学園黙示録~とんでもない世界に迷い込んだんですけど~   作:富士の生存者

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お待たせしました。
短いかも・・・・・。


第30話 『自衛官』

世界が崩壊している音は日に日に大きくなっていた。

普段の駐屯地ならば桜が咲きほこり、新隊員の駆け足の歩調の声が聞こえるが、その日は聞こえることはなく銃声、怒号、悲鳴などの喧騒が至る所から上がっている。

 

 迷彩服を赤い血で染めた自衛隊員に89式自動小銃を構えて狙いをつける。引き金をなかなか引く事が出来ない。

 これまで何度も人型の的を撃つ訓練をしていたが、実際に人に向けて撃つのは空砲ぐらいだ。

 

 駐屯地の警備を担当している警衛は、駐屯地警備の観点からある程度実弾を携帯している。現在所持している小銃は警衛についている隊員から調達したしろものだ。

 

 迷いがある中で引き金を引き絞った。

 安全装置は安全の『ア』から単射である『タ』にしてある。

 

 1発だけ銃口から吐き出された弾丸は隊員の鎖骨あたりをえぐり、体をよろめかせる。

 普通なら尋常ではない痛みが襲うはずが、隊員は片手を突き出してさらに近づいてくる。

 

「ッ!?」

 

 声にならない叫びをあげながら続けて引き金を引いていく。

 小銃を撃つ反動が体に響いてくる。

 

 何発撃ったのかもわからない。

 気づいたら相手は道路上に倒れていた。

 

 

『ダダダダダダッ!!』

 

 

 タイプライターの様に連続して聞こえる銃声で辺りを見回す。

 周りではまだ、この世の物とは思えない光景が広がっていた。

 

―――――――地獄は始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 駐屯地では無事な者たちが周囲にバリケードを築き死者を入れないように警戒が続いている。

 まだまだ世間に混乱が続いているなか駐屯地のグラウンドにはメインローターで砂を巻き上げているヘリが離陸準備に入っていた。

 

 情報が錯綜しており自衛隊が動こうにも動けない状態が続いていたが、駐屯地司令の命令で駐屯地で生き残っている部隊を発電所、変電所の防衛に送り出されることが決まった。

 

 予定の時間が近づいてきたので各火器の安全確認をし、ヘリに続々と乗り込んでいく。

 全員が乗るとへりが離陸を開始する。

 

 駐屯地が小さくなってくると視線を未だ黒煙を上げ続けている市街地に向けられる。

 

 地獄の上空をヘリが駆け抜けていく。

 

 時折、デパートや高層ビルの屋上に『SOS』などの助けを求める布が着けられている。進行方向の学校らしき建物の屋上には数人の人影も見える。人影は必死に手を振ってヘリに自分たちの存在を報せようとしているが、ヘリは止まることはない。

 

 建物を通り過ぎる瞬間、無意識に右手を伸ばしていた自分がいた。

 胸の中を、温度の低い感情が通り向けていく。自嘲めいた気分のまま、力なく右手は垂れた。

 

 今の自分たちには助けを求める人々すべてを救うことはできない。

 

 

 水力発電所上空に到達。ヘリが高度を下げて着陸態勢に入る。

 

 

『着陸地点に人影を確認。——―くそッ!? 感染者を確認! 着陸地点を確保する』

 

 

 ヘリの搭乗員がドアガンとして搭載している『MINIMI』を照準――――――フルオート射撃が行われる。

 凄まじい炸裂音が立て続けに鳴り渡り、跳弾の火花が目まぐるしく一面に飛び散る。

 

 

 駐車場に止められていた車両を感染者もろともズタボロにしていく。

 

 

『着陸地点を確保した!! 着陸する』 

 

 

 これから起こる未来のことは誰にもわからない……元通りの世界に戻るかもしれないし、そうじゃないかもしれない。俺たちにできることはこの地獄のような世界であがき続けることだけだ。

 

 

 

 

 

 




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