俺達が住むこの世界は果てしなく広い。
どこまでも続く大地。
果てしなく広がる空。
終わりなき悠久の波飛沫。
この世界はどこまで広いのだろう?
この世界はどこまで果てしなく続いているのだろう?
『お前の世界は果てしなく広い。肩の力を抜いていけ!』
それはとある恩人に言われた大切な言葉だ。
小中学校と平凡な毎日を過ごしていた俺だが、高校受験を翌年に控えた年。
最大の悲劇が俺を襲った。
俺と家族を乗せた乗用車と、飲酒運転のトラックによる正面衝突。
何が起きたのか解らなかった。
直前まで窓の景色を眺めていた俺を襲った強い衝撃。
塞がる視界。
誰かの悲鳴。
冷たく感じた『妹』の手。
『死』を感じた瞬間。
俺の全身に痺れが走った。
ああ。これが『死』なんだな、と思った。
それと同時に誰かの『声』が聞こえた。
意識を取り戻した時には俺は全てを喪っていた。
病室で目覚めた俺を待つ人は誰もいなく。
医者や看護師。事情聴取に来た警察官だけだった。
ま、当然といえば当然だ。
俺には家族以外の親しい親戚はおろか、友人すら一人もいないのだから。
正確にはちょくちょく様子を見に来る御節介な奴らが二人いるのだが。
だが、俺はそいつらを友人と見たことは一度もない。
適当な理由をつけて、あしらって遠ざけていた。
理由?
決まってる。
巻き込みたくなかったからだ。
俺の中に流れるあの『血』の宿命に……。
そんな俺だが家族は愛していた。
平凡なサラリーマンだが、一家の大黒柱だった父。
何の取り柄もない普通の主婦だった母。
お兄ちゃん子だった中学一年の妹。
どこにでもいる平凡な人達。
『血』の宿命の真の理解者でもあり、唯一影響を受けない人達。
いや、正確には受け難かった人達だ。
その彼らでさえ、影響を受けていなくなってしまった。
そう。俺は自身に宿る呪いにより。
大切な家族を俺は一瞬で喪ってしまったのだ。
20xx年春。
俺、高城
合格を知った時真っ先に思ったことは、ああ。これでようやく施設から出られる。
ただそれだけだった。
条東商は、就職に関しては実績のある高校だし。
なによりも寮がある。
俺は何が何でもここに入りたかった。
家族を亡くしてから一年あまり。
目覚めた俺の環境は大きく変わり。
俺は保護施設へと預けられた。
ぶっちゃけ、施設での生活は最低だった。
虐めや虐待があった、なーんてことは日常茶飯事だったし。
何よりも外の奴らから見られる『視線』が鬱陶しかった。
どいつもこいつもまるで『可哀想な生き物』を見るような哀れみが混じった視線を向けてきたし。
なにより、『貴方は両親もいない可哀想な子』と決めつられるのが嫌だった。
だから俺は進学するなら『寮のある学校に行って、こんな生活から抜け出してやる!』
そう決意した。
条東商には寮がある。技術を身に付けて就職して独り立ちする。
それらを実現するにはまさにうってつけの場所だった。
『______?』
「っ⁉︎」
まただ。
偶に聞こえる謎の声。
俺にしか聞こえないその声は時々こうやって俺を気にかけるように話しかけてくる。
姿はおろか、声しか解らない。
気配とかも特に感じない。
何も見えない。
感じない。
……いや、それが『普通』か。
自嘲気味に笑いながら俺は条東商がある『鷹ノ台』へと向かっていた。
入学の手続き……とかではない。
そんなものとっくに終わらせている。
あとはただ入寮の日を待つだけだった。
そう待つだけだったのだ。
俺のもとに。
条東商業高校の寮が火災で焼失した、という知らせが施設に届くまでは。