はじめましての方ははじめまして!
またご覧ななってくださった読者さまはまたまたありがとうございます!
タイトルを見てピンときた方はお分かりかと思いますが、短編から連載へジョブチェンジしました。
元々短編の物なので短期連載になるかとは思いますが、よろしくお願いいたします!
一色いろはは恋してるっ
「葉山せんぱーい!お疲れさまですー」
「ありがとういろは」
わたしはサッカー部主将である葉山先輩にタオルを手渡すと、ついでに他の先輩方にもタオルを配る。
「お疲れさまですー」
「お!一色さんきゅ」「あんがといろはちゃん」「サンキュー!生徒会長サマ!」「ちょ!?いろはす俺の分は!?」
わたし一色いろはは、ここ県内有数の進学校・総武高校一年生にして生徒会長をも勤めあげる、この学校でもかなりの有名人なのである!
そんな生徒会長のわたしが、今日は久しぶりにサッカー部の朝練に付き合っている。
なぜかといえば、今日はある計画を実行する為に朝からちょっと興奮気味で、早く起きてしまったから!
いやサッカー部に所属してるマネージャーのハズなのに朝練参加の理由がヒドいもんなのは百も承知ですよ?
でも正直もうマネージャー業には何一つ必要性を見いだせなくなっちゃってるから部活出てくんのダルいんですよねっ、テヘッ☆
「ねぇいろはす俺のは〜?」
だったらマネージャー辞めれば?って話なんだけど、それはそれで問題点が2つほど。
まず第一に、わたしがマネージャーを辞めてしまうと、ある人に迷惑が掛かってしまうから。
だって……あの人はわたしが未だにマネージャーを好きでやってると思ってるし、それなのに自分が押し付けた生徒会長という役職を理由にわたしが部活を辞めてしまったら、たぶんあの人は自分を責めてしまう……
「っべー!いろはすシカトとかマジないわー」
第二に、あの人への密かな想いを誤魔化す為。
あの人はわたしが未だに葉山先輩を好きだと思ってる。てかわたし自身がそう仕向けてるんだけどね。
それはあの人に対し……あの人達に対してあくまでも伏兵で居るために。
真正面からぶつかっても敵いっこない強力過ぎるライバル達に少しでも対抗する為には、こんな状態・こんな立場をも有効に利用しなければいけないのであるっ!
だからわたしはサッカー部を辞めるわけにはいかないのですよ!
「いろはす〜……」
「あーもう、うっさいです戸部先輩!タオルならそこら辺にいくらでも転がってますよっ」
そんなこんなで、わたしの久しぶりのマネージャー業は今日も順調に流れていく。
× × ×
「いろはちゃんお疲れさま〜」
「あ、愛《まな》ちゃんお疲れっ」
「いやー、やっぱりいろはちゃんが練習来てくれると助かるよ〜!」
「うう……ごめんね愛ちゃん……あんまマネージャーに入れなくって……」
「んーん?全然いいよっ!むしろ生徒会のお仕事が大変なのに、部活辞めないでたまにこうやって手伝いに来てくれるだけでも助かっちゃうよっ」
うう……愛ちゃんホントにすみません……マジで心が痛い……
最近部活サボってるのは奉仕部に入り浸ってるからだなんて絶対に言えない……
しかも辞めない理由も我ながら我欲まみれでヒドイ……
うちのサッカー部には女子マネが4人も居るんだけど、わたし含めて入部理由がアレなもんで、真面目にマネージャーやってるのは愛ちゃんとわたしくらいなもんなんだよね。
わたしって意外とキッチリしてるから、いくら入部理由がアレとはいえ仕事をする以上はちゃんと真面目にこなすんですよ!
だったら毎日サボんなよってお話なんだけども。
と言うわけでわたしが部活に来ないと、実質的に女子マネ一人状態なワケだから本当に申し訳ないです……
「ゴメンネ!もうちょっとくらいは入れるようにするねっ」
わたしは目をバッテンにして愛ちゃんに手を合わせた。
「じゃあ期待しないで待ってるね〜」
するとにこやかに笑顔で答えてくれる愛ちゃん。
ホントいい子っ!
