デート・ア・ライブ  the blue fate   作:小坂井

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これにて、デート・ア・ストライク編は完結となります。この作品が本編に影響するなんて漫画を読んでいた時は思いもしませんでしたね、これだからデアラは面白いのです!!


番外編 7話

「その腕…お前人間じゃないのか…」

 

「このまま大人しく帰っていれば、これを見ずにいられたのに。こういうのを日本では『自業自得』って言うのかなっ!」

 

右手を掴んだまま、身体を動かし遠心力を加え、ミネルヴァを放り投げる。突然の出来事に驚きながらも彼女は受け身を忘れるような間抜けではなかった。だが、まだ自分の目が信じられなく、現実味を感じてないといった様子だ。

 

それもそうだろう。ほんの五秒前まで普通の人間だと思っていた相手が普通でなくなった(・・・・・・・・)のだから。それは当然、ミネルヴァだけでなく、見ていたセシルも同様だ。

 

「セシル…これがお前の目に光を取り戻した"奇跡"の正体だ。これは奇跡なんてものじゃない…ただの手品だよ。種の分からない…」

 

奇跡はその原因が分かった瞬間、手品という偽りの奇跡に成り下がる。だが、今の蓮はその偽りの奇跡の力を使い、観客(セシル達)を救うマジシャンとい言ってもいいだろう。

 

(俺が知り合って間もない奴のためにここまでするとは…どこかの誰かさんの影響かな…)

 

脳裏に浮かぶのは世界を殺すとまで言われている存在と対話し、手を差し伸べた超のつくほどのお人好しの少年だ。

そんな存在を見て、自分も誰かを救ってみたい…そんな感情を抱いたかもしれない。

 

「貴様ごときの雑魚に…私の目的を…アルテミシアになるのを…邪魔されてたまるかぁ!!」

 

ミネルヴァは猛犬のごとく吠える。

人間はどうしても自分の思い通りにならない事があると、心理の防衛機制というものが働く。

その例を上げると、幼児期に逆戻りする事や自分の行動が正しいと思い込むなどがある。

 

ミネルヴァはそれらのうちの一つ、同一化というものの行き過ぎているタイプらしい。

これは相手の特性を取り入れて自分と同じと思い込む事だが、ミネルヴァの場合はアルテミシアに対する強烈な劣等感(コンプレックス)がこれほどの行動を起こさせているのだ。

 

「くだらないな」

 

蓮は小さく呟くと、左手を前に突き出す。すると、左手に光が集まっていき、機械質な籠手を作り出す。四糸乃の天使に擬似した力を持つ〈ウィトリク〉だ。

 

その左手で何かを下げるような動作をした瞬間、空から何かがミネルヴァの左頬を擦り地面に突き刺さる。

セシルとミネルヴァが視線を向けると、それは鋭く尖っているナイフのようなものだったが、色は青色が入った半透明で水晶のように美しいそれは芸術品といってもいい物だが、ベットリと付着している赤い液体(・・・・)がそれを台無しにしている。

 

「…こ…れは…」

 

ミネルヴァは震える手で自分の頬に触れるとなにやら濡れている感触がある。手を目の前に持ってくると指先が真っ赤な液体…自分の血(・・・・)で濡れていた。

 

「自分が無敵と信じたアレクサンダー大王は、何千と降ってくる矢の中を平然と歩いたらしいが…お前はどうかな?」

 

その言葉を合図にミネルヴァの周囲の上空からさっき降ってきたのと同じ、美しい刃が大量に降り注いだ。

すぐに刃を弾き防御するが、一度に何百という数で隙間なく向かってくるのだ。アシュクロフトを装備したミネルヴァといえど、この数は捌ききれない。ガードを抜けた刃が彼女の全身を傷つけ、突き刺していく。

 

「ぐっ!ぐうぅ!!」

 

この数を防ぐのは無理と判断してミネルヴァは回避に専念する。ただ、この殺気を孕んだ雨から逃れたい。その一心で。

そこでとった行動は後ろに飛んで距離を開くことだった。刃が降り注いでいたのは自分の周囲、離れれば安全と判断したからだ。

 

