いろはす色な愛心   作:ぶーちゃん☆

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元々決めてあった次話への引きの関係で、今回はちょっと短いかもです。
ホントは前話と今話がひとつにまとまる予定だったんですけどね(笑)


それではどぞ!





一色いろははついに決戦の朝を迎えるっ

 

 

 

「……居るワケ無いよなぁ……」

 

2月12日土曜日の今日、私は千葉駅周辺を彷徨っていた。

以前先輩を連れ回したデートコース・ゲームセンターやラーメン屋さんの前をウロウロしたり商業施設内の中に入ってキョロキョロしたり、はたまたデートコースでは無かったものの先輩がひょっこり現われそうな本屋さんを何店も巡ってみたり。

 

フィクションじゃないんだから、街で偶然想い人に会えるなんて事がそうそう起きるわけは無いんだけど。

朝から、もしも会えたらたまたまを装うつもりで何時間も徘徊しているわたしの行為が偶然の出会いと言えるのかどうかは疑問なんですけどねー。

てかそれはもう偶然でもなんでも無いですね。

 

「はぁ……そもそも先輩が休みの日に外出すること自体が超レアだもんな〜……」

 

 

木曜日と金曜日に独身によって生徒会室に完全に監禁されたわたしは(ごめんなさい自業自得です)、バレンタイン当日までの間に少しでもアタックを掛けてやろうという目論見が外されてなかなかに焦っていた。

まさかあんな決意をした途端に、バレンタイン当日まで先輩に会う機会が巡ってこなくなるなんて誰が予想していたのでしょうかっ?神様酷いよっ!?

 

せめて当日までにもう一回くらいは先輩に会いたかったけど、目的が目的なだけに結衣先輩に先輩の連絡先を聞く事なんて出来ないから、藁にも縋る思いで千葉まで出てきたはいいけど、そんなに上手く行くわけなんか無いのだ……

 

それでもほんのわずかな奇跡に望みを乗せて、今日何度目かも分からない本屋さんをウロウロキョロキョロしてみる。

わたしのこの姿は店員さんに何度も目撃されてるだろうし、これ先輩がやってたら完全に通報モノだよね。

先輩が職質を受けてキョドってる姿を想像して、こんなときだってのについニヤニヤしてしまうわたしは、本当に恋する乙女やってるんだなぁってついつい実感してしまう。

おっと、さらに余計にニヤつきがとんでもない事になっちゃった!わたしが通報されちゃうからっ。

 

 

はぁ〜……ホントこれがドラマとか少女漫画とかだったら、本屋さんの狭い通路ですれ違うお客さんの肩がぶつかったりして、「あっ……す、すみません」なんてお互いに顔を見合わせてみたら、そこには今一番会いたい人がっ……!

 

なーんてフィクションなご都合主義展開が待っててくれるんだけどなぁ……なんて馬鹿な事をぼーっと考えていた時だった。

 

どんっ!と肩に衝撃が走った。

え……嘘でしょ?マジで?

そそそそんなことホントに起きるわけ無いじゃんっ!何!?わたしって物語のヒロインになっちゃったの!?奇跡が起きちゃったの!?

 

「あ、すみません……って、あ、あれ?」

 

謝りながらも疑問符を付ける男の人。

わたしは軽くパニックになって真っ赤に俯きながらも、ゆっくりと顔を上げてその男の人へと期待の眼差しを向けた。

 

 

「っべー!やっぱいろはすじゃんっ!休日にこんなとこで偶然会うなんてマジミラクルっしょ!マジパないわー」

 

「……………………」

 

 

どうやら奇跡は起こらなかったみたいです。

 

 

× × ×

 

 

完全にやる気を削がれたわたしは、即帰宅した自宅にてお菓子作りの本とにらめっこしていた。

 

「んー。なに作ろっかなー」

 

とどのつまり、今わたしに出来る事といえば、明後日のバレンタイン当日に先輩に最高の贈り物をして、そして想いを伝えることだけなのです!

 

変に夢を持って街に繰り出したってしょーがない。先輩の連絡先を知らない以上は、あとは本番で当たって砕けるのみ!

ううっ……く、砕けたくないよぉっ……

 

とにかく今日は一日無駄にしちゃったから、明日は精根込めて、想いが届くように愛情がたっぷりと詰まったチョコレートを作ろうっ。

去年までは愛されいろは用に作ってた義理チョコなんて、今年はひとつだって作らない。

 

奉仕部のこと、愛ちゃんのこと、あの愛ちゃんとのお昼休み以来先輩に会えてないこと、ここ最近なんか間が悪くて嫌な予感しかしないこと…………ホントは頭が破裂しちゃいそうなくらい考えちゃうことは一杯あるけど、もう今さら考えたって仕方ないことばっかだもん。

 

だからもう余計な事なんて考えないで、本番の明後日までに残された僅かな時間はチョコレートの事だけ考えよう。

 

「甘っ……」

 

先輩の大好きなコーヒーをちびちび飲みつつ、わたしは気持ちを集中させるのであった。

ん!このコーヒーも使ってみよっかな♪

 

 

 

結局残された日曜日を使って、わたしはわたしに出来うる最っ高のバレンタインセットを作り上げた。

ナッツたっぷりチョコブラウニー・ふわふわしっとりチョコマフィン・お口でとろけるトリュフチョコ・チョコクッキー&MAXクッキーの豪華詰め合わせセット。

全部お店で出せるレベル!味見したら超美味しかったんだからね、せんぱいっ!

