地雷に転生しました   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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流水マジヒロイン回


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 破壊の閃光が迫る。それはこれまでの光弾より遥かに強い力が込められていた。造物主の魔法障壁をあっけなく破壊する冗談染みた威力を先の流星群を掛け合わせたような尋常ではない圧力。それが、俺の眼前に迫る。

 これは拙い。

 この身体は確かに頑強で、なんの強化を施していなくても通常の人間を遥かに超越している。馬鹿デカイ岩を壊したり、オリンピック選手も真っ青の速さで走ったり。この世界に来てから俺も随分鍛えたけど、初期スペックの高さは言うまでもなかった。

 そんな俺でもこの光を受ければ死ぬ。それは嫌だ。だってそれはつまり、アレ(・・)が発動してしまうから。それは嫌だ。死ぬのと同じくらい、嫌だ。それはあってほしくない。あんなものを使いたくない。なのに、閃光は無情にも迫り、激突の寸前に――

 

「来たれ――『禍祓ノ神手』」

 

 白の巫女が現れ、破壊を禊祓う。

 両手にはめられていた手袋、その右を光弾にぶつけ叩きつけるように振い、

 

「フッーー!」

 

 打ち払う。軌道を変えられた光弾は遠くで消え去り爆散。数十メートルは離れたところだというのに爆風や閃光が届き、髪を揺らす。それは俺だけではなく。

 

「ご無事ですか、マスター?」

 

 白の巫女装束に両手にはめたグローブ。白銀の髪と表情の無い顔。間違いなくそれは、

 

「流水!?」

 

「はい、マスター。流水です、助太刀に参りました」

 

「なんでお前が、防衛は!」

 

「あの筋肉と水晶と燃え滓がいますので。焦も回復しましたし。独断でしたが、私はマスターの援護に。能力的に私の方が相性がいいでしょう」

 

 流水の言葉の間にも光弾は再び放たれた。俺と流水目がけたそれは、変わらずに必殺の威力がある。だが、それも、

 

「邪魔です」

 

 流水が払う。巫女装束の裾をはためかせながら回転するように右手のグローブで打撃し、軌道を変えられる。爆散。

 

「私が先行します。一々避けるより、払いながら前進した方が速いでしょう」

 

「おい、勝手に決め……!」

 

「行きます」

 

 

 

 

 

 

 

「フッーー!」

 

 迫る光弾を手の払いで軌道を変える。だが一発払っても安心できない。弾いたと思った次の瞬間にはさらに光弾が迫る。感覚が短い。魔法か気弾かどちらとも判断が付きにくい光でどういう攻撃手段かも判別できない。だから払うしか選択肢は無い。払いながら進むのは、やはり避けながら進むのよりも早い。『水』のアーウェルンクスとして基本的な運動性能は他の三人よりも落ちるがそれなりの速度はでている。すでに半ばまで到達した。

 アーティファクト『禍祓ノ神手』。両手グローブ型の魔法具。

 その能力は魔法及び気の打ち払いだ。流水クラスの魔力と合わせれば最上位魔法でも打ち払いができるほどの高性能。事実、颯たちのアーティファクトの攻撃も全て払えたほど。

 それでも、

 

「くっ……!」

 

「流水!」

 

 払いのけた腕から血が噴き上がる。アーティファクト自体にも亀裂が入り、腕の骨は折れていた。それほどまでの威力。造物主の使徒としての曼荼羅障壁をフル展開し、打ち払いと防御と疾走にのみ魔力を回しているにも関わらず肉体へのダメージは甚大だ。

 

「流水、もういい! 一度下がれ!」

 

「大丈夫、です……まだ、半分ですから……ちゃんと、届けますとも」

 

 背後で流が気遣ってくれるが、構わない。背後の彼を突き離すように自分の速度を上げて光弾を払う。

 

「く、あっ……!」

 

 唯でさえ砕けていた骨が砕けていく。元々『水』の属性は後方支援担当だ。運動性能だけでなく耐久力もそれほど高くない。それでも、流水は構わずに迫る破壊を祓う。

 