「殺してやる…殺してやるぞ…貴様…」

 

全身が傷だらけの血まみれなってもその瞳には蓮への殺意に満ちていた。しかし、そんな物を向けられても本人は動じる様子もない。

 

「まだ安心するのは早いんじゃないか?殺すって言葉は言った時にはすでに終えてるんだよ、ボンクラが」

 

自分を嘲笑う蓮の言葉。それを聞いた時、ミネルヴァは右肩に激痛を感じた。ゆっくりと視線を向けるとさっき降ったのと同じ刃が突き刺さっていた。

 

「そんな…バカ…」

 

それを最後まで言わせず、またミネルヴァに向けて大量の刃が降ってくる。蓮はミネルヴァをとことん追い詰めるつもりだ。

 

「こんな!こんな事がぁ!!」

 

「四機のアシュクロフトを一度に手に入れたいだなんて欲張るからそうなるんだよ。大量のAST隊員にでも囲まれていれば、少なくともこんな惨い目に遭わなくて済んだんだ」

 

いつでも欲張り者は損をするものだ。すると、またミネルヴァが大きく動いた。無駄な事にまたはどこかに逃げようとするかと思ったが、その逆で蓮の方に突っ込んできた(・・・・・・・)

 

その理由は大方予想がつく。どうせ、近くにいけばこの攻撃は自分自身も巻き込んでしまうので、止めざる得なくなる。その隙をつけばミネルヴァは勝てると考えたのだろう。

今の攻撃範囲は半径三メートルほど、近づかれれば巻き添えを食らうので攻撃を止めるしかない。

 

攻撃が止んだのを好機をみたミネルヴァはもはや飛びかかると言っていいように襲いかかる。だが、ミネルヴァはあの悪夢から解放された喜びと蓮を殺せる嬉しさですっかり忘れていた。〈バスター〉の存在を…

 

蓮の頭に向かってくる手を首だけ動かす最小限の動きで回避すると、空を切るその腕を右手で掴み、そのまま地面に叩きつける。

その衝撃は地面が陥没し、ヒビが入るほどだ。

 

「ガハッ!!」

 

その衝撃にミネルヴァの顔は苦痛に染まり、口から血を吐き出す。そのまま地面にもう一度叩きつけ、観覧車を支える支柱へと投げつけた。

廃園となり、錆びていたせいか支柱へ当たった瞬間、観覧車が音を立てて崩れ始め、ミネルヴァは瓦礫の中に消えていった。

 

終わったと思い、〈ウィトリク〉を解き後ろを向いた瞬間、観覧車の瓦礫が凄まじい音を立てて吹き飛び、鬼の形相のミネルヴァが這い出てくる。

 

「よくも…よくもよくもよくも!!楽には殺さん!!苦痛は与えて殺した後!チリも残さないほどバラバラにしてやる!!!」

 

「驚いたな…骨折してもう動けないと思ったんだが…」

 

これは皮肉ではなく、本心からの言葉だ。今のミネルヴァは全身傷だらけの状態でありながら向かってくる。この執念に驚いたなのだ。

その執念は恐ろしいが今のミネルヴァにこの状況を打破できるほどの切り札はない。

 

そのはずの彼女が右にある、あるもの(・・・・)を見た途端、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

視線の先には回復処理を行い、立ち上がった美紀恵がいた。

 

蓮がまさかと思った瞬間、ミネルヴァは美紀恵に向かって全速力で走っていく。ミネルヴァは美紀恵を状況打破の"人質"にするつもりらしい。

 

距離的に今から走っても追いつかない。先ほどのように〈ウィトリク〉の能力で氷の刃を降らせる方法もあるが、この力は手に入れて日が浅い。ミネルヴァだけを狙って攻撃出来る自信が無かった。

仕方なしに地面に転がっていた鉄パイプを蹴り上げ、右手で掴み狙いを定める。それでもミネルヴァが美紀恵を捕らえる方が早い。

 

