仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

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第5話 『心理』

 朝の新宿街。ふらふらと未確認生命体第46号ことゴ・ユニゴ・ダは歩いていた。

 目的地は行きつけのオープンカフェ。またゲゲルをする時間が来るまでゆっくりと時間を潰すつもりなのだろう。そこのコーヒーは彼女のお気に入りだった。

 

『――おはようございます。12月21日、朝のニュースです』

 

 ふと、目に留まったビルの側面に設置されている大型テレビのほうを見て立ち止まった。時刻は丁度7時。ニュースの時間だった。

 アナウンサーの男女が「こんにちは」と挨拶して軽く頭を下げる。しばらくの間のゲストの紹介やちょっとした世間話をし終えると席に座り、真剣な顔を作って(・・・)今日のニュースを読み上げていく。

 

『まずはこちら……もうどの新聞の見出しはこれですね。未確認生命体関連です。昨日午前0時に西多摩刑務所を襲撃し、午後1時に新宿・渋谷・港・千代田・中央区で殺害を繰り返していた未確認生命体第46号。またも犯行が行われました』

 

 ここで映像が変わり、どこかの港が映された。

 辺りには何人もの警察官が現場検証をしており、『Keep out』が羅列された黄色いテープが張り巡らされている。カメラがズームして行くと、そこにはおびただしいほどの血痕が広がっていた。

 

『今日午前2時。未確認生命体第46号は品川区大井コンテナ埠頭にて、麻薬を密輸していたと思われる外国人、及び暴力団「鬼柳会」の男ら、合わせて67人を殺害。しかし、悲劇はこれだけでは終わりませんでした』

 

 また映像が切り替わる。今度の映像は暗かった。しかし明るかった。

 暗かったのは深夜だったから。夜の闇と、電気が消されて静まり返っている住宅街の静寂ゆえの暗さだ。そんな安らぎの闇に照らす巨大な光があった。真っ赤に荒れ狂う業火だ。

 まるで天罰が下ったかのごとく激しく燃える炎に包まれているのは、閑静な住宅街のなかでも一際大きい豪邸。庭の木々にも飛び火し、囲われるように作られた柵の中は火の海と化していた。

 

『移動した未確認生命体第46号は、江戸川区に拠点を置いていた暴力団「鬼柳会」を襲撃。火は約1時間後に消し止められましたが、焼け跡から「鬼柳会」の構成員だったと思われる、計231人の遺体が見つかったとのことです。これで第46号によって殺害された被害者総数は3594人です』

『浅井さん、今回の未確認生命体のターゲットはやはり「犯罪者」と見てよろしいのでしょうか?』

 

 女性のアナウンサーが一通りのニュースを読み終えると、男性キャスターが解説の浅井という男に話を振った。浅井は首を縦に振る。

 

『ほぼ間違いないでしょう。この週刊誌の一面なんですが……昨日の午後1時にオフィスビルで殺害された被害者は実は詐欺グループだった、ということが書かれていまして』

 

 浅井の少し長い説明が始まった。

 前々からここらのオフィスビルに詐欺グループのアジトがあったらしいとか、出入りしている人間はみんな背広を着ていたとか、1台の大きなワンボックスカーが止まっていたこともあったとか、今となってはどうでもいい情報ばかりを話す。が、その話はおそらく面白半分に書かれていたのであろうゴシップ記事に信憑性を持たせるには充分だった。尤も、全部本当の話なのだが。

 

『ということは……これはどう呼びかけたらよいのでしょうね。「犯罪者の皆さんは逃げてください」と言えばいいんでしょうか?』

『なんとも言えませんね』

 

 深刻そうな表情を作っているが半分は笑っていて、しかもどこか他人事のようなアナウンサーたちの会話。当然といえば当然か。だって彼らには関係のない話なのだから。犯罪者で無い自分たちが第46号の殺害対象には絶対にならないのだから、安心しきっているのだろう。実際、今このニュースを見ているユニゴ本人はこのアナウンサーたちを標的として見ていなかった。

 

『それでですね、こちらが昨日の夕方に公開された、人間の姿に擬態している未確認生命体第46号の写真です』

 

 ずっとアナウンサーが持っていたパネルを立てて、カメラがそれをズームする。それは雄介と話し終えて立ち上がったときのユニゴの激写だった。警戒ができるように、そして犯行が行なわれる前に発見できるようにするために杉田が撮ったものだ。