 だって、流水は七篠流に憧れているから。

 

 そう、憧れだ。流水――造物主の使徒『水』のアーウェルンクス、セクストゥム、来る完全なる世界(コズモエンテレケイア)の為の人形でしかない彼女は、どうしようもなく彼に憧れを抱いた。それは流水だけでなく、ニィも水晶も、焦も颯も、そして多分デュナミスもそうだ。だからデュナミスも彼を拾ったのだろう。

 彼はどうしようもなく人間だ。

 確かに保有している力は大きい。平均を遥かに上回る気と魔力。それらを連動させた咸卦法。究極技法を難なく使いこなし、格闘技能だってデュナミスから拾われて三年間磨き上げて、類稀なる才能も相まって既に達人クラスだ。

 

 ――なのにそんな自分の力を彼は何よりも嫌っている。

 

 それが流水には不思議だった。最強クラスの剣闘士や魔法使いは存在だけで兵器に等しい。上位百人以上ともなれば旧世界でいう核兵器と同等の破壊をもたらすのも容易いだろう。剣闘士になれば大量の金が出に入るだろうし、各国の騎士団などでも引く手数多だ。それこそ麻帆良学園で教師でもやっているべきような人だと流水は思う。いや、傍にいてほしいけれど。

 彼は笑って、泣いて、喜んで、怒って。好きな事は好きで、嫌いな事は嫌い。自分たちの悲願である完全なる世界にも文句を言っているのは知っている。あけすけがなくて、大雑把だったり細かかったり、よく分んないことにこだわったり。流水にはよくわからない。

 わかりたいけど――わからない。

 所詮この身は人形だ。人格も感情もデュナミスが原型から作られたにすぎない。いつかどこかに存在した誰かのレプリカ。そんな自分に彼が何かを注ぎこんでくれる。コレが何なのかは流水にはわからなくて、本を読んだり、俗な漫画を取り寄せたり、一般の映画を見たり。人間とはなんなのかを流水なりに調べてきたつもりだ。

 結局わかっていないけれど。

 人間とはなんなんだろう。流水にはわからない。一年前稼働して少し経ってから彼に問うた時、彼は教えてくれなかった。自分で見つけろと、そういう意味合いがあったのかはわからないが流水はそう受け取った。彼も解っていないかもしれないし、彼なりの答えがあるのかもしれない。どうなんだろう、きっとあるのだろうと、勝手に予想する。

 だって彼は人間だから。

 流水も、人間になりたいと思う。

 人間というものがなんなのかはわからないけれど、彼が人間だというのはわかるから。だから、流水は彼に憧れている。恋とか愛とかそういうのかどうかはわからない。この想いがなんなのかは解らなくて、それでもそのよくわからない想いは流水のなにかを満たしてくれる。

 そのよくわからない想いが愛で、なにかが心とか魂だったらいいなと思う。

 

「はあ……っ!」

 

 光弾を弾く。すでに両手の指は全て砕け、力は入らない。魔力で補強して、腕や体幹で無理矢理動かしているだけで、激痛が走る。脂汗が浮かび息が荒い。

 なんとか速度こそ落としていないが限界が近い。

 大体三分の二まで来た。

 あともう少し。

 後ろで彼が叫んでいる。

 構わない、無視。

 左手のアーティファクトに亀裂が入る。

 魔力で繋ぎとめる。

 右も同じく。

 血を流し過ぎた。めまいが酷い。

 

「は……く、ぁ……ふ、ふふ」

 

 そんな状況で流水の口端には笑みが浮かんでいた。

 痛い、苦しい、キツイ。でも、この自分の行為は彼の為になっているはずだ。この光弾を受ければ彼はアレを使う事になる。彼が何よりも忌み嫌うアレが。それだけは絶対にダメだ。なにがあってもさせてはならない。 

