いろはす色な愛心   作:ぶーちゃん☆

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ここまで読んで頂いて、愛ちゃんを好きになってくれた読者さま方、誠に申し訳ありません!


実は私、ここまで書いてきた愛ちゃんはそんなに好きじゃありませんでしたっ(衝撃っ)
いや好きは好きですよ?生みの親ですし。
でも、香織グループの子たち程には好きではなかったという話です><

なぜならここまで書いてきた愛ちゃんは、まだ本当の愛ちゃんにはなれていなかったからなのです。


そして、ついに今回愛ちゃんが本当の姿を曝けだして、完全に作者好みのキャラとなります!
ここまでの愛ちゃんを好きになってくださった読者さま的にはちょっとなぁ……かも知れませんが、この展開は初めから決まっていた展開なのでご容赦くださいませ(汗)


ではではどぞ!




一色いろはと愛川愛

 

 

 

朝のSHRが終わり一限になっても、わたしの心は酷くザワついていた。

愛ちゃんが朝練に来なかった。それだけで通常では起こりえない異常自体なのは間違い無い。

 

朝練が終わって教室に向かう時にチラッと隣の教室を覗いてみたけど、愛ちゃんはまだ来てなかった。

 

どうしたんだろう……?まさか事故?

んーん?それは無いか。それだったら学校にすぐにでも連絡くるから、部活にだって至急連絡が来るはずだもんね。

だとしたら……

 

と、校内にチャイムが鳴り響く。気が付いた時には、どうやら一限が終わっていたらしい。

それでもそのまま考え込んでいると不意に肩をトントンとされた。

 

「あの〜、一色さん……お客さんだよ?」

 

クラスの女子に遠慮がちに声を掛けられて振り向いた扉の先では、愛ちゃんがニコニコと手を振っていた。

 

 

× × ×

 

 

「いろはちゃん、ごめんね?今日急に朝練休んじゃって……」

 

わたし達は今、人気の無い特別棟の階段の踊り場へと向かっている最中だ。

愛ちゃんがあんまり人の来ない所でお話したいって言うから。

 

「あ、うん……び、ビックリしたよー。愛ちゃんが突然サボるなんて超珍しいからっ……」

 

「へ?サボる?私、朝戸部先輩に今日は休みますってメールしたんだけどなぁ……」

 

戸部ぇぇ……

 

「……そういう時は戸部先輩じゃなくて葉山先輩に連絡した方が良くない!?戸部先輩じゃあ……」

 

「えへへっ……私葉山先輩の連絡先知らないんだよね。ほらっ、あの子達のガードが固くってさっ。入部当初に一応聞いとこうと思ったらすっごい睨まれちゃってやめちゃった!」

 

テヘッとする愛ちゃんだけど、そういう時は怒りなさいよ……ったくあの女どもっ!

 

「うー……それにしても酷いよ戸部先輩っ……私今日無断休扱いになっちゃってるのぉっ?」

 

ぷんぷんっ!と頬を膨らます愛ちゃん。

なんだか……普段よりもずっとテンションが高い……

 

「まぁちゃんと伝わったか確認しなかった私が悪いんだし、サボりみたいなものだし、仕方ないよね……」

 

そして休み時間になんて誰も来ないであろう特別棟の階段の踊り場に到着した途端に、ずっと言いたくて我慢してたのだろう愛ちゃんが、なんの前置きもせずにいきなり告げてきた……

 

 

 

「……いろはちゃん…………えへへへっ……私っ……振られちゃった……っ」

 

「…………愛ちゃん」

 

気丈に振る舞っていた愛ちゃんは、その瞬間ずっと張り詰めていた気持ちを緩めたんだろう。

ボロボロととめどなく涙が零れ落ちる。

 

「えへへっ……ひっ……ひぐっ……わ、私ねっ……?駐輪場でっ……朝からずっと、待ってたのっ……誰よりも早ぐっ……比企谷先輩にっ……チョコっ……わだしたかったからっ……」

 

「愛ちゃん!……無理しなくってもいいからっ……」

 