さてと!今日の部活もそろそろ終了かなっ。
あとは苦痛な授業を4時間受ければあの計画の発動だ!
ふふっ!待っててくださいねっ!せーんぱいっ♪
× × ×
四時限目のチャイムが鳴り響いたと同時に、わたしはお弁当の入ったバッグを肩に掛けて、ささっと職員室へと向かう。
生徒会室の鍵を借りに行かなくてはならないのだ!
「ありゃ?いろはお昼は〜!?」
「ごめんっ!今日の昼休みはちょっと用事あるんだっ!」
友達に簡単に謝罪して、ダッシュで教室を飛び出した。今日は昨日から注視してた天気予報通り、タイミング良くちょうどお昼に雨が降ってくれた!
ま、雨が降らなくても先輩がお昼に1人でどこに居るのかなんてのはもちろんリサーチ済みなんだけど、雨が降って先輩が教室に居てくれた方がこの計画には都合がいいのだ。
だってアイツ絶対逃げるもん!
その点居場所のない衆人監視のもとでの教室であれば、逃げられないから言うこと聞いてくれそうだしねー。
ふふふっ……わたしのせんぱい取り扱い説明書は完璧なんですよ?
わたしはばちこーん☆とウィンクしながら、これからのヤツとの対決に想いを馳せた。
鍵を受け取り問題の二年生の教室へと辿り着くと、ちょっとだけ震える指先なんか無視して迷いなく扉を開け放つっ!
そりゃ確かに緊張でドキドキしっぱなしなんだけど、もう時間が惜しくて惜しくて仕方ない。
早く会いたいのっ!早く約束取り付けたいのっ!
だから真っ赤になってそうな顔が、室内から流れてくる温風で誤魔化せるのはとてもありがたかった。
「失礼しまーす」
わたしが扉を開き中を覗き込むと、教室内がザワリとする。
まぁそりゃ二年生の先輩方の教室に、いきなり一年生生徒会長がやってきたらビックリしますよねー。
でもそんな事は今はどうでもいい。えっとぉ…………!!居た居た!
「あ!居た!せんぱーい!」
せんぱい検定準一級(自称)のわたしには、先輩がどこに居ようとすぐ見つけられるんですよっ。
「やぁいろは、どうしたんだ?」
「あんれー?いろはすどしたん?」
ありゃ、違う先輩が反応しちゃったみたいですね。
「あ!葉山先輩こんにちはです」
まぁみんなの可愛い後輩ですし、一応挨拶はしとかないとねっ!
でも葉山先輩ごめんなさい。葉山先輩に用はないのです。
なんかもう1人の声が聞こえた気がしたけど、そっちはまぁいっか。
わたしはきゃぴるんっと葉山先輩に頭を下げると、すぐに視線をヤツへと向けて声をかける。
てか最初の一声目で反応して下さいよ……
「あれ?先輩?おーい、先輩」
むぅ……予想はしてたけど無視ですか。
どうせ音楽なんか聴いてないくせに。
「ちょっとー、せんぱーい?」
いやいや絶対分かってるでしょ!?なんか肩がビクッとしてるし!
まったくー……どこまで強情なんだか……
わたしは仕方ないなぁ……と軽く溜め息を吐きつつ、愛しの先輩、比企谷八幡の耳にはまっているイヤホンを思いっきり引っ込抜いて耳元で呼んでやった。
「………せんぱいっ!」
「うひゃあ!」
するとビックリしたのか先輩はとてもとてもキモい声をあげた。なにこのキモ可愛い生き物!
耳に息吹き掛けたりチュッてしなかっただけでも有り難く思ってくださいよねっ♪
「うわ……ちょっと先輩……さすがにそれは気持ち悪くて無理ですごめんない」
まぁこれはお約束ですからねー。け、決して照れ隠しとかじゃないんですよ!?
でも取り敢えず断っとかないと、なんか勢いでギュゥッってしちゃいそうで……
すると先輩はまたかよ……とでも言いたげな顔で溜め息をつく。
「……おい、葉山ならあっちだぞ」
なんですかその目はホントはわたしが先輩に用があって来たのなんか分かり切ってるくせにっ!