この状況に心の中で舌打ちを漏らすが、美紀恵が近くに落ちていた『アリス』のブレードを拾い、ミネルヴァを見事な剣さばきで攻撃する。

だが、その構えは両手を上に構える特徴的なもので、その構えといい剣さばきといい、新兵である美紀恵らしくないものだ。

蓮には見た事がないものだったが、ミネルヴァとそれを見ていたセシルは驚いた様子だ。彼女達には見覚えがあるらしい。

 

「まさか…お前が装着者の身体を乗っ取り…復活してくるとは…」

 

あり得ないという顔のミネルヴァ。美紀恵はそんなミネルヴァに静かに話し出す。

 

「ミネルヴァ…言ったはず。もし私の仲間を傷つけるような事があれば…私はあなたを許さないと…」

 

「どこまで私の邪魔を…今度こそ!私は!お前になる!!」

 

凄まじい瞬発力で飛びかかるミネルヴァだったが、美紀恵はそれを冷静に回避し、すれ違いの時に素早い剣撃を繰り出し、ミネルヴァを斬る。その傷口からは血が吹き出し、地面を汚した。

 

「くっ…そっ…がぁあああ!!」

 

その痛みに耐えながらもまだ諦めず、再び向かってくる。次の瞬間、美紀恵とミネルヴァの間に蓮が割り込み、ミネルヴァの顎に〈バスター〉の強力なアッパーを食らわせた。そのパワーにミネルヴァの身体が宙に飛び上がる。

 

「そんな…私は…アルテミシアにやりたい…なる…んだ…」

 

「お前には無理だ」

 

そのまま右腕を手前に引いて力を溜める。すると、〈バスター〉から光が溢れ出し、巨大な青い右腕を形作る。

ミネルヴァが前に落ちてきた瞬間、右腕を突き出すとそれにシンクロするように巨大な右腕がミネルヴァは殴り吹き飛ばした。

その凄まじい威力にミネルヴァは吹き飛ばされ、数回弾んだ後に地面に倒れる。

 

「ふう…で、お前は何者なんだ?」

 

〈バスター〉を引っ込め、美紀恵ではない何者(・・・・・・・・)かにそう問いかける。相手はただ申し訳なさそうな顔をするだけだ。

 

「あなたにも…私のせいで迷惑をかけてしまった…。ごめんなさい、どんなに謝っても謝りきれる事じゃないけど…」

 

「質問に関しては無視か…まあいい、こういうのも仕事だから、謝らなくていいよ。俺みたいな悪人には」

 

自虐気味に言った言葉に美紀恵は首を横に振り、ゆっくりと微笑んだ(・・・・)

 

「いいえ、あなたは悪人なんかじゃない…それほどの力を誰かのために使ってくれた…そんな人を悪人なんて呼ばないわ。それと…私の頼みごと(・・・・)を聞いてくれて…ありがとう」

 

「っ!まさか、お前!?」

 

それだけ言うと美紀恵は地面に力なく座り込む。急いで近寄り、状態をチェックするが特に異常はない。気を失っているだけだった。

そして、約十秒ほど経過すると。美紀恵がゆっくりと目を開ける。

 

「も…どった…。って、あれ?なんで蓮さんがここに…」

 

目が覚めたこの美紀恵は雰囲気といい、この問いといい間違いなく美紀恵本人だ。本人に戻ったならば、自分の事を不審がられてはならない、あくまで無知であるとアピールする必要がある。

 

「お前こそ、朝っぱらからこんな所で何してる。こんな寂れた遊園地で童心に戻ってたのか?」

 

「ち、違いますよ!!あっ!そう言えばミネルヴァ・リデルはどうなりましたか!?」

 

「どうなったって…お前が倒したじゃないか」

 

親指で後ろに倒れているミネルヴァを指すと、美紀恵は安心したようにため息をする。

その二人に『アリス』を纏った折紙が近づいてくる。

 

「…なぜあなたがここにいるの?」

 

一応自分がミネルヴァを倒した現場を見られてはいない筈だが、折紙は疑いの目を向けているのを感じる。それに惚けた様子で返す。

 

「別に好きでここにいるわけじゃないからな。近くを通っていたら大きな音がして、来てみただけだよ」

 