「でもねっ……ひぐっ……わがってたけどっ……分かってたこどなんだけどっ……ひっ……やっぱり……私、あはは……ふ、振られちゃったよぉぉっ……………ひっ……ひぐっ…………………ふぇ……っ……ふぇぇぇぇぇっ……!」

 

崩れ落ちそうになる愛ちゃんを抱き止めて、ギュッと抱き締める。

ずっと我慢していた足枷が取れたかのように、子供みたいにわんわんと泣きじゃくる愛ちゃんの声が、誰も居ない特別棟に響き渡っていた……

 

 

× × ×

 

 

私はなんとなく分かっていた。

愛ちゃんが教室に来た時のニコニコな笑顔を見て。

ここにくるまでの無駄にテンションの高い愛ちゃんを見て。

だってその笑顔は偽物だったから……

そしてわたしは愛ちゃんのその偽物の笑顔を見た瞬間…………心のどこかでホッとしてしまっていた。わたし、最悪だ……

 

 

ひとしきり泣き続けた愛ちゃんがようやく落ち着いてきた頃には校内に予鈴が響いていた。

 

「っ……ぐすっ……ごめんね?いろはちゃん……ホントはもっとお話したいことあったんだけど、もう行かなきゃねっ……ありがと、もう大丈夫だからっ……」

 

抱き締めるわたしの腕をほどき、慌てて教室に戻ろうとする愛ちゃんを、わたしは必死で引き止めた。

だって、そんな顔で教室に帰せるわけ無いじゃない……

 

「待って!……愛ちゃんっ、授業サボっちゃおっか?」

 

「ふぇ?」

 

戸惑う愛ちゃんを無理矢理引き連れて、わたしはそのまま屋上へと向かう。

女子の間では有名なんだよね。特別棟の屋上の鍵が壊れてて出入り自由なんだってこと。

 

「や、でもっ、生徒会長のいろはちゃんが授業サボるとかマズいんじゃ……」

 

うぐっ……確かにあとで独身に呼び出されるかもね……

でも今はそれどころじゃないからね。

 

「だーいじょーぶっ!不真面目な生徒会長が授業サボるより、優等生の愛ちゃんが授業サボる方が遥かに目立つもんっ」

 

「ひどっ!?」

 

 

階段を上がりきりぶら下がってるだけの錠前を外して屋上への扉を開けると、真冬の高い青空が視界いっぱいに広がる。

そして恐ろしく冷たい風が吹きこんできた。

 

「さっむー!」

 

「ひゃぁぁ〜……」

 

サボタージュを屋上で!ってアイデアは失敗だったかも知れないです……

 

 

× × ×

 

 

とりあえず風が吹き付けてくるのを防げる場所へと移動する。

お、陽なたなら結構いけるかもっ!

 

「ホントごめんねいろはちゃんっ……サボりに巻き込んじゃって……」

 

「んーん?だってわたしが強引に引っ張って来たんだもん」

 

「……えへへ、私が酷い顔しちゃってるからでしょっ?」

 

「うん。さすがにそんな顔じゃ教室には帰せませんよお父さんはっ」

 

「ふふっ、ありがとうねっ!お父さんっ」

 

「あははっ」「えへへぇ〜」

 

やっと笑顔が出てきてくれた。

あまりの寒さのあとのポカポカ陽射しで、ようやく落ち着いてくれたみたいだ。

良かった……でも……

 

 

それからせっかく時間も出来ちゃった事だしって事で、愛ちゃんが色々お話してくれた。無理しなくてもいいって言ったのに、今日のことを全部。

 

「朝もね?すっごい寒かったんだぁ。比企谷先輩が何時くらいに登校してくるか知らなかったから、朝一で学校に来てずっと駐輪場で待ってたのっ」

 

「ひぇ〜……マジで……?」

 

「うんっ、まじでっ!ふふっ、“まじ”なんて初めて使っちゃったっ」

 

今の愛ちゃんはナチュラルテンション。無理の無い笑顔がすっごく可愛い。

 

