いろはす色な愛心   作:ぶーちゃん☆

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一色いろはは決意をするも間が悪いっ

 

 

 

「むぅ………………むぅっ!」

 

自室のベッドでうつ伏せに寝転んでジタバタしながら拗ねているわたし。

……はぁ、まさかこんなことになるなんてなぁ……

 

結局あのあと、放課後は奉仕部にも行かずサッカー部にも顔を出さずにいじけて帰ってきちゃったワケだけど、むぅ……

 

なんですかなんなんですか先輩のバカ……

あんなにデレッデレしちゃってさー!

今まで先輩のあんなにデレた顔、戸塚先輩の前くらいでしか見たこと無いですよっ…………いや、それはそれで異常事態なんですけれども。

 

 

それにしても愛ちゃん凄かったな。あんな状態なのに、あんなに頑張って積極的に攻めまくるんだもんな。

アレだったら、あと数日後に迫ったバレンタインでも頑張って告白出来ちゃうんだろうな……先輩、なんて答えるんだろ?

さすがに告白に応じる事は無いだろうなんて、なんの根拠も無く楽観視してたけど、あの様子見ちゃうとそんな自信は陽炎みたいにすぅっと消えていった。

 

 

わたしは起き上がり、机の一番上の引き出しに大切に大切にしまいこんだプリクラを取り出した。

ホントはいつも一緒に居られるように鞄とか携帯に貼りたいんだけど、それはいつかちゃんと気持ちを伝えられた時のご褒美の為に我慢しているのだ。

だったらこんな風にちょくちょく見んなよって話なんですけどねー!

 

汚れちゃわないように透明なフィルムに包んだソレを見つめながら、今度はゴロンと仰向けになった。

わたしの手の先ではプリクラに写った先輩が、わたしに急に抱きつかれて真っ赤に固まってる。

えへへ……かぁいーなぁ♪

 

「……せんぱーい……わたし、どうしたらいいんですかねー……」

 

わたしがいくら問い掛けても引きつって固まっている先輩はなーんにも答えてはくれない。

 

「ぶぅ……いじわる……」

 

我ながらバカみたい。

こういう人に見せられないようなちょっぴり恥ずかしい行為が、よく先輩や香織辺りのオタク系の人達が言うところの黒歴史ってやつに変わっていくのだろうか。

 

 

「はぁ、苦しいなぁ…………わたし、先輩になんか出会わなきゃ良かった……」

 

 

 

× × ×

 

 

そう。わたしは先輩に出会って、そして先輩の心に触れて本物ってものを知った。

今のわたしからすれば、もし先輩に出会わなかったら……もし先輩のあのセリフを聞いてなかったら……って考えただけでもゾッとする。

それ以前のわたしは本当に何にもない、つまらない空っぽの偽物だったって自覚があるから。

自分が偽物だなんて事にも気付かないで、恋に恋して可愛いわたしを作って偽物の笑顔を振りまいて、そんな可愛いわたし、みんな(男限定☆)に愛されるわたしに満足していた。

 

 

そう。逆説的に言えば、先輩に出会わなければわたしはあのままのわたしの人生を面白可笑しく、なんの疑問も持たずに送れていたのだ。

あざとい笑顔を振りまいて、適当に都合のいい男と遊びに行って、ごはんだって映画だって好きなだけ奢ってもらえたし、その一方でみんなの人気者の葉山先輩に恋したつもりになってアタックしまくって、毎日ヘラヘラと過ごせていたはずなのだ。

 

男なんてこの可愛い一色いろはにとってのステータスに過ぎない。可愛いわたしをさらに着飾る為のアクセサリー。

そんな風にあたりまえのように考えられていたほんの数ヶ月前までは、あんなに毎日が楽しかった。

辛いとか苦しいとかなんて、全然考えた事も無かった。

 

 

 

 

確かに先輩に会わなきゃ空っぽの中であの頃のわたしなりに幸せになれてたかもしれない。だから出会わなきゃ良かったってホント思う。

 

 

でもね?でももう手遅れなの……もうあなたを知ってしまったから。

先輩に出会ってしまった。心を感じてしまった。

心の底から、本物が欲しいと思ってしまった。

 

 

…………どうしてくれるんですか先輩!

もうそんな薄ら寒い人生なんてまっぴらにさせられた、もうあんな薄っぺらくて偽物の人生になんて二度と戻りたくないって気持ちになってしまった今のわたしに、先輩はどう責任をとってくれるんですか!?