折紙はこれが嘘だとすぐに看破した。ここは廃園の遊園地、近づく理由がない。

しかし、これが嘘という証拠もないため、ここは黙るしかない。そんな事より今は重要視するべきか事がある。

 

「ミネルヴァ・リデルが倒れたんだったら、もう争わずに済みます…」

 

美紀恵の安心した言葉。だが、折紙は首を横に振りそれを否定する。

 

「…いや、それは彼女達の出方次第…」

 

折紙の見据える先にはセシル、アシュリー、レオノーラの三人が歩み寄ってくるのが見えた。その表情はお世辞にも友好的な顔であるとは言えない。

 

「…共闘、感謝するわ。私達三人だけではミネルヴァを倒すことが出来なかったでしょうから…ありがとう」

 

「いえ…お礼なんて…それより私達の戦いもこれで終わりですよね…?」

 

「いえ…まだ大事な仕事が残っているわ。そこにあるジャバウォックと…あなた達二人のアシュクロフトの奪取が…」

 

アルテミシアを復活させるには五機全てのアシュクロフトが必要。そのためには当然、『アリス』と『チェシャー・キャット』も必要だ。

 

「ま、待ってください!もう戦う必要はありません!ミネルヴァ・リデルを連れて帰ればASTも動いてくれます!」

 

これ以上血を流す争いが嫌な美紀恵は必死にそう訴える。しかし、それを無にしたのはセシル達ではなく皮肉な事に仲間である折紙だった。

 

「『アリス』はまだ渡せない。私は家族を奪った精霊に復讐するまでは…」

 

「その気持ち、分かるわ。私もSSSに入った理由は目と脚を奪った精霊への復讐だった…だけど、そんな私を救ってくれたのはアルテミシアだった。アシュリーとレオもそう…今度は私達がアルテミシアを救う番、悪いけど、その精霊を待っている余裕はない…」

 

「そう…なら、戦うのみ…」

 

この場を一触即発の空気が支配したのを感じる。セシル達にも折紙にも譲れないものがあるらしい。そんな中、蓮は『まったく…』と言わんばかりの目で二人を見つめる。

 

(…どいつもこいつも、自分の都合だけで話を進めやがって…)

 

この中で自分の都合も関係なしに相手を考えているのは美紀恵だけだった。この場の争いに善も悪も無い、ただ、自分の望みを叶えるのに夢中で相手の事を考える余裕が無いのだろう。

セシルも折紙の気持ちが分かるし、折紙もセシル達の気持ちが分かっているのだろうが、正しさだけで行動出来ないのが人間という生き物だ。

 

「蓮、あなたは離れていて。この戦いにあなたを巻き込みたくないわ」

 

セシルのこの言葉は、折紙に肩入れされると困るから言ったのか、それとも純粋に巻き添えにしたくないからなのかは分からない。

どちらにしろ、これに逆らって得はない。仕方なしに立ち上がり離れていく。

 

「蓮さん…そんな!もう戦う理由はないんですよ!」

 

美紀恵のこの反応を見ると、もしかしたら止めてくれるのを期待していたのだろう。そんな期待も呆気なく裏切られてしまった。

折紙はきっと美紀恵が戦いたくないと言ったら一人でも戦うだろう。

 

「…私は少し準備があるから、その間二人を引きつけておいて」

 

セシルはアシュリーとレオノーラに前線を任せて、後ろに下がる。その行き先は再起不能となっているミネルヴァだ。

彼女が倒れて『ジャバウォック』が浮いた状態となった。それを活用しない手はない。

 

だが、その道には蓮が立っていた。邪魔をするつもりかと思ったが、構えていないし、〈バスター〉を出しているわけでもない。

本当に立っているだけなのだ。

 

セシルは申し訳なさそうな顔をして、その横を通ろうとしたが…。

 

「……………」

 

すれ違う時、セシルにだけ聞こえるほどの小さな呟きを言った。それを聞き、セシルの足が止まる。

 

「…残念だけど、それは無理よ」

 

