東方想拾記   作:puc119

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第65話~月の満ちる晩に~

 

 真っ黒な世界に浮かんだ真ん丸な白。見蕩れて零れるため息がひとつ。

 それはもう何度も見た景色の一部ではあるけれど、綺麗だなんて心の底から思ってしまうようなものだった。

 赤い霧はない。異変独特の殺伐とした空気も流れておらず、ただただ月が綺麗な晩だった。

 

 少しの手土産と、もらったばかりの薄紫色の花を片手に持つことで精一杯のお洒落。

 

「んじゃま、引きこもりのあの妹に会いに行くとしますか」

 

 今回はそんなお話。

 お待たせしました。

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ青様。お待ちしておりましたよ」

 

 今日も今日とて目に優しくない色の館の門番は俺の姿を見つけると嬉しそうな顔でそんな言葉を落としてくれた。

 いらっしゃいではなく、お帰りなさい、と。些細な言葉の違いでしかないけれど、そんなたったのひと言が嬉しかった。自分の帰る場所があるってことが。

 

「や、美鈴。お世話になるよ」

 

 誘ってはみたもののため息混じりに断られてしまったため今日は俺ひとり。紅魔館なら美味しいものも食べられるだろうに、ルーミアも来れば良かったのにな。

 それから美鈴と軽く雑談をし、手土産を渡したところで紅魔館の中へ。俺に対して風当たりの強いキャラばかりの中、美鈴だけはいつも優しく接してくれる。もう結婚してくれれば良いのに。

 

 丁寧に手入れされた庭を抜け、紅魔館の中へ入るとやはり目には優しくない色が広がっていた。どっかのメイドさんがころころと中を変えてしまうため、数百年は過ごしたはずの館内も勝手知ったるとは言えない。

 昔のことになるが、迷子になったと半泣きになりながらぽてぽて歩いている家主を見かけたこともあるくらいだ。

 

「お帰りくださいませ青様」

 

 はてさて、これからどこへ向かえば良いのかとエントランスで立っているとそんな声が聞こえた。

 いらっしゃいではなく、帰れ、と。些細な言葉の違いでしかないけれど、そんなたったのひと言で傷ついた。

 そろそろ本当に泣いても良いかもしれない。

 

「や、今晩は咲夜。お誘いいただいたから遊びに来たよ。んで、とりあえずレミリアに挨拶だけしておきたいんだが、何処にいるんかな?」

 

 誘ってくれたのはフランドールだが、一応その前に家主に挨拶くらいはやっておきたい。日も落ちてからだいぶ時間も経ったしもう起きていてくれるはず。

 ま、そんな気を遣うような間柄でもないんだけどさ。

 

「はい、かしこまりました。ご案内致します」

 

 咲夜に連れられてレミリアの元へ。その道中、最近の出来事とか今日のパンツの色とか他愛のない会話を続け、見た目以上に広すぎる紅魔館の中を歩く。咲夜はちょいと不愛想なところもあるけれど、可愛らしい少女に違いない。そうだというのならつかの間のデートを楽しみましょうか。

 

「手、つなごっか」

 

 ぶん殴られた。

 

 

 

 

 

「あら、もう来たのね。随分と早かったじゃない。フランにはもう会ったの?」

「いんや、とりあえずレミリアのとこに挨拶だけでもと思って来たところだよ」

 

 レミリア・スカーレット。吸血鬼。クイーンオブナイト。妖怪最強種。そんな人物が目の前にいた。

 ま、俺にとってはただの可愛いだけの少女なんだけどさ。まだ起きて直ぐなせいか、やや眠そうな表情とかすごく良い。

 

「律儀ねぇ。家族なんだし、そんな気を遣わなくても良いのに」

 

 あくび混じりに落とされた言葉。

 うんまぁ、それは俺も思ったが何せちゃんと招待状までもらってお呼ばれされたのだし、一応形くらいは整えておきたかったんだ。

 

 ……レミリアの記憶は戻っていないはず。そうだというのにも関わらず、レミリアは当たり前のように俺を家族と言ってくれる。

 確かに、紅魔館では長い時間を過ごしたけれど、俺が過ごしたほとんどの時間はあの狭く暗い部屋の中だった。そんな記憶だってないはずなのに、昔と変わらず俺に接してくれるレミリアさんホント素敵。

 まぁ、家族といってもペット的な考え方なんだろうけどさ。それでも大らかなレミリアの性格には救われる。忘れられても、記憶が消えても繋がりが残っていてくれるってのは嬉しいものなんです。

 

「私は良いからフランの所へ行ってあげなさいな。ずっと楽しみに待っていたのよ、あの子」

 

 あら、そんな楽しみにしていてくれたのか。せっかくだしパチュリーにも挨拶くらいして行こうかと思ったが、それならもうフランドールのところへ行くとしようか。

 

「あいよ。んじゃ咲夜、フランドールのとこまで案内頼む」

「かしこまりました」

 

 手土産を渡してからレミリアの元を後に。

 はてさて、遊びに来ませんか? と誘われたのは良いが、どんな遊びになることやら。以前遊びに誘われ時、その内容を聞いたら殺し合いだった。

 今回は流石にそんな殺伐としたものにはならないと思うが、フランドールさんったらやんちゃだからなぁ。

 ま、大切な妹のためどんな遊びであろうと付き合ってやるのが家族ってものだろう。

 