 

 

辛い?苦しい?

この一色いろはを舐めんなぁっ!

今のわたしには、その辛さだって苦しさだって、先輩に関わる事であれば、本物に関わる事であれば、どんなことだってわたしの心のステータスになるんだから!

だから苦しくたって辛くたって諦めたりなんかしない!ちょっとだけ逃げちゃうことはあるかもだけどっ……

 

わたしあの時、二人っきりのモノレールの中で先輩に言いましたよね?

 

『先輩のせいですからね、わたしがこうなったの』

 

『責任、とってくださいね』

 

 

わたしが今までのわたしで満足出来なくなったのは全部せんぱいのせい。

今までのつまんないわたしをかなぐり捨てて、泣いたり苦しんだり無様に本物を追い求めるようになっちゃったのも全部全部せんぱいのせい。

 

「だから……誰がなんと言おうと……」

 

そしてわたしは、他に誰が居るワケでもない、誰が見てるワケでもない一人っきりの部屋なのに、口を歪ませてとびっきりの小悪魔笑顔になるのだった。

 

 

「責任……取ってもらうんだからっ♪」

 

 

よしっ、差し当たって出来る事といえば……

 

「早く寝よっと」

 

この戦いが終わったら、絶対先輩に告白するんだ!

わたしはまた余計なフラグを立てつつ、明日からの負けられない戦いに向けて眠りに落ちるのだった。

 

 

× × ×

 

 

「ふぁぁ〜、ねむっ……」

現在朝の五時。別にお婆ちゃんなわけでは無いのですよっ!

わたしはいつもより早く起きて、いつもより気合いの入ったお弁当を先輩に作ってあげるのだ。

 

今日のお弁当の品目は、先輩が美味しかったって言ってくれた玉子焼き。

あとは男の子が大好きな定番のからあげとハンバーグ。しょうが焼きなんかも入れちゃおうかな?

 

あ、でも色合い的に地味になっちゃうかなぁ……地味さを誤魔化す為にミニトマトとか入れたら先輩的にポイント低くなっちゃうしなー。

よしっ、ハンバーグじゃなくてロールキャベツにしよう♪

デミグラスで軽く煮込んだロールキャベツとか出せば、超手が込んでるように見えるしね〜。

 

腕まくりをしてペロリの舌なめずり。愛用のエプロンの紐をキュッと締めて、わたしは女の戦場へと赴くのである!

 

「今日も美味いぞっ、いろは☆って言わせちゃうぞ〜っ」

 

 

× × ×

 

 

「…………………」

 

四時限目の終了のチャイムと同時に教室を飛び出そうと思ったのだが、運悪く四時限目の数学担当の教師にプリントを集めて職員室に持っていくようにと命じられ(これでも一応生徒会長なんで、こういう場合に文句とか言えないんですよ……)、ちょっと遅れて先輩の待つベストプレイスに到着した頃には…………すでに愛ちゃんが先輩と楽しそうにお喋りしていた……

 

マジで……?確かに愛ちゃんはまたお昼に来てもいいですか?って言ってたけど、まさか翌日に来るなんて……

って言ってもバレンタインは来週の月曜日。木曜日の今日にでも頑張らないと、バレンタイン前に一緒に過ごせるチャンスは明日のお昼だけになっちゃうもんね……くっそー……迂濶だったぁ……

 

まだ距離があるから何を話してるのかは分からないけど、遠目からでも愛ちゃんが真っ赤な顔して相変わらずトチりながらも、身振り手振りで一生懸命話してるのが伺える。

そんな愛ちゃんに戸惑いながらも、時折あの優しそうな眼差しを愛ちゃんに向けている先輩。

 

こっ……これは入って行けないっ……いくらなんでも無理です……

そもそもまだ愛ちゃんにホントのこと言えてないから、愛ちゃんが居る前でこんなに気合いの入ったお弁当とか渡せるわけ無いしっ!

せっかく早起きしてお弁当作ったけど、ここは戦略的撤退しかなさそうです……

 

ゆうべあれだけの決意をしたのに早速逃げちゃうのかよわたしっ。

で、でもちょっとだけ逃げちゃうかもって言ったし……!

 

明日のお昼こそ一緒に過ごすんだからっ!

