ヘタリアで学校パロディ。ボーイズラブ、近親愛、死ネタなどなど読む人を選びまくりな氣がします。

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好きもの同士

 二人だけの部室は暑かった。暑さのあまり、頭がくらくらと不思議な感覚だった。

 それでも、唇に感じるその感触はどこまでも柔らかかった。自分のそれと同じように熱く、汗のためか、ほんの少しだけしょっぱい味がした。

 

 

 

 

 学校の屋上に初めて登ってみる気に なったのは、空気の中に密かに秋が混 じったせいだろうか。

 それとも、久しぶ りに見た見事なうろこ雲のせいだろうか。或いは、何処かの誰かが書いたよう に、太陽が眩しかったせいだろうか。

  ともかくその日、アーサー・カークラ ンドは屋上に上がってみたのである。 人気のない階段そその最果てにある金 属の扉。鍵がしまっていたら引き返すつ もりだったので、扉がすでに開け放たれてい ることに軽く驚いた。その扉の向こうに はコンクリートの床とうす青い空が広 がっている。どうやら先客がようで、それは女子のようだった。 いかにも優等生といったスカート丈から、黒いタイツ を履いた足が覗いていた。まだ9月も半 ばだというのに冬服を着た女子だ。サラサラと 黒い髪が風にさらわれ、白い項が見える。

 ふと、アーサーの気配に気づいたのだろう。

 少女が振り向き…そして心持ち息を呑 んだように見えた。

 アーサーも驚いた。 彼女はよく知っている人物であった。

「カークランドさん」

 少女はぱっちりとした大きな目を細めて笑った。

「桜、か」

 その笑みがなんだかひどく眩しいような気がして、思わず目を細めた。

 本田桜。アーサーの同級生である本田菊の妹だった。たしか菊とは年子で、1つ学年が下である。

  桜。

 その名前の通り、少しだけ儚いイ メージの少女だ。華奢な身体に大きな黒い瞳。アーサーと比べると随分小柄な身体。

 もともと、やけに色白だが、 残暑の残る中で冬服を着ているのを見ると、そもそも日光に弱いのかもしれない。

 「久しぶり、だな」

 アーサーは遠くを見ながら答えた。金色の髪が風に舞う。

 「えぇ。」

 肩のところで切りそろえられた黒髪を手で押さえ、桜は遠くを見た。

 一緒に暫くいても良いかと聞くと、いいですよ、と返ってくる。

 そして笑う。

 その表情が兄のそれとよ く似ている。  

 そう思った瞬間、胸のなかで何かがズ キリと痛んだ。

 あの時、菊もそんな顔をしていた。肯定なのか否定なのかわからない、むしろそれを押し殺すような表情だ。

 もしかしたら、泣いていたのかもしれない。

 今になって、そんなことを思う。

 

 

 

 

 アーサー・カークランドは1週間前、本田菊にキスをした。

 同意の上ではなかった。ちょっとした 戯れを装った、でも半分は本気の。 その時、菊が浮かべた笑みが彼は忘れられない。

  驚いたような、一見嬉しそうな。それでいて、酷く悲しげな。

「好きだ。」

 とは言えなかった。

 悲しかった。しかし、涙は出なかった。むしろ、涙の出るところさえ、悲しみのあまり乾ききってしまったように思った。

 次の日も、その次の日も、菊はアーサーがいないかのように振舞っていた。

 悲しかった。どうすればいいか分からない。

 けれど、それは当然の結果だ。

 アーサーはそんなことを思った。

 

「カークランドさん」

  ふと名前を呼ばれ我に返る。

 目の前には菊が…いや、妹の桜がい る。本当に似ている。彼女は髪を桜の形 をした髪どめで留めているが、それを取ってしまったら見分けがつかないだろう。

「どうしましたか?」

 菊の顔から、桜の声が漏れる。それがとても不思議だった。

「何でもない。」

 一言言って、少し黙り、更に言葉を重ねる。

「ただ…お前と菊ってすごく似てんだなって思ったんだ。当然だよな。やっぱ兄弟だもんな」

 笑い声が弾けた。鈴をふるようなとはこのような事だろうか。可憐な笑い声だった。

「何を仰るのです。今更ですね」

 桜は尚も、くすくすと笑いながら背伸びをする。金網に手をかけて爪先立ちで立って、羽ばたこうとでもするように戯けてみせた。

「アーサーさんっておかしな方。そうで す。私、お兄様の妹なんです。菊お兄 様。私の、素敵な、お兄様」

 歌うように節をつける表情はいかにも楽しそうだ。

「菊の事、好きなんだな」

 そう言えば

「ええそうです。大好きですよ」

 明るい声で返される。

 その笑顔が。屈託のない返事が、アーサーには酷く羨ましかった

 

 それから数週間経った頃だった後のことだ。いつもの学校が突然騒然となった。

 桜が学校の屋上から飛び降りた。のだと伝えられた。

 あの時、戯けてみせたように、金網を掴んで背伸びしたのだろうか。

 アーサーはそんなことを思った。

 あの時の桜は、まるで風に乗って空へ飛んでいけそうなくらい軽やかだった。華奢な背中には翼さえ見えたような気がした。

 それでも、本当に飛べたはずはなく、彼女は校庭の端に落ちて死んでしまったのだという。アーサーは彼女の細い体が落ちていく様子を何度か夢に見た。地面に叩きつけられた身体が壊れる夢を見た。鮮やかな赤い血が地面に広がるのを見ては、人形のような桜の身体にこんなものが流れていたのかと不思議になった。

 怖いというより、唯、静かな悲しみだけが支配する夢だった。

 

 

 

 

「あなたにお話しておきたいことがあります」

 菊がアーサーとしっかりと目を合わせて、そう言ってきたのは桜の葬儀がすっかり終わった頃だった。学校はすでに日常を取り戻していた。

「お話があります。アーサーさん」

 菊は繰り返した。

 アーサーは黙って頷いた。

 菊は静かに話しだした。涙を流すことは無かったが、その目は黒々と濡れていて、妹のそれにそっくりだった。

「桜が死ぬ前の日です。彼女は私に接吻をしてきました。 2回、私の唇に。彼女によると、1つは貴方への当てつけだとの事です。

 心当りが、有りましたので」

 あぁ、そうか、俺は振られてるんだ。菊を見返しながら、アーサーはぼんやりと思う。

 一言一言、まるで美しい詩歌のような 言葉だと思った。 その言葉を聞きながら、アーサーはその脳裏に桜の顔を思い浮かべた。

 結局、自分が愛したのはどちらだったのだろう。もう、どちらも手が届かないところへ行ってしまったけれど。

 菊の背中を見ながら、アーサーはぼんやりと考えていた。

 ふと、空気が肌寒くなったのを感じる。

 もうすぐ、長い夏が終わろうとしていた。

 

 

 


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