Das Duell zwischen Admiral und Ich   作:おかぴ1129

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Jiaozi

 ごきげんよう。クマノですわ。……ウソよビスマルクよ。ちょっと機嫌が悪いからフザケてみたのよ。

 

 私が機嫌が悪い理由……それは、今朝の朝食にあるわ。私はドイツ人。朝食には黒パンとたくさんのハムとソーセージ、そしてチーズと決めていたのよ。

 

 でも今日、レーベに指摘されたわ。

 

「ビスマルク、いつの間にか朝食にご飯とお味噌汁を食べるようになったよね」

「……?!!」

 

 そう。私は知らないうちに食堂で朝ご飯を食べる時、自然と朝食セット(和)を選んでいたの。自分でもいつからなのか思い出せないぐらい、私はご飯と味噌汁の朝ごはんに慣れてしまっていたのよ。

 

 なんという屈辱……私はドイツ人なのよ? それなのに、まず味噌汁を飲みご飯を口に運びつつ『やっぱ玉子焼きはだし巻きが一番よね』とか言ってるのよ? 納豆を食べてる駆逐艦の子に対して『混ぜが足らないわね。もっと混ぜれば納豆はふわふわになるわ』『辛子を入れると匂いが気にならなくなるわよ。私は匂いが強いほうが好きだけど』とかアドバイスしてるのよ? 信じられる? 日本人の子にドイツ人の私が納豆の食べ方のアドバイスしてるのよ?

 

 くそッ……これもあの提督のせいだわ……何度も何度も私を誘惑し堕落させる、最低の男……

 

 でもいいニュースもあるの。今日は私たち、他の鎮守府で演習だったのだけれど、演習に出る前に提督はこう言っていたわ。

 

―今日の夕食は食堂だ

 

 これってつまり、執務室で夕食は取らないイコール、提督の料理は食べなくて済むってことよね。これだけはうれしいわ。今晩は体重計に乗らなくて済みそうね。

 

 演習から帰って夕食の時間になった頃、私は意気揚々と食堂に向かったわ。食堂入口ではクマがアホ毛をぴょこぴょこ動かしながら上機嫌になっていたけど、そんなことは別にどうだっていいのよ。なにより重要なのは、今日食べる量が常識的な量で済みそうなこと。それだけでも私はうれ

 

「今日は提督の大ぎょうざパーティークマ〜。クマクマ〜っ」

 

 ちょっと待って。

 

 クマ。今なんて言ったの? もう一度あなたの発言を聞かせて?

 

「んお? ビスマルクは初めてクマ? 今日は提督の大ぎょうざパーティークマ」

「なんなのよそれはぁあ?!!」

「いや月に一度だけ、提督手作りの大ぎょうざパーティーが開催されるクマ。その日だけは間宮や鳳翔も料理当番から外れて、艦娘みんなで提督の絶品ぎょうざを堪能するクマ」

「バカなッ?! この鎮守府に一体何人の艦娘がいると思ってるの?! しかも人間じゃなくて艦娘よ?! 食べる量半端じゃないわよ?!」

 

私はクマの襟を掴み、彼女を前後に揺らしまくったわ。当たり前よね。こんなバカな話、聞いたことないわよ。

 

「ゆ、揺らすなクマッ?!」

「本当なの?! 提督はたった一人でここの艦娘全員分の食事を準備するの?!!」

「ほ、本当クマッ! 量も加賀や赤城たちも満足できるだけの量を作ってくれるクマッ!」

「バカなの?! バカじゃないの?! これだけの艦娘が満足出来る量の料理をたった一人で準備出来るはずないでしょう?!」

「そ、そんなこと球磨に言われても困るクマッ……?!!」

 

 クマからの信じられない事実を聞いて、私は戦慄を覚えたわ……提督、あなた一体何者なの? 私は恐怖に震える己の身体から勇気を振り絞り、食堂に入ったわ。

 

 すでに食堂ではたくさんの子たちが各々気の合う仲間同士でテーブルを確保し、提督の料理に陥落しているようだったわ。特に目立つのはジュンヨウがいるテーブルね。ナチやチトセ、キリシマといったアルコールの強い面子が揃っていて、彼女たちはすでにビールを飲みながらぎょうざを食べていたわ。