 長い金色の髪に薄い碧眼、季節的に浮いている白いノースリーブのワンピースを纏ったその姿は全くぶれていないでくっきりと顔まで写し出せている。杉田にはもしかしたらカメラマンの才能があるのかもしれない。

 

『えっ。こ、これが第46号なんですか!?』

 

 仕事でニュースなど見る暇がなかったのであろう、ゲストのアイドルが驚いたように言う。

 

『警察から正式に発表されたものですので間違いないとのことです。とてもじゃありませんが、3000人以上の人間を殺害しているようには思えませんね』

『はい、驚きです。他にもさまざまな写真がネット上に出回っていますよ』

 

 この後、少しだけ注意を呼びかけただけで、キャスターたちは次の話題に移ってしまった。

 自分についてのニュースを見終えたユニゴはもうテレビに興味がなくなったらしく、踵を返して当初の目的地に向かおうとする。……しかし。

 

「……?」

 

 なにか大量の視線を感じて再び立ち止まり、周囲を見渡す。

 

「おい、あれって……」

「第46号?」

「ま、マジモンじゃねぇか、あれ!?」

「ど、どうするよ……?」

 

 優れた聴覚を生かして、人間たちがなにをひそひそと喋っているのかを、ユニゴはすぐに理解する。自分の姿が知られてしまったために、目立つ格好をしていたユニゴはすぐに見つかってしまい、一気に注目の的になってしまったのだ。

 

「あのー、ちょおっといいっすか?」

 

 そんなユニゴに1人の男が話しかけてきた。服装からして学生だろう。その後ろには付き合っている彼女だろうか、ユニゴを見て目が泳ぎまくっている小柄な女もいた。一瞬ユニゴと視線が合った彼女は震え上がって、強引に男を引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとやめておきなさいよ!」

「平気だよ。犯罪者しか襲わないらしいし、未確認生命体と話せるチャンスなんだぜ?」

「で、でも……」

 

 話しかけようとする男とそれを止めようとする女がやり取りしている間、ユニゴは話しかけてきた男に碧眼を向けて観察していた。

 顔、服、仕草、匂い、声、言葉使いを研ぎ澄まされた聴力と視覚、嗅覚をもってどんな男なのかを、復活してから今までの間に目を通してきた本や、テレビなどで得た知識を総動員して見透かそうとしているのだ。

 

「見てろって、絶対に大丈夫だからさ」

「あ、ちょっ……」

 

 ある程度分析ができたところで、女をなんとか説得した男がへらへらしながら戻ってきた。

 

「君さー、第46号でしょ?」

「ん」

 

 知られているし、最初から嘘を言う気もなかったユニゴは首を縦に振って肯定する。男はそれを見て満足そうな顔をした。自分に全くの殺意を向けられていないと踏んで、上手く話せると思ったからだろう。

 遠巻きにその様子を見ていた女や他の人間たちも、ユニゴが自分たちに害がないと思い、仕事場や学校へ向かうための足を止めて聞く耳を立てていた。中には、携帯カメラを構えて写真を撮っている者もいる。

 

「じゃあさ、いくつか質問して良いかなー?」

「おまえ、これ以上、話すこと、ない」

「ああっ?」

 

 もう男を観察し終え、興味がなくなったユニゴは視線を男から、少し後ろの方で見守っていた男が連れていた女にずらして右人差し指を向けた。

 

「貴女。貴女に話、ある」

「えっ……?」

 

 呆然とする女。ユニゴは腕を下げて彼女のほうに静かに歩く。

 話しかけた男が「どういうことだよ、おい!」と怒鳴り声を上げているが、ユニゴはそんなことを聞いちゃいない。

 

「貴女――」

 

 何を尋ねられるのだろうか?

 自分が一体何をしたのだろうか?

 何か、悪いことでもしてしまったのだろうか?

 何か、この目の前にいる得体の知れない存在の気に触れるようなことをしてしまったのだろうか?

 これから自分はどうなってしまうのだろうか?

 なぜ目を付けられたのだろうか?

