残念男祭りでしたー
俺が駆けだすよりも、向こうの手の動きの方が早かった。そういえば名前を聞いていなかったが目の前の男、かなりの早業だ。下衆ではないと、言葉通りなのか番えられた矢に先の光は無く、見た限りは普通の矢だ。鉄の鏃に木製の胴部分に白羽の尾。服装からして戦国時代とかそんな単語が真っ先に思い浮かぶような矢。
それが一度に三矢放たれる。
すでに咸卦法に強化された俺でさえ、はっきりと視認できないほどの絶技。放たれた三矢は俺の顔、首、心臓と全て急所。あの
軽く後ろに跳ぶ。迫る矢にわずかな空白を作り、
「虚刀流――『牡丹』」
身体を独楽のように回して放つ回し蹴り。後退によってできた空白に飛び込んできた矢をまとめて蹴り抜く。
虚刀流。
詳しくは、実は知らない。『
回し蹴りの勢いを殺さずに、そのまま膝を沈め飛び出し、
「虚刀流――『薔薇』!」
繰り出すのは前蹴り。間の距離は十数メートルはあるとはいえ咸卦法で強化された今の俺ならばまさに一瞬だ。
「おっと」
それを、コイツはあっけなく回避する。真正面から向かってくる俺に対して、行き先は真上だ。頭を下に、足を上に。空中で逆立ちするように跳ぶことで前蹴りを飛び越える。同時に、
「シッーー!」
そんな体勢からの射的。両肩へと放たれた二矢。ご丁寧にも『薔薇』で前に出る俺に合わせれて放たれていた。
通常ならばこの状況では回避不能だ。コイツもそう思ったのか、口の端には僅かな笑みが浮かんでいた。そして、二矢が届く寸前に、空間を蹴る。
虚空舜動。
高速移動術の一種で、空間を蹴る技。ある程度の上位クラスならば必須スキルだが、
「なっ!?」
露骨にこの男は驚いていた。思った通り、多分コイツは俺とおんなじような境遇だ。だから虚空舜動という今時魔法学校の教科書にも載っているスキル――習得可能かは別として――を知らない。そんなのがどうして俺たちを襲撃してきたのは謎だが。今はそんなことに構っている場合ではない。
「虚刀流――『鷺草』!」
「クッーー!」
空中を足場とし、跳ねあがった蹴りは男の袈裟にぶち込まれる。咄嗟に腕をクロスして受けたが空中で踏ん張ることはできずに吹き飛ぶ。粉塵を巻き上げながら瓦礫の中に落ちていく。だが、これで終わりなわけが無い。すぐさま駆けだして、
「っ!!」
眼前に五矢が飛び出してきた。
咄嗟に横に転がり、回避する。先ほどのような迎撃する間もない。転がって、跳び上がった。だが、すぐに新たなる矢が来る。刹那でも動きを止めていたらハチの巣は間違いない。
だから動く。
廃墟の瓦礫の上を跳びはねながら、流水から離れるように走る。すぐに奴の姿が見えた。斜め下の背後。五メートル程度の間隔を空け、地面で並走しながら矢を放っていた。咸卦法で強化された俺と同速で走り、なお且つ狙撃も同時進行。これが単純なスキルなのだから呆れる。ともあれなるべく距離を取る。向こうもすでに動けなくなった流水を巻き込むつもりはないのか、そのままついてきてくれる。悪い奴ではないようだ。
まぁ関係無い。
「とりあえずぶん殴る」
「だから、こちらは穴だらけにしてあげると」
大分距離が空いた。廃墟の上から飛び降り、粉塵を巻き上げながら身体を奴に向け、滑りながら着地。身体を地面スレスレにまで下げ、右足を曲げ左足を伸ばす。両手は広げて、地面に。所謂クラウチングスタートの体勢。
「虚刀流――『杜若』」
技というよりは構え。七つある内の一つ。特性は――変幻自在の足さばき。
疾走する。
「――!」
残像を生むほどの高速移動。かつては多くの人が行きかった道を残像が埋めて男の射線を惑わせる。だが、
「――笑止」
数十体はいた残像が、失笑と共に全て射抜かれる。一体どこにそんな矢があったのだろうかという疑問を置いておいて、最早言葉もでない超絶技巧。ぶれ動く全ての残像になんのスキルも使用せずにこんなことを可能にする奴に苦笑し、
「虚刀流七の奥義――『落花狼藉』!」
残像を遺し、跳躍していた俺は空中を足場とし――踵を斧に見せた踵落としを叩きこむ!
