久しく人類が絶望を味わったあの日から数ヶ月が経った。
世界ではUNISを中心とする形で、平穏を取り戻していた。
人類の希望であった白騎士が敗れ、大敗という形で幕を下ろしたあの日だが。
あれだけの蹂躙の中、市街地への被害は全くと言っていいほど無かった。
その分、戦闘での損失はとても多く、一部の国や組織では再建が不可能なレベルにまで落ちた。
それでも、人類全体で見れば平穏といって間違いはなかった。
ただ一人を除いて。
織斑一夏は、UNIS専用整備室でUNISに組み込む戦闘パターンを構築し模擬戦闘を行っていた。
UNISは人間には出来ない複雑かつ、シールドエネルギーを気にすることなく高出力の攻撃をすることができる。
しかし、その反面、行動パターンをしっかりと組み立てなければ何も出来ないただの案山子になってしまう。
逆に言えば、しっかりと組み立てればどんなことでもこなすことができるということである。
それこそ、IS学園でもUNISを教材に起用することで、戦術、戦略を学ばせるにはうってつけであった。
「こんなもんかな………」
織斑一夏は対熾天使用のパターンを試作構築していた。
あの姉をも下す、恐るべき戦闘能力、センス。
あれに打ち勝つには自分一人ではまず、不可能。
そして、人間がいくら集まったところで勝てるわけがない。
それなら、統制された完璧な動きをする機械をパートナーを従えて挑むしかない。
その発想に至るには時間はそうかからなかった。
セシリア、鈴、シャル、ラウラは相変わらずISの特訓をしているがUNISについてはからっきしのようで、最近はUNIS整備用の端末とにらめっこをよくしている。
そして、箒は。
財団とかいう奴と一緒に来た束さんと供に何処かへ行ってしまった。
それ以来、音信不通で箒が今どうなっているのかすらわからない。
ただ、束さんのことだ。きっと何かしら考えているはずだ。
無事だと思う。
思うではなく、そう信じたいだけだ。
「………織斑根を詰めすぎだ、程ほどにしておけ」
整備室に凛とした声が響く。
過去の英雄。
織斑千冬。
その姿はあの日以来、変わってしまっていた。
「千冬姉………」
片足は自由が効かなくなり、片目は失明してしまっている。
それでも、ISには以前同様乗れる。
IS学園のエンジニアが言うにはISの適応力により足に加わる負荷を限界まで下げISを装備している間だけ以前のような動きができるそうだ。
ただ、失明だけはどうにもならなかった。熾天使が使っていた兵器に含まれているであろうエネルギーは人体に対してとてつもなく有害な毒素が含まれていた。
有害物質の除去は出来たが千冬姉の目は手遅れだった。
「いつまでもそんな顔をしてるな」
「でも、千冬姉の目が………」
悔やんでも悔やみきれない。
何故、男である俺が戦いに出れずに、引退した千冬姉が戦場に引きずり出されなければならないのか………。
そして、千冬姉ならあの熾天使を倒せる。
そう言う風に甘ったれた考えをしている自分にも殺意が沸いてくる。
「私は生きて帰ってきた。それだけで充分だろう?」
千冬姉の表情がとても優しい。
しかし、今はそれが返ってやるせなさで胸が押し潰されそうになる。
そんなときだった。
≪やあ、おはよう≫
≪これから世界を無茶苦茶にする≫
≪異論反論は認めない≫
≪評決の日(ヴァーディクトデイ)の始まりだよ≫
≪人類に可能性なんて存在しない≫
≪もしそれでも足掻くなら≫
≪どうかそれを見せてくれ≫
≪話はこれではお仕舞い。じゃあそういうことで≫
この日世界は形ある恐怖に襲われた。