いやいや、それよりもまずは今日の放課後!ちょっと行き辛くて避け気味だった奉仕部に顔を出して一緒に過ごそう。

 

……………はぁ、早く教室帰ってヤケ喰いしよっと……

 

 

× × ×

 

 

放課後。

わたしは奉仕部へと向かう為に荷物をまとめる。

 

「ありゃ?いろは今日はサッカー部行かないんだー。生徒会?」

 

「え……?あー、うん。そんなとこー」

 

「へぇ……そんなとこね〜。なんか今日の昼休みもいきなり居なくなったと思ったら、とっとと帰ってきて弁当二つもヤケ喰いしてるし、最近私の友達の一色いろはさんは一体なーにやってんだかね〜っ」

 

「ぐっ……なにその腹立つニヤつき顔っ……ま、まぁ今はまだ負けられない戦いがそこにはある!とだけ言っておきますかね…………い、いずれねっ!?この戦いが無事に終わったらちゃんと話すからっ」

 

「…………いやそれ死亡フラグだから」

 

ウ、ウザイなこいつ……やっぱりフラグやらなんやらキモいこと言われちゃったよ……

余計な一言を言う友達に若干のイラつきを覚えつつ、一杯過ぎるお腹を押さえながらわたしは勇んで教室を後にした。

 

 

奉仕部に着いたら何しよう。

もう猶予も余裕もゼロなんだから、雪ノ下先輩達からの恐ろしい視線なんてこの際知ったこっちゃない!

雪ノ下先輩に視線で殺される覚悟でいっそ告ってやろうかっ……いや、でもまだ愛ちゃんに本音も言えてない段階で先に告るなんてヒド過ぎる。

 

だったらバレンタイン前の土日のどっちかにデートの約束を(無理矢理)取り付けてやろうっ!

その上で明日の部活で愛ちゃんに本音を話せばいい。

 

バレンタインにチョコ渡して、告白する気まんまんの愛ちゃんに今さら本音を言うのは正直気が引けるけど、恋はバトルだもん!絶対負けられないっ!

 

「よしっ!」

 

決心がついた気合い一杯のわたしの足取りはとても力強く、もうなんの迷いもなく前へと進む。

なんならホントにこのまま告白だって出来ちゃいそうな勢い!

よーしっ!やるぞー!

 

 

 

 

 

「一色!ようやく捕まえたぞっ!」

 

「……へっ?」

 

わたしの細腕を物凄い力でガッシリと掴む手。

そこには般若の如きアラサー独身女性が一人。

 

「ひ、平塚先生……こ、こんにちは」

 

「ああ、こんにちは一色。……ではないっ!なぜ昨日生徒会に来ないで帰ったのだ!前々から約束してあっただろう!」

 

や、約束ってなんのことでしたっけ……?

 

「まさか君は忘れてるわけでは無いだろうな?前々から何度も提出しろと言っている送辞はどうなっているのかね!提出期限は昨日だぞ!」

 

「…………わわわ忘れてたぁっ」

 

な、なんてこった……最近色々ありすぎてすっかり忘れてたぁ……

 

「まったく……そんなことだろうと思ったよ……もう来週から卒業式の諸々の準備も始まるんだぞ……」

 

やっばい……!今は送辞どころではっ……!

 

「ふぅ、まぁいい。こんなこともあろうかと、答辞を用意する城廻に手伝いをお願いしておいた。送辞以外にもさんざんサボり倒した雑務も諸々残っているからな。今日明日は放課後も朝も昼も生徒会室に缶詰めになると覚悟したまえ!」

 

う、嘘でしょ?

まさか今まで散々サボり倒して来た生徒会のツケが、こんな時にこんなタイミングで降り掛かってくるだなんてっ……

 

 

…………はッ!!だったらこんな時こそちょうど先輩に……

 

「言っておくが今回ばかりは比企谷に頼るのは無しだ。ふふふっ……仕事が終わるまでは奉仕部に行くのは禁止だぞっ?」

 

 

そしてわたしは、ニッコリと青筋を立てるアラサー独身女性に無理矢理引きずられ、その日はもちろんのこと、翌日の朝・昼・晩と、たっぷりと生徒会室に缶詰めにされたのでした……

 

 

こ、これが社畜というやつか…………先輩に会えないまま、愛ちゃんにも本音を打ち明けられないまま、今週が終わっちゃったよ……

 

 

 

 

続く

 






ありがとうございました!

今回から一気に急展開!残すところはバレンタインという事であとはラストスパートです!
こんなに間が悪くて踏んだり蹴ったりの状態でラストなスパートが出来るんですかね〜?いろはす('・ω・`)

たぶん残りあと4話くらいになりそうな気がしますので、最後までいろはすの応援よろしくですっ。



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