「――!」
回避はもう間に合わない。見開かれた両目は驚愕に染まり、高速射撃による技後硬直。避けれる要素は一つもなった。
だが――俺は知らなかった。
今俺が相対しているのはただの弓使いではなく、時代が時代ならば英雄と謳われるほどの存在であることを。そして英雄とは死地において条理を覆す存在であるということを。
顔に驚愕が張り付いたまま、身体だけが反応した。腕が霞む。つがえらた矢は天に向き、足は動かずとも狙いを定める。
そして、
「――!」
俺の踵はコイツの左肩に。
コイツの矢も俺の右肩に。
同様に叩きこまれ、地面を転がり弾かれ合う。
「あ、が……!」
転がりながら肩から矢を引きぬき、無理矢理力んで血を止める。勿論応急処置にもならないが、やらないよりはましだ。咸卦の気を纏っていなかったら肩が吹き飛んでもおかしくなかった。つまり、アイツの矢は通常に咸卦法では足りない。
「く……!」
奴もまただらりと右腕を垂らしていた。確かに踵には肩を砕いた感触が合った。脂汗が浮かび、顔を苦渋の色。
だが、それでも。
「くはっ」
奴は笑っていた。壮絶に、凄惨なまでの笑みを浮かべていた。闘志は未だ消えず、使えないはずの腕に握った弓を上げようとしていた。
「は」
気付けば、俺にも笑顔が浮かんでいて。
そして。
――咸卦法を切る。
纏っていた光は消え去り超強化も無くなる。だが、それは戦うことを諦めたわけではない。さらなる強化のための過程に過ぎない。
そんな俺を見て。奴もまた身体から力を抜く。
そして――
『柔上りて剛下り、二気感応以て相い与す
山上に澤ある、咸卦なり。君子、以て虚にして人を浮く。
右陰魔・左陽気天地感じて、万物化生す』
『一 二 三 四 五 六 七 八 九 十
布留部 由良由良止 布留部
南無八幡大菩薩、わが国の神明、日光権現、宇都宮、那須の湯泉大明神、
願はくはあの扇のまん中射させて賜ばせたまへ。
これを射損ずるものならば、弓切り折り自害して、
人に再び面を向かふべからず。
いま一度本国へ迎へんとおぼし召さば、この矢はづさせたまふな』
『――陰陽太極・
『色金宿し――瑠璃色金之道理』
詠唱という自己改革を経て俺たちはその身を変生させていた。
俺は通常の咸卦の金ではなく、黒白混じった波動を。
奴は髪が瞳が蒼く染まり、肌には幾何学的な刺青が。
奴から感じる威圧感は消え去った。だがそれは弱体化したわけではないだろう。そんな簡単なものではないはずなのだ。強さが読めない。静かすぎる強さとでもいうのか正直不気味という他ない。
だが無論、負けているつもりはない。咸卦法。それは俺自身が身に付けた技術ではない。そんな力を我が物顔で振うのは自分が赦せなった。だから、自らの技術と言えるまでに改変したのだ。詠唱を生みだし、己の矜持への信仰を狂気にまで落とし生み出した七篠流の固有技法。
互いに変生を済ませ、男が問いかけてきた。
「名前を聞きましょうか」
「あぁ、七篠流だよ。……アンタは?」
「私は――那須。那須資隆与一と申します」
「……マジで?」
「マジです」
思わず苦笑する。なるほどその名だったならばあの弓の技術も納得だ。本物かどうかは置いておいてそう名乗るならばそう呼ぶのが筋だろう。
「ま、いいや」
「えぇ、名など微々たることです。つわもの同士の決闘に必要なのは己の武威のみ……と私の友人も行っておりました」
「そりゃあいい、賛成だね。俺が誰でアンタが誰も、どうでもいい。アンタは俺の家族傷つけた。ぶん殴って、謝らせてやる」
「……ふむ。どうやら私が思っていたのとは随分違うようですが。まぁ、とりあえず、こちらも動けなくしてから話をききましょう。殺してしまったら申し訳ない」
「言ってろ」
構わず与一の気配は無い。だがしかし交わされる視線からは尋常ではない闘気がある。
最早言葉を不要と言わんばかりに互いに構える。超強化で俺の傷口はふさがったし、与一も肩が治癒されたらしい。先ほどの負傷を感じさせず弓矢を構え、口端を歪ませ、
「行くぞォォッッーー!!」
那須与一
身内クロスって地雷ぽいよね枠その1(血脈編)
多分千年後くらいに全く才能受け継がないのと受け継ぎすぎて色々アレなのが生まれるある意味可哀そうな人。主は天真爛漫のどSで戦友はホモくさいぐーたらのおっさんだったやっぱりある意味大変な人。ただし子の人もかなりの弓ジャンキーなのでノーカン。某ズドン巫女並みのキチガイです。
こう、身内クロスって地雷ぽくね?と思った。後悔はしていない。わからなかったら問題ないのです。
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