 複雑に入り組んだ紅魔館内を進み、再び訪れたつかの間のデートを楽しみつつ、フランドールの部屋に続いているであろう階段の前で咲夜とは別れた。

 相も変わらず重々しい雰囲気で溢れた階段を進み、あの可愛らしい少女にはあまりにも似合わない重い扉の前へ。懐かしさだとか、昔の記憶とかいろいろなものが溢れ出す。広すぎるこの紅魔館の中、本当の俺の居場所はこの部屋なんだろうな、なんてことを考えつつ扉を開け――

 

 お着換え中のフランドールとばっちし目が合った。

 

 そっと扉を閉める。

 うん、そうだよね、ノックくらいした方が良かったよね。俺がいけませんね。

 

「お帰り、青! 来てくれたんだね!」

「待て、フランドール! 服、とりあえず服を着なさい!」

 

 そっと閉めた扉は直ぐに開けられ、半裸のフランドールを飛びついてきた。

 いや違うんだ。相手が着替え中のルーミアとかだったらそれこそこちらから飛びついたりするが、フランドールの場合だと嬉しさよりも罪悪感とかそういった感情が勝ってしまう。てか、あれだけ長い時間をこの部屋の中一緒に過ごしていたのだし、フランドールの着替えなぞ何度も見ている。

 女の子なんだし、いくら俺が相手でも恥じらいだとかそういった感情を持ってもらいたい。そっちの方が俺も興奮する。ルーミアさんを見習いなさい、ルーミアさんを。アレだけ一緒に過ごしているというのに未だにガードがガッチガチなんだぞ。

 

 飛びついてきたフランドールを宥め、少しばかりの時間を置いてから再び部屋の中へ。嬉しいトラブルではあったが、その相手がなぁ。あの熊畜生の着替えなんかもよく見ることはあるが、どういうわけだか興奮しない。

 

「や、フランドール。遊びに来たぞ」

 

 それじゃ、改めましてって感じで。

 

「うん! 招待状を送ってから5年以上も待たされるとは思わなかったけど、今日はありがとね!」

 

 ……咲夜からは何か言われそうだとか思っていたが、まさかフランドールか言われるとは思っていなかった。

 ごめんって! 別に忘れていたとかそういうわけじゃないんだけど、気づいたらそんな時間が経っていたんです。大丈夫、ちゃんと完結させられるよう続けるつもりはあるから! 東方剛欲異聞プレイアブルキャラクターおめでとうございます!!

 

「え、えと、それで今日は改まって招待状なんかまでもらっちゃったけど、どうしたの?」

「んー……ただ、青に会いたかっただけよ。えっと、迷惑だった?」

 

 あら、それは嬉しいよ。でも、招待状なんてなくても咲夜に伝言を頼むくらいでいくらでも来るんだけどな。基本、暇だし。

 

「まさか。迷惑なんてことはないさ」

「そう? でも青ってばなかなか来てくれないんだもん」

 

 若干むすっとした表情。

 あー……それは申し訳ない。昼間だったらよくフラフラといろいろな場所へ行っているんだが、夜は基本特訓だとかクマに襲われたりしているせいで出歩くことが少ないんだ。昼間の紅魔館に行ってもレミリアやフランドールは寝ているってこともあり、訪れることは確かに少なかった。

 遊びに行く場所は多分博麗神社が一番多い。最近は諏訪子や神奈子のいる守屋神社へ行くことも多いが。

 

「そりゃあ、悪かったな。これからはもうちょっと遊びに来るようにするよ」

「うん、またウチに住んでも良いのよ」

 

 また紅魔館で暮らす、か。ぶっちゃけ俺はそれでも良いのだが、おそらくルーミアは嫌がるだろう。嫁さんの許可なく承諾するのは難しい。熊畜生は知らん。

 

「それも難しいかな。ま、ホント今度からはちゃんと遊びに来るからさ。逆にフランドールがウチに来ても良いんだぞ?」

「えっ……い、行けたら行くね」

 

 行かないの枕詞だった。

 無理矢理宴会へ連れ出したことはあったが、相変わらず外へ出るのは嫌らしい。引きこもりが悪いとはいわないが、せっかくの幻想郷なんだ。フランドールにだっていろいろと楽しんでもらいたい。

 ま、昼間動けないってなると行ける場所は限られちゃうんだけどさ。

 

「それで、この後はどうする?」

「んとね、とりあえず皆でご飯食べましょう。その後は……ふふっ何しようね」

 

 なんて、コテリ首を傾げ嬉しそうな表情で言葉を落とした。かわいい。抱きしめちゃおうか。

 ……本当に楽しみにしていてくれたのかな、そうだと嬉しいかな。

 

 姉と同じでまだ記憶は戻っていないはず。この部屋で過ごした数百年分の俺に関する記憶だけがぽっかりと空いている。それがどんな気持ちなのかは想像できないが、気持ちの良いものではないだろう。

 忘れられたことは切ないし、思い出してくれれば良いとは思っている。けれども、今こうして嬉しそうな表情のフランドールを見られるだけで充分なのかなって思うよ。

 それは望み過ぎなのだろうか。それとも望まな過ぎなのだろうか。

 同じような自問自答をずっと繰り返しているが相変わらず答えは出てこない。それだけ今の生活に満足しているってことなんかねぇ。

 

「あいよ。んじゃまとりあえず上に行って、ご飯を食べながら一緒に考えるとするか」

「うん!」

 

 交わした言葉。つないだ右手と左手。

 いつもは長いばかりの夜も今日だけは短い夜となりそうだ。

 

 

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