文音先輩エンド後、主人公が大阪に残った場合を想定。
一部キャラは「創雅都市S.F」アフターでもある設定。
室内。
ツナギを来た青年が、中年の男性とともに一台の大型バイクをいじり回している。
型遅れのクーラーが騒々しい音を立てるなか、二人はクーラーの音にも負けないほど騒々しく会話を交わしながらしかし手を休める事は無く作業を進めていく。話題はこの時期、当然ひいきの球団の話。
7月の日差しは遮光処理をした窓からも熱という形でもって入り込み、型遅れのクーラーの努力を無駄にしていた。
サスの調子を見ていた青年が、ふと顔を上げる。
「お
「ワシ手ェ離せんわ、お前出ェ」
「しゃーないのう……はい毎度ぉ! 辻巻モータースですわあ!
……おお、なんやお前かあ! 元気しとったんかい。 おう、毎週読ませてもろうとるで。
先々週のガセ記事、えらぁキレ悪かったがなんぞあったんかい?
あ? 予定? 17
おう、わしゃあ特に予定無ぁが、なんやねん。
府立第一の大盆踊り大会? なんやイベントの取材込みかいな……
ほうか! あいつらこっち戻って来るんかい。なんやえらいカツヤクしとるらしいのうあの嬢ちゃん。
ほうほう、そやったらどやってでも予定空けなアカンな! おう、また連絡くれや。ほなな!」
電話を切った青年、辻巻・元治の顔には強い笑み。
「客やのぅてツレやったわ。お父ん、17日わし早う切り上げるで、かめへんやろ?」
「おう。ツレの用ならしゃーないわな」
中年――元治の父は何気なく付け足した。
「そン代わり盆返上やで」
「そら殺生やでお父ん!」
*
「はい。岩井です。……君か。久しぶりだな。
おおよそ2年ぶりかね。私か? 相も変わらず研究の毎日だよ。……ああ、安先生もお元気だ。
……なに? 8月の17日か。特に用は無い。わかった、伺う事にしよう。
服装? むろん正装していくとも」
電話を置いた岩井・参仁は顎に手をやり僅かに沈思した後、夏の正装となればあれしかあるまいと頷いた。
*
「はい叶です。……あら、君なの?
そういやこの前聞いたけど、来年挙式やって? 恩師より先に結婚たぁ君も命が要らんみたいやねぇ……
で、何の用なん? ……17日? ああ、府立第一の校庭でやるアレ?
ええ、元顧問とかは抜きにしても取材許可はそりゃあげるけど……え? 句刻こっち戻って来るん!? グレアンも?
そう、それで昔の面子で集まろういうわけやね。分かった。こっちも枝下やゴーカイさんに声掛けとくわ。
はい、それじゃまた。はいはい、おやすみなさい」
*
「はい。
せ、先輩!? なんでこの番号が……
あーそうでしたね。先輩はハイエナのようなマスコミの末席でした。
……冗談です。それで何の御用ですか? 17日?
えぇ、その日は確かに実家に帰ってますけどなんで……グレアンが?
……はい、はいわかりました。17日の午後6時半、府立第一の正門前、ですね?
何言ってるんですか、先輩こそ遅れないで下さいよ? はい、それではまた」
アンティークの古めかしい受話器を戻して九条・句刻は軽くため息を吐いた。
1年ぶりに聞くはずの電話の向こうの彼は昔のようにいつもの調子で、しかしかつてのように「お隣さん」とは呼ばずに「九条さん」と呼ぶ。
来年の今頃は、また呼び名が変わっているはずだ。
それはそれでまた楽しみな話ではある。
唇が自然とほころぶのを自覚しながら、少し前にアメリカで仕事が一緒になった時には何も言わなかった年上の友人に文句を言うためにもう一度受話器を取り上げた。
*
「おう、私や。なんやお前か。分かっとる。ちょっつ遅れるかもしらんが安心せぇ。……ああ、私もや。ではな」
携帯電話を懐に仕舞うと、大阪守護役九条・文音は律儀にも本当に待っていた工作員の集団に向き直った。
「待たせてしもうたみたいやな。電話中に突っかかって来るか思うたが」
「守護役相手になら、多少は礼も払うというだけの事だ。気にしなくていい」
「さよか。紳士やな。ほな、やろか」
*
「ういっす。光っす。あ、リーダー! ええ、分かってるっすよ。でも今ちょーっとイイとこで……
あ、動いたっ。それじゃあまた後で!
えぇ、もちろん行くっすよ! ちょーっと待っててください! それじゃ!」
*
府立第一の誇る巨大な校庭には櫓が組まれ、気の早い連中がリハーサル代わりに流れる曲にノって踊っている。人の流れは緩やかながら、途切れる事はない。
正門に流れ込む人の流れを見ながら、浴衣の男女が人待ち顔で突っ立っていた。
一見ぱっとしない青年と、見るからに育ちのよさそうな外人の美女の取り合わせは非常に目を引く。
特に青年の、浴衣に「報道」の腕章とハンドカメラという格好は似合わない事おびただしい。好奇の視線に射られながら、しかしそれを気にした風もみせず彼は傍らの女性と何やら話しこんでいた。
「グレアン、アキラも先輩もやっぱり少し遅れるそうだ。俺はここで残りの面子を待つけどどうする? 先に入って待っててもいいけど」
「私も時間まではここで待ちます。クギリとの約束もありますもの。ひょっとして今のは気遣ってくれたのかもしれませんけど、貴方。不要な気遣いです、と言えばよいでしょうか?」
「うわキツー。しかしこうやってグレアンと日本語で会話してるとミョーな気分だ」
「実は留学の最後にはいくらか話せるようにはなっていたんですのよ? 英国は言葉を基礎として成り立つ国ですもの。
ただ日本語は文法が少々特殊でしょう? 誤詞を産んではいけないと思って使わないようにしていただけですの」
「あー。英国は誤詞が遺伝詞崩壊起こして妖物化するんだったか」
機会があったらガセ記事に使おう、という呟きをもらした青年の脛をグレアンは杖で強打。
ぐおお、という悲鳴を上げてしゃがむ青年を呆れたような、微笑ましいものを見るような目で見下ろして、彼女はみじかく詞を詠い凍神を用いる。
彼女の後ろに氷柱が生まれ周囲の人々がうわ、ともうお、とも取れる声を上げた。分厚く冷たい白を誇る氷柱はしばし静止した後、府立第一の塀にその身をもたれ掛ける。
グレアンは氷柱の発する涼しさに目を細めつつ、傍らで脛を抱えて苦しむ青年は一顧だにせず。
「好い、天気ですわね?」
かつて通った学び舎を振り仰いで微笑んだ。
*
かつて、大阪にて血の流れないとある戦争があった。
その象徴であったいと高き塔は既に無くとも、彼らはここで生きている。
ゲームOSAKA九条・文音ルート後アフターであり、創画都市S.F.のアフターであり、サイドストーリーである。
読んだ貴方にとってもそうであれば嬉しい。