そうとだけ言い、また足を動かし始める。一方、折紙はアシュリーとレオノーラ相手に互角の戦いをしていた。

始まりはDEMの一部の人間によるものだったのに、今はDEMとはなんの関係のない折紙やセシル達がなぜ戦っているのか、奇妙な運命だと感じる。

 

「待たせたわね。準備は整ったわ!一気にたたみかけるわよ!」

 

そこに『ジャバウォック』を装着したセシルが合流する。これで三対一、セシル達が圧倒的有利になった。

 

「これで三対一!凌げるかしら鳶一 折紙!!」

 

折紙とセシルがぶつかり合う瞬間、美紀恵がその間に割って入り、二人の攻撃を受けた。

 

「美紀恵!!」

 

これには蓮も戦闘中である事を忘れて側に駆け寄る。幸いにも急所には当たっていない。

 

「ど、どうして割って入ったりなんか…」

 

「お願いです…もう戦いはやめにして下さい…アシュクロフトの中でアルテミシアさんは悔いていました…自分の力が争いを呼んでしまったと…だから…もう終わりにして下さい…」

 

「アシュクロフトの中の世界…じゃああの動きはやっぱり…なら、尚更早く出してあげないと…」

 

美紀恵がこれほどの事をしても理解されず戦いは続けられようとしている。

それを止めるため、傷ついた身体で立ち上がろうとする美紀恵に蓮は肩を貸す。

 

「蓮さん…すみません…」

 

「美紀恵、回復処理でなんとかならないのか?」

 

「さっきの戦いで使い切って…厳しいんですけど…絶対に止めないと…」

 

自分ではない誰かのためにここまでする美紀恵を蓮は止められるとは思えなかった。

しかし、その美紀恵はもうボロボロ、この意思を無駄にしたくない。こうなったら自分が力尽くでこの場を抑えようと思い始めた時。

戦っていた四人の動きがほぼ同時に(・・・・・)ピタリと止まった。今は戦闘中、こんな事はあり得ない事だ。

 

「今の声…みんなに聞こえたんですか…?」

 

「声?なんの事だ?」

 

「アシュクロフトに搭載されているナビゲーションAIのベルの声ですよ」

 

「何言っているの…アシュクロフトシリーズにはナビゲーションなんてついてない(・・・・・)…あなたの『チェシャー・キャット』にも…」

 

セシルのその言葉に美紀恵は驚きを顔に出すが、蓮は知らないと思わせるために分からないふりをしているが、内心驚いていた。

ナビゲーションがついていないなら、パソコン越しに話していたあの存在はなんだったのだろう。

 

「それに…今の声は…アルテミシアの声…!」

 

何やら蓮も状況がよく分からないまま話が進んで行っている。こうなったら、美紀恵に何を話しているのかを聞くしかないようだ。

 

「アルテミシア…どこから話して!一体どういう事なの………な…何を言うのアルテミシア!!」

 

「美紀恵、どういう会話をしているんだ?」

 

「アルテミシアさんが…もう戦わないでと言ってきてます…」

 

すると、周囲にガシャッという音が響く。この音も正体はレオノーラがアシュクロフト『レオン』の武装であるライフルを落とした音だ。

 

「私…もうやめる。その子が…頑張るのを見ていたから…私もその子を信じる…」

 

「私もだ…完全に信じたわけじゃねえが、アルテミシアがそこまで言うなら…やめるしかねぇじゃねえか…」

 

アシュリーもレオノーラと同じように、武装のランスを地面に落とす。これで残ったのはセシルだけになった。

セシルは美紀恵を見つめた後、蓮をじっと見つめる。

 

(…あなたの言う通りになったわね…)

 

『ジャバウォック』を取りに行く時、すれ違いざまに言われた言葉がリピートする。

 

『俺たちは分かり合える』

 

今となっては未来すら見えていたのではないかと思ってしまうほどの言葉だ。

いや、もしかしたらこれは予言ではなく、蓮の願い(・・)だったのかもしれない。

 

「…私も美紀恵を…いえ、二人(・・)を信じるわ。以後はあなたに従う…戦いはこれで終わりよ…」

 

