D.C.Ⅲ M.K.S “魔法と霧と、桜と騎士と”   作:瑠川Abel

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11-女王の依頼と忌むべき再会

「……で、どうして先輩がついてくるんですか?」

 

 かなり心を開いたのだろうか。グニルックの競技場で練習するサラを後ろから指摘する秋鳴に、サラはジト目で尋ねた。

 ここ数日はずっとサラの練習に付きっきりで、正直にいってしまえば秋鳴自身の『任務』は進んでいない。

 だが、それでも秋鳴を突き動かすものがあった。目の前の、一族の期待を背負わされた少女を、秋鳴は何処か心配している。

 自分が何ができるかわからないけれど、力になってあげたいと思って。

 

「暇だったから」

 

 勿論、嘘だ。本来であれば図書館島に籠ってでも地上の問題を解決するための方法を探さねばならない。

 

「もう……」

 

 唇をとんがらせて、サラは練習に戻る。少し頬を緩ませているあたり、迷惑とは思っていないようだ。

 そんなサラの気持ちを知ってか知らずか、秋鳴の指摘は少し―――いやかなり、スキンシップが多い。

 後ろから抱きしめるように、手を重ねてフォームの矯正までするのだから―――指導としてはありがたいのだが、そのたびにサラは赤くなったり照れたりで百面相だった。

 本人に悪気や下心はないのだ。ないのだ。

 そんな傍目から見ればただひたすらイチャイチャしているだけの光景を妨げるかのように―――鳴り響く、鐘。

 周囲の生徒が何も気付いていないのを顧みるに、サラと秋鳴は顔を見合わせてそれに気付く。

 

 “女王の鐘”

 

 対象者にのみ聞こえる、任務が届いたことを告げる鐘。

 女王陛下の『予知』によって視えた未来を回避するために送られてくる依頼を、魔法使いの卵たちに託す恒例行事。

 秋鳴も身分は学生となっており、また、サラたちのクラスの副監督生としての立場であるので関わりがあるようだ。

 秋鳴の表情が引き締まる。先ほどまでの優しい柔らかな微笑みではなく、冷静な、冷たい印象を抱く表情に。

 

「先輩」

 

「……簡単な任務であればいいがな」

 

 秋鳴のそんな思いは、露に消える。

 

 ………

 ……

 …

 

「今日の任務は……みんなに、犯罪者“集団”を確保してもらうわ」

 

 その場に集まった生徒たちに、緊張が走った。

 無理もないだろう。十二月に入り、ようやく任務に慣れてきたころにそんな危険度の高そうな依頼が来たとなれば誰だって。

 

「どのくらいの規模の集団なのですか?」

 

「まあ、さほど大規模ってわけじゃないわ。こちらの調べでは四人組だろうと見ています」

 

「四人……ですか」

 

 あくまで予想だと、とリッカは付け加える。三人までは調べを終えているのだが、残りはまだ不明だとも。

 耕助が、その犯罪者集団が何をしているのかを訪ねる。

 するとリッカは表情を引き締めて。

 

「いい質問ね」

 

 ちらり、と秋鳴の方へ視線を向ける。まるで彼を心配しているかのように。

 

「今回のターゲットは、墓場を盗掘してるみたいなの」

 

「墓荒らし、か……」

 

 生徒たちの関心は次いでその目的に向けられる。憶測が飛び交っていく。装飾品が欲しいのか、それとも、遺体自体が欲しいのか。

 秋鳴の中で答えは導き出されていた。同時に、足が勝手に動き出す。

 

「あ、秋鳴?」

 

「すまんなリッカ。逃げ回ってる奴らの確保は任せる」

 

「アンタはどうするのよ」

 

「決まってるだろ。というか、わかってるだろ」

 

「ロンドンバーカーズ、ですか?」

 

「へ? 何それ?」

 

「こないだ習いましたよ……」

 

 秋鳴の目的を知ってか知らずか、サラが思い出したかのように一昔前の遺体盗掘集団の名前をあげる。その名前に首を傾げる耕助に、姫乃も清隆もため息を吐く。

 

「……違うよ。サラ。とりあえず俺は一人で行動させてもらう」

 

「ちょっと待ちなさいっ。これはA組全体の任務なのよ? それを理解して―――」

 

「理解して、納得して、それで最善だったら従ってやるよ。だがな……」

 

 リッカに向き直って、秋鳴は告げる。

 

「そいつらの本当の目的が“死体蘇生術(ネクロマンシア)”ならこれは危険すぎる任務だ」

 

 秋鳴の言葉に、リッカすらも身体を硬直させる。考慮はしていた。その可能性を。だが予科の生徒に回ってくるレベルであればどうにでもなる、ともリッカは考えている。

 死体蘇生術(ネクロマンシア)―――古来より、魔法使いたちの使う魔法としてイメージされやすい、文字通り死体を操る魔法。

 『戦う』ということに関して、魔力は消費するものの使い魔などより遥かに効率よく戦力を整えられる倫理に反した魔法は、いつしか禁じ手となっていた。

 それを、行おうとしているのであれば。

 

 

 

 秋鳴は単身墓地へと辿り着く。犯罪者集団はすでに盗掘を中断して逃亡しているとの続報が入り、リッカたちはそっちを担当することになった。

 だが、秋鳴としては此処へ来なければならない予感があった。何かに呼ばれるかのように、秋鳴は墓地へと招かれる。

 これといった武器は持っていない。もし戦闘になればいくばくか不利になってしまうかもしれない。

 そして墓地の中央で。

 

『ヤア、出雲秋鳴』

 

「またお前か……ぶっ飛ばしたはずなんだがな」

 

『ボクハキョゾウニシテ実体。ボクハ消エナイ』

 

「……お前の顔、覚えがある。でも名前が思い出せない。だからもう一度―――その仮面を剥いで思い出す」

 

 黒騎士との再会。 

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