう奴なの?」

「『ラ』、もともとは『ゴ』。ゲゲルに成功して、ダグバと戦う『ザギバス・ゲゲル』から棄権した連中」

 

 実力は高いのだが、過去にゲゲルを成功させているためゲゲルには参加せずに司会進行をしているグロンギ、それが『ラ』だ。一条が何度か遭遇しているバルバ、そしてカウンターを担当するニット帽の男ラ・ドルド・グも名前の通り『ラ』のグロンギだ。

 

「私、『ラ』になる。そうすれば私、生き残れる。だから、ゲゲルをする。ゲリザギバス・ゲゲル、する」

 

 ユニゴの目標はダグバと戦ってトップに君臨することではなく、『ラ』となってダグバに殺されないためにするためだったのだ。

 全ては自分が生き抜くため。だからゲゲルをして、人間を殺さないといけない。そんなユニゴの告白は、雄介の心に重くのしかかる。

 今までの奴らはゲームを楽しんでいた。自分より上のダグバと戦いたいという欲からたくさんの人間を笑って殺害したのに対し、ユニゴはただ『生きたい』という純粋な理由でゲームをしていたのだ。

 

「私、そろそろ行く。お話、有意義だった。じゃあ」

 

 ユニゴは目的が達成したため、この場から立ち去ろうとする。……次の標的を探すために。

 

「ま、待って!」

 

 立ち上がり歩き出したユニゴに、雄介も立ち上がって呼ぶ。その制止の声を聞いて、ユニゴはぴたっと歩くのをやめた。

 

「たとえ君の境遇が悪いことを知っても、人を殺されるのを見過ごすことは出来ないんだ!」

「だけど私、やめない。悪いリント、殺す」

「そんなこと、させない!」

 

 雄介は腰に両手をかざして、クウガのベルトを出現させる。

 

「私、クウガと戦う気、ない」

「君になくても、俺にはある! 変身!」

 

 これ以上の犠牲者を出さないために、雄介はクウガに変身した。

 

 

 

     ――To be continued…


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