「でもまさかあんなギリギリで登校してくるなんて思わなかったよ〜。あれだったら部活サボらないでも済んだなぁ。…………でね?私が待ってたから先輩ってばすっごいビックリしてたっ」

 

ほんの一〜二時間前の事なのに、遠い記憶を思い出すかのようにクスクスと可笑しそうに笑う。

 

「……チョコ差し出して『ずっと好きでしたっ!』って言ったらもっとビックリしてた!鳩がマメでっぽう食らったみたいな顔ってやつ?…………あっ!告白はちゃんと噛まないで言えたんだからねっ!?」

 

えへんっ!って胸張ってるけど、そこ威張るとこじゃないからね?

 

「断られちゃったけど…………でもね!?比企谷先輩、チョコをその場で開けて食べてくれたのっ!「うん。旨いっ」って言ってくれたのっ!」

 

すっごく嬉しそうに話す愛ちゃん。

振られちゃったのに、なんでそんなに嬉しそうに話せるんだろう……

 

「ふふっ、でねでね?食べちゃったあとにハッ!として、『わ、悪い!普通こういう場合って……断るんなら貰っちゃいけないんだよなっ……』ってあわあわしちゃってねっ?『す、すまん……俺こういう経験無いからテンパっちって……』って。………ふふふ〜っ!私、比企谷先輩にチョコあげた初めての女の子になっちゃったぁ!」

 

「そっかっ」

 

「うんっ!…………あの時、比企谷先輩のビックリしたり慌てたり、美味しそうだったり申し訳なさそうだったり、先輩の色んな顔見られて私分かっちゃったんだ。ああ、やっぱり私この人が好きなんだなぁ……って」

 

「愛ちゃん……」

 

愛ちゃんは振られちゃったのにスッキリ出来たんだな……

思いっきり気持ちぶつけて、思いっきり振られて、思いっきり泣いて……

 

でも…………でもわたしは……

 

「だから私は、告白して本当に良かった!……たぶんお知り合いになれる前だったらこうはいかなかったと思う。……だからいろはちゃん……紹介してくれて、ホントにありがとねっ!」

 

愛ちゃん……わたしは愛ちゃんにお礼を言われるような立場なんかじゃないんだよ……

 

わたしは自分の本当の気持ちも話さないまま紹介したの。

 

わたしはあなたの恋が上手くいかないだろうって分かってて紹介したの。

 

わたしはもしかしたら上手くいっちゃうんじゃないかって不安になって、紹介したこと後悔ちゃったの。

 

わたしは愛ちゃんが振られてホッとしちゃったの。

 

 

わたし最悪だね……ズルいよね……

だから、今のわたしじゃ愛ちゃんみたいに先輩に真正面からぶつかってスッキリする資格なんて無いんだろうな。

 

だから、だからわたしは……まだ先輩に告白するのはやめておこう。

大好きな人に振られちゃった女の子に、実はわたしも先輩のことが好きだなんて言えるわけ無い。告白なんて……出来るわけ無い。

 

はぁ……わたしの決意なんてそんなもんだよね。

ちゃんと愛ちゃんに本心を伝えなきゃ。ちゃんと先輩に気持ち伝えなきゃ。

いつでも言えたはずなのに、いつでも伝えられたはずなのに、なにかと理由を付けて後回しにした結果がコレなんだ。

ホント情けない。こんなんじゃ……わたしには本物を手に入れることなんて出来やしな…

 

「いろはちゃん」

 

わたしのネガティブな思考が泥沼にハマりかけていた時、その声が掛かった。

とっても優しい響きなんだけど、とっても厳しい響きにも聞こえる声で。

 

「……え?」

 

そしてその優しく厳しい声は、わたしを泥沼から力ずくで引き上げるような台詞を口にした。

 

 

「……いろはちゃんは、どうするの?」

 

 

俯いていた心を上げると、愛ちゃんが真剣な眼差しでわたしを見つめていた。

 

 

× × ×

 

 

「ど、どうするのって……なにが?」

 

「……チョコレート、渡すの?気持ち、伝えるの?」

 