それを聞いて、美紀恵は嬉しそうにしながら涙を流す。泣くのか笑うのかどっちかにしろと思いながら、蓮は美紀恵の頭を乱暴に撫でる。

三人はこう言ったが、まだ一人…折紙が残っており、彼女はまだこれに同意していない。

 

「…私は…まだ…『アリス』を手放すわけには…」

 

折紙はそう言うが、その顔には迷いが見える。彼女もこの状況を見て、それが自分のすべき事…正しい事なのか分からないようだ。

そんな折紙に美紀恵が近寄っていく。

 

「折紙さんが復讐にかける思いは知ってます…でもその方法はアシュクロフトだけではないはずです…『アリス』は手放しましょう…私もお手伝いしますから…」

 

折紙は何も言わない代わりに手に持ったブレードを地面に落とした。

 

「…現時刻をもって元SSSのメンバーとの戦闘を終了。彼女達は重要参考人として基地に連行し、ASTの指示に従うものとする」

 

そう告げた。それを聞いて美紀恵は嬉しそうにしながら折紙に礼を言う。

 

「まだ安心するには早い…とりあえず、彼女達連れて基地に向かう必要がある」

 

「あら、今度は正面から入っても大丈夫かしら?コッソリ入るのは結構しんどいもの」

 

セシルの冗談に苦笑いが生まれる。蓮も基地に戻ろうと歩き出そうとした時。

 

「危ない!!」

 

必死の表情のセシルにいきなり突き飛ばされた。その瞬間、蓮の顔のすぐ横をレーザーのようなものが通り、それはセシルに当たり、地面に倒れる。もし、セシルが庇わなかったら蓮にとって致命傷の攻撃になっていただろう。

その攻撃が来た方向に顔を向けるとそこには…

 

「させん…させんぞおお…アシュクロフトは…絶対に渡さない…」

 

歯を食いしばり、血走った目で歩いてくるミネルヴァがいた。

よく見ると、左手は力なくぶら下がり、右脚を引きずるように歩いている。こんな状態では歩くどころか立つ事すら困難なはずの重傷で向かってくるとは凄まじいほどの執念だ。

 

(この…クソ野郎がっ!!)

 

蓮はこれほど一人の人間を心底憎いと思った事はないだろう。だが、僅かに残った理性が『セシルの容体を見るべき』と考えていた。

ミネルヴァはいつでも殺す事は出来る。しかし、セシルは死んでしまったらそれで終わりだ。自分を救ってくれた恩人を死なせてしまったなど、絶対に許せなかった。

 

怒りを抑えて倒れたセシルに近寄る。ミネルヴァは美紀恵と折紙が向いているので不意打ちを食らうことはないだろう。

 

「セシル!セシル!しっかりしろ!」

 

アシュリーとレオノーラは泣きそうな顔で必死にセシルに呼びかけている。

 

「おい!セシルはどうなんだ!!」

 

「まだ脈はある!だが出血が激しすぎる。ここにはまともな医療器具がない、処置をしようにも…」

 

「弱音を吐くんじゃねえ!絶対にセシルを助けろ!助けてくれぇ…」

 

粗野な性格のアシュリーらしくない、弱々しい発言だ。それを聞いて少しリスクがあるが、アレ(・・)を使うしかないと判断する。

 

「方法はある、そのためにはお前達二人に協力してほしい事がある」

 

「…っ!何をすればいいんだ!?」

 

「二十秒…いや、十秒でいい、目を閉じろ(・・・・・)

 

こんな事態なのに何を言っているのだろうか、アシュリーとレオノーラが思った事はそれだろうと予想する事は、二人の表情を見れば簡単だった。

 

「てめぇ!こんな時に何を…」

 

「待ってアシュリー!蓮を信じてみようよ…それしか希望がないんだから…」

 

レオノーラにそう言われて、アシュリーは目を閉じる。レオノーラもお願いと言った表情をした後、目を閉じる。

美紀恵がこちらを見ていないのを確認して、〈バスター〉を右手に出し、セシルの傷口に触れる。

 