……こっちは抱き付いてギュゥッとしたい気持ちを抑えに抑えてるっていうのに!ホントにムカつく先輩ですよ、まったくぅ!
「なに言ってんですか。わたし先輩に用があってわざわざ来てあげたんですよ?」
「いや別に頼んでねぇし……つか目立っちゃうからやめて欲しいんですけど」
「目立っちゃう?まぁ先輩なんかにこんなに可愛い後輩が訪ねてきたら、そりゃ目立っちゃいますよねー」
でも先輩はちょっとくらい目立った方がいいんですよ。先輩の魅力や能力に対して反比例し過ぎなんだよね、先輩の人気や認知度って。
まぁ目立っちゃってモテたら困るから結果オーライなんだけどもっ。
「まぁそんなことより先輩ってガチでぼっちなんですねー!ヤバいウケるー」
「いやウケねぇから」
あれ?なんかこのやりとりはモヤモヤすんなぁ。
クリスマスイベントで先輩と折本先輩の楽しげな?やりとりを思い出してしまった……
おな中の時なんかあったとか言いながら、なんも教えてくんないんだもんなぁ……むーっ!
「まったくぅ、なんか見てて痛々しいから、明日からはわたしがお昼くらいなら一緒に過ごしてあげてもいいんですよぉ?」
ふふふ。どうですかね?この魅惑的なお誘いは!?
「いやいらないから。あとあざとい。それとあざとい」
ですよねー。
まぁ分かってたことだけど失礼しちゃうなー。
わたしはぷくぅっと頬を膨らます。
「なんでですかー……せっかくこんなに可愛い後輩が誘ってあげてるのに〜」
「てか用ってなんだよ。超目立っちゃってるから早くお引き取り願いたいんですけど」
普通の男ならランチのお誘いとぷくっと頬っぺの可愛さアピールコンボでイチコロなんだけどなぁ……
ま、だからいいんだけどねー。
「あ、そうそう!……もう!先輩がおかしな事ばっか言うからすっかり忘れてましたよー」
え?俺の過失なの?とかなんとか言っちゃってるけど、ここは押せ押せで誤魔化しちゃう!
だって目的への第一歩はここからがスタートだからね。
「うーん……ちょっとここではなんなんで〜、一緒に生徒会室来て下さい!」
わたしはうーん……と悩んだフリをした後、用意しといた鍵を先輩の眼前にプランと垂らすと、とびっきりの小悪魔笑顔を見せ付けてやった。
そう、すべてはこの瞬間の為。
わざわざ先輩の教室に押し掛けたのも、わざわざ目立つように仕向けたのも、全ては先輩が教室に居づらくなってわたしに着いて来ざるをえなくする為なのです。
どうだ先輩!もう逃げられないからねっ!
「わあったよ……んじゃ早く行くぞ……」
わたしの素敵スマイルを見て観念したのか、やれやれと頭を掻きながら提案を承諾した。
「はい!それではレッツゴーですよっ、先輩!」
わたしは先輩の腕に絡み付いて生徒会室へと向かいたい衝動に駆られながらも、必死で我慢して先輩の隣にピッタリと陣取った。
……いつかはこうやってただ隣に立ってるだけじゃなくって、先輩のその手をわたしの手に重ね合わせて指を絡み合わせて、2人でおんなじトコロに向かって行きたいな……
今日はそんな恋する乙女の、ほんのささやかな夢への第一歩。
わたし、あなたに振り向いてもらえるまで、ここからはもう一歩だって止まりませんよ?せーんぱいっ!
続く
ありがとうございました!
これは元々短編集で後日談を書こうと思ってた作品なのですが、短期後日談にしては少しだけ長くなりそうだったので、思い切ってスタートからいろはす視点に変更して連載にしちゃいました!
三話くらいは書き蓄めてあるので、三日間くらいは毎日更新出来るかな……?
それではよろしくお願いいたします!
PS.
今回のオリキャラの愛ちゃんなんですけど、完全なオリキャラって訳では無くて、原作9巻に出て来た葉山にタオルを渡していた『一色ではない他の女子マネージャー(可愛い)』って子の設定です。
改めてあの一文を見た時、なんか出してみたいなぁ……とか思ってたんで出してみました(笑)