Das Duell zwischen Admiral und Ich   作:おかぴ1129

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Reis, Miso-Suppe,und ein Ei

 昨日、私は提督から指示を受けたわ。

 

―起床した後、支度を済ませたら速やかに執務室に来るように

 

 これは、提督からの決闘の申し込みよ。私はこの通達を聞いたその瞬間から、『今回こそは、負けるわけにはいかない』と決意を新たにしたわ。

 

「ビスマルクは提督と朝ご飯か〜……うらやましいな〜……ボクも秘書艦やってた頃が懐かしいよ……」

 

戦いが控えていることを知ったレーベが、のんびりとこんなことを口走る。舐められたものね。あなたが考えているような甘いものではないのよ。これは決闘よ。栄光あるわが祖国ドイツと、提督の祖国Japanとの、互いの誇りをかけた文化戦争と言ってもいいわ。

 

「んーまぁとりあえず早く行きなよ。提督、準備して待ってると思うよ」

 

ええ、そうね。私は戦いに行くわ。提督。今日こそ私は勝ってみせるわよ。

 

 執務室の前に立ち、私は深呼吸して高ぶる気持ちを沈め、ドアをノックする。

 

「秘書艦ビスマルク、入るわよ」

 

私はいつものように、提督の返事を待たずに執務室のドアを開けて入ったわ。執務室の中では提督が、いつもは食堂でマミヤやホウショウが着ているような割烹着を着て、頭には三角巾をまいて目を閉じ、執務室内の調理場の片隅で鍋の中のものの味見をしていたわ。

 

「執務室内に漂うこの香り……今朝はハッチョウミソね?」

 

提督は静かに目を開き、私を見たわ。その後、迷いなく淀みない動きで、鍋の中の味噌汁をお椀に汲み、グリルの中から取り出した塩鮭を皿に盛り、それらをお盆の上に丁寧に配膳すると、相手を射殺さんばかりの眼差しを私に向けて、こう言ったわ。

 

―座れ

 

何度向けられても慣れることのない眼差し……かつて私は祖国で、殺し屋という職業の人間と何度か相まみえたことがあるわ。でもそいつらよりも、この提督の眼差しは鋭く、殺気がこもっていると言っていいわね。提督のこの尋常でない凄みには逆らうことが出来ず、私はいつも提督に見つめられると、素直に秘書艦の席に座るしか出来なくなるわ。

 

 私が秘書艦の席に座ると同時に、提督は食事が乗せられた盆を私の前に持ってくる。味噌汁のハッチョウミソの香りが私の鼻腔をくすぐり、ジュージューという焼きたての塩鮭の音が、耳から私の食欲を刺激してくる。駄目よ。負けるわけには行かない……

 

「わ、私が、この程度のメニューに陥落するわけないでしょ?!」

 

私がそう言おうとしたときだったわ。提督は、その鋭く殺気のこもった視線を私から外すことなく、おひつから炊きたてのご飯をよそっていたの。ご飯の香りが執務室に充満し、その瞬間、私の全身がご飯のぬくもりと味を欲したわ。

 

「ぁ……ぁあ……」

 

口が半開きになり、よだれが垂れてくるのが抑えきれない……私のお腹が音を立てて、目の前にある欲望の権化を食べてしまえと誘惑する。いけない。このままでは負けてしまう。

 

 提督は、ご飯を山盛りにしたご飯茶碗を私の目の前に置いたわ。そしてこうつぶやくの。

 

―さあ……食べるんだ……

 

「……う、うわぁぁあああああん!!!!」

 

私はその手で箸をつかみ、味噌汁のお椀を持ち上げ、味噌汁をすすったわ。鰹だしとハッチョウミソの渋みのある独特の風味が私の全身の細胞を目覚めさせ、さらに美味を求め始めるの。私は味噌汁のお椀をお盆に置くと、その手でそのままご飯茶碗を持ち、焼きたての塩鮭をかじり、その塩気を堪能しつつ、夢中でご飯を口の中にかきこんだわ……いえ、かきこんでしまったわ。