 さっぱりわからない彼女は目の前に迫る恐怖(ユニゴ)に足が竦み、動くことができずに身を固まらせてしまった。

 

「――この男と、付き合ってる? 彼女?」

「……え?」

 

 女は目を点にする。当然だろう。未確認生命体が興味を持ったことが、まさか自分とその彼氏が付き合っているかどうかだったなんて、予想の遥か上のことだったのだから。

 しかしそれを聞いたユニゴは至って真剣で、まっすぐな視線を送ったままだ。

 

「答えて。貴女、この男と、付き合ってる?」

「え、ああ、うん。つ、付き合っているけど……」

 

 そんな真面目な視線のせいだろうか、付き合っていることを彼女は打ち明ける。

 

「あ? もしかして君、俺に惚れちゃったとか? だからそんなこと聞いたわけ?」

 

 自分の都合の良いように解釈した男はげらげら笑う。

 

「今すぐ、別れる、いい」

「え、え?」

「はっははははは! やっぱそうなのかよ! 本当に俺に惚れちゃったわけ? だけど残念、お断りだよ!」

 

 困惑する女に、おかしそうに笑う男。しかしユニゴはそれを無視。無表情のまま、男を指差して言った。

 

 

「この男、他に女、いるから」

 

 

「……え?」

「……は?」

 

 まさかの言葉にもとから困惑していた女は勿論、今まで笑っていた男もピキンと固まる。そして3秒くらいして男のほうが我に返った。

 

「ふっ、ふざけんな! 出鱈目を言うんじゃねぇよ! なんでそんなことがわかんだよ! いや、本当に俺は浮気なんかしてないぞ!?」

 

 あたふたと腕を振りながら否定し始める男だが、ユニゴはやはり無視。追及をやめない。

 

「今、目、泳いだ。声も大きい。嘘を付いて、必死になっている。一瞬だけ、目、大きく見開いた。本当のこと、いきなり言われて、動揺してる。……あ。今、服、握ってる。落ち着き、なくなって、なにかに縋ろうとしている」

 

 心理学の本を何回も読み、インターネットなどを通じてさまざまな人間の行動心理を学んできたユニゴにとって、まだ20年も生きていない浅はかな男の心理を読み取ることなど容易であった。

 

「服から、貴女とは違う女の匂い、する。べったり。密着、している。少し古いけど……香水の臭い、する。場所からして……貴女より、一回り背の低い。匂いからして年下。髪の毛も長い。茶髪」

 

 優れた嗅覚で情報を淡々と上げていき、制服の色のせいで言われるまで気付かなかった手入れからして女性のものであろう髪の毛まで見つかってしまう始末。心理学的になにもかも見透かされ、人間以上の五感による分析、物的証拠まで提示されてしまった男は、もう顔が真っ青である。これでは浮気を白状してしまったようなものだ。もし本当に違うのならば、もっと必死になって反抗するのが人間の心理というもの。

 

「……じゃあ、私、もう行く」

 

 話したいことがなくなったユニゴはまたふらふらと歩き出した。律儀な性格ゆえに真面目に応対してしまい、思った以上に時間を使ってしまった。今度こそ、目的のコーヒーを飲もうと移動を開始するユニゴ。

 

「テメェ……ふざけんなぁっ!」

 

 それをたった今、晒し者にされた男が黙って見ているわけがなかった。

 男はユニゴが未確認生命体だということなんて頭から抜け、ただただ怒りのままにユニゴに殴りかかる。当然、男が接近してきたことに気付いたユニゴは男の右拳が自分に接触する直前に身を捻る。くるりとワンピースをなびかせながらまるで踊るように躱して男と真正面に向き合ったユニゴは、突き出した男の右腕を左手で、そして右手をしっかりと男の襟首を掴んで一気に投げた。綺麗な半円を描いて飛んだ男の身体は、背中から地面に激突。見事な一本背負いが炸裂した。

 男は今、自分がなにをされたのかがわからなかった。殴ろうとしたユニゴの顔が自分のほうを見た瞬間世界が回り、気がつけば背中に痛みを感じ、コンクリートの道端に寝かされた。

 

「…………」

「ひっ、ひぃっ。わっ、悪かったっ。許してくれ!」

 

 無表情で、なにを考えているのかが全くわからない視線を向けてきたユニゴに、両手を頭の上にかざし、情けない声で謝る男。

 ユニゴのほうはというと、少しやりすぎたかなと思っていた。コーヒーが早く飲みたいのに、なかなか進ませてくれない男に少しむかついてついつい投げ飛ばしてしまったからだ。

 

「大丈夫?」

 

 首を傾げて手を差し伸べるユニゴであったが、それにすら恐怖を感じたのだろう。男はびくっと肩を震わすだけだった。今度は違う意味で首を傾げて、ユニゴは手を引っ込めて移動を再開した。

 ユニゴが立ち去り、完全に姿が見えなくなった後。少し経ってから、事の一部始終を見ていた全ての人間が感じた。感じてしまった。

 

 

 ――「かっこいい」と。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 同時刻。警視庁の会議室は騒然としていた。

 原因は完全に今放送されているニュースと、朝刊の見出しだ。

 