 そして――あともう少し。うっすらとだが狙撃手の影が見える。正確に視認出来れば彼ならば一足飛びで辿りつけるだろう。だからあと一発払えば。多分腕は砕ける。払った腕だけでなく、その衝撃で片腕も。もしかしたら胴までも砕けるかもしれない。別に構わない。どうせ、核さえ無事ならば何度でも修復可能なのだ。だったらいい。  

 そりゃあ自分だって借りは女の子なのだから腕が吹き飛んだりする無様な姿を彼に見られたくは無いけれど、しょうがないだろう。私の身体の事なんて彼の在り方に比べれば安いものだ。

 思い、腕を振りあげ、

 

「この馬鹿が」

 

「え……?」

 

 背後から流水の腕を握り、止める。

 

「無理し過ぎだ。女が――そんな身体張ってんじゃねぇよ。そういうのは男の仕事だ」

 

「で、も――」

 

「デモもストもねぇ」

 

 腕が引き寄せられ背中から流の胸のすとん、と落ちる。血を多く流して、消耗しきった身体に彼の体温が染み渡る。温かい。胸の中が温かくなる。いや、そうではなく。こんな場合ではないのだ。腕が動かなくなってしまったのだから、光弾を弾けない。焦り、彼の顔を見上げて、

 

「マスター!」

 

 彼の両目から血が滴り落ちていた。それは、アレの前兆。彼の矜持を踏みにじる冒涜の暴力。一度だけしか見たことのない最悪の異能。どれだけ言葉を重ねてもどうしようもない力。それを使わせたく無かったのに。

 

「それ、は!」

 

「馬鹿が、気にし過ぎだ」

 

 言いながら、背中から抱きしめられる。あぁホントに止めてほしい。どうしてもホッとして力が抜けてしまう。そんな場合じゃないのに。

 

「そりゃ、コレは糞みたいな力で、使いたくなんかないし、俺の矜持を踏みにじってくれるけど――お前の方が、大事に決まってるだろう」

 

「ます、たぁ……」

 

 あぁ本当にダメだ。身体から力が抜ける、嬉しいという感情がコレなのか。なるほどいいものだ。いや、ホント。そういう物言いは卑怯だ。痛みでも疲労でもなく、感じる温もりで意識が薄れていく。

 

「あぁ、ありがとな。もういい、寝てろ。あとは俺がなんとかするから」

 

「っ……」

 

 最早言葉にならない。そんな言葉を受けてしまったら任せてしまう。恥ずかしい。情けない女だ。こんな状況でこんな状況が嬉しい。

 

「お願い、します」

 

「あぁ、任せろ」

 

 流水の意識は消え去り。光弾が迫り。

 そして――血涙が溢れだし、なるようにならない最悪が迫る破壊を無かった事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 意識を無くした流水を瓦礫の上に横たわらせる。かなり怪我や消耗が激しいが、核の損傷は無い。

 だから、いいというわけでもないけれど。

 そして、振り向き。

 

「撃たないのか」

 

「女子を介抱する間くらいは撃ちません。下衆ではありませんから」

 

 狙撃手と相対する。アレを使いあらゆる攻撃を無効化し、距離も無かったことにして一瞬で無かったことにした。

 女顔の男だった。蒼の着流しと袴。長髪を首の後ろでくくっり、手には弓矢。なるほど、先の光弾はあれで撃っていたのか。恐らくなんらかのスキル。いや、間違いない。唯のスキルではない。

 ――臭い。

 まさかとは思ったが確信が持てた。コイツは俺と同じだ。そして、もしかしていたら探していた奴かもしれない。それでも、

 

「関係無い、とりあえずぶん殴る」

 

 流水と颯をボロボロにして、城を穴だらけにしてくれたのだ落とし前は付けさせてもらう。

 

「へぇ、それだけですか? こちらは、殺すつもりなんですけど」

 

「抜かせ。こちとらいきなり奇襲されて頭来てるんだ」

 

 なにより。

 

「俺の家族傷つけやがって――ぶちのめす」

 

「無理ですよ――ハチの巣にしてあげますから」

 

 

 

 

 




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