 

 私は空いてるテーブルに、クマと一緒に着席したの。そしてその瞬間、背筋に悪寒が走ったわ。

 

―来たか……

 

 そう、調理場から提督が、あの、人を殺すつもりとしか思えない鋭い眼差しで私たちを見ていたわ。

 

「ぉお〜テートク〜! 来たクマ〜。早くぎょうざが食べたいクマ〜」

 

クマはのんきにそう言って、提督に向かってブンブンと手を振っていたわ。ありえない……すべてがありえない……

 

 ほどなくして、手に焼きぎょうざを山のように乗せた大皿を手に、チャイニーズコックの格好をした提督がやってきたわ。話飛ぶけど提督、あなた料理用の服を一体何着持っているのよ。

 

「ぉお〜! 来たクマ来たクマ〜」

 

私とクマの前に大皿が置かれる。大皿の上には、黄金色に輝く焼き餃子がジュウジュウと音を立てて綺麗に丸く並んでいるわ。

 

「それじゃあいただくクマ〜。ビスマルクも早く食べるクマ。タレはポン酢でいいクマ?」

 

 いけない。

 

 この香りと音はいけない。

 

 この、肺の中いっぱいに吸い込むだけで私のお腹を刺激する、小麦が焦げる香ばしい芳香……音を聞くだけで口の中に美味が広がっていく焼きたてのトーン……いけない。抗わなければ……でなければ私は、またしても提督の毒牙にかかってしまう……この音を聞くだけで分かる。この香りを堪能するだけで想像出来る。この餃子が恐ろしいほどに美味であることを。

 

 だからこそ私は抵抗しなければならない。これ以上私は、あなたの料理に陥落されるわけにはいかない……いかないのよ!!

 

 ハフハフとぎょうざを食べ始めるクマをよそに、私は精一杯の抵抗をしたわ。でもその時、私から一切視線をはずさなかった提督が、口を開いたの。

 

―さぁ……食べるんだ……

 

「うわぁぁああああああああん!!!!」

 

 私は割り箸を開きポン酢を小皿に取って、無心にぎょうざを食べたわ。焦げた部分の皮はパリパリと香ばしく、そうでない部分の皮はもっちりとして、歯ごたえと感触を同時に楽しめる……口の中でぎょうざを噛みしめると、中から飛び出してくるのは熱々の肉汁……そう、まるで祖国ドイツの極上のソーセージのように、溢れる肉汁が私の口の中で飛び出して、その肉のうまみがクチの中で三式弾のごとく弾けたわ。

 

 それだけじゃない。肉汁が運ぶ肉のうまみと共に口の中に広がるのは、野菜の優しい甘みと芳香。白菜の甘みが肉のうまみをマイルドにし、生姜の香りが爽やかさを与え、ニラとニンニクの刺激が暴力的に私の食欲を掻き立てる……口に運べば運ぶほど、食べれば食べるほど、私の身体はこのぎょうざを欲したわ。

 

 そして信じられないことに、提督は本当に一人で過不足なくこの食堂を回していたわ。たった一人でぎょうざを焼き、焼けたぎょうざを運んでくる……周囲からも『早く持ってきて』という不満の声は聞こえず、私とクマのテーブルにも、ちょうどぎょうざが無くなったタイミングで提督は次の大皿を持ってくる。なんという男なの……なんという恐ろしい男なの提督……

 

「やっぱさー! ぎょうざにはビールだよねー!!」

 

大盛り上がりしていたジュンヨウたちのテーブルから、こんな声が聞こえてきたわ。

 

 ……白状するわ。私この時、欲しくなってたのよ……アレが……

 

 その時、私の目の前に一本の茶色い瓶が置かれたわ。瓶は表面がうっすら濡れていて、それがキンキンに冷えていることを如実に物語っている。そして、その瓶に貼られているラベルには、光り輝く『ヱビス』の文字……

 

「こ……これは……!!」

 