 

 

わたしはベッドに腰掛けながら、枕元に置いた超可愛くラッピングしたお菓子詰め合わせを優しく撫で、そっと瞳を閉じて先輩に出会ってから今日までの事を思い出していた。

 

 

ロマンもなんにもない酷い出会い。

 

まんまと乗せられた生徒会役員選挙。

 

初めて先輩の優しさに気付いたクリスマスイベント。

 

突き刺さるような寒さの薄暗い廊下で聞いてしまったあの熱い言葉。

 

偽物の恋に決着をつけた二人きりの帰り道。

 

初めてのデート。そして初めてのキス……

 

 

まだたったの二ヶ月ちょっとのはずなのに、わたしの今までの人生の中で一番の、大事な思い出がたくさん詰まった掛け替えの無い大切な大切な時間。

心臓が爆発しそうなくらいにドキドキして、顔が燃え上がっちゃうんじゃないの?ってくらいに熱い。

 

 

 

 

わたしは明日…………せんぱいに想いを告げるんだ。

 

 

× × ×

 

 

2月14日。運命のバレンタイン。

 

正直緊張であんまり眠れなかった。

いつもよりもずっと早く目が覚めちゃった真っ暗な朝は、冬の張り詰めた空気そのままに、新聞配達のバイクの音以外はしんと静まり返っていた。

 

 

くまとか出来ちゃってないかな?疲れた顔してないかな?

今日は、最高のわたしで先輩の前に立ちたい。朝から鏡とにらめっこして、可愛いわたしを磨き上げる。

どんなに可愛いく作り上げたってあの先輩には全く通じないんだけど、それでもわたしはわたしに自信を持って運命に臨みたいから。

 

自慢の亜麻色の髪を可愛くセット。

震える指先でマスカラを充て震える指先でリップを塗る。

ネイルもメイクもあくまでもナチュラルに。そっちの方が先輩は好きだろうから。

 

今からあんまり気合いを入れても、どうせこのあと部活で乱れちゃうのは分かってるよ?

でも、女の戦いはもうここから始まってるんだよ。

 

だからわたしはわたしを磨き上げる。

いつ愛しいあの人に見られても恥ずかしくないように。目を逸らさずいつでも最高の笑顔を向けられるように。

 

 

さぁ行こう!一色いろは!

わたしの戦いはここからだっ!

 

 

× × ×

 

 

「おー!いろはすおはよー!今日は朝からなんか気合い入ってね?」

 

「おはようございますっ!戸部先輩っ」

 

こんなに大事な日の今日に、朝からマネージャーなんてやりにきたのは他でもない。愛ちゃんにわたしの気持ちを伝える為。

 

昨日とかに電話なりメールなりしたって良かったんだけど、やっぱり直接向き合って話したいからね。

真正面からちゃんとわたしの気持ちをぶつけて正々堂々今日の戦いに臨みたい。

 

 

愛ちゃんも今日に向けての心の準備は済ませてきたのかな。緊張しすぎて大変な事になってなきゃいいけどっ。

たぶんあの子はお昼休みに告白するんだろうな。あの場所で。

 

わたしは?いつチョコ渡せばいいんだろ?

やっぱりフェアに愛ちゃんのあと?でもそしたらもう手遅れって可能性だってあるし、お昼休みのあとって言ったら放課後しかない。

せめて先輩が奉仕部に行く前には渡したいし、だったら愛ちゃんと一緒にお昼休みに……って手もあるんだよね。

でもそれじゃ愛ちゃん迷惑だろうなぁ……

 

とか色々考えてたら戸部先輩から声が掛かった。

 

「いろはすー。そういえば、まなっちはまだ来てないん?俺ら選手よりも先に来てないなんて珍しくね?」

 

「……えっ?愛ちゃんてまだ来てないんですかっ?」

 

いつも真面目で一生懸命な愛ちゃんは、誰よりも早く部室に来て、みんなが来るまでの間に諸々の準備をしておくってのがいつものパターンなのだ。

わたしは部活をサボり始める前は毎日ちゃんと朝練に参加してたけど、愛ちゃんが先に来て無かったことなんて一度もなかった。

 

もしかして昨日チョコ作りに苦戦して寝坊とかしちゃってるのかな?

それとも緊張し過ぎてわちゃわちゃパニックで、どっか知らない町まで電車に運ばれてっちゃったかな……?

 

愛ちゃん……普段は超しっかり者なのに、いざ先輩が絡むと途端にポンコツになるからなぁ……どっちも有り得過ぎて恐い……

 

 

「まぁまなっちは珍しいとして、なんかアレじゃね?いろはすー!……なーんか最近疲れちゃってっから、今日は甘いもんでもチョコっと食いたい気分じゃねっ?」

 

まぁさすがに今日はしょうがないかぁ。愛ちゃんなんてわたしより頭の中ぐちゃぐちゃだろうし。

先に用意とかしとけば今に来るよね。

少しでも作業進めといて、愛ちゃんが来たときに少しでも時間が取れるようにしとかなきゃねっ!

 

 

「いろはす?あれ?チ、チョコっとさ?ちょ!?いろはすー?無視はないわー……」

 

 

わたしは他の二人の女子マネなんかには一切意識も期待も向けずに作業を進めた。

え?戸部先輩?だれそれ。

 

そしてそうこうしてる内に葉山先輩も他の選手たちも到着して本日の朝練が着々と進行していったのだが…………

 

 

 

 

 

結局……その日は愛ちゃんが朝練に顔を出すことは無かった……

 

 

 

続く

 





ありがとうございました!

ついに結末へ向けて物語が一気に動きだします!
残すところあと3話!かな?
なんか次回は後書きが長くなりそうな予感(苦笑)
すみませんね、いつも後書きが無駄に長くて(汗)


あ、ちなみにいろはすが本屋で……って辺りは、以前香織短編で書いたシーンのセルフオマージュです(笑)

ではではまた次回お会いいたしましょうっ☆


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