そして、意識を集中させると、青い光が溢れ出し、セシルの身体に吸い込まれて傷が癒えていく。

それと同時に凄まじい疲労が襲いかかり、右腕は元に戻り、地面に倒れこんだ。

 

「セシル!お前!どうやって完治させたんだ!?」

 

十秒経過し、目を開けたアシュリーが驚きの声を出す。だが、すぐにそんな驚きも忘れるような出来事が起きた。

『チェシャー・キャット』以外の四機のアシュクロフトが光り輝くと分裂し、飛んで行った。

周囲の瓦礫などを巻き込み、一つに集まっていき、巨大な怪物(モンスター)へと変化した。当然だが、アシュクロフトにはこんな機能はない。

 

怪物が大きく吠えると、怪物を中心に結界が張られて閉じ込められる。この結界は『アリス』と同じものだ。

結界で逃げられなくした後、いきなり光る球体のようなものが周囲に浮かび上がると、そこから激しい射撃が発射される。これはレオノーラが装備していたアシュクロフト『レオン』の攻撃だった。

 

結界によって密室になっているこの空間にその攻撃はとても脅威だ。何回も反射して美紀恵達に襲いかかる。

それは当然、蓮にも向かってくる。

 

(くっ!!)

 

セシルを抱えて逃げようにも今のまともに動けないこの身体では無理、だとしたら防御するしかない。

最後の力を振り絞り、〈バスター〉を出すと、自分とセシルを包み込ませる。

残酷だが、レオノーラとアシュリーは守らない。守備範囲が広くなればその分耐久力がダウンするため、そこまでの余裕がないのだ。

 

砲撃が〈バスター〉の防壁とぶつかる。一秒が永遠とも感じられる時を過ごし、限界を迎えたのは最後の砲撃は止んだのと同時だった。

しかし、それで終わりではない。まだ周囲には瓦礫などが舞っている。それは神のいじめか、そのうちの一つがセシルの頭に向けて落ちてきた。

 

〈バスター〉はもう出せない。セシルを動かすのも無理。だとしたら残された手は…

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

セシルは自分の顔に何か生温かいものがついているのを感じる。ボンヤリとする頭で自分が最後にどうなったかを思い出す。

 

(…確かミネルヴァの攻撃から蓮を守って…)

 

そこまで思い出して、一瞬で意識が覚醒して、目を開ける。そこには蓮の顔がすぐ近くにあった。

 

「よお…目が覚めたか…」

 

「あなた…それは…」

 

セシルが驚いたのは、蓮の顔が近くにあった事ではない。頭から流れ落ちている赤い血(・・・)だった。その血が自分の顔に流れ落ちている。

そして、自分の顔の横には赤い液体が付着した瓦礫、セシルは彼が自分を盾にして守ってくれたと理解した。

 

「なんで…そこまでして…私を守ってくれたの…?」

 

瓦礫の大きさを見る限り、気を失ってもおかしくないし、今も意識がハッキリしていないほどの怪我らしい。

なぜ捨て身で自分を救ってくれたのか聞くと、蓮は力なく笑った。

 

「そりゃあ…冗談でも…笑えないからな…あれだけの力があったのに…守れな…かった…なん…て…」

 

そこで限界がきたのだろう。蓮は力尽きるようにセシルの胸の上に倒れこんだ。死んではいない、気を失っただけだ。

セシルは倒れた蓮を胸の中で抱きしめた。なぜ自分がこんな事をしたのかは分からない。ただ、今は無性にそうしたかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

後日、蓮は航空機に乗り、イギリスへと向かっていた。当たり前だが、帰国が目的ではなく、セシル達三人の移送任務のためだ。

 

怪物…暴走したアシュクロフトはアシュクロフトのネットワークを利用し、すべてを自壊させる事では停止した。

それはアシュクロフトすべてを壊す事になり、それはアルテミシアも例外ではない。

 

美紀恵とセシル達の表情が沈んでいるのもそれが理由だろう。今も折紙が美紀恵を励ましている。

 

(結局、この戦いで誰が何を得たのか…)

 