「えっ……?は、葉山先輩に……?」

 

この期に及んでトボけるのかよわたしは。

そんなわたしにクスリと笑い、ゆっくりと首を横に振る。

 

「違うよいろはちゃん。分かってるでしょ?」

 

「……分かって……たんだ」

 

「ふふっ、それは分かるよ〜。恋の応援は出来ないって言われたり、目の前であんなに楽しそうな夫婦漫才を見せられればね〜!」

 

「そっか…………ごめんね?嘘ついてて」

 

「…………で、どうするの?」

 

少しの間を開けたあと、もう一度同じ質問をしてきた。

 

「あ、や……わたしは……」

 

すると愛ちゃんはコホンッと咳払いをすると、右手の人差し指をピッと立てて左手を腰に充てて、わざとらしく私怒ってますよ?アピールな表情を顔に張りつけた。

 

「いろはちゃんっ!いろはちゃんは、もしかして私に悪い事したから、告白するのを諦めようとか思ってない!?」

 

「……へっ?」

 

「まったくぅ!やっぱりそうなんだ〜。……いい?いろはちゃん!いろはちゃんはズルくなんて無いからねっ!?普通だったら紹介だってしてくれないんだから!だからいろはちゃんはズルくないっ」

 

わたしとは違う天然モノのぷくっと頬っぺのはずなのに、アレ?なんか良く見慣れてる感じだぞ?

まるで養殖モノのわたしを鏡で見てるかのような……

 

「むしろね?ズルいのは私の方なんだよ…………だって、いろはちゃんが比企谷先輩のこと大好きだって気付いてたのに、気付かないフリしてたんだからっ……気付かないフリして先輩に近づいたんだから……」

 

そう言って愛ちゃんは、膨らんだ頬っぺを引っ込めて、少しだけ悲しそうな笑顔になった。

 

 

「私はね、ホントにズルいの。一緒にお昼休みを過ごした翌日、もしかしたらいろはちゃんもお昼休みにあの場所に来ちゃうんじゃないかって思って、急いで比企谷先輩のとこに行った……後からいろはちゃんが来たとしても、比企谷先輩には私だけを見てもらえるように、必死に話し掛けてた……」

 

「…………」

 

「今日だって……部活休んでまでずっと比企谷先輩を待ってたのは…………いろはちゃんが……いろはちゃんだけじゃない……雪ノ下先輩や由比ヶ浜先輩が想いを伝えちゃう前に、どうしても先に告白したかったからなの……」

 

愛ちゃんのこんな顔は初めて見る。

いつも優しくニコニコしてる愛ちゃん。

いつも一生懸命部活に取り組んでる真剣な愛ちゃん。

先輩を前にした時はわちゃわちゃとパニックになっちゃう愛ちゃん。

でも、こんなに苦しそうな顔は見たことが無い……

 

「もちろんね?結果なんて分かってた……私は手遅れだったから…………文化祭のあとに勇気を出して声を掛けられていたら、もしかしたらちょっとだけ違う未来が待ってたのかも知れないけど……でも私は勇気を出せなかった。声を掛けられなかった。だから……私はもう手遅れだったの……」

 

……涙が、つっと頬を伝う。

 

「でも…………もしかしたら、万が一でも可能性があるかも知れないから、せっかく告白するんだし、ほんのちょっとでも希望持ちたかったから…………だから誰かに告白されちゃう前に……どうしてもチョコ渡したかったの……」

 

「ま、な……ちゃん」

 

「……ねっ?私の方が、ずっとズルいでしょ?いろはちゃんなんて全っ然ズルくなんかないっ。…………………へへ〜っ!どっちかと言うと、ちょっと勇気が足りなかっただけっ」

 

「うぐっ!」

 

「だからさ、いろはちゃん!……いろはちゃんは私みたいに手遅れにならないかも知れない可能性があるんだよ?……手遅れって、ホントに辛いんだよ?……だから……いろはちゃんは想いを伝えなきゃダメだよっ……伝えないなんて、そんなの勿体ない」

 

そう言いながら、愛ちゃんは両手でわたしの両手をギュッと握ってくれる。

そしてニコッと笑顔になった。

 

「ふっふっふ!ズルーい私は、いろはちゃんに取って置きの情報を教えちゃおうっ!」

 

……え!?きゅ、急に!?