 そう。これを私の目の前に置いたのは提督。提督はヱビスビールの瓶とともに、キンキンに冷やしておいたであろう、白く曇ったジョッキを手に持って、私の前にそびえ立っていたわ。そしてヱビスビールをジョッキに注ぎ、泡の比率を完璧な状態にして私の前に置いて、こう言ったわ。

 

―望んだのだろう? 飲むがいい……

 

「ぅあああ……ぁあああああああ!!!! ゴギュッ…ゴギュッ…ゴギュッ……!!! くぁああああああああ……!!!! ぅふぁあぁあああああああ……!!!!」

 

 飲んだわよ。その大ジョッキ、一気に飲み干したわよ。私の喉は餓えていたの。ビールの炭酸の刺激とホップの苦味、そしてアルコールの熱狂に餓えていたのよ。私は口の周りに白いヒゲが出来てしまうことも恐れず、ただ無心に、ヱビスビールを胃に流し込み、そしてぎょうざをむさぼったわ。

 

 ぎょうざと冷えたビール……なんという黄金の組み合わせなのかしら。口の中でぎょうざが弾け、その瞬間私の身体はビールを欲し、ビールを飲めば口の中は綺麗にリフレッシュされ、そして身体は次なるぎょうざを欲する……ぎょうざがビールを呼び、ビールがぎょうざへと誘う……この、凶暴な悪夢の循環……繰り返される味の暴力……抗えなかったの……抗えなかったのよ。

 

 その後も提督は、私たちのテーブルからぎょうざがなくなればぎょうざを、私のジョッキからビールがなくなればビールを持ってきたわ。しかも、ある程度時間が過ぎたところで、ジョッキもキンキンに冷やしたものと交換したのよ。

 

 提督の恐ろしいところは、それを全部のテーブルに対してやっていたことよ。テーブルは全部で50席ほど。一つのテーブルに大体5〜6人は艦娘たちが座っている。それらのテーブルすべてのぎょうざの減り具合を把握し、次にどこのテーブルのぎょうざが無くなるか、今ビールが足らないテーブルはどこかを完璧に理解して動いていたわ……なんという男なの提督……

 

 そしてさらに驚嘆すべきは、そのぎょうざの量と焼くスピード。一体提督はいつから、いくつのぎょうざを準備していたというの? 私やナガト、ヤマトといった戦艦たちはもちろん、カガやアカギたちのテーブルからすら、『そろそろお腹が一杯になってきましたねぇ』というセリフが聞こえてくるわ。信じられないことに、カガやアカギたちですら食べきることの出来ない量を、カガやアカギたちですら追いつけないスピードで焼いているのよ? ありえないわよ。ありえないわ提督……あなた一体何者なのよ……。

 

 欲望と狂乱の宴が幕を閉じ、私は今、レーベやマックスたちと共に入渠しているわ。レーベたちは同じく駆逐艦のアカツキやヒビキたちと食べていたらしく、彼女たちも一緒に今、入渠しているわね。

 

「ビスマルクさん! 今日も司令官のぎょうざは美味しかったわね!!」

 

私が湯船でゆっくりと今日の決闘の疲れを癒していると、アカツキが話しかけてきたわ。この子は一人前のレディーになりたいらしく、よく私に話しかけてくれる。アカツキが言うには、私は目指すべき一人前のレディーということよ。いいのよもっと褒めても。

 

「ええ。美味しかったわね。いささか憎らしいほどに……」

「ぇえ〜。憎らしいってどういうこと?」

「ふふ……アカツキ、いいことを教えてあげるわ。一人前のレディーはね。食事の時に、はしたなくがっつくものではないのよ?」

「……てことは、ビスマルクさんは一人前のレディーではないの?」

「あら、どうしてかしら。私は誰しもが認める一人前のレディーよ?」

「だってビスマルクさん、さっきのぎょうざパーティーで、誰よりもぎょうざとビール食べてたわよ? 綺麗な金色の髪をかき乱して、一心不乱に平らげていたわ」

 

 なッ……?!

 

 私は湯船に浸かっているにも関わらず、全身から血の気が引いていくのを感じたわ。そして弾かれるように湯船から出ると脱衣所に飛んでいって、そこにある体重計に乗ったわ。

 

 ……笑うがいいわ。記録更新よ。

 

 

 


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