包帯の巻かれている頭を触りながら考える。

新型顕現装置(リアライザ)を巡って起きたこの戦い、そのアシュクロフトはすべて半壊の小さなチップへと変わり果てた。

それにはもう精霊を倒せる力などもう無い。

 

着陸した後、燎子が点呼をとり、三人の移送を確認する。三人はSSSから来ている引き渡し担当者によって引き渡される流れだ。

 

「随分沈んでいるわね。セシル・オブライエン、久々に故郷の土を踏んだのに」

 

「…もうどうでもいいわ…どこに行こうとアルテミシアの笑顔は無いのだから…」

 

蓮は静かにそう言うセシルの車椅子を押して担当者の元へ向かう。

 

「あなた達三人はこれから監視を兼ねて…私と共に生活してもらいます…」

 

引き渡し担当者は女性だ。

セシルと同じ車椅子に座り、栗色の髪をなびかせ、優しそうに微笑んでいる。

 

蓮は彼女を見るのは初めてだが、アシュリー、レオノーラ、美紀恵は驚きに目を見開き、セシルは目が見えないので状況がうまく理解出来てない様子だ。

 

折紙は相変わらず無表情で、燎子と蓮は小さく笑った。

 

「おかえり…みんな…そして、ただいま…」

 

「アル…テミシア…?どうして…」

 

「ふふふ…どうしてでしょう?」

 

アルテミシアのその言葉と同時にアシュリーとレオノーラが涙を流してアルテミシアに抱きつく。

蓮はセシルをアルテミシアの前まで近づける。残ったセシルも声で誰かが分かった様子だ。

 

「その声…まさか…」

 

「セシル、最後に奇跡を見せるぞ。もうタネも分かりきっているが…必ず驚かせるのを約束するぞ」

 

美紀恵達からは右腕は身体の影に隠れて見えない、レオノーラとアシュリーはアルテミシアを見ていて気づいていない。

この隙に〈バスター〉を出してセシルの両目に触れる。指を離すとセシルの両目が開き、目の前の光景を映し出す。

 

「本当に…アルテミシア…なの…?」

 

「ええ…おかえり、セシル…」

 

セシルはアルテミシアの手を握り涙を流す。蓮の言った通り、セシルは驚き、喜び、涙を流した。

 

「セシル!?なんで目が…」

 

「きっと、神様がこの時だけは許してくれたんじゃないか?」

 

セシルの目が見えている事に驚く二人に蓮が冗談混じりにそんな事を言う。

 

「アルテミシア…でも…なんで無事だったの?アシュクロフトは全部壊れたはずじゃあ…」

 

「それは…()が助けてくれたの」

 

そう言ってアルテミシアが見つめる先には蓮が立っている。セシル達にはこの言葉の意味がよく分からない。

 

「一%と生かすために九十九%を壊す…俺がよく使う手段だよ…それじゃあな、四人で仲良くな」

 

そう言って離れていく蓮をセシルが何か想うような目で見つめていたのを、アルテミシアは見逃さなかった。

 

「セシル、彼に…伝えたい事があるんでしょ?」

 

「えっ…いや…私は…その…」

 

「これを逃したら、次に会うのはかなり先になってしまうわ…大丈夫、彼はあなたを拒んだりしないわ。私が保証するから」

 

セシルはその言葉に小さく頷く。

 

「待って、最後にあなたの顔を…見ておきたいわ」

 

それを聞いて、蓮はセシルの前に回り込み、肘掛けに手をつき、身を乗り出すようにする。

セシルは蓮の顔を両手で包み込み、じっと見つめる。

 

「私達がここにいるのは、あなたのおかげ…感謝するわ…蓮…」

 

そう言って、セシルは目を閉じると、自分の唇を蓮の唇に重ねた(・・・・・・・・・・・・)。キスをしたのだ。

これには見ていたアシュリーとレオノーラはもちろん、蓮も目を見開いて驚いた。

そんな中、アルテミシアだけは微笑みながらそれを見ている。

 

(ありがとう…美紀恵ちゃん…蓮くん…いえ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーージェイク・L(ロウ)・メイザース…)

 

 

 

 

 

 




最後に一言・・・セシルと〇〇〇したいです!!
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