呆気に取られたわたしの事など一切気にせず、愛ちゃんはそのまま話を続ける。

 

「私が比企谷先輩になんて言われて振られたか、いろはちゃんだけに特別に教えてあげるっ」

 

「へっ?」

 

「『すまん……愛川の気持ちはすげぇ嬉しい……でも、今俺には、どうしてもほっとけないバカが居んだよ……だから愛川の気持ちに応える事は出来ない……』だってさ……………へっへっへ〜!一体誰のことだろねー?」

 

あの先輩がそんなこと……わたし達にだって絶対に言わないような事を愛ちゃんに言うだなんて。

先輩、ちゃんと真剣に愛ちゃんに向き合ってたんだな……

 

「こないだのいろはちゃんのお話からすると、ほっとけないって言ったら由比ヶ浜先輩かな?でも比企谷先輩からしたら、意外とあの雪ノ下先輩でさえもほっとけない人になるのかもねっ…………でもね?それはいろはちゃんにだって言えることだよ……?だからさっ」

 

その時、二限終了のチャイムが校内に鳴り響く。

 

「あっ、もうこんな時間になっちゃったんだ!さすがにこれ以上サボっちゃうのはマズいよねっ?……そろそろ行かなきゃ」

 

そして愛ちゃんはわたしに背を向けて階段への扉へと真っ直ぐに向かう。

 

わたしは、愛ちゃんに背中を押してもらっちゃったのかな……何度も見せ掛けの決意をして、そしてまた何度もへこたれるような情けないわたしの背中を……

 

「愛ちゃん……!わたしっ……」

 

すると愛ちゃんはわたしの言葉を遮るように、振り向きもせずにとっても予想外の言葉を口にする。

 

「あっ、いろはちゃん!……今日、一番言いたかったこと言うの忘れてたよ〜。…………あのね、勘違いしないでねっ?」

 

「はへ?」

 

愛ちゃんに対して宣言しようとしていたわたしは梯子を外された格好になり、思わず変な声が出てしまった。

 

「……さっきも言ったけどね?……私、やっぱり比企谷先輩のことが好きなのっ……告白して振られちゃったからこそ本当に気付いちゃったんだっ。私、間違ってなかったんだって。この気持ちはホントにホントに本物なんだって」

 

「ま、愛ちゃん……?」

 

「私、比企谷先輩が大好き!だから私っ、諦めないからっ……だって、振られちゃったからって、諦めなきゃいけない決まりなんてないでしょ?……もし誰かさんの告白が成功して彼女が出来ちゃったって、諦めなきゃならない決まりなんてないでしょっ?…………だって…………ずっと想い続けて、ずっとアタックしまくって…………いつか振り向かせちゃえばいいんだからっ!」

 

ちょちょちょちょっと愛ちゃん!?

 

「さっき言った手遅れって言うのはね、あくまでも“今年のバレンタインは”って意味だよっ?私に足りなかったのは、雪ノ下先輩達やいろはちゃんみたいな積み上げられた時間と絆だもん!だったら、これから築き上げてけばいいんだもんっ!……私、あの日言ったよね?負けないって……!あの負けない宣言は別に今日までの話なんかじゃないの!だからさっ」

 

 

そして愛ちゃんがくるりと振り向いた。

涙を浮かべてるけど、ちょっと悔しそうな顔してるけど、でも飛びっきりの小悪魔笑顔で…………って、え?こ、小悪魔ぁっ!?

