Das Duell zwischen Admiral und Ich 作:おかぴ1129
ド、ドイツ第三帝国で産まれた、交換留学生の、ビ、ビスマルクデーす!! ヨ、ヨロシク……オネガイシマーす……!! ……あーもう、そうよコンゴウのマネしてみたのよ。ちょっと気分が塞ぎこんでいたから、コンゴウの真似したらちょっとは気が紛れるかと思ったのよ。
実は先日、祖国ドイツから私達ドイツ組に、一通の通達が届いたわ。
―本国において初の鎮守府が完成間近。
よって現時点を持って、日本での鎮守府運営実習を終了とする。
至急、本国へ帰還すべし。
ええそうよ。帰還命令よ。元々期間が決まってなかったとはいえ、こう突然に帰ることになるとは思わなかったわ……
「ん~…せっかく仲良くなったのに残念クマ~……」
もう恒例となりつつある、甘味処『間宮』でのクマとの会合で、クマはこんなことを言ってくれたわ。
「クマ、もっと言って。このビスマルクがいないと寂しいと言うのよ」
「調子に乗るなクマ。とはいえ寂しくなるクマ~……ところで提督は何か言ってたクマ?」
この頃になると、私はコンゴウやナガト、そしてこのクマのように主力艦隊の一員になることが増えたわ。そんな私がこの鎮守府を抜けるなんて一大事。だからちゃんと提督にも報告したのよ。
「提督。私達、明日、ドイツに帰ることになったわ」
―……。
「ここで学んだことは、本国の鎮守府で活かすことを約束するわよ」
―……。
「いいのよ? 寂しがっても」
―……。
いつもの如くこんな調子よ。結局あの人殺し光線を発射しかねない物騒極まりない眼差ししかくれなかったわ。
「あービス子、それ、提督寂しがってるクマ」
「バカなッ?! あれのどこが寂しがってるというのよッ?!」
「提督とももうだいぶ長い付き合いになるのに、まだそれも分からないクマ?」
そんなの分かるわけないわよ!! 私に分かるのは、四六時中提督から私に向けられる殺気だけよ! まったく!! それとも提督は寂しくなると殺気を振りまく妙な性癖でもあるとでも言うのかしら?! いやすでに人にやたら料理を食わせるという意味不明な性癖があるけど!!
「んー…まぁそのうち分かるクマ」
「分からないわよ! 分かりたくもないわよあんな最低の男!!」
「そうクマ? てっきりビス子も提督のことが好きだと思ってたクマ」
クマのこのセリフを聞いた瞬間、私の脳裏に、あの日見た異世界の出来事がよぎったわ。あの、私と…てい……提督が結婚、してて……ケチャップって名前の、その、子供がいて……ぅぁああああもう!! ありえないわよそんなこと!!
「ガールズトークですか?」
絶妙のタイミングで、マミヤが私たちの注文した品を持ってきて話の腰を折ってくれたわ。Gut!! Gutよマミヤ!!
「クリームぜんざいはどちらですか?」
「球磨だクマ」
「じゃあところてんがビスマルクさんね」
「Danke」
「それじゃあごゆっくりどうぞ~」
マミヤは私たちの前にクリームぜんざいとところてんを置くと、静かに去っていったわ。私は自分のところてんにたっぷりと三杯酢をかけ、和辛子を溶いて山のようにノリをかけたわ。海苔は多ければ多いほどいいわね。
「それにしてもびっくりだクマ」
「? 何が?」
「海苔の良さがわかるドイツ人がいるのは驚きだクマ」
「だって素晴らしいじゃない。辛子の風味と三杯酢の酸味が乗ったところてんに海苔の香りが合わさって……」
ここまで言ってハッとしたわ。そうよ普通ドイツ人は海藻の味や香りなんか分からないわ。私だってここに来て間もない頃『日本の艦娘たちはあんな黒い紙なんか食べて美味しいのかしら……』とか言ってたのに……
「全部提督のせいよぉおッ!!!!」
「クマクマっ」
クマと別れた後、私は自室に戻って自分の荷物を整理したわ。出立は明日。レーベもマックスもオイゲンも、みな一様に寂しそうな顔をしていたのが印象的だったわね。
「姉様……私、まだ本国に帰りたくない」
「仕方ないわよ。ここも大切だけど、本国の命令だし」