 

「止まらない! 止まらないわ提督!!」

 

ダメ。もう止められない。私の肉体はご飯→塩鮭→ご飯→味噌汁→ご飯→塩鮭という悪夢のサイクルに入ってしまった。私はこのとき、ご飯と塩鮭と味噌汁を体の中に取り込むためだけに生まれてきたといっても過言ではないと真剣に考えていたわ。

 

 それにしても、なぜご飯と塩鮭はこんなにも合うのかしら。塩鮭の塩気とご飯のほんのりとした甘みが互いに互いを引き立て、もっとご飯を…もっと鮭を…と際限なくその2つを求めてしまう。口の中一杯にご飯と塩鮭を頬張り、それをお茶で無理やりに飲み込む苦痛と快楽。喉が苦しくなり、細い食道を大量のご飯と塩鮭が無理矢理に通る苦しみと快感……提督が作った朝食は、私の五感すべてに襲いかかり、私の理性を力づくで潰しにかかってくる。

 

 ご飯を四杯食べてしまい、五杯目のおかわりをしたところで、私はフと気付いたわ。皿の上に、あの忌まわしくも蠱惑的な塩鮭がなかったの。そう、私は夢中になるあまり、塩鮭を全部食べ尽くしてしまったのよ。

 

 その時、私はやっと安心できたわ。あとはこの五杯目のご飯を冷静に食べお味噌汁を飲み干せば、朝食は終わる。提督との決闘によって負った欲望という傷跡をこれ以上広げなくても済む。その時は確かにそう思ったわ。

 

 だけど、勝負に厳しい提督が、そんなことを許すはずがなかったのよ。

 

―そろそろいいだろう……

 

 提督は執務室の調理場の冷蔵庫から、生卵を持ってきたわ。

 

 まさか……

 

 私にあれをやれというの……?

 

 ダメよ……私はもう……

 

 非情な提督は、殺気のこもった眼差しを私からそらすことなく、私に殺気をぶつけながら、私のご飯の上に生卵を割り乗せ、ソイソースをかけたわ。

 

―さぁ……食べるんだ……

 

「卑怯よッ!! 提督! あなた卑怯だわッ!!!」

 

食べたわ。私は無心に、ただひたすらに貪り食ったわ。だって抗える? 炊きたてあつあつのご飯に生卵よ? Japanスタイルの朝食として究極にして至高のメニュー、たまごかけごはんなのよ? 

 

 お茶碗からご飯がなくなる度、提督は速やかに私のご飯茶碗にご飯をよそい、冷蔵庫から新しい卵を持ってきたわ。そして私の舌がたまごかけごはんの絶味に疲れ始めた頃、今度はきゅうりの古漬けを持ってきて、その酸味で無理矢理に私の舌を蘇生させる……おかげで私は止まることなく、連続で8杯ほどたまごかけごはんを平らげてしまったわ。

 

 その後も提督は絶妙のタイミングで塩鮭の追加や味噌汁のおかわり、箸休めのほうれん草のおひたしなどを持ってきてくれ、気付いたら私はおひつ3つを空にしていたわね。

 

「負けよ……提督……今日も私は、あなたに負けたわ……」

 

私は空になった3つのおひつを前にしてそうつぶやき、提督に負けを認めたわ。その瞬間、提督が小さくガッツポーズし、そのガッツポーズを中心にして、見えるはずのない集中線が、私には見えたわ。

 

―ッッッッッッッシャァァアアアアア!!!!!!!!

 

その日の夜、私は入渠直後に体重計に乗ってみたわ。……背後からレーベが覗いてきてたけど、なんとか死守出来たわね。

結果は予想通りよ……これはピンチだわ。いい加減、提督の誘惑に打ち勝つ、強い自分を取り戻さなければ……

 


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