 

 

 

「もしもいろはちゃんの告白が上手くいったとしたら、私が比企谷先輩を振り向かせるまでの間だけ、ちょっとだけ貸しておいてあげるっ……♪」

 

 

 

涙で潤んだ目をパチリとウインク。んべぇ!っと舌をちょっぴり出したその笑顔は…………まさしくわたしが良く見慣れた、小悪魔そのものだった……

 

その笑顔をすっと背けて扉に手を掛けた愛ちゃんは、今度は一転優しい天使のような声で優しい一言を残し、校舎の中へと消えていった。

 

 

「だから今日は………………がんばれっ」

 

 

× × ×

 

 

参った……マジで参った……

呆然と一人屋上に取り残されたわたしは、なぜか口元が上へと曲がっていた。

 

……なにアレ!?天使で小悪魔とか反則でしょ!

もしかしたら、わたしはわたしの優柔不断な行いで、とんでもない怪物を生み出しちゃったのかな……?

……違うか。たぶん単にわたしが……みんなが愛ちゃんの事を誤解してただけなのだ。

天性の優しさとぽわぽわ空気で、まるで純真無垢な天使のような子だって思ってたけど、そうじゃなかったってだけの話なんだろう。

 

確かに天使ではあるけど、でもひとたび本物の恋を知っちゃったら、その本物を手に入れる為にはただの恋する乙女にだって小悪魔にだってなっちゃうような、なんてことない一人の普通の女の子だったんだ、愛ちゃんは。

 

一瞬だけ、その優しさでわたしの背中を押すためのお芝居だったのかな?なんて考えが頭を過ったけど、それは違うんだろうな。

だって、あの小悪魔笑顔は本物だったから。

 

天使な愛ちゃんも小悪魔な愛ちゃんもどっちも嘘偽りの無い本物の愛ちゃん。

だから明日からは、あの天使さと小悪魔さで先輩をガンガン攻めてきそう!下手したらあの子、即日サッカー部に退部届け出して、奉仕部に入部しちゃうんじゃない!?

 

「うっわぁ……こりゃとんでもないライバルが誕生しちゃったなぁ……」

 

 

……でも、さっき見た愛ちゃんの小悪魔笑顔は、わたしが今まで見てきた愛ちゃんのどんな素敵でどんな可愛い笑顔よりもずっとずっと魅力的だったから、だからわたしはつい口元が緩んでしまってるんだろう。

だったら……

 

ぱぁん!!

わたしは両手で両頬をはたいた。

「……よーしっ!やるぞぉ!もうホントに負けらんない!愛ちゃんに取られちゃう前に…………わたしが絶対本物を手に入れてやるっっっ」

 

 

 

 

 

そしてわたしはその足でそのままあの人の元へと向かう。三限が始まっちゃうまでにはまだ時間があるから。

 

だからわたしは真っ直ぐに向かう。あの人が待つ……二年F組へと。

 

 

 

 

続く





というわけでありがとうございました!

以前に宣言しましたが、ようやく愛ちゃんが自分を出せました。
まぁ自分を出せたと言っても本人は無自覚なんですけどね。


ここまで散々戸塚の女の子版だの年下版めぐ☆りんだのと言って純粋な天使さをアピールしてきたんですけど、実は本当は抜け駆けだってするし、ズルい事して心を痛めたりだってする、なんてことのない普通の女の子だったんです。
ただの純真無垢な女の子では無いと分かってた読者さまもたくさんおられるとは思いますが(;^_^A
でも天使は天使で間違いないので、今後はその天使さとのギャップで小悪魔さがより魅力的に魅惑的に引き立つんでしょうね。

とはいえなんと!今回で愛ちゃんの出番は終了なんですけどね。ヒドいっ!
でももしかしたら物語が一先ず終了した後に、今回の物語のいろはすが居なかった場面とか文実のシーンとかを愛ちゃん視点で描くこともなきにしもあらずですけどもっ。



いろはすは愛ちゃんを天使で小悪魔なんてズルいとか言ってましたが、実はいろはすだって八幡にとっての小悪魔な天使なんですよね☆
そんないろはすが決着を付ける為の話数も残すところあと2話!(たぶんっ!)
今作は10話にも充たないと思ってたので思ったよりも延びてしまいましたが、きちんと終わらせますので最後までよろしくですっ



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