「ボクも寂しいよ……せっかくみんなと仲良くなれたのに……」
私だって寂しいわ。でもマックスの言うとおり仕方ないじゃない。私達には、誇り高きドイツの為に戦うという、崇高な使命があるのだから。
寂しい気持ちを抑えながら、私達は荷物整理をしたわ。時刻は1730。私の予想が正しければ、そろそろ放送が入るわね。
―秘書艦ビスマルク。2000に執務室に来てください。提督がお呼びです。
ほら来た。ちょっと時間が遅いのが気になるけど。
「ビスマルク、今日で提督との食事も最期だね」
「そうね。今日こそは提督の料理を拒絶してみせるわよ」
時間を見計らい、私は執務室に向かったわ。いつものようにドアをノックし……
「秘書艦ビスマルク。入るわよ」
そう言って、返事も待たずに入ったわ。
執務室の中は、今日は寿司バーのようになっていたわ。提督は頭にねじりはちまきを巻いて、背中に『鮨』と書かれたハッピを着て、寿司バーの中央に立っているわね。
「ふふ……結局一度として、同じコスチュームを着たことはなかったわね」
私は微笑みながらそう言い、カウンターに座ったわ。その途端、提督は1回だけ威勢よく手を叩いたわね。気合を入れたように見えたわ。
―さぁ……何が食べたい……
「そうね。まずはお任せといきたいわねマスター?」
提督に私はそう伝えたわ。その言葉を聞くなり提督は、鮮やかな手つきで私の前ににぎり寿司を出してくれた。改めて見ると、彼の手は魔法ね。あざやかな手つきで、次々と私においしい料理を作り出してくれる、魔法のような手よね。
はじめはトロ。こってりとしたトロは旨味が強く、脂もよく乗っているわ。そのクドさをシャリとわさびの香味が程よく打ち消し、後に残ったのはトロの旨味とシャリの旨さ。
次は鯛。蛋白な鯛の旨味をシャリとワサビが引き出し、私の口の中で鯛とシャリの味が渾然一体となって、素晴らしいハーモニーを奏でる素晴らしい一貫に仕上がっていたわ。
次はタコ。ねぇ提督……覚えてる? ここで初めてタコを出された時、『クラーケンの子供なんて食べられるわけがないわよッ?!』って私が半べそになったこと……あなたのおかげで今では大好物よ? 吸盤の歯ごたえがたまらないわ。
次はうにの軍艦巻き。私に海苔の美味しさを教えてくれたのが提督だったわね。知ってる? 筋金入りのドイツ人だった私なのに、今では朝はご飯と海苔がないと物足りないわ。まったく……最低の男ね、あなた。
その後も色々なネタで寿司を作ってくれたわ。その寿司すべてに、提督との思い出が詰まっていたわ。イカ、コハダ、イワシ、かんぴょう、かっぱ巻き……すべて素晴らしかったわ。提督も私のペースに合わせ、一貫一貫、丁寧に握ってくれた。
「なによ……いつもこうやって食べさせてくれればよかったのに……」
思わずこうつぶやいたわ。そうすれば私も、もっと素直になっていたのかもしれないのに。
ねえ知ってる? この前あなたが私にオムライスを作ってくれた時……あの時の私、あなたと家庭を築く夢を見ていたのよ。おかしな話よね。あれだけ憎んでいた男と、家庭を築く夢を見るなんて……でもあの夢の中の私、とても幸せな気持ちだったわ。
「ねえ提督? 私ちょっと酔いたいわ。サケはない?」
最初で最後の、私から提督へのわがまま。提督は私のこのオーダーを聞いて、私の前に冷やした日本酒とぐい呑みを置いてくれたわ。
私がぐい呑みを手に取ると、提督が日本酒を注いでくれた。
―はなむけだ
私は、提督から日本酒が注がれたぐい呑みを煽ったわ。その瞬間、口の中に日本酒の甘み、アルコールの香味…複雑な味が広がって、口の中に残っていた寿司の生臭さをかき消してくれた。そして最後に残ったのは、人生のほろ苦さ。
―きっとまた会える
……そうね。また会えるわ。私は戻ってくる。あなたの元に戻ってくるわ。あの日見た幸せな幻影を、あなたと実現するために。
だからその時は、私の体型にも配慮した、こんな素晴らしい食事を用意するのよ?
そして誰にもあなたの料理を食べさせてはダメよ?
あなたの料理は、私の胃袋にのみ入るべきなんだから。
もうちょっとだけ続きます。