「最悪だ……」

 

 現場検証が済み、警視庁に戻ってきた杉田は新聞を机の上に叩き付けた。新聞にはでかでかと『悪を成敗する未確認生命体、現る!?』と乗っていた。

 杉田が持っていた新聞だけでない。

 一条が読んでいた別の新聞にも、未確認生命体第46号の人間態が大きく掲載され、その隣には『美しき処刑人』やら『白の執行者』やら、そんなことが書かれていた。

 グレーゾーンすれすれの記事ならば昨日の新聞にもあったが、刑務所から一般人へと標的を変えた第46号に対してのイメージは当然の如くダウン。よし、気が付かれていない。このままイメージを下げてくれと思ったのも束の間。今回の事件である。

 狙いが麻薬密売人。そしてその黒幕である指定暴力団を丸ごと殲滅した第46号のイメージは急上昇。挙句、昨日の午後1時に殺害された被害者たちが、詐欺グループのメンバーだったことまでも明るみに出てしまった。

 

「ネット上でもこの話題で持ちきりです……」

 

 パソコンを開いて掲示板を観覧していた桜井は、その書き込みを一条と杉田にも見せた。そこには「いいぞもっとやれ」「なんだ、未確認っていいやつじゃん」「日本中にこいつ量産したら犯罪がなくなるんじゃね?」など、冗談なのか本気なのか全くわからない恐ろしいコメントが山のようにあった。それだけじゃない。

 とある掲示板にはとんでもないことが書き込まれていた。

 

「……奴の狙いは、これだったのか」

 

 険しい顔でそこに書かれている文字を見つめる一条。彼の視線の先にあったモノ。それは……なんと犯罪グループが拠点としている住所、メンバーの名前や顔写真、ほかにもさまざまな事が載っている個人情報だった。

 こんな書き込みをした人間がどんな人間なのか、一条達にはすぐにわかった。それは……そのグループ内の裏切り者だ。グループとの縁を切り、足を洗いたいと思っている人間の仕業。犯罪者を根こそぎ狩っていく第46号を見て、自分の手を汚さず逮捕されることもなく逃げられると思った、そんな人間たちが書き込んだのだ。

 

「至急、ここの管理者と連絡して該当するスレッドを消去させるように訴えてきます」

「ああ、頼む。こんな書き込み、いくつも続いちまったら第46号のゲームの犠牲者が増える一方だ」

 

 連絡を取るために走っていく桜井。それを見届けた杉田はどかっと椅子に座った。

 

「悔しいが、向こうはこっちの何枚も上だ。人間の心理を上手く利用してやがる」

「ええ……」

 

 最初は挨拶代わりにドカンと一発大きく出てインパクトを与え、次にイメージをわざと落とさせ、最後に失ったイメージを取り戻す。上げて落として上げる作戦に出ていたのだ。その結果がこれだ。

 自分とは関係ないことには見て見ぬふりをし、自分のためなら利用できるものはどんなものでも利用しようと考える人間の醜い本性。第46号はそれを利用した。

 

「犯罪者を東京の外に逃がすことはできねぇし、だからと言って一斉に捕まえて匿っちまうと、今度は東京中の警察署の牢獄が処刑場になっちまう。俺たち警察はどうすることもできねぇ。先に奴を見つけて、倒すしかこのゲームを止めることはできねぇな」

「そのためには一般人の協力が必要不可欠です。果たして我々に知らせてくれる人間がいるのか……」

 

 第46号を称え、応援している声が圧倒的に多いのが現状だ。彼女を見つけたとしても「自分には関係ない」と感じて見過ごしてしまう人間は、絶対にいる。

 彼女を恐れる犯罪者なら通報してくれるかもしれないが、逆に言えばそれは自分が犯罪者ですとカミングアウトしているのと同じ。電話した瞬間、人生終了。牢獄行きだ。

 他人のこととなると攻撃的になり、自分のこととなると保守的になる。まさに人間であった。

 

「一条さん、杉田さん!」

 

 「はぁ……」と頭を抱えて溜息を吐く一条と杉田の元に、桜井が戻ってきた。

 

「どうした桜井。掲示板の封鎖が上手く行ったか?」

「は、はい! そこはしっかりと! い、いえ、そうじゃなくてですね!」

 

 なにやら慌てた様子の桜井。どうしたと感じる一条と杉田だが、次の桜井のセリフを聞いて固まった。

 

 

「――第46号の目撃情報が来ました!」

 

 

 

 

     ――To be continued…


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